野猿な悪役令嬢

ルナルオ

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その後の友人たち クリスの場合

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 ランダード王国の第2王子セリウスには、将来、国の中枢の仕事を担うと思われる上級貴族の子息が、幼い頃から、周りに友人としていた。
 特に同じ年齢のメナード公爵家の子息アーサーや、宰相であるノーレン公爵家の子息エドワード、そして魔法省長官カストーナ公爵家の子息クリスの3人は幼いころから交流があった。
 しかもクリスは、セリウスと同様に学院生でありながら、国のための仕事も一人前にこなしていた。

 クリスの仕事は、主に魔法省での仕事で、クリスはすでに魔法省にて役職につき、何人かの部下もいた。
 実力があり、有能なクリスは、次の魔法省長官になるとも言われている。
 現魔法省の長官はクリスの父親、アルダ・カストーナ公爵が担っているが、それだけのためにクリスが次の長官と言われているわけではない。
 魔法省長官の職は世襲制ではなく、長官になるには強い魔力と魔法の才能が必要である。

 そう、クリスは、ランダード王国の王族を除けば、トップクラスの魔力をもち、かつ国一番の魔法の使い手でもあった。
 そのため、魔法省ではすでに欠かせない存在でもあった。

 そんなクリスであったが、リーリアの義妹のアリーシアにそそのかされて、野猿なリーリアにセリウスとの婚約解消を勧めることに加担をしてしまった。
 そのため、セリウスからクリスやエドワードは、リーリアへセリウスとの婚約解消をすすめた翌日にすぐ、リーリアへ謝罪させられていた。
 そして、隣国の王子サリューとアリーシアの婚約が決定し、とうとう公式に発表になった翌日、やはりセリウスはクリスに処分を伝えるべく、謹慎していたクリスの部屋を訪れた。

「やあ、クリス!」と、クリスに冷たく微笑むセリウス。

「……やっと、決まりましたか」とクリスは謹慎していても部屋に持ち込まれた仕事をこなしていたため、疲れた様子であった。

「そうだね。魔法省のお偉方とも交えた話し合いの結果、クリス、君の処分は……。
 まず、君の魔法省の地位の降格と減給が決定したよ。さらに君の部下の魔法省の職員何人かを、新たにたちあげる情報省へ勧誘しているから、もし彼らが望むのなら、君の許可なしでのその異動願いをききいれること。

 次に、君の婚約者、ヘレナ・ノーレン嬢との結婚予定日が1年後だけど、それを延長してもらう。リーリアと僕が結婚するまで君の結婚の許可をしないし、その後は、ヘレナ嬢の希望日まで延長すること。

 最後に、これは僕の個人的な報復だけど、ヘレナ嬢がもし君との婚約解消を希望するならば、全力で応援し、仕事の斡旋や別なもっと良い結婚相手を紹介することにするよ。
 とりあえず、すでにヘレナ嬢も情報省に勧誘しているんだ。

 ふふふっ、女性にモッテモテのクリスに、ヘレナ嬢もうんざりしているみたいだったしねー」

 クリスの婚約者は、ヘレナ・ノーレン公爵令嬢で、エドワードの妹で宰相の娘である。
 ヘレナは公爵家出身だけあって、魔力も強く、容姿端麗なうえに、頭脳明晰で常に冷静沈着な女性であった。そのため、ヘレナは、本当はリーリアよりもセリウスの婚約者候補筆頭になるはずであったが、クリスが彼女へ幼いころから片思いして、どうしてもヘレナと結婚すると主張し、セリウスよりも先に婚約をヘレナへ申込んだため、クリスとヘレナが婚約することになった。結婚もセリウスたちより先にする予定で、現在17歳のヘレナ嬢が、来年18歳になったら、学院を卒業すると同時に結婚する予定であった。
 しかし、今回の件のため、結婚は当分、保留にされることになった。

「……相変わらずですね、言うことと、やることが……(鬼畜……)」とため息をつくクリス。

「君、それだけのことをしたよね?もっと反省しなよ。
 君のこの処分なんか、はっきり言って処分と言えないレベルだと思っているからね。
 魔法省の降格もひとつだけだから。
 友人おもいな僕に感謝してほしいくらいだよ~」

「へー、それは、それは、寛大な処置に心より感謝いたしますぅ~」とクリスは不敬もなんのそので、まったく心のこもらない感謝を述べ、「しかも、よりにもよって、ヘレナを情報省に勧誘したのですか……。
 うちの優秀な部下の引き抜きですら、あり得ないことなのに。
 ああ、仕事がまた忙しくなるし、ヘレナとの結婚は伸びるし、最悪だ~!」とクリスは幼馴染の気安さか、セリウスに愚痴りだした。

「そもそも、先に僕の婚約者を魔法省に勧誘した君のせいでしょう。
 まあ、この件がなくても、駄目もとでヘレナ嬢には声をかける予定だったけどね。
 彼女は、お人よしの彼女の兄、エドワードと違って、常に冷静かつ慎重で有能だからな。
 彼女自身、自立したがっていたのもある。
 それは君みたいに浮気性の男が婚約者だったせいかな?くくっ」

