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第17章 来週の予定
96 ある男子生徒の恐怖?
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「あえて長期課程(Ⅱ)を選んで、第一施設に行ったんじゃなかったっけ」
だからもう二度と戻ってくることがないだろう。
そう思って安心していたのだけれど。
「そうだけれどさ。第一施設はなかなか厳しくて怖いところだったから戻って来たそうだ。朝食を取りに行ったときに会って話したんだけれどさ」
どう厳しくて怖いのだろう。
授業に出なければならないとか、そのために日常の生活時間が決まっているというのは、厳しいうちに入らない気がする。
授業がある課程である以上、当然のことだから。
そうなると……
「駄目な生徒が多くて、食堂なんかの治安が最悪ってこと?」
それくらいは行く前に予期できると思うのだけれど。
アキトは苦笑いっぽい笑みを浮かべる。
「確かに治安が最悪なんだけれど、多分チアキが思っているのと違う。生徒が治安を乱しているわけじゃない。いや、移動して最初のうちは、食堂や運動場なんかは多少はそんな感じだったらしいけれど。
行って6日目の4月8日第1曜日、朝食で食堂に行った時、おそろしいほど静かなことに気づいたそうだ。今までにぎやかというか、うるさいくらいだったはずなのにさ。かといって人がいないわけじゃない。いつもと同じ程度の生徒はいる。それでも並んでいる列を乱す生徒は皆無になったし、食事中騒いでいるような生徒もいない」
確かにいきなりそう変わったのなら、なかなか怖いなと感じる。
ただアキトの説明は、まだまだ続くようだ。
「第一施設は第6曜日以外の朝食と昼食は食堂で食べる決まり。だからエトは不気味に思いつつも、長期課程(Ⅱ)生徒用のテーブルで食事を食べて、下膳口に向かった。予想通り、いつもなら食器やトレーが散らかっていて残飯で汚れている下膳口が、恐ろしいほどきちんと整理された状態だったそうだ。
なにか情報はないかと思って魔法で掲示板を見てみた。そうしたら施設側からの連絡場所に、なかなか怖いことが書いてあったそうだ。これは第二施設の生徒でも、知識魔法で施設からの連絡第1-35号と検索すれば知ることが出来る。試しに検索してみれば、エトの感じた怖さがわかると思う」
なんとなく想像はつく。
でも怖いもの見たさなんてものもあって、つい知識魔法を発動してしまった。
『本年の施設からの連絡第1-35号ですね。内容は以下のとおりです。
「3月8日0時をもって、第一施設に収容されているうち、必要と思われる生徒に対して、是正化措置を行いました。これは当施設の規約第3条1項の目的を達成するため、第3条2項及び規約施行令第4条第3項に基づいて行ったものです」』
是正措置か。
ディストピアな香りがするけれど、それが正しいのか確認しておこう。
施設の規約第3条第1項と第2項の内容を知識魔法で確認。
『規約第3条第1項と第2項は、次のとおりです。
「1 本施設は惑星オーフの人口不足を補うため、オーフの発展に寄与する良質な地球からの移民を供給することを目的とする
2 本施設は移民の質を確保するため、移民に対して適切な教育を行うものとする」』
これだけならまともな文言に見える。
ただ問題はこの適切な教育の内容だろう。
もちろんこれも、知識魔法で確認だ。
『規約施行令4条第3項の内容は、以下のとおりです。
「規約第3条及び規約施行令第4条における教育を行う方法とは、規約第3条及び規約施行令第4条に例示として記載された自主学習、一斉指導、個別指導のほか、必要と思われるあらゆる方法を含むものとする」』
必要と思われるあらゆる方法を含むか。
つまりはこういうことだろう。
「魔法による洗脳とまでは規約にも施行令にも書かれていない。けれど、あらゆる方法を含む以上、否定できないってことよね」
「そういうこと。エトに言わせると『書き換えられることは怖いけれど、それ以上に書き換えられても自分で気づけない可能性が高いことの方が怖かった』そうだ。自分もひょっとしたら、すでに洗脳され書き換えられているのかもしれない。でもそうだとしても、きっとわからない。そうやって自分が意識しないうちに変えられてしまうと思うと、耐えられないってさ。
