縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

文字の大きさ
34 / 87

28.お昼ご飯

しおりを挟む
 ランチに選んだのは砂紋の友人の経営するすき焼き専門店だった。
 取り扱いがすき焼きのみなんて店に行くのははじめてなのでわくわくする。

 でも、砂紋家も利用するなら乗り込んでくるんじゃないかと思ってたが。
「ここは、私の学生時代の友人の経営するお店で砂紋の人間はまず来ませんわ。」
 と言うことだった。

 入った座敷は和室に洋風のテーブルとちょっと変わったインテリアになっていた。
「さ、お座りになって。」
 例のごとく何も言うことなく用意される飲み物から食事は一級品が用意され、舌鼓を打つ。
 しかし、紡はなかなか手をつけない。
「食べないの?」
 返事も返さない紡に砂紋はため息をつくと
「ほおっておきなさいな。」
「でも。」
 せっかくの料理がもったいない。
「いじけてるだけでしてよ、自分の中で結論が出れば言わなくても食事はいたしますわ。」
 頭を下げてじっとテーブルを見てる紡に声をかければいいかわからず、食事を続ける。
 ある程度お腹も満たされ、砂紋の会話にあいづちを打っていたときに紡がぼそっと呟いた。
「……あんたは、何にも思わないのか?」
 なんの話かわからず紡を見ると下を向いていたのがまっすぐこちらを見ていた。

「なんの事ですの?」
「あんたに言ってるんじゃない。」
「あなたね、名前をよばないとどちらのことかわからないではありませんの。」
「……弥生さんはなんにも思わないのか?」

 深刻そうな紡の様子に弥生は持っていた箸をおいた。
「なんのこと?」
「だから!」
「お待ちなさい。」
 砂紋がストップをかけ長谷川を見た。
「かまいません」
 そう一言発するとあとは沈黙した。
「あなたがなにを言おうとしてるのか知りませんけど、柊さんに関しては事情が複雑に絡んでいますのよ。あなたご自分の発言に責任持てまして?」
「ああ。」
「今から彼を不必要に傷つければ相応の報いを受ける事になっても?」
 横で弥生がぎょっとして砂紋を見た。
 その顔は蒼紫の時に同じような忠告をした時と違い怖いくらい真剣だった。
 そんな砂紋の事を真っ直ぐ見て、紡も「ああ」と返事を返した。
「では私から何も言うことはありませんわ。」

 紡は弥生を見ると「あなたは、蒼紫の妹が勘当されて何にも思わないのか?」と、切り出してきた。
 蒼紫の妹がどういう経緯で勘当されたかの経緯を弥生は知らない。
 だから、”どう”と言われてもどうとも言いようがないが聞いてみることにした。
「勘当?どういう事?」
「白々しいな。」
「白々しいも何も彼は本当に知らないんですわ。」
 紡は砂紋をちらっと見たが、再び弥生に視線を移す。
「……蒼紫の妹は今回勝手に見合いの手続きをしたってだけで勘当されたんだ。」
「そんなわけないじゃありませんの。」

「……っ!あんた黙ってろよ!!」
 ガタンと立ち上がりぎっと砂紋を睨むが砂紋はどこ吹く風だ。
「彼が何も知らないから補助しているだけではないですの、これぐらいで怒り出すなんて小さい男ですのね。」
「さっき。その口で!何も言うことはないって言ってただろう!!」
 ふっと皮肉めいて笑うと、
「あなたが報復覚悟でもの申すことに関して何も言うことはないと言っただけですわ。」
「はぁぁぁっ!!」
「何も彼の代わりに情報通の私が助言をするのは当然のことでしてよ。」
 弥生は(麗華さん、ありがたいけどなんか話が進まなさそうですが。)と心の中で呟いたが、砂紋に対してはうなずくしか出来なかった。
 弥生が頷いた事で同意を得たとばかりに「まずは説明をなさい。」と紡を促した。

「っ、3日前突然沙苗が訪ねてきたんだ。そのときに蒼紫がオメガにそそのかされて自分を勘当したって。」
「それで?」
「そのオメガはいろんなアルファを渡り歩く淫乱で今でも過去に付き合いのあったアルファを侍らしている程だと、しかも好みのアルファにフェロモンを放って虜にした上に相手がいようが侍らせるんだと。」

 砂紋は呆れた様子で、弥生に至っては誰の話かすらわからない、いや、自分に向けられた言葉ということはわかるがそれを自分に当てはめる事があまりにも難しく思考が停止してしまった。
「なるほど。蒼紫さんを虜にして妹さんを勘当してしまったと?」
「そう、そうなんだよ。そのオメガはじいさんやおじさんも言いなりにして沙苗を勘当させ、なにかあればいつもかばってた蒼紫がそのオメガに骨抜きにされて今回は助けもせず、反対さえせず勘当に賛成するなんてあり得ないんだ。」

「まぁ、そうですの。」
「そうなんだよ、しかも今まで身内を擁護してたのに今回一斉摘発して恨みまで買う羽目になって、また総裁候補に挙がりそうだったのに駄目になってるし。」
「お気の毒ですのね。」
 弥生は”あなたが”、と福音で聞こえた気がした。
「そうだろ!そのオメガに言いように使われて俺まで引っ張り出させて、早く目を覚まさせてやらないと!!」

