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71.説得
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ほっとして空気が緩み、父が上機嫌に佐藤に酌をしている姿を見て、はたっと気づく。
問題解決してなくない?
西園寺に嫁入りの話は佐藤のおかげで回避できそうだけど、ロマンス詐欺扱いされてる篠宮の事はどうなる?
「待って、俺結婚はするよ。」
「何をいってるんだ、弥生ほら、佐藤君が言ってたじゃないか結婚はしなくてもいいって。」
「そうですよ、弥生さん、金持ちに輿入れなんて自由もなくて窮屈なだけですよ。」
なぜそうなる。
衝撃的な事実が突っ込まれてうやむやになりそうだったのを、篠宮とのお付き合いを許してもらう方向に何とか修正を試ようとする。
「まぁ、それはそうだろうけど俺には関係ないかな。相手はベータの一般人だし。」
「弥生、それは詐欺だから。」
「そうですよ、弥生さん、第一運命が弥生さんを詐欺ってる相手を生かしておくわけないじゃないですか。帰ってきて結婚なんてしてたら相手が殺されますよ。」
「詐欺られてもいいし、彼が殺されたら俺も死ぬから。」
キッパリ言い切った弥生に父はあんぐり口を開き、佐藤はため息をついて額に手を当てた。
弥生だってこんなことを言いたいわけじゃない。
お見合い以外の恋愛なんて、知らないことだらけで付き合って行く内に知っていくんじゃないだろうか?
誰とも付き合った事のない弥生はそう思っているが、事前に双方事情を熟知して付き合うもので、弥生の今回の事態が異常です。と言われたら死ねる。
「弥生さんよく考えて下さい。死んだら元も子もないですよ。その篠宮って男と一緒になりたいんでしょ。」
「俺だって別に死にたいわけじゃない。佐藤君が変な予測立てるから、そう結論出すしかないんだけど。」
弥生だってため息もつきたいし、怒って叫びたいけどそんなことをしても解決にならないからしないだけだ。
結婚させたくない二人に、結婚したい弥生。
平行線しか見えない状況に大きく息を吸い込み、吐き出し、気持ちを落ち着かせる。
本当ならお付き合い報告だけだったのにおかしいことになっているのはわかるが、できれば納得してもらいたい。
言い合いのようになった部分もあったが、とにかく冷静に、落ち着いて説得しようと心に誓った。
「弥生は……父さんと母さんに会えなくなってもいいのか?」
父の切り出した声があまりにも力がなく。
ちょっと罪悪感が湧く。
「そんな事思ってないよ、父さん。」
悲しそうに眉根を寄せて、あくまで優しく、わかってほしいと思いを込めて父に言葉をかける。
「俺は結婚しても父さんや母さんと自由に会うし、万が一、篠宮さんがダメって言っても会えるように説得する。」
「そいつの事が好きなんだろう?」
「うん。父さんが母さんを好きなように、俺は篠宮さんが好きなんだ。」
「……好きだったら、相手が駄目だといったらそのとおりに「しない。」」
父の言葉に被せたが強くはっきり否定した。
「父さん、俺は両親に会うのが駄目だとか、他の人と目を合わせることも会話も駄目だと言われて、おとなしく従ったりしない。」
主張することは強く言葉を発した。
今は父が嫌がる懸念を聞き出してどうすればいいか、少しでも模索するべきだと思った。
ーーお付き合いと結婚は譲れないけど
一般的に伴侶持ちのオメガは相手に依存して、なんでも言うとおりにする事が多く、大体の伴侶が他者だけでなく家族との接触も嫌がるのでそれに従う。
オメガの結婚は家族との一生の離別だ。
父の懸念はそこかもしれない。
でも、弥生はそんな風に一緒になった相手だけ大事にして、家族に会わなくなるのはおかしいと思っている。
