ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
113 / 322
第24章 南へ

第204話 手続き実施中

 地図で位置を確認、更に水利その他についての説明をした後。

「それなら此処でいいんじゃないでしょうか」

「そうだよね。農業するのに必要な条件は満たしているみたいだし、それにフミノもこの建物に興味があるんでしょ。まだ申し込みも入っていないようだし、早く押さえておいたほうがいいいと思うよ」

 セレスとリディナがそう言ってくれる。でも本当にそれでいいのだろうか。念の為もう一度確認。

「本当にいい? ここで」

「大丈夫です。フミノさんが言った通りなら、ここは開拓すればいい農地になる筈です」

 セレスがこんなふうに言ってくれるのは珍しい気がする。
 ならいいのかな。

「そうそう。だから早く手続きしよ」

 リディナとセレスにひっぱられるような形で窓口へ。
 リディナが受付カウンターの向こうのお姉さんに声をかける。

「すみません。開拓地の申し込みをしたいのですけれども」

「わかりました。地区番号等はあちらの地図で確認されましたでしょうか」

「ええ。東南地区、208番です」

「わかりました。それでは準備して参りますのでこのまま少々お待ち下さい」

 お姉さんはそう言ってカウンターから離れる。
 彼女は書類を取り出したり、先程の掲示板の該当場所に済のマークを書いたりした後、カウンターに戻ってきた。

「こちらがカラバーラ近郊開拓地域、東南地区208番の概要説明と契約書式となっています。まずはこの概要を読んで確認を御願いします」

 場所は間違っていないか、契約事項に問題はないか3人で読む。幸い他のカウンターは空いているし忙しそうでは無い。だから焦らずじっくりと。

 場所に間違いは無いようだ。書類上の表記も添付の地図も確認した。その上、更にこんな表記まである。

『古い建造物あり。詳細調査せず。利用可否は不明』

「これってあの聖堂の事だよね」

「そうですね」

 私も頷く。間違いない、この土地だ。

 形は横長の長方形で、南北が約半離1km、東西が約1離2km。植生はほぼ全て森。東側の一部斜面だけは岩が多い崖地。

 土地の大部分は標高20腕40m位の台地で東側がやや高く西側がやや低い。
 また東端から概ね100腕200m程度は東側へ上る急斜面で、中央部分はやや谷状にくぼんでいるが現時点では川はない。

 北側と南側はゆるく上っていく形で他の土地と接していて、西側は計画道路に面している。

 なお土地利用に関する説明事項もあるので読んでいく。

  ○ 土地の利用用途は自由。ただし面積の2割以上を畑または牧草地として農業あるいは畜産用に使用する事。

  ○ 土地面積の2割以上を畑または牧草地として開拓し、農業あるいは畜産業を開始する事が当該土地を開拓者の私有地とする条件となる。なお当該認定は、開拓者による申請を受け、領役所の担当官が現地を実査した上で行うものとする。

  ○ 10年以内に上記条件を満たせない場合は開拓失敗とし、土地の所有は移転されない。ただしその場合にあってもその一部が既に開拓され有効に活用されており、継続的に開拓を進める意志があり、また有効活用されている部分からあがる生産高が……

 うーむ。目が文章を追う事を拒否しかける。何なのだこの文章は。

「難しいですね、この文章」

「まあ仕方ないかな。文面で契約する以上、想定できる問題は盛り込まないとならないから。
 でも開拓契約の文面としてはほぼ定型通りだよ。既存の開拓より規模が大きく、その割に拠点となる街が小さいから、全般的に開拓者に対して少し甘くしている感じかな。その分余計に文章が複雑になっているけれど」

 うーむ、こういった文章にも定型がある訳か。そしてその定型をリディナは知っていると。
 そんなの学校で習うのだろうか。とてもそうは思えない。ならきっとリディナが必要だと思って何処かで独習したのだろう。

 やっぱりリディナ、頼りになる。そして若干申し訳ない。いつも頼りにしてしまって。

 だから私も何とか最後まで理解しようと読み続ける。この国の他の場合と比べて妥当かどうかはわからない。しかし私達にとって達成可能で有用な契約かどうかは判断できる筈だから。

 最後まで読んだ。うん、確かに問題は無い。これなら魔法やアイテムボックスを使いまくれば十分条件を満たせる。

 農業や畜産業の知識は私にはない。しかしそこはセレスをあてにしても大丈夫だろう。勿論私も勉強するけれども。

 そう言えばセレス、テモリの図書館で農業等の勉強にちょうどいい本をまとめ買いしていた気がする。
 あれは農業や畜産業をやる事を予想していたのだろうか。それとも単に趣味的なものなのだろうか。

 いずれにせよ後でその辺の本を借りて読んでおこう。これからの参考になるだろうから。

「どうかな? 私は条件は問題無いと思うけれど」

「大丈夫、達成可能」

 リディナの問いに私から答える。

「私も大丈夫だと思います」

 セレスもそう言って頷いた。

「それでは契約を御願いします。ところでこの契約は商会等の組織として行った方がいいでしょうか?」

「開拓のバックアップをする組織名と実際に開拓を行う方、双方の記載を御願いします。商会名等だけでの登録ですと過去に他の場所で土地名義移転のトラブルが起こったケースがありましたので」

「わかりました」

 リディナが私達の前に署名欄がある書類を持ってくる。

「それじゃ此処に名前を書いて。あ、フミノが一番上、次がセレスで。私は連絡担当だからこっちに書くから。あとフミノはこっち、組織名の方にも名前を御願い」

 どうやらこの契約書はそういうシステムになっているらしい。なので私とセレスは言われた通りに署名する。
 最後にリディナが署名して、書類を事務のお姉さんへ。

「開拓を行うのはこの3名だけという事で宜しいでしょうか?」

「はい、そうです。それぞれ土属性を含む各種属性の魔法使いですし、ゴーレム製作者も1名おりますので」

「なるほど、失礼しました」

 彼女はそう言って、そして事務作業モードに入る。
 どうやらこれを元に幾つか書類を作っているようだ。

「難しい書類を色々作る必要があって、担当者の方も大変なんですね」

 セレスの感想にリディナが頷く。

「此処はかなり丁寧に、そして厳密にやっている感じかな。こういった開拓事業では往々にして問題が起こるんだよ。開拓する気がない人がとりあえずという事で土地を確保したり、同じ組織が別の人を表に出して土地を何カ所も独占的に占有したりなんて。

 勿論そういった行為は規約や契約上の文面で出来ないようにはしているんだけれどね。でもそうなってからでは是正も困難になるから。それに実際に農作業につく人に土地の所有権を与えるようにしないと小作人の搾取なんて事も起こったりするし。

 その辺の問題が起こらないように丁寧に排除しているんだと思うよ。署名の本人鑑定等も魔道具を使ってやっているし」

 やっぱりリディナ、よく知っているしよく見ている。
 こういった事については一生追いつけないのだろうなあ、きっと。
感想 132

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正