ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第20章 ダンジョン攻略依頼

第163話 迷宮突入

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 翌朝。いつも通り出発して1時間。

 道の先に急造っぽい丸太の門と土壁が見える。その手前右方向が切り開かれ、大型の天幕が幾つか立っていた。

 ここが洞窟から魔物が来るのを食い止めるための騎士団駐屯所なのだろう。
 丸太の門のところには見覚えの無い細い旗がはためいている。
 
「あの旗だと駐屯しているのは第四騎士団ね」

 リディナがそんな事を言った。でも私やセレスではどう反応していいかわからない。

「近衛騎士団や第一騎士団の将校は貴族出身者がほとんどだからね。指揮官クラスも実力では無く家の格でその座についているだけ。だから下も腐っちゃって駄目駄目。
 国も分かっているから王都の警備以外にはまずつけないけれどね。気位ばかり高くてやたら格式に拘るくせに、実戦にはまるで役に立たないから。

 第四なら悪くないよ。平民出身者がほとんどだから格式張っていないし。国境担当の第六以降ほど実戦経験はないだろうけれど、主な出動が魔物相手だからこういう場合はむしろ安心かな。
 もう少し行ったらゴーレム車を降りて歩くよ。そうすれば騎士団がこちらに余分な警戒をしないで済むから」

 その辺の判断はリディナにお任せだ。

 門の100腕200m手前でライ君を止め下車。ここからはライ君やゴーレム車を収納し3人で歩いていく。

 門のところには衛士風に騎士団員が立っている。見えているだけでも右に3名、左に3名の6名。

 正直騎士団員がそんなに立っている場所を通るのは怖い。でも仕方ない。 恐怖耐性(3)&セレス直伝の武装で耐えるしかない。

 歩いて行くと3腕6m位のところで声がかかった。

「失礼します。この先は迷宮ダンジョンで魔物が出る為封鎖されています。許可証か何かをお持ちでしょうか」

迷宮ダンジョン調査・魔物討伐の依頼を受けた冒険者です。こちらが通行許可証になります」

 リディナがラクーラの冒険者ギルドで受け取った許可証を出して見せる。

「提示ありがとうございます。どうぞお通り下さい。それではお気をつけて」

 正しいマニュアル通りの対応という感じだ。そして今の私は恐怖だけではなくそう判断できる程度の余裕もある模様。かなり昔より成長したな、なんて自分で思う。

 検問所の先は洞窟の近くまで木や草が刈られて広場状になっていた。更にその広場には丸太で組まれた低い柵が横に何列も置かれている。

「この防護柵は魔物対策ですよね」

「だと思うよ。低い柵だから魔物を見つける支障にならないしね。それでも魔物の足止めには十分なるだろうし」

 私達は柵と柵の隙間を縫うようにして歩いて行く。結構面倒だが仕方ない。

「柵の反対から槍や弓で攻撃も出来ますね。よく考えられています」

「この辺の騎士団は実戦のほとんどが魔物相手だろうと思うしね。だからその分ノウハウもあるんじゃないかな」

「騎士団でも得手不得手があるんでしょうか」

「そりゃあるよ。例えば第六から第九騎士団は国境対策だから対人戦の訓練も積んでいるし、第二騎士団は名前こそ騎士団だけれど実際は海戦や対上陸戦専門だし。

 第三から第五までは国内治安対策だけれど、最近は国内も平和だから出動は主に魔物相手だしね。まあこの前のエールダリア教会の件では久しぶりに治安出動したみたいだけれど」

 セレスとリディナの問答を横で聞きながら歩いて行く。

 リディナ、この前の騒ぎで何処の騎士団が出動したなんて事まで知っていたようだ。まあ号外紙でニュースを読んだり市場での噂話を聞いたりして知ったのだろうけれども。
 それにしてもよく知っているなとは思ってしまう。

 広場の先は崖というか登れなさそうな位の急斜面。
 直進やや左方向に1つ、右側少し奥まった場所に1つ、洞窟の口が開いている。

「どっちの入口から攻める? 中でも一応行き来は出来るみたいだけれど」

「魔物が多いのは左、北の洞窟ですよね。ギルドで聞いた情報だと」

 確かそうだった。それならば……

「確かフミノ、昨日は迷宮ダンジョンの解説書を読んでいたよね。どっちから行く方がいいと思う?」

 昨夜読んだ本の内容を思い出す。更に偵察魔法から得たデータが後押しする。

「左から。洞窟の中、50匹位の魔物がこっちに向かっている。間もなく出てくる。あと、とにかく魔物を倒しまくるのが攻略のセオリー」

「左からね、わかった。それじゃ最初は私から攻撃するね。漏らした分はセレス、お願い」

「わかりました」

 リディナ先頭で直進方向へ歩いていく。セレスもリディナも偵察魔法を使えるから出てくる魔物は把握済みの筈だ。

 左、つまり北側の洞窟は幅が広いが高さは低い。円の上部4分の1だけを切り取ったような形だ。

 少し待つ。魔物が集団で出て来た。ゴブリンとはまた違う、緑色で細い感じの魔物。それぞれ短い槍で武装している。
 これがコボルトなのだろう。確かに本で見たのとそっくりだ。

「魔法を節約するためにひきつけてから撃つね」

 私達をみつけた魔物が速度を上げる。ただし私より小柄なので足は速くない。

 リディナは軽く深呼吸した後、呟くように魔法を発動する。

風の刃ヴェントス・ファルルム、3連撃」

 不可視の刃がコボルトの群れに襲い掛かる。避けるどころか気づきすらしない間に全てのコボルトが胴を切断された。一拍置いてどさどさっという感じに崩れる。

「ゴブリンより少しだけ固い程度かな。フミノ、収納その他はお願いしていい?」

「わかった」
 
 コボルトもゴブリン同様、素材になる部分はない。だから全部回収した後、アイテムボックス内でまとめて焼いて魔石だけを取り出せばいいだろう。

 さて、情報によれば一日に発生する魔物の数は120匹前後。だからノルマとしてあと70匹以上倒せば中の魔物が減少する筈だ。もちろん計算上は、だけれども。でも目安にはなる

「それじゃ行こうか。内部については適宜フミノ、ガイドをお願い」

「わかった」

 出せる視点を全部使って魔物が多い場所を探しておこう。そしてそこを回る効率のいい順序も。

 入口に近寄る。はっきりとした違和感。理由はすぐにわかる。形が綺麗すぎるのだ。

 入口の壁から天井へつながるアーチの曲線が不自然なまでに綺麗すぎる。自然に出来たとは思えない。

 私は偵察魔法の視点の内ひとつを使って入口部分を詳細に確認する。

 トンネルなら坑門に扁額や銘板くらいはあるところだ。しかし見た限りそれらしい物は何も無い。日本の廃道探索者オブローダー的常識はここでは通用しない模様。

 そしてアーチ部分は見える限り奥まで一枚板的な岩盤。コンクリートとも多分違う、もっと頑丈な何か。鍾乳石っぽいものがついているところから見るとコンクリートと同じように石灰石が材料なのだろうか。

 ミメイさんなら魔法で作れるかもしれないとふと思う。でも私の土属性魔法では無理。

 遺跡だとすればこれが出来た当初は今より魔法か科学技術が進んでいたのだろう。私はそう思いながらリディナの後を追って中へと進む。
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