縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

文字の大きさ
86 / 87

76.解散

しおりを挟む
 閉店時間を迎えて帰る準備をしていると、美穂と話をしていた佐藤が弥生の所にやってきた。
「どうしたの?」
「美穂と子供達を柊の実家に送って行ってもらっていいですか?」
 美穂の顔色が優れない理由が分かった。
 一緒にいられると思ったのに弥生の実家に預けられる事になったのだ。
 妊娠中の今は特に不安だろう。
「忙しいんだね。分かった、任せて。俺も今日は実家に帰るから。」
「よろしくお願いします。」
「あ、佐藤君。」
「なんです。」
 呼び止められるのが予想外だったのか、愛想のない返事に気分を害するわけでもなく、キーケースから実家の鍵を取り出した。
「はい、美穂ちゃんには俺の部屋で寝て貰うから。」
 手を出そうとしない佐藤の手に鍵を握らせる。
「明日出勤?」
「いえ。」
 いつにない口調に佐藤の機嫌があまり良くないことが分かる。
 なので言いたいことだけ伝える。
「子供達の送り迎えは任せて、朝食、昼食はテーブルの上に適当に準備しとく。父さん出勤、母さん俺の部屋の片付けの後買い物。1日留守番よろしく。」
 佐藤は受け取った
「………美穂をよろしくお願いします。」
「任せて。」
 美穂と子供達を車に誘導して母の車に目をやると篠宮にからむ父に手を焼いていた。

「どうしたの?」
「お父さんが篠宮さんに家に来いってしつこいのよ。」

「すみません、今日はもう少しやることがあって。」
「もう、篠宮さん忙しいんだから。」
「何言ってる!婿なんだから一緒に帰るのが筋だろう。」
「父さん、まだ結婚もしてないから一緒に帰れないんだよ。」
 弥生は母と頷き合うと、
「お父さん、弥生が久しぶりに一緒に飲みたいって。」
「そうなのか?」
「うん、父さんとサシで飲みたくって楽しみにしてたんだけど、父さん嫌だった?」
「そうか!いやじゃないぞ!よし、帰ろう!」
 父は上機嫌で車に乗り込んだ。
「弥生さん。」
「篠宮さん、今日はありがとうございました。」
「いえ、突然お邪魔してすみませんでした。」
「そんな、俺は来てくれてうれしかったです。」
「また、連絡します。」
「はい。」
 会話が終わるとむず痒いような気分になって目をそらすと、篠宮は優しく弥生の頬に手を当て自分の方に向かせると額に軽くキスを送り離れていった。
 唇の触れた額に指を滑らせる、ドキドキと早くなっていく鼓動は首筋の血管を拡張しているのかうなじに、刺すような感覚がある、ふと振り向くと、美穂と母がにこにこしながらこっちを見ていた。
 うなじの刺すような感覚は二人の視線が原因だったのか、車に向かって歩き出すときにはなくなっていた。

 柊家2台の車が去っていくのを篠宮と佐藤が見送り、乗り込もうとして佐藤は不可解な止まり方をした。
「どうしました?佐藤さん?」
「運転手は?」
「ああ、ここでは私は一般人ですから運転手なんていませんよ。」
「まさか……。」
「大丈夫です、ここにきて運転してますから安心してください。」
 佐藤は疑いのまなざしを蒼紫に向け、助手席に乗り込んだ。
「おや、隣でいいんですか?」
「隣に乗り込めばいざとなったら止められますから。」
「ははっ、信用がないんですね。」
「ちなみに、ここに来てから今まで運転した回数は?」
「3回ですね。」
「はっ?つっっっ!!」
 勢いよくいきなり前進して、止まった。
「すみません、ちょっと勢いよく出すぎてしまいました。」
「正直に言え!ここまで運転してきたのは?!」
「……東堂です。」
「東堂に運転させろ!」
「東堂は忙しいんです、何しろいろいろ手を出しすぎて今人手不足ですから、大丈夫です。目的地まではそんなにかかりませんから。」
 そういうと、蒼紫は再び車を発進させた、今度は亀より遅いのろのろ運転で。

 ……結局、運転を佐藤がすることになり、ナビは蒼紫ではなく車のナビを使う。
「佐藤さん、改めてありがとうございました。」
「何が?」
「弥生さんを守るために手を尽くしてくれたとか。」
「はぁ。」
「それと、すみません。姿を消すときに佐藤さんにだけは声をかけておくべきでした。」
「……あんたが姿をくらましたわけも、やたらあのじじいが傍系でもいいから西園寺に弥生さんを入れたがっていたわけもわかりましたし、もういいですよ。」
 まさか、弥生監禁計画が始動中というのは想像すらしていなかった。
 それに、蒼紫が姿を消すことを佐藤に告げていれば、あのじじいはここまで蒼紫の捜索に手を貸さなかっただろう。
「ありがとうございます。それと、佐藤さんには贈り物があるので明日お時間があれば。」
「明日は嫁と柊家で留守番ですよ。食事まで用意してくれるってことなんで。」

「そうでしたか、ではいつがいいでしょうか?」
「話が早く終わるなら今日。時間がかかるようなら明後日。」
「わかりました、では別荘に到着しましたら。」
「ずいぶん急ぐな。」
「ああ、贈り物なので特に時間はかからないんですよ。」
 蒼紫の言う贈り物が厄介なものの隠語ではなく、ただの贈り物だとわかって少し肩の力が抜けた。
 今、以上に仕事が増えることはなさそうだ。


