縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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41.味方

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「あなたが来るとは思いませんでしたわ。」
 麗華はキッチンの方でコーヒーを入れてくると、母の横に座った。
「それで?あなたは何をしにここに来たのですの?」
「あなたに困ったことがあれば助けになろうと思って。」
 ふーんと音だけで返事をして「確かに困ってますわ。」という。

 嫌な予感しかしないが、一応聞いてみる。
「私に手助け出来ることならいいのですが。」
「あら、凄く手助け出来ると思いますわ、それどころか得意分野ではないかしら。」
 にっこり微笑みながら続けた言葉は予想通りだった。
「あの、おたんこなすをどうにかしてくださいな。」

「あー、それは、……受け入れられませんか?」
「どこをどうしたら受け入れられると言いますの?」
「アルファの特性として……。」
「では、優秀なアルファ様ならベータの特性も受け入れてくださいますのね。」
 存分に棘のついた言葉にどう返そうか考えていると母が困惑気味に「蒼紫、あなたまさか本気で言っていないでしょうね。」と聞いてきた。
「いえ、なんとなくいってみただけですので。」
「言葉遊びをしている場合ではありませんわ。」
「はぁ、そうですね。」
 参ったなと、頭に手を当てる。

「どの辺が駄目かお伺いしても?」
「全部ですわ。」
「全部。」
 身も蓋もない。
「具体的には?」
「あの”おたんこなす"が何をしたかご存じ?」
「いえ、本家に保護を求めたことだけは。」
 麗華は呆れた様子に蒼紫を見た。

「あなた、いろいろ侮られてますわね。」
 細かい報告がないと思われたのかそう返されたが、実は紡が本家でどういった行動に出たかは報告が上がっている。
 それをここで言うと藪蛇やぶへびになりかねないので黙っておくことにしただけだ。

 母はそのあたりはわかっていて蒼紫と麗華の大元の話に割り入る気はなさそうで、お茶を楽しみつつ耳を傾けている。
「紡があなたを本家に連れて行った経緯は聞いてます。砂紋の追っ手から守るためだった。」
「そうですわね、そこはとても感謝してますわ、その後本家であのナス信じられないことを言い出しましたのよ!」
 興奮してきたのと、言いにくかったのかオタンコナスの前半がとれてナスになってしまった紡に対しては特に何も思わず、そうか、意に沿わない行動をするとこうなるのかと勉強になった。と変に感心していると。

 ギロッと睨まれた。
 変な方に意識が向いたのに気がつかれたらしい。
 先を促すと。
「あの男だけじゃ、ありませんわ、西園寺の家の事も私少々勉強不足でしたわ、あんな危険な所だったなんて。」
「危険ですか?」
 安全面では日本国内においてあそこほど安全な場所もないと思うのだが。
「知ってまして?西園寺の傍系であろうとあの家に伴侶として紹介されたら最後屋敷中が一致団結して伴侶候補、いえ、連れて行かれた時点でもうあそこの人達にとっては決定事項でしたわ。囲い込みが始まりますの、アルファ本人だけでなく屋敷中で、ですわ。」
 それのどこが不思議か正直蒼紫には疑問も多い。
 確かに、周りの人間まで協力しての囲い込みは珍しくないが、大抵反対する人間が少なからずいる。
 西園寺ではアルファ本人が伴侶にと言った相手が確実に一緒になれるように周りの人間は協力的で反対するものがいればそちらが異質として排除される。

 その性質は昔から変わらない。
 それは、西園寺のアルファ、オメガの出生率にも関わってくる。
 傍系にも生まれやすいのは有名な話だ。

 その西園寺の血を少しでも家に入れてアルファの誕生を望む上流階級の家も多い。
 そして、たとえ傍系でもアルファに見初められるかもしれないと一般出身の使用人達も必死になるのだ、自分の代は駄目でも子供、その孫と言った感じに希望を込める。
 つまり、西園寺の血をひく子供が増えることが望まれている。
 だから、屋敷中で囲い込もうとするし、外の人間も歓迎こそすれ邪魔まではしない。

「すみません。」
「形だけの謝罪なんて意味がありまして?」
 佐藤から聞いていた通りの気の強さだ。
 アルファと分かったうえでのこのやり取りは普通のベータではありえない。
 アルファの心酔者なら崇め、普通のベータなら委縮する。
 紡はそんな物怖じしない彼女に惚れたんだろうな。
「いえ、形だけでなく本当に申し訳ないと思っています。今までならそれが異常とは気づけなかったでしょうが、私も伴侶に迎えたいと思った人ができましたから。」
 困ったように笑う蒼紫をじっと見たあと「あのナスもあなたを見習ってほしいですわ。」といった。
「しかし、その状態でよく母が味方だと見抜きましたね。」
 その状況で望む甘い言葉をかけられれば、彼女のように聡明なら警戒もしそうだが。
「あら、もちろん警戒いたしましたわ。」

