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69.焼肉
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焼肉屋里の店の脇にある花壇に一人はスマホのライトを、もう一人は箱のようなものを持って男がごそごそと何かをしていた。
はたから見ても怪しさ満点だが、今日は平日の夜でしかも周りは店以外のあかりと言えば街灯のみ、民家のあかりは見えるがかなり遠くにあるのでそこで何か作業をしていても誰も気づかない。
お店の窓際の席に客でもいれば男たちに気が付いただろうが、残念ながら今店内にいるのは座敷にいる弥生たちだけだ。
仕掛け終わり、そこから立ち去ろうと振り返った時だった。薄暗い中に人影が見えてぎょっとする。
「やあ、こんばんは。」
男たちが固まっているのもかまわず、スーツを着た女は続ける。
「よい夜だと思わないかい?」
一歩女と背後にいるガタイのいい男が前に進む。
「あんたは?」
だれだ?という言葉は独特の雰囲気の笑顔に消された。
「店の中では楽しく食事をしている人たちもいるんだ。」
あまりなかった距離が手の届く範囲になるとさすがに男たちもまずいと身構える。
「だ、だからなに?」
男女二人は自分たちにゆっくり近づいてきているだけなのに、あまりの迫力に声が震える。
「邪魔をするのは無粋だと思わないかい?」
女がそう言った瞬間箱を仕掛けていた男の意識は刈り取られた。
それを見たもうひとりが走り出したが、腹部に衝撃を感じた瞬間にブラックアウトした。
「見事だね。西園寺。」
足元に沈んだ男は黒服たちに撤去された。
「まっすぐ突き進んでくるなんて、この男はバカなんですか?」
「猪突猛進なんだろう。君の存在にも気が付いていないようだったし、おそらく見えていたのは自分の車だけだろう。」
自分の車とは言っても空港にあるレンタカーだ。
ただ、その中に逃げ込んだとしても逃げる事は出来ない。
車の中にいたもう一人は今尋問中だ。
意識がある状態で車に戻ってくれればそいつからも話が聞けたんだが、西園寺の方に逃げたため容赦なく地に這いつくばることになった。
「3人。」
「あと5人か。おそらく仮のアジトでも作ってそこで待機と言ったところか。」
「空き家なら腐る程ありますからね。」
「アジトになりそうな場所の目星はあるかい?」
「ありすぎて不明ですが、そうですね……。」
土地勘がない上に彼らは情報不足だということを考慮したら目についた家が空き家であろうとなかろうと乗っ取るような気がするが。
この辺りはちょっとでも変わったことは拒否感を示し情報は早い段階で”おかしい”と口コミで広がる、その点ではまだそんな話が出回っていないとなると人のいる民家を乗っ取ったのは考えにくい。
なら、よそ者が探しやすい上にそこにいても誰にも気に留められない場所なら。
「ダムの近くにある森林公園にキャンプ場があったはずです。」
「彼らがキャンプを張るとは思えないが。」
「キャンプといってもバンガローもあるところですよ。今はシーズンオフですから管理人さえいないはずです。」
「なるほど、わかった。すぐに人をやろう。」
「あとは……。」
もう一つの予測場所を告げようとした時だった。
黒服が報告に来ると板垣は蒼紫を見てふっと笑った。
「ビンゴだ。」
「ああ、よかったです。お任せしても?」
「もちろん、ここからはプロの仕事だ。で?君はどうするんだい?」
蒼紫は店の出入り口を見ると「佐藤君にあいさつでもしていきますか。」といった。
「しっかり、叱られておいで、なんせ胃薬が常備になるほど病んでいたからね。」
「……かなり怒られそうですね。」
「では、行くとするか。」
板垣は仁を促し車に戻っていく。
「そうだ、板垣さん。」