「ヘレナは子供の頃から、自立したがっていましたよ。それこそ、僕の婚約者になる前からね」

「そういえば、そうだったね」

「それに浮気なんてしたことはないですよ。僕はヘレナ一筋なのでね」

「まわりは全くそう思っていないし、僕と違って、君は寄ってくる女性を拒絶していないだろう?」

「……浮気の定義にもよりますが、本当に手をだしたことは一度もありませんからね。
 それにあまり女性に冷たくするなというのがヘレナからの強い要望でして……」

「でも、君はそのヘレナ嬢の後釜を狙う女によく嵌められていたよね~。
 そのせいでヘレナ嬢から何度も婚約解消を打診されていたよね?」

「……何度もされていませんよ。まだ5度ほどです」

「……十分多いよ」と冷静につっこむセリウス。

「うぅっ……」とへこむクリス。

「しかも、そんな女のあざとさを、身をもって知り尽くしたクリスが、あの女狐ごときに、エドワードのように単純に騙されるわけないよね。
 ただ、あの女狐の戯言を僕からリーリアを引き離すチャンスだと思ったんだろうね、君や君の上司は……。
 本当は、君は君の上司からの命令で、僕とリーリアを婚約解消させて、リーリアを僕の保護下から外して魔法省に入省させるのが目的であんなことをしたんだろ?」とセリウスは、いつも以上に冷たくクリスに問い詰める。

「……それは、魔法省のお偉方からそう聞いたのですか?」と慎重に聞くクリス。

「まあね。あの狸爺どもから、あらいざらい聞き出したよ」

「爺どもがよく口を割りましたね」

「ふっ、僕を誰だと思っているの?
 あの程度の狸どもの扱いなんかチョロいよ。
 それくらいできなかったら王族ではいられないよ」

「……確かに」

「ちなみに、今回、君に僕とリーリアとの婚約解消をすすめるように指示をだした上司はもう魔法省にはいないよ」

「そうですか、部下ばかりか上司まで……。
 彼はリーリア嬢が魔法導師の試験をうけた際の試験官でして、僕や周りは止めたのですが、リーリア嬢を是非、魔法省にいれたいと色々と動いていましたからね。
 彼女が無事に資格を取得したのはご存じですよね?」

「ああ、もちろん。僕の許可なくとった資格だけどね」

「その時の試験で、彼女は高得点だったこともご存じで?」

「うん。さすが僕のリーリアだよね」

「……試験の解答も個性的で、実力主義の魔法省でも彼女は十分にやっていけるだけの結果を出していました。
 彼女に是非、魔法省に入省して欲しいという幹部も彼以外にもいらっしゃいましたよ。
 個人的に弟子にとりたいと言っていた方もいて、せっかくの才能をもったいないと。
 まあ、あなたの婚約者じゃ無理だろうと、ほとんどの方々が諦めていましたがね」

「そうだね。諦めて正解だよ。
 リーリアがどんなに優秀で使えそうでも、彼女の優先事項が僕だからね。
 僕の下でならまだしも、他の仕事で彼女を奪われるなんて許さないよ」

「そこは表向きだけでも、国の有事が一番と言うところでしょう?」

「リーリアに何かあったら、僕に影響するよ。それこそ、国の有事につながる」

「……それは、困りますが、いいのですか?
 このままでは彼女があなたの弱点になっても?」

「リーリアが弱点なんてとんでもない!
 リーリアこそ、僕の良心と力の源だよ!!」

 そう言い切るセリウスに思い当たることがたくさんあり、苦笑するクリス。
「良心……、確かにそうかも……。
 でも、彼女の試験の際のアイディアが、即採用になったことはご存知ですか?」

「ああ、魔法を使った農作物につく害虫の駆除法の課題だろう?」

「ええ、他者の解答では、環境への影響も配慮せず、虫をただ全滅させることしか考えていない稚拙なものが多く、難しい課題でした。
 しかし、彼女はその虫の雌雄の差による害の違いや、短命だが生殖能力の高さをふまえ、それを魔法によりピンポイントで効果的に抑えることで害だけをなくすという独特の発想で答え、即採用されて、すでに効果をあげていますよ」

「そうだね。あの子は自然が大好きなせいか、何故か独特の知識を持っているみたいでね」

「他にも戦略法の課題でも高得点でしたよ。
 たとえば、力が少なく一発しか攻撃魔法を打てないような人材でも有効な戦力になると、能率的かつ高度な人海戦術の形式を使った素晴らしい案をだして、絶賛されていました」

「……それは聞いていなかった。
 魔法省は僕の大事なリーリアを戦いの際に利用し、危険にさらすつもりだったのか?」

「いえ、公爵家の女性、かつあなたの伴侶である時点で、前線に送られるような危険なこともないですよ。
 ただ、誰も考えつかない戦略を立てるのに協力してもらうくらいです」

