縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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40.宿題

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 弥生が透谷議員の屋敷に招待されている頃、蒼紫は母親のところを訪れていた。
「母さん。」
「あら、蒼紫。」
 一昨日ぶりねぇという母は相変わらずおっとりしていた。

「どうしたの?」
「顔をみにきました、それと、話をしに。」
「ふふふ、麗華さんの事ね。」
「彼女は今どこに?」

「別の部屋でリモート中よ。」
 どうやら、安全ではないと言うことは母もよくわかった上での行動らしい。
「なぜ、西園寺の屋敷ではいけなかったのですか?」
「あそこは、ちょっと騒がしいから。」
「ああ、そうでしょうね。」
 おそらく、紡は麗華の事を結婚を含ませて紹介したはずだ。
 屋敷内はすぐにお祝いムードになり、そこに、麗華の意思はなく、あくまで紡の都合で事が運ぶ事になっただろう。
 そういった事から離すにも、今騒がしくなっている外から守るにもマンションここは都合が良い場所だった。

 専用のエレベーターで部屋まで直行でき、宅配便すらエントランス止まりで、エントランスのコンシェルジュも部屋までは来ない。
 この部屋に入る事が出来るのはこの部屋の持ち主と招かれた客のみだ。

 そう、蒼紫が弥生の為に準備したのも階は違うがこのマンションだ。
 西園寺では伴侶を囲うアルファは必ず伴侶のみが使える場所を準備する。
 そこには伴侶であるアルファさえ立ち入れない。
 それは、西園寺ならではの自由恋愛に由来する。
 上流階級の相手なら付き従うのが嫁の心得と言われて育つが、一般家庭で育てばそうはならず、自立が求められそれが常識で育つ。

 それが、西園寺に入ればいきなり上流階級の仲間入りだ。
 嫉妬に、駆け引きに、私生活でも常に人が傍につく事になり緊張とストレスで弱っていく伴侶の為の苦肉の策だ。

 今回弥生から頼まれたのは麗華の事と、施設解体後のオメガの受け入れ先の確保。
 後者の手続きは昨晩に済ませて今は使われていない介護施設を手に入れる事が出来たので、改装やオメガの為に必要なものを入れさせている。
 オメガの為の医師も砂紋の病院からの派遣が決まった。
 おいおい、常駐医師を都合つけてもらう予定だ。

 問題は麗華の事だ。
 最初父に伺いを立てたが、母がマンションに引きこもったこともあり、かなり機嫌が悪く取り合ってさえくれなかった。
 マンションには母の許可なく入れないが父も訪ねてくるのを拒否されたのだろう。
 ところが、直後に蒼紫のスマホに連絡があった。
 一度だけ有効のパスワードを入力して入って今に至るわけだ。
 父抜きで話ができるのは都合がよかったが、父はますます機嫌を損ねてしまうだろう。
 今後、蒼紫から直接協力を頼むのは難しいかもしれない。
「弥生さんは大丈夫なの?」
「……はい。」
 渋面の蒼紫に「大丈夫じゃなさそうね。」と私はくすくすと笑った。
「今。透谷議員のところに行っています。」
「あら、また大物が出てきたわね。」
「どうも、以前から付き合いがあったらしく、今回彼の方が弥生に会えなくなるのが嫌で横やりを入れてきて、弥生が直接話をしに行ったんです。」
「あなたよく行かせたわね。」
 母の言う事もわかる。
 透谷議員もアルファでかつ、今相手がいない。
 弥生を望めば周りは二人を一緒にするために動くだろう。
 今、この瞬間二人きり(※佐藤もいる)なのは業腹で、乗り込んでいけるなら、すぐにでも乗り込んでいきたい。

 それをしないのは、弥生が蒼紫を信じて任せてくれた2つの事を遂行するためだ。
 一つは保護施設、
 もう一つが砂紋麗華の事だ。

 たとえ、母がついていようと、なにか困っていることがあるかもしれない。
 対外的な事については両親で何とかなるかも内側、西園寺側の事で母でも動けないことがあるはずとその手助けをしてほしいと頼まれた。