もともと第二施設にいた生徒のうち、書き換えられたのではないかという何人かと話をしてみたそうだ。そうしたらもう、なにか悟りをひらいたような感じで、考え方も話し方もまったく変わっていたらしい。
だから自由時間にテキストの先取り学習をすすめて、第二施設に戻ってきたそうだ。こっちの方が洗脳される可能性が少なそうだからって」
なるほど、その恐怖は理解できる。
しかし私から見れば、甘いとしか言いようがない。
「最初にこの施設というか世界に来た時点で、ある程度は気づけたと思うんだけれど。生殺与奪の権利は向こう側にある以上、こちらは施設に気に入られるようにするしかないってことは」
「まあそうなんだけれどさ。そこまで考えつかなかった奴も結構いるってことだ。それに思いついても方法論はそれぞれだしさ。無難な優等生を目指すのが一番安全という考え方もあるし、最先端を目指すなんてのもあるし、それでも自分を変えないという選択肢もある。自分を変えてくれるならその方が楽だって考えだってあるかもしれないし、考えるのが面倒だというのも選択かもしれない」
たしかにそうだ。
例えば今のニナは、情報収集を進めつつも『無難でわかりやすい優等生』を演じている気がする。
おそらくそれが一番安全だから。
本人に聞いたわけではないけれど。
ただし……
「それでもエトの場合は、甘いというか考えが足りないって気がするけれど。第一施設に行って現実を見て、やっと自分の現状に気づいて怖気づいたってのは」
「まあ考えが足りないし、以前迷惑をかけたのも事実だけれどさ。それでも努力して第二施設に戻ってこれたのは評価していいと思うよ。現実を知ったから、もう迷惑な行為はしないだろうと思うし」
「どうだろう。以前の件だって、エトは迷惑行為のつもりじゃなかったよね。そして考えが足りないという欠点は、きっと治ってないと思う」
「今の第二施設は問題ある生徒はほとんどいないしさ。だから多少は馬鹿なことをしても、問題になるようなことは起きにくいと思うよ」
「それはそうよね」
確かにその点は安心していいだろう。
私はうなずいた。
だからもう二度と戻ってくることがないだろう。
そう思って安心していたのだけれど。
「そうだけれどさ。第一施設はなかなか厳しくて怖いところだったから戻って来たそうだ。朝食を取りに行ったときに会って話したんだけれどさ」
どう厳しくて怖いのだろう。
授業に出なければならないとか、そのために日常の生活時間が決まっているというのは、厳しいうちに入らない気がする。
授業がある課程である以上、当然のことだから。
そうなると……
「駄目な生徒が多くて、食堂なんかの治安が最悪ってこと?」
それくらいは行く前に予期できると思うのだけれど。
アキトは苦笑いっぽい笑みを浮かべる。
「確かに治安が最悪なんだけれど、多分チアキが思っているのと違う。生徒が治安を乱しているわけじゃない。いや、移動して最初のうちは、食堂や運動場なんかは多少はそんな感じだったらしいけれど。
行って6日目の4月8日第1曜日、朝食で食堂に行った時、おそろしいほど静かなことに気づいたそうだ。今までにぎやかというか、うるさいくらいだったはずなのにさ。かといって人がいないわけじゃない。いつもと同じ程度の生徒はいる。それでも並んでいる列を乱す生徒は皆無になったし、食事中騒いでいるような生徒もいない」
確かにいきなりそう変わったのなら、なかなか怖いなと感じる。
ただアキトの説明は、まだまだ続くようだ。
「第一施設は第6曜日以外の朝食と昼食は食堂で食べる決まり。だからエトは不気味に思いつつも、長期課程(Ⅱ)生徒用のテーブルで食事を食べて、下膳口に向かった。予想通り、いつもなら食器やトレーが散らかっていて残飯で汚れている下膳口が、恐ろしいほどきちんと整理された状態だったそうだ。
なにか情報はないかと思って魔法で掲示板を見てみた。そうしたら施設側からの連絡場所に、なかなか怖いことが書いてあったそうだ。これは第二施設の生徒でも、知識魔法で施設からの連絡第1-35号と検索すれば知ることが出来る。試しに検索してみれば、エトの感じた怖さがわかると思う」
