縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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68.詐欺電話?

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 板垣がホテルでシャワーを浴びている時、珍しく仁が声をかけてきた。
 こういった時は急ぎの用が多いこともあって、すぐにシャワーを中断して出るとバスタオルで包まれた。
「どうしたんだい?ダーリン。」
「見慣れない番号から何度かかかってきてる。」
「見慣れない?」
 職業柄なのか仁の覚えはアルファの板垣よりいい時がある。
 電話番号は最たるもので見聞きした番号は一度で覚え、それが誰のものなのか以外にもどんな時に知ったものかまで覚えている、その仁が”見慣れない”というのなら番号をなくして借り物の電話からかけてきている可能性も高いが。

「しかも、ビデオ通話だ。」
 ますます、心当たりがない。
 詐欺であれば仁で対応しただろうし、そうでもないとなると……誰だ?
 再び、鳴り始めた電話に対応する。
「こんばんは、忙しい時に申し訳ありません。」
 映し出された人物と、聞き覚えのある声に呆れて嘆息する。
「西園寺。」
「驚かせてしまったようですね。」
「覚えのない番号に警戒するのは当然だろう。」
「ああ、前のものは解約してしまいましたし。」
 西園寺の後ろに映し出されている部屋はシンプルな色合いの落ち着いた部屋だということがわかる。
「連絡してきたということは出てくる気になったのか?」
「はい、ずいぶん探していただいたみたいで申し訳ありませんでした。」
 全くだと出かかった言葉はそのまま飲み込む。
 連絡はしてきたが、言葉遊びをするつもりで出てきたわけじゃないのは、相変わらずの昼行灯とした口調の中に潜む緊張を読み取ったからだ。

「で?要件といこうじゃないか。それとも私と言葉遊びがしたくて連絡してきたのかい?」
「いえいえ、やっと準備が整いまして。そのご連絡ともう一つ。」
「もう一つ?」
「ご夫婦で長距離を移動と聞きまして。」
「早いな。」
 早すぎる、移動まではすぐに知れるだろうが距離まで把握されているのはおかしい。
「いろいろ、網を張っていますので。」
「……なるほど、灯台下暗しか。」
 弥生の近くに移動したとたんに連絡がきたということは、この男はすでにこの周辺にかなり前から潜んでいたという事だろう。
「で?何が知りたい?」
「なぜ急にこちらに?」
「仕事もあるが、君の元妹と婚約者の事だな。」
「ああ……、動きの詳細はつかんでますか?」
「驚かないんだな、もう処理済みかい?」
 にっこり微笑むことで西園寺が答える。

「ですが、本人たちに聞いても目的がわからずじまいでした。」
「まぁ、そうだろうね。」
 あの二人については実は難しくない。
「目的としては過去の栄光をその手に戻す、という事らしいぞ。」
「なんです、栄光って。もともとそんなものないでしょう。」
「自由に好き勝手出来ていたころに戻りたいんだろう。」
「最悪です。協力者は?」
「妹君、失礼、元妹君に関しては実海棠みかいどうの家の者のほとんどだな。主人のオメガに対する実家の仕打ちが許せないという事らしい。実海棠は思わぬ伏兵に頭を抱えていたよ。こちらに助けを求めてきた。」
「まさか、助けないでしょうね?」
「何を言ってる、助けてほしいと頼まれたんだよ。すでに接触済なら私は間に合わなかったという事だろう。」

「水万里については?」
「元妹が実海棠の使用人を使って接触していた、向こうも捨てた婚約者、弥生を害した方だが犯罪者になるとは思わなかったらしい、家の方に紹介済みだったこともあって犯罪者と確定した時点で、実家から手切れ金で大金を渡されたがたった半月で底をついて困っている時に、元妹から君との復縁の話が来てこれ幸いと有頂天になっていたらしいな。」
「復縁……、ありえない。」
 頭が痛いと蒼紫は眉間を揉む。
「さらに、ありえないことに簡単に弥生を害せると思っているらしいぞ。」
 Mの護衛が張り付き、さらに西園寺がここにいるということはすでに別に護衛が付いている可能性もある。
 何を考えて可能だと思ったのか、彼女らの思考は常に予想がつかない。
「どういう風に害そうとしたかは?」

「大量の花火と時限式の発火装置を購入していたことから、弥生の近くでそれらを使って人目を引き、誘拐かその場で殺そうとするか……、落ち着き給え。その場に君しかいないのならいいが他の者がいれば殺気にあてられるぞ。」
 西園寺は深く息を吸うと「失礼。」と一度目を瞑り、再度開けた時にはもとに戻っていた。
「本人たちだけですることはないでしょう。」
「確認できているのは、元妹の方に10人、元婚約者の方は5人ほどだが。」
「……人数があわない。」
「何人確保した?」
 西園寺の側にはやはり人がいたらしく、目線を送ると紙を受け取り眉が寄る。
「7人。」
「まずいな。こちらも着いてすぐ弥生の周辺を探らせているがまだ情報が来ない。」
「お力をお借りしても?」
「かまわない。すぐに出るが、君どこにいるんだ?」
「ホテルから結構近いですよ。弥生は今高速に向かう道筋にある焼肉店で食事中です。」
「そこを襲われる可能性があるな。では現地で。」
「はい。」

「ああ、そうだ。」
 電話の終了をタップする前に板垣は思い出したように西園寺を引き留めた。
「どうしました?」
 仕方なく、通話をそのままに準備を始める。
「佐藤には礼を尽くした方がいいぞ。」
「どういう事です?」
「君、本家の方にも行方を隠していただろう、君の祖父が遠縁のアルファを弥生にあてがおうとしたんだ。」
「なんですって?」
 予想外の事に声が低くなる。
「それを阻止したのが佐藤だよ。」
「彼が。」
 ダメ出しばかりのイメージしかないが。
「さすがに私も止めようと同席させてもらったが、見事だったよ。」
 現実と真実を突き付け、理路整然と組み立てられた論理に加え彼のコネの広さ。
 西園寺の会長をうならせるほどだった。
 そこで、佐藤は猶予を引っ張り出した。
 一年、一年の間に蒼紫が弥生の前に現れなければ会長の紹介するアルファとの結婚を視野にと約束した。

「弥生の結婚を彼が決める権利はないんですがね。」
「何を言っている、佐藤はあくまで”結婚を視野にマッチングを組む”といったんだ。結婚させるなんて一言も言っていない。第一マッチングは結婚前提の見合いなんだから”結婚を視野に”なんていうのはおかしいんだよ。」
「まあ、そうですが。」
 ただ、祖父の事だ、マッチング後そのまま結婚にこぎ着けそうな気がする。
「それに佐藤には読まれてるぞ、西園寺。」
「何がです?」
「"あの男が一年我慢できるはずがない、1~2カ月の間に結婚までこぎつけますよ。"だ、そうだ。」
 確かに、もうすでに将来の約束まで取り付けた。
 そこまで読まれているとは、佐藤の読みの深さに脱帽だ。
「彼には返せない程の恩ができましたね。」
「ねぎらってやりたまえ。」
「そうします。」
 そうこうしている内に板垣も蒼紫も準備が整った。
「さあ、弥生のところに急ごうか。」
「では、現地で。」
 蒼紫は今度こそ終了をタップした。
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