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番外編 IF 野猿な囚人 29ー1.(セリウスルート)最終話 愛する人
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リーリアがセリウスに冤罪で断罪されて、囚人になってから、何年もたった。
ルクレナの部下になったものの、リーリアの仕事は、主に兄のアーサーと共に、ランダード王国の防衛のための結界修正・強化の作業が多く、昔のように仲良しの兄妹の関係で過ごしていた。
たまに部下らしく、ルクレナの仕事の後方支援もして、リーリアの才能を最大限に生かしていた。
重要犯罪人のアリーシアは、人心操作術の研究にしばらく協力させられていたが、隣国セリクルド王国の王の要望で、アリーシアは本人の意思に関係なく隣国に強制送還されることになった。
一時は、ランダード王国とセリクルド王国との仲が、欲をだしたセリクルド王国の王太子サリューのせいで悪化しそうになったこともあったが、彼の義父である宰相がさっさとサリューを見限ったことで、結局、廃嫡にされた。その黒幕にアリーシアがいたということは、ランダード王国の王家の者だけが真実を知っていた。
そして、現在、国王として王太子ルシェールが王位を引継ぎ、その王妃はパメラで、セリウスは王弟として、ランダード王国を支えている。
前王妃レイスリーアの仕事であった情報関連等の仕事をセリウスが引き継ぎ、そのため、ルクレナの上司がレイスリーアからセリウスに変わってしまった。
つまり、ルクレナの直属の部下であるリーリアの上司がセリウスになってしまった。
そのせいで、セリウスのリーリアへの愛情表現は、セクハラを通り越し、パワハラの領域まで発展し、日増しに酷くなっているが、それでもリーリアはセリウスを受け入れなかった。
なぜならば、リーリアにはもう心から愛する相手がいるから。
それは……。
「かあしゃま!だーいしゅき!!」
金髪で緑の目をした幼子が、ふくふくとした頬を桃色に染めて、大好きな母親に抱きつく。
「まあ、ありがとうレイモン!私も大好きよ!!」
足元に抱きつく小さなレイモンを抱き上げて、ぎゅっとするリーリア。
リーリアに抱きしめられて嬉しいレイモンは、きゃっきゃと笑い、控えめに言っても天使!と思うほどの可愛さである。
リーリアは、誰とも結婚しないまま、1人でレイモンを出産した。
もちろん、父親は誰だか、今はよくわかっている。
レイモンができるような事態になったのは、リーリア達にとって、あれは避けられなかった仕事上の事故みたいなものであった。
そんな事態になったことを、セリウスはもちろん、リーリア自身も全く記憶していなかった。
そのせいで、もともと丈夫なリーリアは、なんだが体がしんどいな位しか意識せず、妊娠中の悪阻ですら軽く、月のものが止まっていることに気づいても(セリウス様がストレスを与えるせいで止まったのかな?)ぐらいにしか考えずにやり過ごし、妊娠自体に気づくのが非常に遅かったせいもあり、堕胎できなくなっていた。
リーリアの妊娠がわかった時。
当然ながら、自分も記憶のないセリウスは、リーリアを妊娠させた相手が自分とは思わず、史上最大の殺意をもって、犯人を捜しだそうとした。
「誰だっ!?誰が僕のリーリアを……?
絶対、生かしておかないぞ!」
しかし、犯人をどう捜索しても、自分が一番、疑わしかった。
セリウスは、リーリアの相手がわからない妊娠を知ってもなお、リーリアに、自分が父親になると結婚を申し込みし続けていた。しかも、それだけでなく、今まで以上に様々な根回しもしようとしていた。
リーリア自身もこれをきっかけに、セリウスとの関係を見直そうかと思ってみたが、結局、リーリアは、セリウスと結婚することを断り、そのまま独り身で産むことになった。
リーリアは、パメラ王妃やメナード公爵家を継いだ兄アーサー、そして上司のルクレナや、仲間のバーナル達からもサポートを受けて、無事にレイモンを産むことができた。
生まれたレイモンは、瞳こそリーリアと同じ綺麗な緑色であるが、その他の特徴は、誰がどう見てもセリウスのミニチュア版であった。
「レイモンはセリウスの子供である」と、誰もが認識した。
レイモンがあまりにも幼い頃のセリウスに生き写しで可愛いくて、ルシェール陛下は、レイモンをランダード王家の養子にして、リーリアからレイモンを奪おうとした。
ところが、それを王妃のパメラに本気で怒られて止められ、セリウスからもそんなことするなら他国にリーリアとレイモンを連れて逃亡すると脅された。
おかげで、公然の秘密である王弟セリウスの子供レイモンを、リーリアの手で育てられることになった。
リーリアとしても、嵐のようにひどくなったセリウスの愛情表現やプロポーズ攻撃、さらには仕事中でのパワハラ、セクハラにうんざりしているが、心から誰よりも愛している息子のレイモンを手放しくたくないため、適当にスルーする毎日である。
レイモンは、日々、とっても可愛いく育っている。
ただ、成長とともに、だんだんと、出会った頃のセリウスに似てくるレイモン。
(うーん、ここまで見た目が似てこなくても!
