月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第一部おまけ 女子会

58 女子会に向けて

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 今回の女子会は、ふれあい動物園で可愛い恐竜を撫でた後、自然公園の見晴らし広場で皆でお昼を食べるというものだ。
 当初の計画では、施設で提供される昼食を持ち寄って食べる予定だった。

 しかしニナがこんな提案をした。

「どうせなら、みんなで50Cカルクフくらいで何か買って持ち寄るのはどうでしょうか?」

「今日が第一曜日ですから、まだお金を下ろしていません。だから大丈夫でしょう」

「それなら入場料も含めて100Cカルクフ以内に収めるとして、60Cカルクフ以下で何か一品はどううでしょうか?」

 ヒナリもフインも賛成のようだ。
 ならということで、ついでに確認しておく。

「自分で調理したり、ひと手間加えたりするのはアリ?」

 これは自作スイーツを持ち込むのはOKか、という意味だ。

「もちろんありでしょう。材料を自分で採取するのもいいと思います。ただ、施設の周りで食べられるものを採れる場所は、まだ見つけられていません」

 フインは採取まで考えているらしい。
 地球時代に山菜採りとか、そういう趣味でもあったのだろうか。
 食堂にいたカタリナにも確認した結果、『60Cカルクフ以内で何か一品を持ち寄る』で決定した。

 さて、60Cカルクフあれば、出来合いの惣菜なら一皿か二皿買える。
 ただし、スイーツだとそれほど大きなものは買えない。

 たとえばナークラフントなら、厚さ1cm程度の一切れが30Cカルクフほど。
 5人で分けると、ちょっと物足りない量になってしまう。 ここはやっぱり自作がいいだろう。

 ただ、材料が複雑なものは単価の計算が難しい。
 ドライフルーツ入りのナークラフントはさすがに無理だ。
 かといって、ドライフルーツなしの焼き菓子やパウンドケーキは、甘さの好みが分かれるから難しい。

 あれこれ考えた末、プリンならどうかとひらめいた。
 カラメルで甘さを調整できるから、みんなに合いそうだ。

 費用はどうだろう。
 私が普段作る「小鉢1個サイズの大型プリン」は、卵2個、牛乳200ml、砂糖35gでできる。
 5個分なら、卵10個、牛乳1L、砂糖175g。

 公設市場での価格は、牛乳4Lで40Cカルクフ、卵10個で30Cカルクフだから、合計50Cカルクフ程度。
 予算内に収まる。

 私は独自魔法でプリンを作れる。
 小鉢で作って、完成したらプリンとカラメルだけ保存する。
 各自で皿とスプーンを用意してもらえば問題ない。

 ということで、掲示板に書き込んでおく。

『4日の会は、各自取り皿とスプーンを持参してください(記:チアキ)』

 もうゾンビはいないから大丈夫だ。
 外出できない女子が3人以上いるはずなので、「女子会」や「外出」とは書かないでおく。

 ◇◇◇

 翌日3日、朝食後にさっと街へ出て、お金を下ろして買い出し。
 女子会用のプリンに加え、使わない材料もついでに購入。
 寮に帰った後、独自魔法でプリンをさっと作る。

 プリンをはじめとするスイーツ用の独自魔法は、実食で砂糖の量を微調整したり、図書室で借りたレシピ本を参考に改良したりしてきた。
 今では私の好みにぴったりの味に仕上がる。
 やや苦めのカラメルを底に仕込むところまで、なかなかいい出来だ。

 今回は、ニナのような甘党のために、別添えのカラメルも用意。
 これは独自魔法ではなく、レシピ本を参考に作った。

 作ったプリンとカラメルは、10時のおやつを兼ねて味見。
 うん、美味しい。
 クリームやバニラ、洋酒などは使わず、素朴で古典的なプリンだが、これが好きだ。 

  プリンに仕込んだカラメルはほろ苦く、別添えのものは甘め。
 甘めになったのは意図したわけではなく、レシピ本通りに作った結果だ。
 自分用に作るなら、もう少し高熱でしっかり焦がしたほうがいいかもしれない。