 佐藤が弥生の実家についたのはもう0時をまわっていた。
 弥生の部屋に行く前に水を飲もうと台所に行くと”さとう君用”と書かれたコンビニの袋とメモを発見した。
 メモには”要シャワー”と書かれていた、袋の中を見ると予想されていたのかとくすりと笑う。

 着替えで用意されているのが、いつもの佐藤お泊りセットのパジャマじゃない事に首をひねるが弥生の部屋に行く事で解決した。

 弥生の部屋には家族で何度も泊まりに来ていることもあってかなりの私物が置いてある。
 佐藤の服類、いつも定番で使う様になった枕、昨日の服、旅行カバンに入っていた着替えまでベッドの上に敷き詰められその真ん中に美穂が横たわっている。

 オメガは発情期が近くなると巣を作りアルファを待つ、ただ、発情期以外にも精神的に不安定な時にも作ることがある。

 可愛い自分の、自分だけのオメガ

 同じ空間に存在するだけで、胸が高鳴り、逆に精神が安定していく、それほどまでに安らぎを与えてくれる愛しい存在。

 出来れば目を開けた姿が見たかったが明日の楽しみに取っておく。

 静かに近づきベッドの脇にあまり振動がいかない様に腰掛けると、見たかった瞳が現れた。
 まだ、寝ぼけ眼で「いちる?」と確認の様に呟かれた名にキスで答える。
 完全にキスで目が覚めた美穂が起き上がろうとしたのを止める。
「ごきげんいい?」
「そうだな。」
 蒼紫からの贈り物は佐藤がずっと欲しかったものだった。

 布団にもぐり込むと美穂を抱き込み、香りを堪能する。
「いちる、ともこさんと同じ匂い。」
 置いてあるものを使わせてもらったので、そうだろうなと思っていると、美穂が体をグイグイ押し付けてくる。

 自分のものだと主張するマーキングまで見られるとは思っていなかった、アルファはしょっちゅうするが、オメガは所有権を主張される側なのでほとんどしない。
 佐藤はたまらず笑みがこぼれた。
「さみしかった。」
「そうか。」
「やよいさんばっかり。」
「そうだな。」
 仕事上仕方ないこととは言え、いい加減他のオメガにかまいすぎた、妻が不安になるのも仕方がない。
「それも、もう終わりだけどな。」
「?」
「田井支店に転勤になった。」
 ここから車で2分ほどの距離。
 昼食時には家に帰る事ができる、公務員だからこそバース制度の適用も簡易で育休に関しても問題なくとれる。
 それに加え、1時間かけて行っていた産婦人科と小児科だ。

「それと、いいものをプレゼントしてもらったよ。」
「いいもの?」
「開院前だが、使わせてもらえるらしい。」
「?」
 首元に顔をうずめていた美穂が一瑠の顔を見る。
「産婦人科と小児・内科。どちらも名医がそろってる、元の病院からカルテも取り寄せ済みだからあの病院には行かなくていい。」
「ほんと?」
「ああ。」
「きょうのごようじ?」
「そうだよ。」
 美穂は嬉しそうに再び佐藤の首元に顔をうずめ、寝息を立て始めた。
 すべてがいい方向に流れ始めているのを佐藤はなんとなく感じとっていた。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

手の届かない元恋人

深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。 元彼は人気若手俳優になっていた。 諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 ※オメガバ系で結構ご都合な設定ありかもです!地雷だったらごめんなさい!!

ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる

雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。 ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。 「フェロモンに振り回されるのは非合理的」 そう思っていたのに――。 新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。 人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。 「先輩って、恋したことないでしょ」 「……必要ないからな」 「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」 余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。 からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。 これは、理屈ではどうにもならない “ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。

元ヤンオメガは平穏に生きたい!〜中華風異世界に転生したら、過保護な最強生徒会長に溺愛されて番にされました〜

水凪しおん
BL
現代日本で喧嘩ばかりしていた不良の青年は、交通事故から子供をかばって命を落とした。 目を覚ますと、そこは中華風の文化が息づく架空の国「龍凰帝国」。 彼は、名門校・天耀学舎に通う華奢なオメガの少年「飛燕」として転生していた。 亡き祖母との「今度こそ真っ当に生きる」という約束を守るため、波風を立てずに平穏な学園生活を送ろうと心に誓う飛燕。 しかし、理不尽な身分制度がはびこる学園で、弱者が虐げられるのを黙って見過ごすことはできなかった。 「オメガだからって、舐めんじゃねえぞ」 我慢の限界を迎え、前世で培った喧嘩の腕と無意識に発現した気の力で、アルファの不良たちをぶっ飛ばしてしまった飛燕。 退学を覚悟するが、その現場を学園の絶対的支配者である生徒会長のアルファ「蒼龍」に見られてしまう。 怒られるかと思いきや、蒼龍は飛燕の強さと真っすぐな瞳に強烈に惹きつけられ、彼を生徒会役員に任命。 そこから、冷酷無比と噂される生徒会長による、異常なまでの激甘・過保護な溺愛生活が始まってしまった! 「お前は俺の宝だ。髪の毛一本すら、誰にも触れさせはしない」 最高級の食事を与えられ、少しの怪我でも大騒ぎされ、休日は密室に閉じ込められて甘やかされる日々。 理不尽な身分制度を壊そうとする最強の生徒会長と、彼に愛されすぎている元不良のオメガ。 喧嘩上等の華奢な少年が、最強の番として絶対君主の隣で幸せを掴む、中華風異世界オメガバース開幕!

処理中です...