縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

文字の大きさ
19 / 87

15.5青年

しおりを挟む
ホテル内の一部屋。
スイートとまではいかないが、それでも上位クラスのエグゼクティブルームには椅子に縛り付けられた青年が腰掛けていた。
時刻はすでに午前を回っている。

「さて、椅子の座り心地はいかがかな?野良犬君。」
シャワーを浴びパンツスーツ姿からラフな格好に着替えた板垣はテーブルに用意された食事を見せつけるように、一つまみ口に運ぶ。
青年はジロリと睨みつけるが板垣はとても楽しそうだ。
「で、君はなぜあの部屋にいたんだい?」
「はぁ、ずっと言ってるだろ、あそこはおれが案内された部屋だって。」
「おかしいね、あの時間は空いてる事になっていたんだよ。」
「だから!うっかり寝てて時間過ぎてるのわかんなかったんだって言ってるだろ!」
「ほぉ、で?起きたらオメガがいたからついでに襲ったと?」
「あっちから誘ってきたって何度言ったらわかんだよ!」
グラスが板垣に差し出され、受け取るとそこにシャンパンが注がれた。
「君は同じ事を何度も言って、飽き飽きしたと思うが、それ以上に私はそののない言い分を聞かされ続けて疲れてしまったよ。」
「はぁ!?なら俺をさっさと解放しろよ!」
シャンパンをくるくると回し、美しい黄金色を堪能しながら一口飲むと青年の近くに行き、グラスを傾けた。

グラスから流れ落ちる液体が青年の頭から床に落ち、板垣が声を発しようとした時だった。

「何遊んでるんですか?」
「おや、番犬君。」

佐藤が差し出した封筒を受け取ると椅子に戻った。
「もうわかったのかい、さすがに早いね。」
「俺に頼らなくてもすぐ判明したでしょう。」
板垣の情報収集能力が自分を上回ることくらい佐藤も知っている。
板垣は今回あえて佐藤に情報提供を依頼したのだ。

「なになに、葛原くずはら楓雅ふうが23歳……名前を間違えてないか?」
青年をちらっと見ると「みやびや上品とはほど遠い様に感じるが。」
「ご両親はこれにそう育ってほしいと名づけたんでしょう。」
「……残念な仕上がりだな。」
二人して青年、楓雅に視線を移すがすぐに興味は調査書の方に移った。

「東大医学部在籍、成績は優秀、ただ、品行方正とはいかない様だな。毎晩の様にクラブやバーに出入りし、友人らしき連中とずいぶん危ない遊びをしているようだ。」
板垣はにっこり微笑んだ。
「オメガ狩りとは、残酷な事をする。」
「はっ、オメガなんてアルファに飼われてなんぼだろ!感謝されても恨まれる事なんてねぇよ。」
「飼う、飼うか、これまた傲慢な考えだな。」
板垣はそれ以上言葉を交わすのが面倒になったのか、椅子に深く腰掛け直し無言で報告書を読み始めた。

佐藤は持っていたカバンを椅子の上に置き、刺すような視線で見下ろしながら、現在置かれている状況を教えてやった。

「お前のマンションに監禁されていたオメガは全員保護された、拉致監禁の現行犯で貴様はここからすぐに留置場行きだ。」
「はぁ?なに勝手なこと言ってんだよ、弁護士呼べよ弁護士。」
「……その足りない頭によくたたき込んどけ、今回おまえが手を出したのは国が極秘に保護しているオメガなんだよ。そのオメガに知らなかったとはいえ手を出せば、形だけの裁判で実刑確定になるほどのな。」
「はっ、わかんねぇし、あんたこそ、俺を誰だと思ってんの?そんなことして許されるわけねぇだろ!」