「なんだい?」
「明後日の打ち合わせよろしくお願いします。」
目を丸くする板垣ににっこり微笑む。
「なるほど、我々は君の手の平の上で転がされていたわけか。」
「転がすなんてとんでもない、ただちょっと内緒にしていただけですよ。」
口元に指を持っていきウインクをする蒼紫はまるでいたずらっ子のようで、板垣は苦笑する。
「では、明後日だな篠宮。」
身を翻し車に乗り込む姿を見送ると蒼紫は店の中に入っていった。
「俺は反対です。」
「佐藤君!よく言った!」
佐藤は反対し、それに父が便乗するという最悪な状態に弥生は一人頭を抱えた。
ちなみに広い座敷でちょっと距離を取って母達は何が起こっても大丈夫なように避難して料理を堪能しているというカオスな状態だ。
なぜこんな事になっているかと言うと。
弥生が時間通りに来るとなぜか座敷には父も含めた全員が待機していた。
「父さん?」
「座りなさい。」
すでに佐藤と飲んでいて、顔はほのかに赤みがさしていた。
素直に2人の前に座ると2人は弥生をまっすぐ見つめ厳しい顔で黙り込んでいた。
「父さん、佐藤君。あの俺。」
「誰なんだ。」
どうやら父も母から弥生に恋人が出来た事を知ったらしい。
「えっと、お隣に引っ越しされてきた人で。」
「素性はってことですよ。弥生さん。」
素性、素性?知り合ったばっかりであまり知らない。がそれを言うと反対されかねない。
「経営コンサルタントをしてて、すごく優しい人なんだ。」
「「………」」
2人が黙り込んだのを見て「どうしたの?」と首をかしげる。
「出身は?」
「東京にいたから東京かな?」
「弥生さん、東京は雑多な街ですよ、色んな都道府県から集まってます。東京にいたから東京出身ではないです。」
「どこの会社なんだ?」
「自営業で。」
「弥生さん、安定してない上に自営業だと潰されますよ。」
あえて誰に潰されるか、言わないのは弥生の支援者総出潰しに来る可能性を示唆しているのか、父の前でそういう人達が弥生の背後にいるというのが憚られたせいか。
「収入は?」
「俺と父さんたちを一緒に養えるくらい。」
「実際に通帳とか見せてもらいました?」
「何言ってるの?!そんなこといくら親しくなったとしても無理だよ!」
無茶な事を言い出した佐藤にぎょっとするが、佐藤は弥生の反論を黙殺した。
「親は?」
「いる?かな。」
「生きてるか死んでるかです。その分だと兄弟の有無も知らないですよね。」
「し、知らない。」
「出身の中学高校は?」
「……知らない。」
「大事なことですよ、せめて中学がわかればどこの人間かわかる。義務教育ですからね、必ず親の生活基盤がそこにある。」
どんどん、小さくなっていく弥生の声に容赦なく追い打ちをかけてくる。
弥生はとうとう二人が見られなくなってうつむいてしまった。
「弥生、どうしてその男がいいと思ったんだ。」
「……いろいろ、話してみて共感できる部分があって……、俺がオメガの能力に問題のあるオメガでもいいって言ってくれたんだ。」
「弥生さん、そんな事言う人間はこれからどんどん湧いて出てきますよ。」
「っそんな事!」
「あるんです。あんたはアルファだけでなくベータにとってもお付き合いしたいと思えるくらい魅力的なんです。逆に今までよく無事だったと思いますよ。」
「彼の事が好きなんだ。」
「話していく過程でそう思いましたか?」
「ひとめぼれなんだ!」
弥生はうつむいていた顔を上げ2人をまっすぐ見た。
ホテルでは認められなかった一目惚れの事実をここで正直に認めた。
そうしなければ、もう言える事はなかったから。
「ロマンス詐欺ですね。」
「え?」
「ロマンス詐欺です。どんなに好きだと思っても向こうはそうは思ってないし何なら金づる位にしか考えてません。」
「そんな事ない!」
突然の詐欺宣言に即座に否定する。
