縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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74.男子会

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「柊さん、どうぞ。」
 蒼紫はビールを持って弥生の父修一の所に行くと酒をすすめる。
 修一は弥生に泣かれたのがショックだったのか、蒼紫を拒否すること無く、入っていた酒を飲み干すと、蒼紫の酌を受けた。

「弥生のどこがよかったんだ。」
「表情が豊かで男前なところでしょうか。」
 即答で返ってきた答えに修一は注がれたビールを一気に煽る。
「……顔とか、オメガだからとは言わないんだな。」
「そうですね、最初に気になった点は容姿だったことは否定しません。ですが、好きになったのは言葉を交わしてからです。」
 修一は何かを考え込む様子を見せる。
 その間に蒼紫は修一のコップをいっぱいにした。

「佐藤君もこの男の事を知っていたのか。」
「彼が東京で弥生さんの近くを途中までうろついていたのは知ってました。」
「こんな近くにいるということは?」
「今日、ここに現れるまで全く知りませんでした。」
 そこは信じられる。だからこそ、あの反応だったんだろう。
 蒼紫が、ここに入ってきた瞬間、驚愕に固まった佐藤に気付いて何が起こったのかと思った。
 一番に思ったのは、不審者。
 佐藤が固まるほど警戒していると思った。
 でも、実際は探し人。
 どんなに手を尽くしても全く見つからなかった人間が突如現れたらそれは驚愕するだろう。

 Mも協力していたといっていた。
 弥生に力を貸してくれている人間が軒並み上流階級のアルファたちなのは誘拐事件の時に、実は弥生に内緒で説明をしてもらった。
 あまりに弥生の気持ちを軽んじてきたマッチングの担当者だけじゃなく、弥生をモノのように利用してきたアルファたちに対しての怒りで説明に来たアルファをふざけるなと怒鳴りつけた。

 普通ならそんなことをしたら、アルファは激高しているこちらを威圧で押さえつける事も出来た。なのに、そのアルファはそんなことはしなかった。
 高飛車な態度をとるわけでもなく、理解を促すように何度も同じ説明をして理解を求めた。
 修一たちは真摯に説得を続けるアルファを信じる事にした。
 ”M”の詳細がただただ、弥生の為だけに、何事においても弥生を優先して助けるために存在する事だったこともある。
 そして、彼らが修一たちに求めたのはMの存在の容認ともう一つ、もしも、Mが夫婦の保護を申し出た場合、したがってほしいという事だった。
 両親を盾にとられた弥生が自分の意思とは関係なく、相手に連れていかれる可能性があった為だった。
 その説明を聞いた時、アルファとのマッチングを続けてきた弥生が今まで無事だったのは、弥生を利用していた担当者の行動が欲の為とは言え結果的に弥生を守っていたのだと気づいた。

 その状態から大きく変化が訪れたことで弥生が危険にさらされて、害そうとするアルファから弥生を守るのは修一達だけでははっきり言って無理だった。
 Mの存在を認め、必要な時には素直に手を借りると約束した。

 渡された名簿にはMに入会しているアルファの名が肩書とともに書かれていた。
 その面々に驚愕したのは今でもよく覚えている。
 佐藤にもいろいろ伝手があり蒼紫を探していたようだが、そのMが総力を挙げても見つけられなかった男。

「どうして、姿を消したんだ。」
 弥生が好きなら側にいて支えるべきじゃないのかと言葉に含ませる。
 蒼紫は申し訳なさそうに「聞いていただけますか?」と修一にきいてきた。
 修一は無言でうなずいた。

「最初は、記憶がなくなった弥生さんを近くで支えていく未来を夢みてこちらに移住の手続きを進めていましたが、祖父にその事を知られてしまい反対を受けて簡単には行動ができなくなってしまいました。」
「それは、君が西園寺に必要な人間で、出ていかれたら困るからだろう。」
 蒼紫は違うと首を横にふる。
「西園寺のというより祖父の勝手な願望のせいです。」
「どんな願望なんだ?」
 大富豪でなんでも持っている人間の、人一人行方不明にしてしまうほどの願望というのは、一般的な思考を持つ修一からしたら全く想像ができない。
「簡単なことです。寂しい老人が弥生さんの調査結果をみて夢を膨らませてしまった。一緒に暮らし、常に自分だけを見てくれるオメガを欲した。」
「結婚するのは君だろう。」
「はい、なのに、結婚後私からも弥生さんを取り上げようとしたんです。」