執念?セリウス様の執念かな!?
まあ、それでも私の息子は可愛いから良いのだけどね~。
それに、レイモンは、子供の頃のセリウス様とは比べようがないほど、気立てもいいしね!
うちの子は、きっと天使~!!)
レイモンに対して、セリウスに見た目が似すぎていることに、もやっとするが、基本的に親馬鹿を発揮するリーリアであった。
そして、リーリアがレイモンを産んでから、セリウスがリーリアに堂々と愛を囁いても、セクハラをしても誰も止められなくなった。
昔はよく防いでくれたルクレナやバーナルですら、もう呆れとあきらめモードである。
「リーリア、誰よりも愛しているよ。すぐに結婚しようね。
次は、君に似た女の子が欲しいな~!」
リーリアに会うたびに必ずプロポーズしてくるセリウスに、リーリアはそれを挨拶の言葉程度の扱いで毎回、スルーしている。
ちなみに、セリウスは、リーリアが公認でレイモンを育てる条件として、いくつか決め事をしており、そのうちのひとつは、セリウスが好きな時にレイモンに会えることを挙げている。
今日も、空き時間ができたセリウスは、王宮内のレイモンが預けられている場所に赴いた。
「こんにちは!レイモン。今日も元気だね~」
レイモンが、丁度、従兄のエミールと遊んでいるところに訪れたセリウス。
エミールは、レモンより4歳年上のルシェール国王とパメラ王妃の子供で、ランダート王国の第1王子である。
「あ、しぇりうしゅでんか!」
セリウスの方に駆け寄ってきてくれるレイモンを、セリウスは嬉しそうに抱っこした。
「ふふ、レイモンはいつ見ても可愛いな。
僕に似ちゃったけど、リーリアと同じ瞳の色で可愛い~。
ほら、今日こそ僕を『とうさま』って呼んでね。
とうさまはレイモンの緑色の瞳が大好きだよ!
だから、この緑の飴をあげるね~」
抱っこしたレイモンに餌付けとして飴をくれるセリウスに、レイモンはにっこり笑って飴を受け取る。
「ありあとう、しぇりうしゅでんか!」ときちんとお礼が言える良い子のレイモン。
「レイモン?何度も言うけど、『とうさま』だよ~」
「んーん。かあしゃま、しぇりうしゅでんかをじぇったい『とうしゃま』ってよんじゃ、めって!」
首を振って、セリウスの「とうさま」呼びを拒否するレイモン。
「いやいや、もうリーリアってば……。
(外堀から埋めようとしているのに、これじゃ埋まらない!)
リーリアの言うことはもういいから、レイモン、『とうさま』って呼んでよ!」
「……めんね?