でも、弥生の抵抗なんて佐藤になんの効果もなかった。
「俺は反対です。」
「佐藤君!よく言った!」
佐藤は反対し、それに父が便乗するという最悪な状態に弥生は一人頭を抱える羽目になったのだった。
はたから見ても怪しさ満点だが、今日は平日の夜でしかも周りは店以外のあかりと言えば街灯のみ、民家のあかりは見えるがかなり遠くにあるのでそこで何か作業をしていても誰も気づかない。
お店の窓際の席に客でもいれば男たちに気が付いただろうが、残念ながら今店内にいるのは座敷にいる弥生たちだけだ。
仕掛け終わり、そこから立ち去ろうと振り返った時だった。薄暗い中に人影が見えてぎょっとする。
「やあ、こんばんは。」
男たちが固まっているのもかまわず、スーツを着た女は続ける。
「よい夜だと思わないかい?」
一歩女と背後にいるガタイのいい男が前に進む。
「あんたは?」
だれだ?という言葉は独特の雰囲気の笑顔に消された。
「店の中では楽しく食事をしている人たちもいるんだ。」
あまりなかった距離が手の届く範囲になるとさすがに男たちもまずいと身構える。
「だ、だからなに?」
男女二人は自分たちにゆっくり近づいてきているだけなのに、あまりの迫力に声が震える。
「邪魔をするのは無粋だと思わないかい?」
女がそう言った瞬間箱を仕掛けていた男の意識は刈り取られた。
それを見たもうひとりが走り出したが、腹部に衝撃を感じた瞬間にブラックアウトした。
「見事だね。西園寺。」
足元に沈んだ男は黒服たちに撤去された。
「まっすぐ突き進んでくるなんて、この男はバカなんですか?」
「猪突猛進なんだろう。君の存在にも気が付いていないようだったし、おそらく見えていたのは自分の車だけだろう。」
自分の車とは言っても空港にあるレンタカーだ。
ただ、その中に逃げ込んだとしても逃げる事は出来ない。
車の中にいたもう一人は今尋問中だ。
意識がある状態で車に戻ってくれればそいつからも話が聞けたんだが、西園寺の方に逃げたため容赦なく地に這いつくばることになった。
「3人。」
「あと5人か。おそらく仮のアジトでも作ってそこで待機と言ったところか。」
「空き家なら腐る程ありますからね。」
「アジトになりそうな場所の目星はあるかい?」
「ありすぎて不明ですが、そうですね……。」
土地勘がない上に彼らは情報不足だということを考慮したら目についた家が空き家であろうとなかろうと乗っ取るような気がするが。
この辺りはちょっとでも変わったことは拒否感を示し情報は早い段階で”おかしい”と口コミで広がる、その点ではまだそんな話が出回っていないとなると人のいる民家を乗っ取ったのは考えにくい。
なら、よそ者が探しやすい上にそこにいても誰にも気に留められない場所なら。
「ダムの近くにある森林公園にキャンプ場があったはずです。」
「彼らがキャンプを張るとは思えないが。」
「キャンプといってもバンガローもあるところですよ。今はシーズンオフですから管理人さえいないはずです。」
「なるほど、わかった。すぐに人をやろう。」
「あとは……。」
もう一つの予測場所を告げようとした時だった。
黒服が報告に来ると板垣は蒼紫を見てふっと笑った。
「ビンゴだ。」
「ああ、よかったです。お任せしても?」
「もちろん、ここからはプロの仕事だ。で?君はどうするんだい?」
蒼紫は店の出入り口を見ると「佐藤君にあいさつでもしていきますか。」といった。
「しっかり、叱られておいで、なんせ胃薬が常備になるほど病んでいたからね。」
「……かなり怒られそうですね。」
「では、行くとするか。」
板垣は仁を促し車に戻っていく。
「そうだ、板垣さん。」
「なんだい?」
「明後日の打ち合わせよろしくお願いします。」
目を丸くする板垣ににっこり微笑む。
「なるほど、我々は君の手の平の上で転がされていたわけか。」