「それに篠宮さんは父さんや母さんの事もちゃんと考えてくれてる。じゃあないと”両親も支えて”なんてこと言わないと思うんだ。」
「あいさつにも来ないじゃないか。」
「父さん……、今日会ったばかりなんだよ。篠宮さん仕事してるんだ、来れないよ。」
「弥生を好きなら駆けつけるもんだろう。」
「普通に考えて無理だよ。」
父の弥生を見る目は悲しみで染まっていた。
「弥生は、弥生は昨日結婚しないって言った。」
「見合いをしないって言ったんだよ。」
「ずっと、家族だけで過ごせばいいじゃないか。」
「それは、……無理だよ。」
弥生の心が折れそうになる、そうだね、そうしよう。と言えば父はまた笑顔を弥生に向けてくれるだろう。
「ひどい男だったらどうするんだ。」
「これからゆっくり、お互いを知っていくんだよ、ひどい男だったらそれは、俺が悪かったんだ。」
「結婚してから豹変する奴だっているんだ。」
「結婚してみないとわからないよ。」
優しく諭すように話す弥生に、いやだいやだとまるで子供のようなことを言う父。
弥生が困り果てているのを見かねた母が、立ち上がってこちらに来ようとした時だった。
柱をノックする音がして、店員さんが「失礼します。」と襖を開けた。
ゴトンと音がしてそちらを見ると、佐藤が飲みかけのグラスを落として目を見開き弥生の後ろを見つめていた。
「佐藤君!何やってるの?」
手元にあったお手拭きでこぼれたビールを拭こうとしたが、「すみません、拭くものをお願いできますか?」という声に手が止まった。
その声は数時間前に聞いていた声。
そっと後ろを振り向くと店員から数枚のタオルを受け取る篠宮がいた。
「し、篠宮さん?」
「すみません、突然。」
タオルを持って佐藤のところに行きこぼれたビールを拭き取りながら「お久しぶりです、佐藤さん。」とにっこり微笑みかけ「こちら使ってください。」と、タオルを佐藤に渡した。
「なっ!」
やっと、声を出したであろう佐藤はそのまま顔を覆って固まってしまったので、いつのまにかそばに来ていた美穂がタオルを受け取って佐藤の濡れた服をふき、固まっている父親が面白いのか、佐藤は二人の天使に乗っかられていた。
母も、突然の篠宮の登場に固まっている父の側に行き背中を撫でている。
弥生の傍に来た篠宮は当然のように横に座ると「遅くなってすみません。」と弥生の手の上に手を乗せる。
「そんな、そんなことは。」
遅くなったも何も篠宮はここに来ることにはなっていなかったはずだ。
頬を染めて篠宮を見る弥生を、篠宮も愛おしそうに見つめ返す。
そんな二人を向かい側で、母と美穂は嬉しそうに、父は愕然として、佐藤は顔を覆ったまま現実逃避しているというそれぞれの思いがよくわかる構図で見つめていた。
問題解決してなくない?
西園寺に嫁入りの話は佐藤のおかげで回避できそうだけど、ロマンス詐欺扱いされてる篠宮の事はどうなる?
「待って、俺結婚はするよ。」
「何をいってるんだ、弥生ほら、佐藤君が言ってたじゃないか結婚はしなくてもいいって。」
「そうですよ、弥生さん、金持ちに輿入れなんて自由もなくて窮屈なだけですよ。」
なぜそうなる。
衝撃的な事実が突っ込まれてうやむやになりそうだったのを、篠宮とのお付き合いを許してもらう方向に何とか修正を試ようとする。
「まぁ、それはそうだろうけど俺には関係ないかな。相手はベータの一般人だし。」
「弥生、それは詐欺だから。」
「そうですよ、弥生さん、第一運命が弥生さんを詐欺ってる相手を生かしておくわけないじゃないですか。帰ってきて結婚なんてしてたら相手が殺されますよ。」
「詐欺られてもいいし、彼が殺されたら俺も死ぬから。」
キッパリ言い切った弥生に父はあんぐり口を開き、佐藤はため息をついて額に手を当てた。
弥生だってこんなことを言いたいわけじゃない。
お見合い以外の恋愛なんて、知らないことだらけで付き合って行く内に知っていくんじゃないだろうか?