よんであげれにゃくて、ごめんねぇ」
とても悲しそうな顔で「とうさま」呼びを拒否する幼子レイモン。
「ぐっ!」とレイモンの悲し気な顔に心が痛むセリウス。
しかも、レイモンはセリウスの要求に答えられないので、もらった飴を返そうとまでする。
「い、いいんだよ。その飴は『キャロルの店』の飴だよ。
だから、是非、レイモンが食べてね!」
セリウスは、「とうさま」呼びの強要を断念して、レイモンに飴を食べさせて、泣きそうだったレイモンの背中をぽんぽんと叩いて慰めるのであった。
レイモンも「キャロルに店」のお菓子が大好きで、笑顔に戻って飴をなめていた。
そんなレイモンが可愛くて、セリウスは、抱っこしながらレイモンにスリスリと頬ずりをしていると、セリウスの上着をくいくいと引っ張る者がいた。
「ん?」
「……叔父上。そろそろ、僕のレイモンを返してください。
あと、僕の分の飴は?」
「ああ、エミール。はい、飴だよ」
セリウスが、赤い飴をエミールにあげようとするが、「僕もレイモンと同じ緑がいい!」と言ってくるので、緑色の飴をあげた。
セリウスはいまだにリーリアやレイモンの餌付け(と調教)のために、いつでも色とりどりの飴を常備している。
「……ありがとうございます、叔父上!
お礼に僕が、叔父上のことを『とうさま』とお呼びしましょうか?
僕がレイモンと結婚したら、叔父上は義理の父親になりますしね~」
天使のような笑顔で言ってくるエミール。
セリウスは、先ほどの「僕のレイモン」呼びにもイラッとしても、子供の言うことなのであえてスルーしていたが、今度の発言には言い返す。
「エミール。お前の嫁に、レイモンはあげないよ!
レイモンは僕の子だからね、僕のものだから!
そもそも、レイモンは男の子だから、お嫁ではなくお婿か、少なくとも女性と結婚する予定だしね」
「……レイモンは確かに叔父上の子供かも知れませんが、女の子に戻ったら、僕の奥さんになる予定です。
今は残念ながら、悪い魔女のせいか、男の子にされていますが、本当は女の子なのですよ?
そして、僕の運命の子なのです!
レイモンが無事に女の子に戻り次第、婚約発表をしますね」
エミールは頭がアレなわけではなく、初めて会った赤ちゃんのレイモンを、女の子と間違えて恋してしまって以来、ずっとレイモンは女の子で運命の子だと言い続けて、日々、レイモンを男の子から女の子に性転換させようと薬や魔法を使って企んでいる。あれ?やっぱり頭がアレなのかな?
エミールは、レイモンと出会ってから、表面は穏やかで優しく理知的であるが、本当は中身が大変残念な王子に成長している。
セリウスは、リーリアがなかなか結婚してくれず、息子のレイモンからは「とうさま」と呼ばれず、しかもエミールという厄介な相手からレイモンを狙われ、思い通りにいかないことばかりの日々を過ごしている。
ただし、セリウスなので、リーリア達と家族になり、幸せになれるための希望を捨てておらず、日々の玉砕にもめげずに挑戦し続けている。
一方、リーリアは、恋人や夫がいなくても、色々と気遣ってくれる有能な上司ルクレナ、美味しいご飯を食べさせてくれるバーナルや、ミランダのような女友達、今は頼りにできる兄アーサー、そして、誰よりも愛するレイモンがいれば、もうほぼ満足という日々を送っている。
レイモンは、セリウスとリーリアの微妙な関係を幼いながらも察してくれているようで、決して、父親が欲しいとは言わない賢い子である。
でも、最近は、セリウスの入れ知恵なのか、リーリアはレイモンからも妹が欲しいとねだられて、やや困ることがある。
(レイモンの妹か……。
私も女の子でも男の子でもどちらでもいいから、もう1人くらい、子供が欲しいかも。
でも、もし私が他の男性と子供を作るような仲になったら、きっとセリウス様に邪魔される。
いや、邪魔なんてレベルでなく、その男性は無事ではないかも?
もし選ぶのなら、セリウス様以上の実力があるか、セリウス様が手を出せないような相手にしないと!
いやもう、既にすごい男性避けガードを張られているから、他の男性と知り合う機会すら全く持てないけどね……。
だからと言って、またセリウス様との間に子供を作るのは、避けるべきだよね。
だって、私は……。
うーん、どうしよう?
アーサー兄様や、パメラ王妃様のところに女の子が生まれれば、レイモンも妹代わりの従妹で我慢してくれるかな?)
