今日も帰宅は異世界に

於田縫紀

文字の大きさ
3 / 3
B面

しおりを挟む
 柏は今日も出勤日。ついさっき部屋から慌ただしく出ていった。これで夜までしばしのお別れだ。
 
 これから少しの間が僕のサービスタイム。
 着ている服をきっぱり全部脱ぐ。全裸のまま増設した柏用の寝室へ。

「あなた~」

 なんて言ってみるが無論あいつはいない。そして居る時にこれが出来る程、僕は心臓が強くない。

 柏のベッドの、まだ僅かに温もりが残っている布団に潜り込む。今日もあいつの匂いが僅かだがちゃんと残っていた。布団を被り温もりと匂いを最大限に味わいながら、しばしの妄想タイム突入だ。
 
 柏をこの家に招き入れて1年。正直あいつを誘い出した時はどきどきものだった。
 何せお願いする内容、要は同棲してくれという事だ。5年ぶりに会っていきなりそれかい、と突っ込まれそうだ。

 だがあいつと別れてから、あいつがどれだけ僕の精神安定に寄与しているかが日に日にわかるようになってきたのだ。
 困った事に大学のほぼ4年間であいつの代役になりそうな奴は見つからなかった。気がつけばあいつに少しでも似た奴を目で追っている始末だ。我ながらみっともない。
 
 ただ色々探してやっと見つけたこの世界、僕にあっているのも確かだ。と言うか柏の面影を振り切るように文献調べて色々実験した結果、この世界を見つけてしまったというべきか。

 頑張ってこの世界の言葉を習得して、開発に成功した魔法で偉い人とコネ作って、向こうの世界から持ち込んだ薬や機械類で王族の支援も取り付けて。
 これで安定した生活が出来る。そう思った時に柏の事を思い出して、頭から離れなくなったのが我ながらみっともない。
 
 怪しげな理由つけて、あいつと会う時だって。勢いでこじつけた理由で強引に迫ってOK貰えた時のあの嬉しさは。我ながら乙女かい!って感じだ。まあ確かにまだ処女《おとめ》だけれどさ。

 本当、僕の言いたい事を察してくれる程度に頭が良くて、僕の企みに気づかない位に阿呆で……。とにかくいい奴だ。
 
 でもその後の進展は芳しくない。同居している友達という感じがもうすぐ1年。

 あいつだってムラムラする時があるのは知っている。向こうの部屋でこっそり処理してきても匂いと雰囲気でわかる。魔女の六感は鋭いのだ。

 でもそれが僕に好意を持ってくれていることと同義かは不明だ。男は生理的な要求というものもあるらしいからな。
 
 だいたい僕は身長もあいつと同じくらいだし、体型だって細いだけで女っぽくない。言葉だってこんな感じだし。

 女の子なんてある意味可愛いが正義だ。あいつも好きなタイプはそんな女の子かな。向こうでそんな女の子と話していたりして。

 うおーっ、醜い嫉妬だ。別にあいつは僕のものという訳ではないのに。今はお情けで一緒に住んでもらっているだけ。それだけが確かな現状。
 
 というか、あいつは僕の事をどう思っているのだろう。友達とは思ってくれているみたいだけど。
 対人関係に問題のある哀れな社会不適合者? うん、事実として正しい。きっとこんなものだろう。
 
 それでも少しは僕に欲情したり、もっと言えば襲ったりして欲しいのだ。時には精一杯の勇気を出して薄着で迫ったりもするのだが、あいつはいつも知らんぷり。
 少しは生理的要求を感じてくれはするみたいだけれども。
 
 遠慮せずがおーっと襲ってくれていいのだ。というか無茶苦茶にされたい。野卑な言葉と暴力で汚しまくってくれてもかまわない。
 まああいつには似合わないけれど。
 
 というか襲われたいんだ。無茶苦茶にされたいんだ。身体に痕を刻んで欲しいんだ。あの身体で、あの腕で、あの指で。
 多少痛かろうとかまわない。奴が少しで気持ちよくなってくれるなら。奴が少しでも感じてくれるなら。それで僕もいけるから。

 向こうの世界から持ってきた目覚ましの無情なベルが、僕を現実に引き戻る。残念ながらサービスタイムは終了だ。
 名残惜しいがあいつのベッドから出て、正常魔法を全体にふりかける。僕の体液と匂いに塗れた布団がきれいになっていく。
 本当はそのままにしておきたい。でもそんな度胸は僕にはない。
 
 さあ、そろそろお仕事モードの準備だ。僕のここでのお仕事は薬屋さん。魔道士の仕事なんて普段は無いので、向こうから仕入れた薬や香辛料を売って生計を立てている。

 まあ販売薬とは言え現代薬学や医学の結晶を産業革命前の近世類似世界で使うのだ。効果があるのも当然だし評判がいいのも当たり前。香辛料もなかなかいい値段で売れるしな。
 お仕事用黒マントを着て、扉をくぐって店の方へ。
 
 窓を開け外の新鮮な空気を取り込む。店の中を確認して扉を開ける。既に出来ていた列が店の中に入ってきた。今日も朝から大繁盛、かな。

「いらっしゃいませ」

 僕は客に言葉をかけ、カウンターにつく。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

いぬたぬ
2023.08.11 いぬたぬ

こちらでははじめまして。
この作品は見逃していましたので読めて良かったです。
短くまとまっていますがなかなか良い感じで好きな作品になりました。

2023.08.11 於田縫紀

 このお話は6年前投稿を始めた頃に書いたものです。書いた本人すら読むのはウン年ぶり。ああ、昔こんなのを描いたんだな、なんて新鮮な気持ちで読んでしまった位だったりします。
 お読み&コメントいただき、本当にありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。