「経済界、政界にも顔の利く西園寺家の傍流、西園寺一族の中でも上位アルファの1人。」
楓雅は冷たく見下ろす佐藤に息をのむ。
「西園寺次期総帥候補の1人で、学生でありながら現状5つの会社を任せられている。」
「へぇ、知っててこの扱いなんだ。」
虚勢を張っても楓雅の声は震えていた。
「と言っても、ずいぶん問題があるようだな。」
板垣が言葉を引き継ぐ。
「すべての会社が、たった半年で立ち行かなくなり現状西園寺蒼紫が采配を振るい持ち直している。そこの野良犬は代表に名を残していたが昨日免職されているな。」
「西園寺の上位アルファ認定の基準はどうなってんでしょうね。」
「全くだ。」
板垣は持っていた調査書を置くと足を組み替え楓雅を見る。
どう見ても上位アルファの威厳はない。
どちらかというと底辺のチンピラ風情。

「り、理不尽だ!弁護士を!」
言ってる事も三流で、頭も残念な様なので教えてやる。
「弁護士はつくだろうよ。国選弁護士がね。」
「そんなわけ……」
「おそらく西園寺は君を切り捨てるよ、現在名を残している会社からも、勿論次期総帥候補からも最初から存在しなかった様にすべてを消し去ってね。」
「ははっ、そんなことあるわけねぇだろ!西園寺の力を見くびるなよ!!」
「見くびってはいないさ、ただ、野良犬君は西園寺にとって今一番存在してはいけない人間で、我々は消されないように保護しているに過ぎないのだよ、消されてはかなわないからね。」
「え?」
「君が襲ったオメガはね、西園寺蒼紫の”運命の人”なんだよ。そして、現会長はその蒼紫氏と彼との婚姻をお望みだ。なにせ、猫可愛がりしていた蒼紫氏の妹ですら切り捨てたくらいだ。」

「う、うそ。」
「ははは、嘘なんぞついてなんになるのかな?」

「だって、あいつは西園寺から追放されて……。」
「その追放されたと思われている蒼紫氏だが、会長は別に彼が憎くて子会社に飛ばしたわけでも、総裁候補から外したわけでもないのだよ。でなければ、説明のつかないことが多々あってね。」
「どんな事が」
「考える思考さえ持ち合わせてないのか。いいかい、顔も見たくない程ならこの世から消し去ってしまえばいい、それが出来ない家ではないのだよ、なのに子会社を任せ、大きくなるのを止めもしなかった。」
「それだって西園寺の力のおかげで」
「そんなわけないだろう、会長に睨まれている男に手を貸す人間は皆無だよ。しかも、立て直し不可能な状態の会社だよ何のうまみがある?」
「そ、それは……」
「君を含めた無能が損ねた会社の経営の陣頭指揮、西園寺の手掛ける交流会等の采配、海外の主要な取引相手への接待、あげればキリがない。それを蒼紫氏が行っているのは?」
「西園寺の名を名乗らせてもらってるんだからして当たり前だろう!」
頭が痛いとばかりに眉間を揉む。
「……では、今現在その無能を排除するべく手を入れている事を会長が黙認しているのは?」
「え?」
「知らなかったのかい?西園寺グループ全体を今蒼紫氏がテコ入れして不正を一掃している最中だよ。」
「お前がここの受付”生贄”とやらを要求したのも収入源である会社からの解雇通知を受けての憂さ晴らしじゃないのか?」

そう、楓雅があの部屋にいたのはジムの受付の仕業だった。楓雅を怒らせたお詫びとして”女”を用意する予定が出来なかった。
そこへタイミングよく予約を入れた弥生が以前ジムを利用したオメガだと覚えていて差し出した。

「蒼紫氏にとっては計算外だったろうね。愛しい人が身内の手によって損なわれそうになるなど。」
「全く、感謝してほしいくらいだ、今回のことを知った西園寺がお前を渡せと再三要求してくるのを突っぱねてやってるんだからな。」
「今、蒼紫氏に渡したら髪の毛一本残らず消されそうだねぇ。」
「生まれた事実さえ消しそうな勢いでしたよ。」
ふと、板垣が楓雅の様子に気がつく。
「おや、我々の声はもう届かないようだよ。」
「ふん、なんて肝の小さい。」
楓雅は股間を濡らして気を失っていた。