そんなセリウスに知られたら大変なことになることを色々と考えるリーリアは、ある意味、まだ怖いもの知らずであった。
こうして、野猿な悪役令嬢リーリアは、乙女ゲームのバッドエンドの1つであった囚人エンドを経験したが、バッドエンドのその先である現実で、乙女ゲームにはないような、リーリアとしては「ハッピーエンド」ともいえる生活を送っている。
ルクレナの部下になったものの、リーリアの仕事は、主に兄のアーサーと共に、ランダード王国の防衛のための結界修正・強化の作業が多く、昔のように仲良しの兄妹の関係で過ごしていた。
たまに部下らしく、ルクレナの仕事の後方支援もして、リーリアの才能を最大限に生かしていた。
重要犯罪人のアリーシアは、人心操作術の研究にしばらく協力させられていたが、隣国セリクルド王国の王の要望で、アリーシアは本人の意思に関係なく隣国に強制送還されることになった。
一時は、ランダード王国とセリクルド王国との仲が、欲をだしたセリクルド王国の王太子サリューのせいで悪化しそうになったこともあったが、彼の義父である宰相がさっさとサリューを見限ったことで、結局、廃嫡にされた。その黒幕にアリーシアがいたということは、ランダード王国の王家の者だけが真実を知っていた。
そして、現在、国王として王太子ルシェールが王位を引継ぎ、その王妃はパメラで、セリウスは王弟として、ランダード王国を支えている。
前王妃レイスリーアの仕事であった情報関連等の仕事をセリウスが引き継ぎ、そのため、ルクレナの上司がレイスリーアからセリウスに変わってしまった。
つまり、ルクレナの直属の部下であるリーリアの上司がセリウスになってしまった。
そのせいで、セリウスのリーリアへの愛情表現は、セクハラを通り越し、パワハラの領域まで発展し、日増しに酷くなっているが、それでもリーリアはセリウスを受け入れなかった。
なぜならば、リーリアにはもう心から愛する相手がいるから。
それは……。
「かあしゃま!だーいしゅき!!」
金髪で緑の目をした幼子が、ふくふくとした頬を桃色に染めて、大好きな母親に抱きつく。
「まあ、ありがとうレイモン!私も大好きよ!!」
足元に抱きつく小さなレイモンを抱き上げて、ぎゅっとするリーリア。
リーリアに抱きしめられて嬉しいレイモンは、きゃっきゃと笑い、控えめに言っても天使!と思うほどの可愛さである。
リーリアは、誰とも結婚しないまま、1人でレイモンを出産した。
もちろん、父親は誰だか、今はよくわかっている。
レイモンができるような事態になったのは、リーリア達にとって、あれは避けられなかった仕事上の事故みたいなものであった。
そんな事態になったことを、セリウスはもちろん、リーリア自身も全く記憶していなかった。
そのせいで、もともと丈夫なリーリアは、なんだが体がしんどいな位しか意識せず、妊娠中の悪阻ですら軽く、月のものが止まっていることに気づいても(セリウス様がストレスを与えるせいで止まったのかな?)ぐらいにしか考えずにやり過ごし、妊娠自体に気づくのが非常に遅かったせいもあり、堕胎できなくなっていた。
リーリアの妊娠がわかった時。
当然ながら、自分も記憶のないセリウスは、リーリアを妊娠させた相手が自分とは思わず、史上最大の殺意をもって、犯人を捜しだそうとした。
「誰だっ!?誰が僕のリーリアを……?
絶対、生かしておかないぞ!」
しかし、犯人をどう捜索しても、自分が一番、疑わしかった。
セリウスは、リーリアの相手がわからない妊娠を知ってもなお、リーリアに、自分が父親になると結婚を申し込みし続けていた。しかも、それだけでなく、今まで以上に様々な根回しもしようとしていた。
リーリア自身もこれをきっかけに、セリウスとの関係を見直そうかと思ってみたが、結局、リーリアは、セリウスと結婚することを断り、そのまま独り身で産むことになった。
リーリアは、パメラ王妃やメナード公爵家を継いだ兄アーサー、そして上司のルクレナや、仲間のバーナル達からもサポートを受けて、無事にレイモンを産むことができた。
生まれたレイモンは、瞳こそリーリアと同じ綺麗な緑色であるが、その他の特徴は、誰がどう見てもセリウスのミニチュア版であった。
「レイモンはセリウスの子供である」と、誰もが認識した。
レイモンがあまりにも幼い頃のセリウスに生き写しで可愛いくて、ルシェール陛下は、レイモンをランダード王家の養子にして、リーリアからレイモンを奪おうとした。
ところが、それを王妃のパメラに本気で怒られて止められ、セリウスからもそんなことするなら他国にリーリアとレイモンを連れて逃亡すると脅された。
おかげで、公然の秘密である王弟セリウスの子供レイモンを、リーリアの手で育てられることになった。
リーリアとしても、嵐のようにひどくなったセリウスの愛情表現やプロポーズ攻撃、さらには仕事中でのパワハラ、セクハラにうんざりしているが、心から誰よりも愛している息子のレイモンを手放しくたくないため、適当にスルーする毎日である。
レイモンは、日々、とっても可愛いく育っている。
ただ、成長とともに、だんだんと、出会った頃のセリウスに似てくるレイモン。
(うーん、ここまで見た目が似てこなくても!