「たとえ戦略担当でも僕はリーリアを戦いに関わらせる気はまったくないし、もしそういうことを考える奴らがいるのならば、一族すべて皆ごろ……いや、中央から排除するつもりだよ。
 確かにリーリアは普通の貴族令嬢と違ってたくましいけど、ああみえて、デリケートな面もあるからね。
 国のためとはいえ、きっと自分が大量殺人に関わるのは彼女の健全な精神を蝕むことになる……。

 絶対にさせないよ、そんなこと。

 とにかく、たとえリーリアが望んでも、僕がいる限り彼女を魔法省に入れることはないよ」

「……そうですか。わかりました」


 しばらく、二人の間に沈黙が落ちた。


 クリスはこのままセリウスが部屋を退出するかと思っていたが、その沈黙をセリウスは明るい声で破った。

「そうだった。クリスにもうひとつ大事な話があってね!」

「なんですか?」

「ほら!これの件でね」と言って、セリウスが差し出した手には、桃色の液体の入った透明の小瓶がのっていた。

「え? 何ですかそれ?」と心あたりがないクリス。

「ん?わからないかな?
 ああ、これの完成品を見るのは初めてなのか」

「だから何なのですか?」

「君が秘かに薬師の友人に依頼していた惚れ薬だよ!
 いや、正確には惚れ薬モドキかな?」

「え、ま、まさか……!?」と青褪めるクリス。

「くくっ、そのまさかだよ。
 君がヘレナ嬢にこれ以上、婚約解消を言われないためにその友人に泣きついて作らせていた薬の完成品を、僕が押収したんだ。
 しかも、君が個人的に依頼したという証拠つきでね」

「な、なんてことを!まさかヘレナにそのことを……?」

「いやー、まだ彼女には言ってないよ。まだね……」

「よかった!どうか、どうかこのことはヘレナに言わないでください。
 どうかお願いいたします」とクリスは必死に懇願した。

「ふふふ、そうだね。
 これはヘレナ嬢が最も嫌うやり方だからね。
 これが知れたら、婚約解消の打診どころではないだろうね。
 確実に彼女から縁を切られること間違いなしだよ。
 いや、でも君の気持ちもわかるよ~。
 どんなに高度な魔法の魅了でも、ヘレナ嬢ほど魔力が強い人間には効かないし、君は今までの行いのせいで男として彼女に君の愛をなかなか信じてもらえないし、薬に頼るしかないよね。
 でも、この薬、惚れ薬っていうほどの効果はなかったよ。
 どちらかというと媚薬程度だったな~」

「え?もう使ってみたのですか?」と驚くクリス。

「うん、使ってみたよ、僕の部下に。あとは……。
 いや、僕自身やリーリアには使っていないよ。
 リーリアに薬を秘かに飲ませるのは無理なんだ。
 あの子は昔から、薬物関連を飲食物へ巧妙に仕込んでも、霧状にした薬でさえも、うまく避けて、一切、摂取しないで済んでいるんだよ。
 動物的本能が強いせいなのかな~。うーん」

「……そうですか。
 ところで、それはあなたの部下以外にも使ったのでは?
 たとえば、隣国のサリュー王子とアリーシアに。
 いきなり、あのふたりができたんでおかしいと思っていました。
 おそらくあなたが媚薬でも盛ったのだろうと予想していたのですが、それを使ったのですね?」

 クリスの問いかけにもセリウスはにっこり微笑むだけであったが、クリスにとっては肯定しているようなものだと思われた。

「……これがバレたら、国際問題ですね。
 もちろん、僕はヘレナに言わないでおいてくれたら誰にも言いませんよ」といってクリスはセリウスと取引きしようとしたが、セリウスはそれに対してくくっと笑いだした。

「やだなー、クリス。
 さっき、この薬は君が君の友人へ個人的に依頼した証拠があるって言ったでしょう。
 君は実に有能だから、君が依頼する際にだした、この薬を作るための詳細な指示はとても的確だったよ。
 しかも、費用も全部、君がもっていたんだよね。
 つまり、この薬のことが世間にばれたら、君はヘレナ嬢に縁を切られるだけでなく、もし君が言うようにあの二人に使われていたのならば、証拠から君が国際問題を起こした犯人になっちゃうね?」と黒く微笑むセリウス。

「ぐっ、それは……」

「くくくっ大丈夫、心配しないでよ、クリス。
 僕とリーリアの仲を邪魔しないのなら、当然、君にも幸せになって欲しいと思っているのだから。
 余計なことはしないよ、君が僕を裏切ったりしなければね。
 それよりも、君にはリーリアが魔法省にいかないように工作を頼むかも知れないから、よろしく頼むよ!」

「う、……はい、わかりました。全力を尽くします」

「うん、そうした方が君のためだよ。
 あと、この薬を作った君の友人はすでに僕の部下になったんだ。
 彼は君の友人だけあって、とても優秀な人材だから、知り合えてよかった。
 きっかけを作ってくれてありがとう、クリス!」と、今度はさわやかに笑うセリウス。

(む、無理だ……。この鬼畜には絶対勝てない)とクリスは心の中で、とうとう白旗を挙げるのであった。


 その後、クリスは無事に魔法省長官になれたが、セリウスには常に協力的な姿勢で一生を過ごすのであった。
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