縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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70.反対

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 弥生には佐藤がここまで反対する理由がわからなかった。
 父は…まぁ、昨日母から聞いていたからなんとなくわかるが、父に味方している感じでもない、かといってマッチング以外で出会いがあってそれが気に入らないという感じでもない、そうなら、中庭で篠宮と出会った時に身元を調べようと持ち掛けなかったはずだ。

「父さんが反対するのはなんとなくわかるけど、どうしてそこまで反対するの?」
 佐藤は皺のよった眉間をもみほぐすとため息を一つついた。
「いいですか?弥生さん。美穂から連絡を受けてすぐに調べましたが、なぜか住民票も移されていない。名前さえ篠宮ということ以外わからない。挙句の果てに引っ越し当日にあいさつに回った人間と、住んでいる人間が別人だという証言まで出てきた。あまりに怪しすぎるでしょう。」
 やっぱり、美穂の連絡を受けて調べていたらしい。
 早めに報告するようにしてよかった。

「住民票は完全にこっちに住むようにしてないからじゃないの?東京にオフィスがあるって言ってたから移してない可能性だってあるよね。」
「弥生、住民票はそうかもしれないが、あいさつ回りに別人がというのはあまりにも怪しいじゃないか。」
「父さん、それだって彼が都合が悪くて引っ越しを手伝ってくれた人が、早めがいいからって代わりに回った可能性もあるんじゃない?それか、あの部屋を一緒に使ってる人がいるとか。」

「あの部屋は借主以外住人はいないらしいですよ。」
「予定が変わったことだってあるよ。」
「弥生さんに直接挨拶する事にこだわってる時点でおかしいんですよ。」
「いやいや、あそこに住むのは俺なんだから俺に挨拶って普通じゃない?」
「引っ越しの挨拶はおばさんと美穂にすませてるんです。普通ならそこで終わりですよ。なのに、弥生さんが帰る日を確認までして会おうとするのはどこかでオメガの話を聞いたベータが食いものしようと近づいてきたんですよ。」
「それはただの予測でしょ。実際に被害にあってないし。」
「あのねぇ、被害にあってからじゃ遅いんですよ。」

「弥生、そんな危険人物はダメだ。それに昨日もう結婚しないと言ってたじゃないか。」
 父が優しく諭すように言うが………
「父さん、俺、マッチングはしないっていったけど結婚しないとは言ってないよ。」
 というとショックで固まってしまった。
「結婚の約束までしたんですか?」
「まぁ、そんな感じの話が出て、いいかなって。」
「はぁ、今日会ってすぐ結婚ってやっぱり詐欺ですね。詐欺。」
「なんで決めつけるの?一目惚れって言ったでしょ。」

「これからですよ、色々理由をつけて身ぐるみ剥がされて骨までしゃぶられるんですよ。」
「弥生、佐藤君の言う通りだ。被害にあってからじゃ遅いんだ。」
「俺は彼になら身ぐるみ剥がさても、骨までしゃぶられてもいい。」
「弥生!なんてこと言うんだ!」

「弥生さん、運命が現れたらどうするつもりです?」
「俺に運命はいない。あえて言うなら彼が運命だ。」
「いますよ。」
「佐藤君、何言ってんの?彼が運命だよ。別にはいない。」
「はぁ、本当は言うつもりはなかったんですけど仕方ないですね。」
「……なに?」
「弥生さん、記憶がない間に運命にあってるんですよ。しかも、弥生さんから告白してる。」
「俺から?」
 佐藤は静かにうなずいた。
「じゃあ、なんで出てこないの?運命だとわかっていて迎えにこないなら、その人に運命が別にいたんじゃないの?」

「記憶がないから仕方ないですけど、弥生さん頭を何度も殴られたせいで血栓ができやすくなってたんです。血流が急激に変わる事はドクターストップがかかってた、だから、こちらの判断で面会拒否ってました。」
「え?でも一度も会いに来ないのはおかしいよね。」
「来てましたよ。」

