月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第14章 夏を迎える前に

80 方策その2

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『3日間で1単位時間のリズムを崩さない範囲で、要望に最適なスケジュールとして、下のメニューを策定しました。
 ○ 第1曜日 19:00~ 室内運動場 エアロビクスダンス初級
 ○ 第2曜日 ~16:00 室内運動場 筋肉トレーニング初級
 ○ 第3曜日 19:00~ 室内運動場 エアロビクスダンス初級
 ○ 第4曜日 ~16:00 室内運動場 筋肉トレーニング初級
 ○ 第5曜日 19:00~ 室内運動場 エアロビクスダンス初級』

 私はエアロビクスなんてやったことはないし、ダンスは小学校中学校ともに苦手だった。
 そもそも体育という科目には恨みがあるくらいだ。

 しかしこの施設での運動は、他人関係なく自分とタブレットだけで完結する。
 だから今までは気が重くなるなんてことはなかった。
 しかし今回の提案には、重大な懸念事項がある。

『エアロビクスダンス初級は、音楽を流す関係上、集団で実施しています。日によって異なりますが、概ね生徒3~5名程度が参加しています』

 正直、気が重い。
 魔法で音楽を私にだけ流して、一人でダンスをするということはできないだろうか。

『タブレットの画面は小さすぎて、踊りながら見るのには適していません。集団で行うダンス等の場合は、スクリーンに大画面で投影して、動きが見やすい様にしています。また今回の時間指定は女子だけです』

 うーん……
 でも、どうせここの施設の皆とはそれほど深い付き合いは無い。
 一緒の授業なんてのはないし、顔を合わせるのは一斉試験のときくらいだ。
 知り合いなら食事を取りに行ったときに会えば挨拶するけれど、その程度。

 うん、水着でも恥ずかしくない程度にするためには、必要な犠牲だろう。
 この場合の犠牲とは私の羞恥心が犠牲になるという意味だ。
 そう、仕方ない。
 諦めろ、私。

『それでは本日から、第1曜日、第3曜日、第5曜日の該当時間にはエアロビダンスの予定を入れます。ダンスがある日の夕食は17時30分ころまでに食べ終わる様に心がけてください』

 対策その1、決定だ。
 さて次は対策その2。
 おやつのカロリー低下策だ。

 カロリーの低いスイーツといえば、定番はゼリー系だろう。
 寒天はこの世界には無さそうだけれど、ゼラチンパウダーは扱っているだろうか。

『粉末のゼラチンは、公設市場でも取り扱っています。標準使用量は粉1gにつき水分50g程度です。価格は50gで30カルクフ程度です。また寒天に類するものはありません』

 まあそんなものだろう。
 ただしゼラチンの在庫は無い。
 何なら今日にでも買ってくるとしよう。
 お金がもったいないが、水着を着られる身体のためには仕方ない。

 ただゼラチンゼリーばかりでは飽きるだろう。
 それにゼリー類は、ゼラチンだけでなく味付けに必要なものも入れる必要がある。
 砂糖味だけの水ゼリーは、正直悲しいし長続きしない。

 そうなると、更にお金がかかることになる。
 何せ被子植物が少ないこの世界、果実的なものが少ないのだ。
 定番のテッテレルのほかは、タクハルくらい。
 タクハルは高いし、他はもっとお値段が……
 
 私の小遣いで出来るのは、紅茶味と、テッテレル味くらいだろう。
 あとは豆類を煮て潰して、あんこ状に食べられるかどうか。

 そう考えたところで、私は今の在庫でも作れる、ケーキよりはカロリー少なめのメニューを思い出した。
 ういろうだ。

 炭水化物だからゼリーよりはカロリーは高い。
 それでも脂を使わない分、ケーキ類よりはカロリーは低いだろう。
 食事のパンを減らせば、炭水化物分の帳尻もあわせられる。

 ういろうのレシピは簡単だ。
 デンプン系の粉と砂糖同量を、水で溶いて、熱してやればいい。
 本当は蒸すのが正しいけれど、日本時代は電子レンジで作っていた。
 だから魔法加熱でも多分問題はない。

 材料は確か米粉でやるのが正しい。
 けれど、他のデンプン系の粉でも作れないことはあるまい。
 あまり粘る粉で作ると仕上がりが違う物になりそうだけれど、ちょうどいいことに、在庫には芋粉がある。

 よし、今日作るおやつはういろうだ!
 なら今から……

 いや、とりあえずは2科目進めてからにしよう。
 今日は夜に運動があるのだ。
 その分も学習を進めておく必要がある。

 取りあえずは言語Ⅲからやるとしよう。
 でもその前に、朝食を片付けてから。

 ◇◇◇

 御菓子のレシピというものは、料理よりは厳密で融通が利かない。
 ほんの少しの違いで固まらなかったり、固過ぎて食べにくかったり、膨らまなかったりなんてことが往々にして起こる。
 
 しかしどうせ食べるのは私だけだ。
 だから多少の失敗は構わない。
 それに此処は惑星オーフで、魔法が使える。
 最悪の場合でも加熱し直したり水分を更に加えたりなんて簡単だ。

 だから今日は失敗を恐れずに作る。
 水と米粉とは2対1だったかな。
 米粉と砂糖は同量が基本。
 米粉はないので芋粉を使い、知識魔法で分量をきっちり量って小鉢に入れ、魔法で全体を加熱して、冷やして……
  
 それらしい塊が完成した。
 見た目は白こんにゃくっぽいけれど、多分ういろうになっている筈だ。
 包丁がないので魔法で切って、爪楊枝がないのでスプーンで口へ。

 ちょっと粘ついているように感じるけれど、こんな感じだっただろうか。
 あともう少し固めの方が、私の好みかなとも感じる。
 ただ味そのものは間違いなく、ういろうだ。
 もっちりした食感と、じわりとした甘さ。
 それなりの密度があるから、食べた時の満足感もある。

 よし、しばらくはこれで戦える。
 これで今度の第一曜日を買い出しなしで乗り切れば、今週分とあわせて安い服一着分だ。
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