月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第12章 楽しい情報交換?

65 『表計算』の履修条件

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 翌朝。
 朝食後、スチームと髪梳き、温風を組み合わせた髪型セット魔法で髪を整える。
 一応朝風呂の後に整えたのだけれど、外出前の気分という事でもう一度。

 日本にいた頃は肩までの長さの、高校生にありがちなボブだった。
 しかしここに来た時の髪の長さはベリーショート。
 だからマッシュルームカット風というか、そんな感じにしていたのだ。

 ただここへ来てから1ヶ月ちょっと経って、微妙に髪が伸びてまとまりが悪くなっている。

 美容室へ行くお金の支給とか、どこかで注文してカットするなんてのは出来ないよな、きっと。

『施設入所中はそういった措置はありません。必要な場合は、各自の部屋にある鋏と櫛を使うか、奨学金を貯めて行くことになります。ポアノンの美容室はカットで20Cカルクフ程度です。事前に店に行って、時間を予約する必要があります』
 
 思ったより安いけれど、現状では気軽に使える金額ではない。
 いずれ『セルフカット魔法』なんて独自魔法を作って対処した方がいいかもしれない。
 取りあえず当面は、整えるだけで我慢するとして。

 外出できる服は基準4のいつもの服しかない。
 化粧品なんてのは、化粧水やリップクリーム程度すら無い。
 できるのは眉を整えたり、産毛処理をしたりする程度。
 地球年齢では11歳相当なのだから、これで充分だろう。

 時間を確認。
 食事をぎりぎりに取りに行った上、食べた後に顔だの髪だのをいじった結果、もう8時45分。
 まだ少し早いけれど、そろそろ行こう。
 もう一度鏡で全体を確認した後、部屋を出る。

 別にアキトに会う程度だから、ここまであれこれ整える必要は無い。
 こっちがあれこれ格好にこだわっても、気付かれない程度の差でしかない事もわかっている。

 ただ地球年齢換算11歳で、外出出来る服が1種類しかなくても、一応は女子なのだ。
 だから外で男子と会うなら、それなりに気を遣うのが普通。
 そう、普通なのだ。
 そんなことを考えつつ、今は安全なので寮から隠蔽魔法を使わず、そのまま門から外へ。

 本日聞く内容は、『表計算』などの特別科目が出ていないかどうか。
 出ているならその履修条件、出ていないなら予想される履修条件と、現状の学習の進度。

 あとは水浴場開きについて知っているか、聞いてもいいかもしれない。
 女子の間はそんな話が出ていると。

 話の段取りを考えながら歩くと、目的地の公設休憩所はすぐ。
 まだ早いから来ていないかなと思いながら、中へ入ってテーブルを確認。
 
 テーブルは7割くらい埋まっている。
 そしてその中に、明らかに周囲と異なる雰囲気の服装がいた。
 私より早く来ていたか。
 そう思いつつ、そのテーブルへと向かう。

「ごめん、待った?」

 アキトに頭を下げつつ、テーブルの向かいへ。

「いえ、まだ時間前だと思います」

 まあそうだろうとは思うけれど。
 それでは早速、本題から入るとしよう。

「まずは来てくれてありがとう。実は『表計算』について聞いた理由は、割としょうもないのだけれど……」

 水浴場でのイベントのために、水浴着や外出用の私服が欲しい。
 その為に奨学金を増やせる科目を探したところ、『表計算』が奨学金を貰えそうな感じがする。
 『表計算』の履修条件はおそらく数学の進度だろうから、進んでいそうな人に聞いてみよう。
 そんな将来とかあまり関係ない、しょうもない理由を説明。

「そんな俗っぽいというか、しょうもない話でごめん。ただ『表計算』も出来れば早い内に出しておきたかったから。私の場合は、数学Ⅱが3単位時間で、独自魔法作成Ⅱが課題を提出してOKがでれば終わり。でも今のところ、『表計算』が全然出てこないから、知りたいというのも本音」

 そう。私としても『表計算』は出したいのだ。
 小遣いそのものは、『独自魔法作成Ⅱ』が終われば多分大丈夫。
 それでも有用とされる科目については、早く履修可能にして安心したい。
 そうすれば学習計画も立てやすくなる。

「実は『表計算』は、昨晩出す事に成功しました。ただその前にひとつ聞いていいですか?」

 『表計算』が履修可能になった。
 となると条件は『数学Ⅱ』の終了か、数学Ⅲの開始かどちらかだろう。
 アキトは昨日、もうすぐ『数学Ⅱ』が終わると言っていたから。

 ところで聞いていいかとは、何をだろう。
 わからないけれど、とりあえず問題はない。

「いいよ。何?」

「奨学金が欲しいから『表計算』、というのはチアキさん自身ではなく、別の誰かの話ですよね。違いますか」

 なぜだろう。
 そう思いつつ、とりあえず返答しておく。

「そう。友達の話だけれど、なんで?」

「奨学金だけの問題なら、チアキさんなら独自魔法作成を進める方が効率がいいと思うからです。まだ出ていない『表計算』の履修条件を探して、それを満たした後、そこから8単位時間やるより、その方が簡単で確実ですから」

 確かにその通りだ。
 そして外出できて『独自魔法作成Ⅱ』が終了すれば、合計で600Cカルクフの奨学金が毎週入るようになる。

「確かにそうだね。『独自魔法作成Ⅱ』まで終わらせれば、2週間分で安い服1着は買えそうだから」

「ですから、あえてやり方がわかっている独自魔法作成を進めずに他の科目を探すというのは、『独自魔法作成』を苦手と感じるからではないかと感じたのです」

 なるほど。

「確かにそうだね。苦手でなけれは、『独自魔法作成』を進めた方がずっと早い」

「ええ。僕は数学Ⅱを終わらせた時、『表計算』が履修可能になりました。そして『表計算』は、履修完了すると週に200Cカルクフ貰える科目です」

 やっぱり『表計算』は小遣いを貰える科目だった様だ。
 アキトの説明は、更に続いている。

「ただ『数学Ⅱ』を終わらせるには、『数学Ⅰ』から数えて48単位時間、実際には確認試験が8単位時間ごとに2つずつあるので、55単位時間近く必要になります。
 チアキさんは数学をそれなりの速度で進めている様ですが、そうでない人が一気にこれだけ進めるのは難しいでしょう。それに『数学Ⅱ』以外にも僕が終えた科目のどれかが関係しているかもしれません。
 ですから奨学金を稼ぐなら、『表計算』を出そうとするより、難しくても『独自魔法作成』を進めた方が早い。僕はそう思います」

 うん、納得だ。

「確かにそうだね。でも『数学Ⅱ』終了で『表計算』が出たことだけはその友人と共有していい? もちろん他の条件があるかもしれない事も伝えておくけど」

「それくらいの情報共有なら大丈夫です。さて、それでは興味本位の質問ですが、チアキさんが『独自魔法作成Ⅱ』の最終課題で、どんな独自魔法を作ったか、教えていただけませんか。
 僕の場合は、前世で似たような事をプログラムで作っていたので、そういったところで学んだ例題を応用して独自魔法をつくりました。
 ですが他の生徒はどんなものをつくっているのかがわからない。ですからそこを、知りたいのです」
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