 その後は真面目に勉強を進め、昼食を挟んで1日のノルマである6科目6単位時間をこなして夕食。
 急ぐと、どうしても数学が多くなる。
 まだ中学校の範囲で、日本で学んだ内容とほぼ同じだからだ。 

 ただ、本当は地理や歴史も進めておいたほうがいい気がする。
 4月10日頃に『ペルリア社会見学実習』がありそうだからだ。
 社会見学なら、社会科系の履修条件が必要だろう。
 明日からは地理や歴史も進めよう。

 そう思いながら、7単位時間進めたところで力尽き、寝る。 

◇◇◇

 そして女子会当日。
 ゾンビもその残党もいないので、朝食も夕食もニナとは別行動。
 ゆっくり朝風呂に入り、7時50分頃に朝食と昼食を取りに食堂へ。

 この時間は並んでいる人はほとんどいない。
 食堂で食べている人はそこそこいて、話している人もいる。

 すると、ニナがいた。
 第二施設に残り、長期課程(Ⅰ)で外出できない3人の女子と一緒に朝食を食べている。

 食事を受け取り、昨日の木箱を下膳口に返却した後、そちらのテーブルへ。

ポナン・ナテノンおはよう

 ニナを含む3人に声をかける。

「ポナン・ナテノン」

「ポナン・ナテノン」

「ポナン・ナテノン。今日は遅めですね」

 もうゾンビはいないので、ニナと朝一でここに来ることは無いだろう。
 だから理由を言っても問題はない、多分。

「朝は弱くてすぐ起きられなくて、朝風呂に入ってからだから」  

「今まで私に合わせてくれてたのですね。ありがとうございます」

 いや、あわせるという程のことではない。
 ニナが待っていると思うと、そう思わない時と比べて朝風呂から脱出しやすいだけだ。
 なんて理由をいちいち説明するのも何なので、ここでは他の、でも事実ではある理由を言っておこう。

「ううん、朝が早いほうが時間を有効に使えるから」

「ところで質問です。もし10日に外出実習があるとして、履修条件はどのくらい必要だと思いますか?」

 話題が切り替わったけれど、きっとこれが此処でニナ達が話していた内容だ。
 ニナは私よりずっと人付き合いがいい。
 私と話すようになったのも、ニナが声をかけてくれたからだ。  

 彼女は、第二施設に残ったこの3人も、外出できるようにしたいと思っているのだろう。
 どちらから声をかけたかはわからないけれど、納得できる行動だ。  

 外出実習の履修条件については、私なりに考えがある。
 ゾンビは前回の移動で排除されたので、ここで話しても大丈夫だろう。

 「まずは言語Ⅱが10単位時間以上で、進度確認試験が全部8割以上かな。前回の条件から考えると、1日1単位ペースで計算してる感じ。
 あとは次の科目次第。自然観察は20日にやったから、次は社会見学か生活実習かな。なら地理歴史を18単位時間くらいやっておくのが無難。
 あくまで私の予想だけど」

  「やっぱり似たような予想になりますね」

 ニナが私の名前を出さないのは、彼女がニナの名前を出さないのと同じで、用心のためだろう。
 ゾンビは全滅した。
 しかし第一施設から新しく来た生徒がどんな人か、まだ私達にはわからない。

「2回目の実習の条件から考えると、そんな感じになるよね。募集終了は6曜日がなければ4日前で、履修条件はその時点での進度。言語は1日1単位ペース以上、言語以外は2日で1単位くらいのペースかな」

 そう説明しながら、偵察魔法で掲示板をちらっと確認。

『例の会は本日11時集合で決行でいいですか?(記:ヒナリ)』

『それでいいと思います(記:カタリナ)』

『私もそう思います(記:ニナ)』 

 予定通り決行らしい。
 なら、ということで私も魔法で掲示板に書き込む。

『今日、よろしくね(記:チアキ)』  
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