「転がすなんてとんでもない、ただちょっと内緒にしていただけですよ。」
口元に指を持っていきウインクをする蒼紫はまるでいたずらっ子のようで、板垣は苦笑する。
「では、明後日だな篠宮。」
身を翻し車に乗り込む姿を見送ると蒼紫は店の中に入っていった。
「俺は反対です。」
「佐藤君!よく言った!」
佐藤は反対し、それに父が便乗するという最悪な状態に弥生は一人頭を抱えた。
ちなみに広い座敷でちょっと距離を取って母達は何が起こっても大丈夫なように避難して料理を堪能しているというカオスな状態だ。
なぜこんな事になっているかと言うと。
弥生が時間通りに来るとなぜか座敷には父も含めた全員が待機していた。
「父さん?」
「座りなさい。」
すでに佐藤と飲んでいて、顔はほのかに赤みがさしていた。
素直に2人の前に座ると2人は弥生をまっすぐ見つめ厳しい顔で黙り込んでいた。
「父さん、佐藤君。あの俺。」
「誰なんだ。」
どうやら父も母から弥生に恋人が出来た事を知ったらしい。
「えっと、お隣に引っ越しされてきた人で。」
「素性はってことですよ。弥生さん。」
素性、素性?知り合ったばっかりであまり知らない。がそれを言うと反対されかねない。
「経営コンサルタントをしてて、すごく優しい人なんだ。」
「「………」」
2人が黙り込んだのを見て「どうしたの?」と首をかしげる。
「出身は?」
「東京にいたから東京かな?」
「弥生さん、東京は雑多な街ですよ、色んな都道府県から集まってます。東京にいたから東京出身ではないです。」
「どこの会社なんだ?」
「自営業で。」
「弥生さん、安定してない上に自営業だと潰されますよ。」
あえて誰に潰されるか、言わないのは弥生の支援者総出潰しに来る可能性を示唆しているのか、父の前でそういう人達が弥生の背後にいるというのが憚られたせいか。
「収入は?」
「俺と父さんたちを一緒に養えるくらい。」
「実際に通帳とか見せてもらいました?」
「何言ってるの?!そんなこといくら親しくなったとしても無理だよ!」
無茶な事を言い出した佐藤にぎょっとするが、佐藤は弥生の反論を黙殺した。
「親は?」
「いる?かな。」
「生きてるか死んでるかです。その分だと兄弟の有無も知らないですよね。」
「し、知らない。」
「出身の中学高校は?」
「……知らない。」
「大事なことですよ、せめて中学がわかればどこの人間かわかる。義務教育ですからね、必ず親の生活基盤がそこにある。」
どんどん、小さくなっていく弥生の声に容赦なく追い打ちをかけてくる。
弥生はとうとう二人が見られなくなってうつむいてしまった。
「弥生、どうしてその男がいいと思ったんだ。」
「……いろいろ、話してみて共感できる部分があって……、俺がオメガの能力に問題のあるオメガでもいいって言ってくれたんだ。」
「弥生さん、そんな事言う人間はこれからどんどん湧いて出てきますよ。」
「っそんな事!」
「あるんです。あんたはアルファだけでなくベータにとってもお付き合いしたいと思えるくらい魅力的なんです。逆に今までよく無事だったと思いますよ。」
「彼の事が好きなんだ。」
「話していく過程でそう思いましたか?」
「ひとめぼれなんだ!」
弥生はうつむいていた顔を上げ2人をまっすぐ見た。
ホテルでは認められなかった一目惚れの事実をここで正直に認めた。
そうしなければ、もう言える事はなかったから。
「ロマンス詐欺ですね。」
「え?」
「ロマンス詐欺です。どんなに好きだと思っても向こうはそうは思ってないし何なら金づる位にしか考えてません。」
「そんな事ない!」
突然の詐欺宣言に即座に否定する。
でも、弥生の抵抗なんて佐藤になんの効果もなかった。
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