誰とも付き合った事のない弥生はそう思っているが、事前に双方事情を熟知して付き合うもので、弥生の今回の事態が異常です。と言われたら死ねる。
「弥生さんよく考えて下さい。死んだら元も子もないですよ。その篠宮って男と一緒になりたいんでしょ。」
「俺だって別に死にたいわけじゃない。佐藤君が変な予測立てるから、そう結論出すしかないんだけど。」
弥生だってため息もつきたいし、怒って叫びたいけどそんなことをしても解決にならないからしないだけだ。
結婚させたくない二人に、結婚したい弥生。
平行線しか見えない状況に大きく息を吸い込み、吐き出し、気持ちを落ち着かせる。
本当ならお付き合い報告だけだったのにおかしいことになっているのはわかるが、できれば納得してもらいたい。
言い合いのようになった部分もあったが、とにかく冷静に、落ち着いて説得しようと心に誓った。
「弥生は……父さんと母さんに会えなくなってもいいのか?」
父の切り出した声があまりにも力がなく。
ちょっと罪悪感が湧く。
「そんな事思ってないよ、父さん。」
悲しそうに眉根を寄せて、あくまで優しく、わかってほしいと思いを込めて父に言葉をかける。
「俺は結婚しても父さんや母さんと自由に会うし、万が一、篠宮さんがダメって言っても会えるように説得する。」
「そいつの事が好きなんだろう?」
「うん。父さんが母さんを好きなように、俺は篠宮さんが好きなんだ。」
「……好きだったら、相手が駄目だといったらそのとおりに「しない。」」
父の言葉に被せたが強くはっきり否定した。
「父さん、俺は両親に会うのが駄目だとか、他の人と目を合わせることも会話も駄目だと言われて、おとなしく従ったりしない。」
主張することは強く言葉を発した。
今は父が嫌がる懸念を聞き出してどうすればいいか、少しでも模索するべきだと思った。
ーーお付き合いと結婚は譲れないけど
一般的に伴侶持ちのオメガは相手に依存して、なんでも言うとおりにする事が多く、大体の伴侶が他者だけでなく家族との接触も嫌がるのでそれに従う。
オメガの結婚は家族との一生の離別だ。
父の懸念はそこかもしれない。
でも、弥生はそんな風に一緒になった相手だけ大事にして、家族に会わなくなるのはおかしいと思っている。
「それに篠宮さんは父さんや母さんの事もちゃんと考えてくれてる。じゃあないと”両親も支えて”なんてこと言わないと思うんだ。」
「あいさつにも来ないじゃないか。」
「父さん……、今日会ったばかりなんだよ。篠宮さん仕事してるんだ、来れないよ。」
「弥生を好きなら駆けつけるもんだろう。」
「普通に考えて無理だよ。」
父の弥生を見る目は悲しみで染まっていた。
「弥生は、弥生は昨日結婚しないって言った。」
「見合いをしないって言ったんだよ。」
「ずっと、家族だけで過ごせばいいじゃないか。」
「それは、……無理だよ。」
弥生の心が折れそうになる、そうだね、そうしよう。と言えば父はまた笑顔を弥生に向けてくれるだろう。
「ひどい男だったらどうするんだ。」
「これからゆっくり、お互いを知っていくんだよ、ひどい男だったらそれは、俺が悪かったんだ。」
「結婚してから豹変する奴だっているんだ。」
「結婚してみないとわからないよ。」
優しく諭すように話す弥生に、いやだいやだとまるで子供のようなことを言う父。
弥生が困り果てているのを見かねた母が、立ち上がってこちらに来ようとした時だった。
柱をノックする音がして、店員さんが「失礼します。」と襖を開けた。
ゴトンと音がしてそちらを見ると、佐藤が飲みかけのグラスを落として目を見開き弥生の後ろを見つめていた。
「佐藤君!何やってるの?」
手元にあったお手拭きでこぼれたビールを拭こうとしたが、「すみません、拭くものをお願いできますか?」という声に手が止まった。
その声は数時間前に聞いていた声。
そっと後ろを振り向くと店員から数枚のタオルを受け取る篠宮がいた。
「し、篠宮さん?」
「すみません、突然。」
タオルを持って佐藤のところに行きこぼれたビールを拭き取りながら「お久しぶりです、佐藤さん。」とにっこり微笑みかけ「こちら使ってください。」と、タオルを佐藤に渡した。
「なっ!」
やっと、声を出したであろう佐藤はそのまま顔を覆って固まってしまったので、いつのまにかそばに来ていた美穂がタオルを受け取って佐藤の濡れた服をふき、固まっている父親が面白いのか、佐藤は二人の天使に乗っかられていた。
母も、突然の篠宮の登場に固まっている父の側に行き背中を撫でている。
弥生の傍に来た篠宮は当然のように横に座ると「遅くなってすみません。」と弥生の手の上に手を乗せる。
「そんな、そんなことは。」
遅くなったも何も篠宮はここに来ることにはなっていなかったはずだ。
頬を染めて篠宮を見る弥生を、篠宮も愛おしそうに見つめ返す。
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