なんとなく想像はつく。
でも怖いもの見たさなんてものもあって、つい知識魔法を発動してしまった。
『本年の施設からの連絡第1-35号ですね。内容は以下のとおりです。
「3月8日0時をもって、第一施設に収容されているうち、必要と思われる生徒に対して、是正化措置を行いました。これは当施設の規約第3条1項の目的を達成するため、第3条2項及び規約施行令第4条第3項に基づいて行ったものです」』
是正措置か。
ディストピアな香りがするけれど、それが正しいのか確認しておこう。
施設の規約第3条第1項と第2項の内容を知識魔法で確認。
『規約第3条第1項と第2項は、次のとおりです。
「1 本施設は惑星オーフの人口不足を補うため、オーフの発展に寄与する良質な地球からの移民を供給することを目的とする
2 本施設は移民の質を確保するため、移民に対して適切な教育を行うものとする」』
これだけならまともな文言に見える。
ただ問題はこの適切な教育の内容だろう。
もちろんこれも、知識魔法で確認だ。
『規約施行令4条第3項の内容は、以下のとおりです。
「規約第3条及び規約施行令第4条における教育を行う方法とは、規約第3条及び規約施行令第4条に例示として記載された自主学習、一斉指導、個別指導のほか、必要と思われるあらゆる方法を含むものとする」』
必要と思われるあらゆる方法を含むか。
つまりはこういうことだろう。
「魔法による洗脳とまでは規約にも施行令にも書かれていない。けれど、あらゆる方法を含む以上、否定できないってことよね」
「そういうこと。エトに言わせると『書き換えられることは怖いけれど、それ以上に書き換えられても自分で気づけない可能性が高いことの方が怖かった』そうだ。自分もひょっとしたら、すでに洗脳され書き換えられているのかもしれない。でもそうだとしても、きっとわからない。そうやって自分が意識しないうちに変えられてしまうと思うと、耐えられないってさ。
もともと第二施設にいた生徒のうち、書き換えられたのではないかという何人かと話をしてみたそうだ。そうしたらもう、なにか悟りをひらいたような感じで、考え方も話し方もまったく変わっていたらしい。
だから自由時間にテキストの先取り学習をすすめて、第二施設に戻ってきたそうだ。こっちの方が洗脳される可能性が少なそうだからって」
なるほど、その恐怖は理解できる。
しかし私から見れば、甘いとしか言いようがない。
「最初にこの施設というか世界に来た時点で、ある程度は気づけたと思うんだけれど。生殺与奪の権利は向こう側にある以上、こちらは施設に気に入られるようにするしかないってことは」
「まあそうなんだけれどさ。そこまで考えつかなかった奴も結構いるってことだ。それに思いついても方法論はそれぞれだしさ。無難な優等生を目指すのが一番安全という考え方もあるし、最先端を目指すなんてのもあるし、それでも自分を変えないという選択肢もある。自分を変えてくれるならその方が楽だって考えだってあるかもしれないし、考えるのが面倒だというのも選択かもしれない」
たしかにそうだ。
例えば今のニナは、情報収集を進めつつも『無難でわかりやすい優等生』を演じている気がする。
おそらくそれが一番安全だから。
本人に聞いたわけではないけれど。
ただし……
「それでもエトの場合は、甘いというか考えが足りないって気がするけれど。第一施設に行って現実を見て、やっと自分の現状に気づいて怖気づいたってのは」
「まあ考えが足りないし、以前迷惑をかけたのも事実だけれどさ。それでも努力して第二施設に戻ってこれたのは評価していいと思うよ。現実を知ったから、もう迷惑な行為はしないだろうと思うし」
「どうだろう。以前の件だって、エトは迷惑行為のつもりじゃなかったよね。そして考えが足りないという欠点は、きっと治ってないと思う」
「今の第二施設は問題ある生徒はほとんどいないしさ。だから多少は馬鹿なことをしても、問題になるようなことは起きにくいと思うよ」
「それはそうよね」
確かにその点は安心していいだろう。
私はうなずいた。
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