ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録6 俺達の決断

36 詐欺師の種明かし

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「ここは正直に言いましょう。罠だとは気付いていませんでした。むしろ、これで事態は解決する――僕はそう信じていましたし、あの書類を入手したサリアも同じ考えだった筈です。違いますか?」

 サリアが頷いたのを確認して、ヒューマは続ける。

「だからこそ、あの罠に引っかからなかったのは合理的な理由ではありません。僕としては大いに納得できない話ですが、うちのリーダーが『今は動くべきではない』と判断したからなんです。この証拠で動くより、もっと重視すべきことがある。だから今はまだ動かない。そう判断した。
 誠に残念なことに、今振り返ればその判断は完全に正しかったんですよね。まあ、過去にも似たようなことは何度もあったので、あの時もその判断を尊重した結果、今こうして無事にここへたどり着けたわけですが」

 そこは俺にも言いたいことがある。

「俺もあの時、あの証拠を疑ってなかった。今思うと見当違いの推理を、結構口にしてたしな」

「それでも結果として正しい動きができているというのが、僕にもサリアにも納得できない部分なんです。けれど結果としては正しかった。残るのは結局結果だけなんです。これは先ほども言いましたけれど。
 まあ毎度のことなので慣れてますよ。だからレノアさんも自信をなくす必要はありません。運悪く化物にぶち当たったようなものです。それで諦めて下さい」

 ここは『人を化物扱いするな』と言いたいところだ。
 ただそれでは話の本筋から外れるので、あえて黙っておく。

「さて、それでは事態収拾に移りましょう。この後どうするかについての話し合いです。具体的には、アコルタ家を残すのか潰すのか。そしてレノアさんやイレーネさんが今後どう動くのか。
 ただ、その話し合いの前に、ダニエーレさんには退場してもらいます。既に一度退場を決意して実行していますし、そのくせイレーネさんを呼び寄せるなど、中途半端なことをしています。申し訳ありませんが、今後の議論に加わるのは不適切です。この場は退場いただき、あとは結果を追認する形でお願いします。ということで、アギラ」

 アギラが一瞬、俺に視線を送る。
 だから俺は軽く頷いて同意を示した。

 ヒューマの判断は強引だが、多分正しい。
 ダニエーレがいない方が、イレーネは自分の判断を下せる筈だ。
 それに、ダニエーレの体力はもう限界だろう。

 力が抜け、ベッドに沈み込むダニエーレを確認すると、ヒューマはレノア、そしてイレーネを見やって口を開いた。

「まずはレノアさんについて。本来なら、もう少し領主館の業務に携わってもらった方が事務的には助かります。ですが、それはレノアさんの本意ではないと思うんです。
 そこで提案です。西海岸、取りあえずはネイプルで商売の手伝いをしていただけませんか。一応、僕も商業ギルドの正会員ですが、人手不足で南部と東海岸南部までしか手が回らないんです」

 ヒューマの奴、今度はレノアを引き抜きに来たか。
 完全に予想外だが、とりあえず何を考えているのか聞いてみよう。

「僕の部下になれと言っているわけではありません。最初はともかく、やがては対等な商会として、こちらの窓口も兼ねた独立商会になって欲しいんです。正直、既存の商会はガチガチで操作しづらい。そこに風穴を開けて欲しいというわけです。
 もちろん、最初の資金はこちらで融通しますし、商材も当初はこちらを頼って構いません。東海岸と南部南端、西海岸では物価も流通も違います。こちらの特殊な運輸手段を使えば、十分以上に儲かる筈です。
 ただし、それなりの技術は身につけてもらいます。具体的には幾つかの魔法ですね。身を守るための空属性魔法――偵察魔法、高速移動魔法。それとゴーレム操縦魔法は必須です。さらに水属性の治癒回復魔法も。最低でも、僕が今回の謎解きに使った表層思考読解魔法は覚えて欲しいところです。表層思考のうち“言葉として明確化されたもの”を読むだけの初歩的心理魔法ですが、交渉には圧倒的に有利になりますから」

 表層思考を読んで交渉するなんて、詐欺並みに悪辣だろう!
 ツッコミたいが、とりあえず我慢しておく。
 重要なのは、ここでレノアに『今の謎解きには表層思考を読む魔法を使いました』と明かしたことだ。

 さて、レノアはどう出るか……

「ということは、先程までの推理は、私の思考を読んで導いたということですか」

 あくまで冷静な態度を崩さず、レノアは問う。
 ヒューマは相変わらず詐欺師の笑顔で頷いた。

「ええ。調査は得意なんですが、今回は時間が足りなかった。だから事実認定の半分以上は、レノアさんとダニエーレさんの思考から読み取りました。うまく話さないと表層思考で考えてくれないので、その点は苦労しましたけどね。
 ただケティさん、そしてうちの集団クランの皆さんは、途中で気付いていたようです。その方がより良い結果になるだろうと見逃してくれた、というところですね」

 いや、俺が気付いたのは説明が終わりかけてからだぞ!
 なんてことは、今は言えない。
 どうせヒューマもわかっている。

「わかりました。答えは少し考えてからでもいいですか」

「もちろんです。その気になったら、いつでも連絡を下さい」

 ただ、レノアはきっとこの誘いを断らない。
 断れないように周到に考えた上で、ヒューマはこの話を持ちかけているのだから。
 そこがヒューマの詐欺師たる所以だ。
 俺としては到底ついていけないが、残念ながらその能力がとんでもなく役に立ち、信頼できるのもまた事実だったりする。
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