 それを聞いてた母が思い掛けず「あ、もしかしてお見舞い。」とつぶやいた。
「お見舞いって?」
「弥生の病室って部外者がはいれないから看護師さんが持って来てくれたんだけど、弥生が集中治療室に入ってるときから部屋にお見舞いが毎日届いてたの。」
「誰から?」
「それが、名乗らなかったみたい。看護師さんが毎日持って来てたから毎日来てたんだと思う。弥生が部屋に移ったあとは朝病室に行くとお見舞いが毎日置いてあってMの人達が来てるんだと思ってたけど。」

 Mは規約上個人的な贈り物はできない事になっているから、その見舞客が弥生の運命からなのかもしれない。
 でも、今の恋人は篠宮なのだ。
 過去運命だったかもしれないけど、オメガフェロモンの異常で相手は運命だとわからなくなって、諦めた可能性だってある。
 それに、過去よりいまだ。
「その運命は今どうしてるの?」
「知ってどうするんです?」
「諦めてもらうように説得する。俺の運命は篠宮さんだけだから。」
 居住まいをただしまっすぐ佐藤を見る。
 暫くにらみ合いのような時間が過ぎると佐藤は乱暴に頭をかいた。
「行方知れずです。弥生さんがホテル滞在時までは近くをうろうろしてたんですが……、いなくなりました。消息不明の生死不明。」
 あまりの重い事実に両親と美穂は息をのみ、弥生も固まった。
 行方不明の原因は弥生の記憶喪失だろう。
 思いあっているアルファとオメガはどちらかが損なわれれば正気でなくなるといわれるほど、深い絆でつながる。
 やっと目覚めた運命が自分を覚えていないことに絶望したかもしれない。

「俺も、Mも総力を挙げて捜索しているにもかかわらず全く分からない。西園寺も手を尽くしてますが行先不明のままです。」
 ここで気になるワードが出てきた。
「西園寺?」
 佐藤は何も言わずビールをあおる。
「トラブル回避のために名前を貸してくれた大富豪の家だよね。」
「全くのデマってわけじゃなかったんですよ。」
「まさか、俺の運命って。」
「……西園寺家の次期総帥候補の一人です。」
「え?無理。」
 つい声に出たが、無理だ。
 そんな、運命でしたって言われて実感も感情も追いつかないまま嫁に入ってその人を支えていくなんて無理だ。

「佐藤君、まさかその話まだ有効なんてことないよね?」
 無言で目線を外す佐藤に嫌な予感を覚える。
「一年以内に運命がかえってきて結婚しなければ、弥生さんは強制的に西園寺の傍系とマッチングをすることになります。一応予防線は張ってますが下手したらマッチング当日に連れ去られる可能性もある。」
 全員が息を飲む。
 父も一緒に反対していた佐藤が予想外の事を言い出して佐藤を隣で凝視していた。

「う、うそでしょう?」
「あっちは運命と一緒になって弥生さんが家に来てくれる気でいたのが、運命の方がいなくなってしまった。弥生さんを気に入っている西園寺はどうしても弥生さんを西園寺に加えたいといろいろ策を講じてきてるんですよ。」
「いやなんだけど。」
「もし、運命が死んでいると判明した場合も同じようにマッチングをしてもらうことになります。」

 弥生は片手を顔に当てる。
「最悪。」
 西園寺なんて大富豪を敵にしたら自営業の篠宮にどんな影響が出るかわからない。
「マッチングの方はどうにかなります。相手が気に入らなければ結婚を承諾しなければいい。」
 簡単に言う佐藤をにらみつけると。
 佐藤はニッと笑い”言ったでしょ。”と、つづけた。
「マッチングはあくまで見合い。見合いしたから即結婚なんてありえないんですよ。向こうに承諾させた条件はところまで、結婚の約束はしてない。弥生さんは堂々と相手を振ればいい。結婚なんてしなくていいんです。」
 母と美穂はほっと胸を撫で下ろし、父は感極待って佐藤の手を握った。
「佐藤君!君は、君は!最高だ!」
 弥生も懸念がなくなってほっと息をついた。




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