執念?セリウス様の執念かな!?
まあ、それでも私の息子は可愛いから良いのだけどね~。
それに、レイモンは、子供の頃のセリウス様とは比べようがないほど、気立てもいいしね!
うちの子は、きっと天使~!!)
レイモンに対して、セリウスに見た目が似すぎていることに、もやっとするが、基本的に親馬鹿を発揮するリーリアであった。
そして、リーリアがレイモンを産んでから、セリウスがリーリアに堂々と愛を囁いても、セクハラをしても誰も止められなくなった。
昔はよく防いでくれたルクレナやバーナルですら、もう呆れとあきらめモードである。
「リーリア、誰よりも愛しているよ。すぐに結婚しようね。
次は、君に似た女の子が欲しいな~!」
リーリアに会うたびに必ずプロポーズしてくるセリウスに、リーリアはそれを挨拶の言葉程度の扱いで毎回、スルーしている。
ちなみに、セリウスは、リーリアが公認でレイモンを育てる条件として、いくつか決め事をしており、そのうちのひとつは、セリウスが好きな時にレイモンに会えることを挙げている。
今日も、空き時間ができたセリウスは、王宮内のレイモンが預けられている場所に赴いた。
「こんにちは!レイモン。今日も元気だね~」
レイモンが、丁度、従兄のエミールと遊んでいるところに訪れたセリウス。
エミールは、レモンより4歳年上のルシェール国王とパメラ王妃の子供で、ランダート王国の第1王子である。
「あ、しぇりうしゅでんか!」
セリウスの方に駆け寄ってきてくれるレイモンを、セリウスは嬉しそうに抱っこした。
「ふふ、レイモンはいつ見ても可愛いな。
僕に似ちゃったけど、リーリアと同じ瞳の色で可愛い~。
ほら、今日こそ僕を『とうさま』って呼んでね。
とうさまはレイモンの緑色の瞳が大好きだよ!
だから、この緑の飴をあげるね~」
抱っこしたレイモンに餌付けとして飴をくれるセリウスに、レイモンはにっこり笑って飴を受け取る。
「ありあとう、しぇりうしゅでんか!」ときちんとお礼が言える良い子のレイモン。
「レイモン?何度も言うけど、『とうさま』だよ~」
「んーん。かあしゃま、しぇりうしゅでんかをじぇったい『とうしゃま』ってよんじゃ、めって!」
首を振って、セリウスの「とうさま」呼びを拒否するレイモン。
「いやいや、もうリーリアってば……。
(外堀から埋めようとしているのに、これじゃ埋まらない!)
リーリアの言うことはもういいから、レイモン、『とうさま』って呼んでよ!」
「……めんね?
よんであげれにゃくて、ごめんねぇ」
とても悲しそうな顔で「とうさま」呼びを拒否する幼子レイモン。
「ぐっ!」とレイモンの悲し気な顔に心が痛むセリウス。
しかも、レイモンはセリウスの要求に答えられないので、もらった飴を返そうとまでする。
「い、いいんだよ。その飴は『キャロルの店』の飴だよ。
だから、是非、レイモンが食べてね!」
セリウスは、「とうさま」呼びの強要を断念して、レイモンに飴を食べさせて、泣きそうだったレイモンの背中をぽんぽんと叩いて慰めるのであった。
レイモンも「キャロルに店」のお菓子が大好きで、笑顔に戻って飴をなめていた。
そんなレイモンが可愛くて、セリウスは、抱っこしながらレイモンにスリスリと頬ずりをしていると、セリウスの上着をくいくいと引っ張る者がいた。
「ん?」
「……叔父上。そろそろ、僕のレイモンを返してください。
あと、僕の分の飴は?」
「ああ、エミール。はい、飴だよ」
セリウスが、赤い飴をエミールにあげようとするが、「僕もレイモンと同じ緑がいい!」と言ってくるので、緑色の飴をあげた。
セリウスはいまだにリーリアやレイモンの餌付け(と調教)のために、いつでも色とりどりの飴を常備している。
「……ありがとうございます、叔父上!
