縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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42.未来

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「それで?私のお願いは聞いていただけますの?」

 さあ、もう理解しただろうとばかりに結論を急がせる。
 麗華だけの気持ちを優先して、紡を無視すれば蒼紫の片腕として動いていたこともあり強引に事を運ぶ可能性がある。

 その場合、蒼紫が何を言っても聞かないだろうかといって、紡を優先すれば気丈な性格の麗華の事だ、本当に死を選んでもおかしくない。

 だとすれば取る手段は限られてくる。
 蒼紫が抑止力になる様に事を運ぶ事で、いざという時の麗華の逃げ道を作りつつ双方納得の行く方法を模索するしかない。

「砂紋さんの気持ちは理解しました。その上で紡とのことを考えて頂きたい。」
「結局、あなたアルファなんですのね。」
 失望したようにいう麗華の目は諦めた様子はない。
 他の手段をすでに用意しているのだろう。
「私が提案するのは、砂紋さんの生活を守りつつ紡の気持ちも無視しないあくまで模索の段階の話です。」
「模索も何も私は結婚いたしませんわ。」
「はい、結婚しなくて結構です。」

 肯定されるとは思わなかったのか、麗華は目を丸くする。
「何も結婚だけがすべてではありませんから、ただ、最悪の事態は避けたいというのは知っておいていただきたい。」
「最悪?」
「アルファは伴侶を見つければ一緒になるために囲い込みを行います。それは、アルファならではの不安が根底にある。」
「不安というのはなんですの?」

「奪われる事です。相手が誰という事ではありません。手からすり抜け、2度と会うことも触れられなくなるということがアルファにとっては耐えられない。砂紋さん、その誰かにはあなた自身も含まれる。」
「私もですって?」
「自殺はもっとも恐ろしいことですよ。周りを排除しても防げない可能性の高い事ですから。紡を拒否し、追い詰めれば自殺さえ許してもらえない身動き一つ取れない生活が待ってます。」
「脅しですわね、その話で私を説得しようとしているのではなくて?その手には乗りませんわよ。」
「脅しではなく今のまま拒否を続けた結果、起きる確定の未来です、彼は私の片腕として仕事をしてきた、その未来を用意出来る腕を持っています。……だからこそ、紡との事を考えて頂きたい。」

「私に逃げ道ないということですのね。」
「砂紋さん、逃げる逃げないという考えではなく、納得いく方法の模索を考えていただけるなら、紡のストッパーは私が務めます。何があってもあなたの人生を取り上げる事はないと約束します。ですから、何が引っかかっているのか、どうしたいかを教えて頂きたい。」

 じっと探る様に見つめあう沈黙を切ったのは砂紋だった。
「私、仕事を辞める気はありませんわ。」
「はい。」
「外にも自由に出歩くし、親しい人にも仕事関係の人間にも今まで通り会いますわ。」
「はい、そこに恋愛感情が含まれない限りかまいません。」
「あのナスにも恋愛感情は持ちませんわ。」
「かまいません。」
「好きにならなくてもいいと?」
「はい、ですが。、誰とも恋愛はできないと思ってください、アルファが恐れているのは思っている相手が手の届かないところに行ってしまうことです。恋人、伴侶の存在は許容できない。」

「……まぁ、わたくし結婚の意思はありませんの、今後誰かとの恋愛はありませんわ。」
「紡に与えてほしいのは対話の時間です、今この瞬間も逃げられたことに焦り道をふさいでいるはずです。どうか、彼の納得がいくまで話をしていただきたい、もちろんその席には私が同席します。」
 麗華はそのまま黙り込んでしまった。

「あなたのような人が私の時にもいればよかったのにね。」
 ぽつりと言った母の言葉は蒼紫の耳に届いた。

 そして思ったのは弥生の事だった。
 弥生はどうだろうか?
 一般のオメガが抑制剤を使い社会に馴染んでいる弥生は、母のように追い詰められるのか、それとも、一緒に歩んでいってくれるのか。

 まるで、深淵にいるような不安が胸の奥で頭をもたげていた。

「少し考えさせていただきたいですわ。」
「はい、ですが」
「逃げませんわ、でも少しだけ考える時間が欲しいだけですわ。」
「はい、ではその間紡は私が抑えます。最初の対話は早いほうがいいという事は覚えておいていただきたい。」

「じゃ、話もまとまった事だしお茶を入れなおしましょうか。」
 立ち上がった時の母の表情にはポツリと呟いた時のような暗い感じは消えていた。

「母さん俺が」
 代わりにしようとしたらスマホの着信のバイブに気がついた。
「すみません。」
 断りを入れてテーブルから離れて窓の近くに行く。
 覚えのない番号だが、この番号は東堂と昨日のメンバーしか知らない。
「はい。」
「板垣だが。」
「ああ、なにかありましたか?」
「流石に弥生の目がないと素っ気ないな。」
「板垣さん。」
 板垣が電話をしてきたという事はなにか状況に変化があったということだろう。
「計画は中止だ。」
 中止の言葉に計画実行より胸騒ぎを覚えた。
「何がありました?」
「佐藤が潜入している捜査員と連絡を取ろうとしたが取れなかった、施設内部でなにか起こっている。」

 蒼紫が黙り込む。

「佐藤が今内部調査に人を送り込んだらしい。その報告待ちだ。こちらも外部からの情報を収集中で、まだ何もわかってない状態だ。」
「弥生は?」
「今、佐藤とホテルに向かっている。こちらも弥生の周りの警備を増員しているところだ。」
「そうですか。」
「そこでだ、相手の状況が分かるまで西園寺の屋敷で弥生をかくまってもらえないだろうか?」

「はぁ、あの男が許さないでしょう。」
 佐藤は昨日屋敷に連れて行こうとした時に実力行使でとめたくらいだ。
 弥生を西園寺の本家に連れ込もうとすれば絶対に反対する。
「その男からの申し出だよ。」
「槍でも降りそうですね。」
「それだけ状況がまずいという事だ。鬼頭をはじめとした面々が施設に集まっているのは確からしいが、動きがない。不気味だと思わないか?」
「すぐに、ホテルに向かいます。」
「ああ、よろしく頼む、こちらも情報が入り次第連絡する。」
 スマホをしまおうとした時だった。
 スマホは手からすべり落ち、カツンと床を打つ。拾おうとするが、なぜかうまく拾えず、つい舌打ちが出た。
 スマホを拾い上げる細い指先が目に入り顔を上げると母が傍まで来ていた。

 蒼紫にスマホを握らせると両手で包み込む。
「弥生さんに何かあったのね。」
「いえ、今はまだ」
 そう、今はまだ何もないはずだ。
 なのに、この不安は一体なんだ?
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