縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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20.恋愛指導

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「お前どういう事なわけ?」
 目の前にいるサイガには蒼紫が別人の様に映っていた。

 いつもなら女のおねだりに仕方なく付き合わされ、何を聞かれても無難な返事。
 女達は有名人に会い、本当なら紹介のみでしか手に入らないSaigaサイガブランドの服を簡単に、それも金額に糸目をつけず購入できるからそんな態度の蒼紫を気にもとめない。
 サイガは欲望をさらけ出した彼女らに何度辟易させられたかわからない。
 それが今回、今まで自分の時にしか頼まなかった美容師の手配。
 女物でなく男物の指定、色も服のタイプまで指定してきたときには一体何が起こったのかと思った。

 蒼紫のハイヤーが店に着いたのは車が入ってきたことでチェックしていた。
 ところがいつまでたっても入ってこない。
 様子を見に行くと、何やらもう1人のアルファと言い争って、それを彼が止めているという奇妙な光景。
 一見してオメガだとわかる程整った顔立ちの彼は明らかにほっとしていた。

 挙げ句の果てには、今まで付き合っていた女達に向ける言葉と言えば、”はい”か”わかりました”、位で先にさっさと行く女の後ろをついて行くだけだった蒼紫が、
 声をかけエスコートするだけでなく、気後れしてつい服を掴んだであろう手が引っ込められると、わざわざその手を取って握りしめるという珍事。
 言葉遣いにしても恐ろしく丁寧で、相手に不快感を与えないようにと計算されているのがわかった。

 しかし、蒼紫と相手の温度差が気になっていたところに”付き合ってない”発言だ。
 全く、意味がわからないと事務所に移動した。
 蒼紫はサイガに事務所に連れて来られると不可解な質問に眉をひそめた。
「どういう、とは?」
「昨日来るって連絡もらった時はまた、都合よく扱われてるのかと思ったら違うし。」

「都合よくって、彼は違う。」
 むっとして言い返すと「だろうな。」と返事が返ってきた。
「あんな純粋そうなので遊ぶとか何考えてんの?」
「遊んでない。」
「どう見てもその気にさせて、落とした上でまたその気にさせて振り回してるように見えねぇよ。」
「まさか!?そんなことしてない!」
「客観的に見たらって話だ。しかも、付き合ってないってなに?」
「そこは俺も予想外だった。」
 弥生の前とは違う言葉使いは普段サイガとプライベートで話す時の口調に戻り、サイガは少し肩の力が抜けた。
「両親にも紹介したし、もう婚約まで行っているとわかっているかと思ったんだが。」
「はぁ?お前今日が見合い初日じゃなかったか?」
「ああ、何事も善は急げと言うだろう、両親にもきて貰って挨拶は済ませたんだ。」

 サイガは、見合いだと思って挑んだら両親との顔合わせだったという衝撃の事態に遭遇した彼に深く同情した。
「お前、マジで何考えてんの?初めて会ったんだよな?彼の気持ちはどうなわけ?」
「本当にあったのは2日ほど前だったんだが、そのときは名前さえ聞けずに少し言葉を交わした程度だった。」
「それって……。」
 恋人以前、と思うのは俺だけだろうか?
「もっとはっきり言うべきだったか。」
 苦々しく言う蒼紫を前に頭が痛い。
「待て待て、お前ほんとに蒼紫か?別人とかじゃないよな?」
「何言ってるんだ、当たり前だろう。」
「あ~、じゃあ彼のどこらへんがよかったんだ。」
「全てだ。」
「全てって………」
「もう少し詳しく言うと、過剰な化粧や香水を使わず、美しさをたもち、パン1つで一喜一憂する姿も、照れてはにかむのも、驚いて目を溢れんばかりに見開くのも気取らない彼らしく好感が持てる。それから」
「待て!」
 長くなりそうな、甘い話を早々に止めた。
 恋人(恋人でもなさそう)の話になると延々と話続けるのがアルファだ。
 しかも、知っている限り蒼紫が夢中になる恋人は初めてだろう。
 この後続くノロケは遠慮したい。

「つまりお前は彼と結婚したいくらい惚れているということだな。」
「そうだと言っているだろう。」
「そうか、で、彼はお前の気持ちを知ってるのか?」
 蒼紫は自信ありげに「もちろん」と答えたがサイガは”絶対ないな”と結論を出した。