 弥生の予感は的中していた。
 西園寺の屋敷ではすでにお祝いムードで、麗華の為に離れの建設まで始まっていた。
「西園寺の家は相手の家柄を気にしないとは言っても、相手の意思は無視で事を運ぼうとするのには困るわ。」
 首をひねる蒼紫に、母はまったくと続ける。
「相手にも生きて来た人生があるのに、今日から西園寺の人間と突然言われて、持っていたものを取り上げるんですもの、たまったもんじゃないわ。」
 蒼紫が驚いていると、ふふふと母が可笑しそうに笑う。
「随分びっくりしてるのね。」
「今までそんな風に言っていたのを聞いたことがなくて。」
 常に父に付き従っている姿しか見たことがない。
「何言ってるの?あなたたち私に興味なんてなかったじゃない。私は昔から変わってないわよ。」
「結構、思うように動いていたわよ」という母の言葉に、母の行動を思い浮かべて見るが、そう言えば家族に年何回かしかあわない上に、一緒に住んでいた時も食事の時くらいしか会っていなかった。
 どんな事をしていたのかを思い出そうとしても接点が少なすぎて分からない上に、弥生の事で連絡した以外で話をしたのがいつが最後だったのか思い出せない。

「すみません。」
「ふふふ、あなた変わったわね。」
「変わった?俺が?」
「あら、自覚なし?弥生さんのおかげかしら。何があっても謝るなんてことなかったでしょ。」
「そうでしたか?」
「いまさら過去の事をどうこう言う事はないけど、いい変化だと思うの、沙苗の事も。」
 ドキッとした。
 沙苗は母にとって可愛い娘だ。
 それを問答無用で放逐した蒼紫に思うところがあるんじゃないだろうか。
「沙苗の事は本当に申し訳ないと思ってます。」

 先ほどまでコロコロ笑っていた母がため息交じりに「あなた、わかってないわね。」といった。

「沙苗はね世間に出せない子に育ってしまったのよ。」
「しかし、随分かわいがっていたように思いますが。」
「そりゃ、かわいいわよ。自分の子に薄情になる様な人間ではないから、ただ、あの子はあり得ないわ。」
 どういう事なのか分からず困惑していると母は本当に困った様な表情になった。
「蝶よ花よと育てられて、何をしても許されて、誰からも求められるだけ求められて、話をする機会があってもあの子が話すことはすべて称賛される。結果、何がいけない事なのか全くわからず育ってしまった。周りに迷惑をかけても気付かない。ねえ蒼紫?」

 心あたりがありすぎて何も言えない。
 好きなようにさせて後始末して、どんな理不尽な意見を聞かされても否定せず聞き流すことが楽だった。
「今ならそれが異常なことだったとわかります。」
「そうでしょう。あなたやっと人になれたのよ。」
 前はサイボーグで今は人。とよく分からないことを言って笑った。

「で?あなたは彼女をどうしたいの?」
「そうですね。彼女が独身主義者と聞いたので彼女がどうしたいか伺って、その上で紡とのことをどうしていくか話せたらと思ってます。」
 はっきり言って、こうしたほうがいいという提案はない。
 紡と砂紋の考えはおそらく正反対のものだ。
 結婚したい紡としたくない砂紋。

 母に連れられて逃げたという事は、砂紋が結婚に乗り気ではない可能性が濃厚で下手をすれば2人の結婚は絶望的になる。
 とりあえず話を聞かなければと思ったのが今回良かったかもしれない。
「本当に変わったわね。」
 再度そう言った母は気持ちいいくらいの笑顔で「ねえ、麗華さん。」と麗華のいる部屋の方を見て言うと、扉がゆっくりと開かれた。

 そこには、連れ戻されることにおびえた女性ではなく弥生達と一緒にいたときと変わらない自信に満ち溢れた女性がいた。



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