板垣は楓雅を綺麗にする様に指示を出す。
どこに渡すにしても文句が出ないようにする為だが、板垣自身のポリシーでもあった。
「この男どうするんです?」
「しばらくこの部屋にとどめておくよ、そちらに引き渡すにしてもまだ時期尚早なのだろう?」
「ええ、少々うるさい虫が数を集めてきましたからそうして頂けると助かります。」
黒服に上着を着せてもらい、板垣も帰る準備をする。
「どうかな、この後1杯。」
「遠慮しておきます、Mとの仲を勘ぐられたくないので。」
「大変だね、公僕も。」
「それでは。」
「………君は何者なのだろうね。」
背を向け退出していた足をとめる。
「どうしても、君の事がわからなくてね。出身校は高校から足取りが掴めるのにそれだけだ、誰も佐藤一瑠という人物について知らないのだよ。」
「板垣さん、俺はMと敵対したいわけじゃない。」
「ああ、分かっているつもりだよ。」
「深く追究はしない方がいい。お互いの為に。」
「そうか。」
佐藤が無言で去っていくのを見送った後、板垣のそばにいた男が耳打ちをする。
「人をやりますか?」
「いや、大丈夫だろう。」

不明点が多いのが難点だが、板垣はこの状況が楽しくて仕方なかった。
「八重垣の勘は当たっているね。今の立場はどうであれ彼はこちらの人間だ。」
でなければ、2人をくっつける為に根回しなどしないのだから。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

手の届かない元恋人

深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。 元彼は人気若手俳優になっていた。 諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 ※オメガバ系で結構ご都合な設定ありかもです!地雷だったらごめんなさい!!

ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる

雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。 ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。 「フェロモンに振り回されるのは非合理的」 そう思っていたのに――。 新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。 人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。 「先輩って、恋したことないでしょ」 「……必要ないからな」 「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」 余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。 からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。 これは、理屈ではどうにもならない “ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。

元ヤンオメガは平穏に生きたい!〜中華風異世界に転生したら、過保護な最強生徒会長に溺愛されて番にされました〜

水凪しおん
BL
現代日本で喧嘩ばかりしていた不良の青年は、交通事故から子供をかばって命を落とした。 目を覚ますと、そこは中華風の文化が息づく架空の国「龍凰帝国」。 彼は、名門校・天耀学舎に通う華奢なオメガの少年「飛燕」として転生していた。 亡き祖母との「今度こそ真っ当に生きる」という約束を守るため、波風を立てずに平穏な学園生活を送ろうと心に誓う飛燕。 しかし、理不尽な身分制度がはびこる学園で、弱者が虐げられるのを黙って見過ごすことはできなかった。 「オメガだからって、舐めんじゃねえぞ」 我慢の限界を迎え、前世で培った喧嘩の腕と無意識に発現した気の力で、アルファの不良たちをぶっ飛ばしてしまった飛燕。 退学を覚悟するが、その現場を学園の絶対的支配者である生徒会長のアルファ「蒼龍」に見られてしまう。 怒られるかと思いきや、蒼龍は飛燕の強さと真っすぐな瞳に強烈に惹きつけられ、彼を生徒会役員に任命。 そこから、冷酷無比と噂される生徒会長による、異常なまでの激甘・過保護な溺愛生活が始まってしまった! 「お前は俺の宝だ。髪の毛一本すら、誰にも触れさせはしない」 最高級の食事を与えられ、少しの怪我でも大騒ぎされ、休日は密室に閉じ込められて甘やかされる日々。 理不尽な身分制度を壊そうとする最強の生徒会長と、彼に愛されすぎている元不良のオメガ。 喧嘩上等の華奢な少年が、最強の番として絶対君主の隣で幸せを掴む、中華風異世界オメガバース開幕!

処理中です...