「蒼紫ったら、私が西園寺に入って結構好きに動いてたと言っていたでしょう。」
 あきれたように言う母は「屋敷内にはわたくしの味方も作ってますのよ」と言った。といった。
「ですが、反対すれば最悪解雇です、協力は得られないのでは?」
「反対しなければいいのよ、話している内容をやっていることをそれだけで十分だわ。」

「奥様は、抵抗する私に話の内容が他に漏れないようにしてご自分の経験したことを話してくださっただけですわ。」
「それだけで、味方だと?」
「あなた、ご自分の母親の結婚の経緯を知りませんの?」
「父からは職場で出会ってそのまま結婚に至ったとだけ。」

「まぁそんなことだと思ったわ。」
「だいぶ端折られてましてよ。」
「それどころか、内容に触れてもいないじゃない。まぁ、興味もなかったんでしょうし。」
「まるで、未来の私を予見するような内容でしたわ。」
 そういえば、詳しく内容を聞いたことがなかった。
 母の言う通り興味がないと言われれば否定できないが、今回の母のように用意したマンションに引きこもられる地雷が潜んでいるかもしれないと思うと、詳しく聞いておけばよかった。

「そこまで、ひどい内容だったんですか?」
 母は聞かれると思わなかったのか蒼紫に目を丸くしてみた後、面白そうに笑った。

「ふふっ、私はね元々ベータだったの。」
「ベータ?ですが…。」
 母はオメガだったはずだ。
 母は口に指をあてる、質問は後からねと無言で言われ話が終わるまで黙ることにした。

「一般の家庭に生まれてあの人に出会うまで仕事が好きで、結婚なんて考えたこともなかった。それが、あの人に出会って最初は仕事相手だったの、プライベートで付き合ったことなんて一度だってなかった。それがある日西園寺の屋敷でディナーをって誘われたの。
 大きな取引を前にした時期で、私の上司の前でね。ご両親も一緒で時間も18時と早い時間。何も起こらないと思ってたの上司も私も。うまく事が運べばあの人の口添えで契約が取れるかもしれないという気持ちが確かに私も上司にもあったのは否定しないわ。それでも、私の上司は体を要求されたら断れと言ってくれた、レコーダーまで持たせてすぐに警察につながるようにスマホの設定まで指示してね。でも、名のある上流階級の家柄でまさかという気持ちもあったの、まあ、仕事で何度か会っていたし信用も少なからずしていたの。」

 それが間違いだった。とカップを傾ける。
「食事会が終わってご両親に泊まって行く事を勧められて断れずに泊まった次の日には使用人に若奥様って呼ばれたのよ、もうびっくり。帰りなんて送っていくと言われて、つれて行かれたのは私の両親の所よ、結婚しないって宣言してた事に反対していた両親はこの話に乗り気、会社はいつの間にか寿退社済み、会社の方は取りたかった契約が取れて万々歳。アパートはいつのまにか解約済みで屋敷の夫婦用の部屋に運び込まれていて、私は帰る所を失ったわ。」
 カップをソーサーに戻して蒼紫を見た。
「私はあの人と初夜を迎える夜にバース変異を起こしたのよ、はじめての経験したことのない熱に浮かされて、なんでこんな目にあわされなければいけないのかと……暴れたわ。」

 蒼紫は息をのんだ、小さく「なんて危険なことを………」と固まった。
 バース変異はかなり特殊だ、すぐに医者に掛かり適切な投薬を行い安静にして相性の良いアルファのフェロモンに包まれながら変化を終えないと命が危ない。

 体が変化してしまう衝撃を緩和させるアルファのフェロモンなしで、しかも体が変化中に興奮状態の上暴れたとなれば今ここに生きているのが不思議で仕方ない。
「ふふ、死んでもいいと思ったもの、帰るところもない、やりがいのある仕事も取り上げられた、生きている意味なんてあるの?蒼紫、よく理解しておきなさい西園寺のやり方は伴侶を殺してしまうのよ。」
 命があるだけじゃ生きているとは言えないでしょう。
 と、微笑む母に蒼紫は恐怖を感じた。
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