「いいか、蒼紫、万国共通オメガって言うのはとてもシャイな生き物だ。」
 ――そうだろうか、今まで付き合ってきた婚約者のおよそ8割はオメガだったが、シャイとはほど遠い生き物だった気がする。
「そんな、生き物にいきなり結婚、結婚と迫ってみろ百パーセント離れていく。」
 ――オメガというのは結婚を切望しているものではないだろうか?
 付き合うことになって当日もしくは翌日には婚約を迫られたことしかないが。
 離れて行かれるのは困る。

「どうしたらいい?」
「いいか、そこで俺だ。俺の嫁はオメガで、結婚についてはお前より、まあ何だ、詳しい自負がある。」
 蒼紫が希望に満ちた目でサイガを見る。
「彼とは今日が初対面で彼の性格も知らないが、店先から美容室までの彼の行動を見るに、」
「見るに?」
「彼は絶滅危惧種並に珍しい、シャイで自分が好かれていることに自信の持てないタイプとみた。」
 確かにそうかもしれないが、蒼紫は別のことが気になった。
「なぜそこまでわかる?まさかお前…」
 突然剣呑になった蒼紫に
「まぁ、待てお前の気持ちはよくわかる、会って間もない俺に彼のことを言い当てられるのは不快だろうし、横恋慕されるのじゃないかと疑ってるんだろうが、それは違うぞ。」
「本当だろうな。」
「ああ、天地神明、嫁に誓う。」
 サイガは片手を胸に当て、もう片手を顔の横にあげて誓った。

 蒼紫はそれで?と続きを促す。
「コホン、俺は客商売だという事もあって人間観察はお手の物だ、だからこそ彼の性格も当てる事が出来た。」
「……なるほど、で?」
「はっきり言わせてもらうと、お前このままだと振られるぞ。」
 息を飲む蒼紫にサイガは遠慮なくいう。
「しかも、彼は今まで誰とも付き合ったことがないとみた!そして、お前の行動は自由を愛するオメガを束縛するもので1番嫌われる」
 が~んという効果音が聞こえそうなほどショックを受けている蒼紫に「いいか」と続ける。
「俺はお前を親友だと思ってる。勿論幸せになって欲しい、そんなお前にアドバイスを送ろう。」
「彼に嫌われないか?」
「当たり前じゃないか!」

「頼む、教えてくれ俺としたら精一杯の愛を伝えたつもりだったんだ、それが伝わってないとなるとどうしていいかまったく分からない。」
「叫べ!愛を叫ぶんだ、お前の事だから見えないところで彼の為と動いてたんだろうが、相手のハートを掴むには本人に分かるように愛を叫べばいい!」
「だが、彼は恥ずかしがるんじゃないか?」
「何言ってる、そんなの当たり前じゃないか、いいか恋愛と言うのは普段しない事をするんだ。付き合いはじめたら照れたり、恥ずかしい事なんて山のようにある、いちいち気にしてたら逆に変に思われるぞ。」

「そうか、なら………」
 蒼紫が考えこんだのをみて嫌な予感を覚える。まさかこいつ真っ正直に本人の前にして「愛してる」って大声で叫んだりしないよな?
「愛を叫べとは言ったが本当に叫ぶんじゃないからな。」
 びっくりしている蒼紫に「どうしようと思ったんだ」と聞くと恐ろしい計画が明らかになった。

「勿論、今彼が滞在しているホテルの大広間を借り切り、西園寺と関わりある人達を招待してみんなの前でプロポーズする。ああ、お祖父様にも来て頂こう、あれだけ結婚にこだわっていた方だ、喜んで来てくれるだろう。」
 自分の望んだ結論に達して満足そうにうなずく蒼紫を前に気を失いそうになる。
 牽制だ、こいつは周りに対して手を出すなと大々的に牽制したいだけだ。

「蒼紫、まず結婚から離れろ。」
「何言ってる、さっき愛を叫べと言ったじゃないか。」
「結婚=愛という図式から離れろ、愛と言うのは段階的に進むものなんだ、いいか、相手はシャイなんだ、奥手なんだ、いきなり大勢の前でそんな事されたら逃げられる。まずはお付き合いから始めてもらうんだ。その時に愛してるという事を伝えてこれからどうしていくかを2人で決めていき、そこから結婚という事になる。」
 不満そうな蒼紫だったが、しぶしぶ頷いた。
 ちょうど、準備ができたと呼びに来たので移動するが、サイガは初恋に頭の沸いてる蒼紫が突拍子のない行動に出るんじゃないかとヒヤヒヤしながら見守る羽目になった。
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