 不可解すぎる。
 なぜ、孫が結婚する相手を取り上げる?
 祝いこそすれそれはちょっと違うんではないだろうか。
 しかも、ヘタをすれば相手が孫ではなく本人に代わっていたということにならないだろうか。
 弥生の相手が自分よりはるか年上の老人という事実はさすがの修一も受け入れられない。

「私の母が気が付き、父を通して連絡をしてきたときには耳を疑いました。屋敷の敷地内に専用の家が建てられてほぼ完成に近かった。」
 ぎょっとする修一に蒼紫は包み隠さず話す。
 それが西園寺に対する警鐘にもなる。

「まるでお堂の様だと。窓もなく出入り口は正面のみ。しかも3重の扉があり登録者しか出入りできない鍵の契約がされていました。鍵の登録は祖父のみ。生きている状態の祖父の指紋、顔認証の二つで扉は開きます。もし、祖父が他界すれば扉は永遠に閉ざされたままです。」
「もう、常識もわきまえた大人だろう、そんな事をするのか?」
「します。祖父はオメガを得られなかったアルファです。誰にでも優しく、ただアルファに見返りを求めるだけのオメガじゃないと知った時に自分もその恩恵にあずかりたいと考えたんでしょう。私が西園寺を出てしまえばMの保護に手出しができなくなる。かといって、私と結婚したとしても遠く離れれば会うことさえ困難になる。」

「それで、監禁?」
「今ではする人はいないですが、昔のアルファの愛情表現の一つなんです。”決して誰にも渡さない、君だけを愛し続ける”と。人の結婚相手にする行為ではありませんが。」
 理解しがたいアルファの常識に頭が痛くなる。
「君は弥生をどうしたいんだ?弥生は君が自分を自由にしてくれると信じているというのに。」
「私は、弥生さんの自由を奪ったりはしません。弥生さんには弥生さんの生活基盤がすでにこの町で確立されている。何より、優しい彼が家族と友人から離れて自分の幸せだけを願うとは思えません。」
 弥生の性格も、思いもこちらが考えていたより把握している蒼紫に驚く。
 アルファの特性を無視してまで弥生の事を優先しようとしてくれる蒼紫に好感が持てた。

「アルファというのは伴侶にひどい執着を持っていると聞く、君がそのおじいさんと同じ事をしないとも限らないだろう。」
「絶対にしません。いえ、もししたとしたらMに言って救助要請を出していただいて構いません。」
「Mを知っているのか?」
 蒼紫は神妙にうなずく。
「はい、弥生さんの記憶のない時期にいろいろ教えていただきました。」
「そうか。」
「ですが、これだけは譲れないということがあります。」
 そう切り出した蒼紫に、来たか、と思った。結局はアルファなのだ、弥生に無理強いすることも出てくるだろう。

「私以外のアルファに思いを寄せたとしても許容できません、そして、彼の命に危険があるような事は許可できません。」
「そんな事でいいのか、いや、そんな事というのはおかしい気もするが。」

「結構難しいんです。アルファは相手を独占したいが、相手が別の人間を思う気持ちはどうにもならない。弥生さんは私に運命が現れると思っているようだが、もし、弥生さんに運命が現れたら譲る事はできません。それに、彼は自分を犠牲にする事を厭わないときがある」
 修一はじっと持っていたせいでぬるくなったビールを煽ると声を殺して肩を揺らし始めた。
「柊さん?大丈夫ですか?」
「蒼紫君!」
「はい。」
「君は弥生が本当に好きなんだな。」

 柊が微笑むと「これから、よろしく頼むよ!」と蒼紫の持っていた瓶を奪い取りコップを持たせるとなみなみとビールをついだ。



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