 弥生は二人のトークを聞きながら食事を再開していた。
 まったくもって自分のことと思えないのは、想像で作り上げられたオメガ像が自分とかけ離れたところで一人歩きしているのと、砂紋のおかげだろう。

 砂紋は同意しているようで、実は話がスムーズに進むようにあいづちを打っているに過ぎない。
 これで、砂紋が弥生の名を出しさもそうだと一緒に責め立てれば、かなりダメージを受けるが、そんなこともないので落ち着いていられる。
「まず、あなた目の前のオメガが先程の話に出てきた人物だと思いますの?」
「え?」
「聞こえませんでしたの?」
「……思わない。」
 そう、目の前のオメガは沙苗の言うオメガとは違う。
 でも、何故か沙苗の言葉が頭から去っていかない。
「沙苗さんのお話の他に、誰のお話を聞かれましたの?」
「聞いてない。」
「あなた自身が見たものと話の齟齬が生まれている事に違和感は感じませんの?」
「………」
 感じてる。
「蒼紫さんが変わったと仰ってましたけど、あなたが見てきた蒼紫さんは本当に身内贔屓な方でしたの?不正が行われても見て見ぬふりをするような?」

「違う。」
 即出てきた言葉に自分で驚き、口を塞ぐ。

 蒼紫は、そうだ蒼紫は沙苗の事を庇っているように見えていた。
 わがままで手に負えないような妹でも可愛いんだと。
 ただ、本当にそうだったかと言われれば疑問しかない。

 いつも、どこか空虚で言いなりになる事で面倒事を回避していただけじゃないか?
 身内の事だって擁護と言うより、現場から遠ざけて仕事をすることで円滑に仕事がスムーズに進むようにしていただけじゃないか?

 俺は蒼紫をそうだと思っていたんだ?
 蒼紫は沙苗本人の前ではいつも微笑んでたが、来るたびに、ウンザリしていなかったか?
 役員が西園寺の親戚筋だと言って偉そうに振る舞うたびに、間に立って対応していたがそれは本当に身内贔屓だからだったか?

 噴き出た疑問が頭の中でぐるぐるまわる。

「人の思い込みって怖いよねぇ。」
 紡が弥生の方を見ると湯呑みに視線を落として、つい呟いたといった感じだった。

「人に指摘されても、なかなかホントの事にたどりつけなくなる。」
 ふと聞いてみたくなった。
「あんたは、あんただったらどうするんだ。」
「俺はねぇ、ぜ~んぶ忘れる。」
「忘れる?」
「そう、余計なこと全部忘れて、感情も周りの意図もなしで、現状どうなってるか、今後どうしたらいいかを考える。」
 紡は口を挟むことなくじっと弥生を見る。
「そうすると意外と見えてないことが見えてくるもんだよ。」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

手の届かない元恋人

深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。 元彼は人気若手俳優になっていた。 諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 ※オメガバ系で結構ご都合な設定ありかもです!地雷だったらごめんなさい!!

ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる

雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。 ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。 「フェロモンに振り回されるのは非合理的」 そう思っていたのに――。 新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。 人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。 「先輩って、恋したことないでしょ」 「……必要ないからな」 「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」 余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。 からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。 これは、理屈ではどうにもならない “ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。

元ヤンオメガは平穏に生きたい!〜中華風異世界に転生したら、過保護な最強生徒会長に溺愛されて番にされました〜

水凪しおん
BL
現代日本で喧嘩ばかりしていた不良の青年は、交通事故から子供をかばって命を落とした。 目を覚ますと、そこは中華風の文化が息づく架空の国「龍凰帝国」。 彼は、名門校・天耀学舎に通う華奢なオメガの少年「飛燕」として転生していた。 亡き祖母との「今度こそ真っ当に生きる」という約束を守るため、波風を立てずに平穏な学園生活を送ろうと心に誓う飛燕。 しかし、理不尽な身分制度がはびこる学園で、弱者が虐げられるのを黙って見過ごすことはできなかった。 「オメガだからって、舐めんじゃねえぞ」 我慢の限界を迎え、前世で培った喧嘩の腕と無意識に発現した気の力で、アルファの不良たちをぶっ飛ばしてしまった飛燕。 退学を覚悟するが、その現場を学園の絶対的支配者である生徒会長のアルファ「蒼龍」に見られてしまう。 怒られるかと思いきや、蒼龍は飛燕の強さと真っすぐな瞳に強烈に惹きつけられ、彼を生徒会役員に任命。 そこから、冷酷無比と噂される生徒会長による、異常なまでの激甘・過保護な溺愛生活が始まってしまった! 「お前は俺の宝だ。髪の毛一本すら、誰にも触れさせはしない」 最高級の食事を与えられ、少しの怪我でも大騒ぎされ、休日は密室に閉じ込められて甘やかされる日々。 理不尽な身分制度を壊そうとする最強の生徒会長と、彼に愛されすぎている元不良のオメガ。 喧嘩上等の華奢な少年が、最強の番として絶対君主の隣で幸せを掴む、中華風異世界オメガバース開幕!

処理中です...