ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第31章 魔法の勉強会

第251話 お約束なイベント

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 そしていよいよ勉強会の当日。

 今回はセドナ教会の農場からお手伝い要員として3人来てくれた。
 1人は責任者のサイナス司祭本人で、残り2人は中年の女性。女性はどちらも今回の教室に子供が参加するそうだ。

 まずは聖堂の入口前に机を2卓、椅子を10脚並べて受付を設営。
 
「本当はこちらの農場でもラテラノのようにこのような教室をやるべきなのでしょう。ですが子供が少ない、人員がいない等、つい出来ない言い訳をしてやらないままになっていました」

「いえ、いえ、そちらの農場ではこの村全体の農業支援をされていますから。それだけでも大変です」

 実際ここのセドナ教会の農場は結構忙しい。自分達の農場運営以外にも業務が多いのだ。
 隔週開催の農業講習会、村の人からの相談受付、場合によっては農業の個別技術指導を行ったりなんて事までやっている。

「いえ、これでも森を開墾しなければならないのと比べれば大分ましですから」

 そう言ってはくれている。でもこの新しい村を実質的に支えてくれているのはセドナ教会の皆さんだ。

「受付と小さい子達の面倒は私達でやります。リディナさん達は中で準備をしてください」

「わかりました」

 サイナス司祭の申し出に甘えて私達は聖堂の中へ。
 この聖堂は十字架の形をしていて出入口は十字の下部分。今回は出入口から中央の交差部分の手前まで机と椅子を並べてある。

 既に受付済みの子供達が十人程、席に着いている。その中にサリアちゃんとレウス君もいる。
 
 サリアちゃんとレウス君は今では全属性のレベル1の魔法と、いくつかのレベル2の魔法が使える。文字の読み書きも出来るしサリアちゃんは2桁までの足し算と引き算も出来る。

『2人とも今日勉強する内容はわかっているし出来るよね。だから今日やる事は次の2つ。
 ひとつは自分がどれくらい出来るかの確認。もうひとつは出来なくて困っている子のお手伝い。もしどうしても出来なくて困っている子がいたら、どうやればいいかを教えてあげてね』

 2人にはセレスからそう言ってある。でも実際に私達が狙っているのは2人の友達作り。

 私達の農場は他の場所と少し離れた森の中。どうしても友達ができにくい。だからこの勉強会で同じくらいの年齢の友達が出来てくれればいいな、そう思っている。

「それじゃ来ている人からステータスを確認して、カードを書いていこうか」

「そうですね」

「わかった」

 カードとは名前と年齢、魔法の属性や使えるようになった魔法、学習段階をメモする為に作ったものだ。
 これを見れば何が得意か、何処まで魔法を使えるか、勉強の進度はどれくらいかがすぐわかるようになっている。

 リディナが前に出て、来ている子供全員に説明を開始。

「それでは今来ている皆さんに今日やる事の簡単な説明をします。今日やることは2つ。
 ひとつは皆がどんな魔法の素質を持っているか、調べる事。
 もうひとつは実際に魔法を使えるように練習する事。
 以上です。

 それではこれからどんな魔法の素質を持っているか、1人1人調べていきます。先生3人の言う事をよく聞いて、席について待っていて下さいね」

 作業開始だ。
 机は3列ずつ並んでいて、1つの机は3人掛け。私が右側、リディナが中央、セレスが左側の列を担当。

 いくら相手が子供とは言えこの人数の中で私は大丈夫なのか、なんて思うかもしれない。でも問題ない。私も成長したのだ。
 今では対人恐怖が1まで減っている。だからこれだけ周囲にいてもほぼ問題ない。

 それでは名前、年齢、そして魔法適性をカードに書いていく作業、開始だ。

「それじゃまず名前と年齢を教えてくれるかな?」
 
 私は最前列の端に座っている女の子にそう尋ねる。
 この台詞を含め、やり取りは事前に想定して私なりにマニュアル化した。だから困る事なく進んで行く。

 ただ実際、尋ねているのは単なる形だけ。必要事項は読み書きや計算能力を含め、ステータスを見ればわかるから。

 でも一応質問と回答にあわせて名前を書いて、年齢を書いて、各属性の適性というかレベルを書いていく。

 ここで確認するのは魔法適性だけではない。重度の栄養失調が無いか、虐待がないか等の確認もしている。

 そのあたりの確認記載もあったりするのだが、これは先生側だけの秘密だ。文字が読めるようになってもわからないよう、点の部分を小さい○にしたり等と工夫してある。
 
 早めに来ていた子は問題ない子ばかりのようだ。おそらく家もそれなりにきちんと農業が出来ているのだろう。栄養失調なんてステータスも見当たらない。

 魔法適性も問題ない。どの属性も最低1はあるし、レベル3の属性を持っている子もいる。今日やる灯火魔法くらいなら問題ないだろう。

 ただ読み書きや計算は、今のところ全滅状態。これはそれなりに厳しい戦い? になるかもしれない。
 だからこそ勉強会をやる意味がある、というのも確かなのだけれども。

 さて、カード作成作業をやっているうちに聖堂内にいる子供達も増えて来た。そろそろかな、私はそう思いながらリディナの方を見る。

『それっぽいのは基本的に私が担当するから。そのかわり、

 そういう手筈だ。

 そしてリディナの作業が見た目にも悪ガキっぽい男子達3人が固まって座っている所に差し掛かった時。

「あんたらがここの先生かよ、頼りなさそうなのばっかりだな」

 はじまったな、他の子のカードを書きながら耳と偵察魔法で様子を伺う。

「さっさと使える魔法を教えて飯を出せよ。こっちも忙しいんだからよ」

 ほぼリディナの想定通りの台詞だ。リディナの想像力が高いのか相手のレベルが低いのか。きっと両方なのだろう。

「ここでは私達の指示に従ってもらいますね」

「いいのかよそんな事言って。俺達あの殲滅の魔人の知り合いなんだぜ」

 まさかその名前がここで出ると思わなかった。偵察魔法でリディナの方を見る。あ、笑っている。どうやら抑えきれなかったようだ。

「何だよ。何が可笑しい」

「つまり殲滅の魔人に習っても魔法が使えなくて、ここへ来た訳ですね」

 リディナ、煽っている。そう言えば以前、口喧嘩は得意だと言っていた。嫌味な貴族子女が多い学校で鍛えられたって。

「いや、あ……あの人達は忙しいからよ」

「まあ知り合いでない事はわかっていますけれどね。もしそうだと言うなら当然知っていますよね。殲滅の魔人と呼ばれているパーティが何人で、何という人達が属しているか」

「うっ」

 あっさりそこで口ごもってしまった。弱すぎる。口喧嘩でリディナと勝負出来るレベルじゃない。

「でも俺だってゴブリンを倒した事があるんだぜ。悪いけれどあんたらなんて一撃よ」

「なら試してみますか。お相手しますから。
 私はリディナと言います。皆さんから見て左側の机の列を担当しているのがフミノ、右側がセレスです。3人の誰でもいいですよ。勝てそうだと思う先生を選んでください」

 リディナの笑顔、なかなか迫力がある。完全に少年、迫力負けしている感じだ。
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