お礼に僕が、叔父上のことを『とうさま』とお呼びしましょうか?
僕がレイモンと結婚したら、叔父上は義理の父親になりますしね~」
天使のような笑顔で言ってくるエミール。
セリウスは、先ほどの「僕のレイモン」呼びにもイラッとしても、子供の言うことなのであえてスルーしていたが、今度の発言には言い返す。
「エミール。お前の嫁に、レイモンはあげないよ!
レイモンは僕の子だからね、僕のものだから!
そもそも、レイモンは男の子だから、お嫁ではなくお婿か、少なくとも女性と結婚する予定だしね」
「……レイモンは確かに叔父上の子供かも知れませんが、女の子に戻ったら、僕の奥さんになる予定です。
今は残念ながら、悪い魔女のせいか、男の子にされていますが、本当は女の子なのですよ?
そして、僕の運命の子なのです!
レイモンが無事に女の子に戻り次第、婚約発表をしますね」
エミールは頭がアレなわけではなく、初めて会った赤ちゃんのレイモンを、女の子と間違えて恋してしまって以来、ずっとレイモンは女の子で運命の子だと言い続けて、日々、レイモンを男の子から女の子に性転換させようと薬や魔法を使って企んでいる。あれ?やっぱり頭がアレなのかな?
エミールは、レイモンと出会ってから、表面は穏やかで優しく理知的であるが、本当は中身が大変残念な王子に成長している。
セリウスは、リーリアがなかなか結婚してくれず、息子のレイモンからは「とうさま」と呼ばれず、しかもエミールという厄介な相手からレイモンを狙われ、思い通りにいかないことばかりの日々を過ごしている。
ただし、セリウスなので、リーリア達と家族になり、幸せになれるための希望を捨てておらず、日々の玉砕にもめげずに挑戦し続けている。
一方、リーリアは、恋人や夫がいなくても、色々と気遣ってくれる有能な上司ルクレナ、美味しいご飯を食べさせてくれるバーナルや、ミランダのような女友達、今は頼りにできる兄アーサー、そして、誰よりも愛するレイモンがいれば、もうほぼ満足という日々を送っている。
レイモンは、セリウスとリーリアの微妙な関係を幼いながらも察してくれているようで、決して、父親が欲しいとは言わない賢い子である。
でも、最近は、セリウスの入れ知恵なのか、リーリアはレイモンからも妹が欲しいとねだられて、やや困ることがある。
(レイモンの妹か……。
私も女の子でも男の子でもどちらでもいいから、もう1人くらい、子供が欲しいかも。
でも、もし私が他の男性と子供を作るような仲になったら、きっとセリウス様に邪魔される。
いや、邪魔なんてレベルでなく、その男性は無事ではないかも?
もし選ぶのなら、セリウス様以上の実力があるか、セリウス様が手を出せないような相手にしないと!
いやもう、既にすごい男性避けガードを張られているから、他の男性と知り合う機会すら全く持てないけどね……。
だからと言って、またセリウス様との間に子供を作るのは、避けるべきだよね。
だって、私は……。
うーん、どうしよう?
アーサー兄様や、パメラ王妃様のところに女の子が生まれれば、レイモンも妹代わりの従妹で我慢してくれるかな?)
そんなセリウスに知られたら大変なことになることを色々と考えるリーリアは、ある意味、まだ怖いもの知らずであった。
こうして、野猿な悪役令嬢リーリアは、乙女ゲームのバッドエンドの1つであった囚人エンドを経験したが、バッドエンドのその先である現実で、乙女ゲームにはないような、リーリアとしては「ハッピーエンド」ともいえる生活を送っている。
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