ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
166 / 322
第31章 魔法の勉強会

第252話 魔法の見本とイントロダクション?

しおりを挟む
「それじゃそっちの女だ」

 少年、セレスをご指名。リディナ相手では勝てないと察したからなのだろうか。
 しかし甘い。手加減有りで戦った場合、一番強くて上手いのは間違いなくセレスだから。

「いいですよ。それでは前にどうぞ」

 セレス、慌てることも無くそう言って、聖堂の中央部分の広い部分へ歩いていく。

 一方リディナは大きめの砂時計を取り出し、皆から見えるように机の上に置いた。

「教える時間の都合がありますから条件をつけます。時間はこの砂時計の砂が落ちきるまで。そしてセレス先生の方は相手をしてくれる彼に攻撃魔法を使わないという事にします。使うと一瞬で勝負が終わってしまいますから。

 魔法が使えるとこんな事も出来る。そんな参考になると思いますので、皆さんよく見ていてくださいね」

 なお砂時計は180数える位の時間で落ちきるタイプだ。

 それにしても少年、完全に煽られている。それに気圧されてもいる。おまけに今のリディナの言葉により教材にまでされてしまった。
 まあ自業自得なので仕方ない。これを機に反省してくれればいいのだけれど。

 少年が前に出て来たところでセレスが声をかける。

「それでは準備をどうぞ。私の方はいつでもいいです」

「お、俺の方もいつでもいいぜ」

 強がりでもそう言えるだけタフだなあと思う。
 引くに引けないだけだろうけれど。

 前に出るとセレスと少年の体格差がよくわかるようになった。
 身長、体格全てにおいてセレスの方が一回り小さい。
 少年がかなり大柄で、セレスは私ほどではないけれど小柄な方だから。

 体格で考えるとセレスに勝ち目は無さそうに見える。
 年齢的にも少年は12歳でセレスは13歳と差は1歳だけ。

 それでもセレスが負けるとは私は全く思っていないけれど。

「それでは開始してください」

 リディナが砂時計をひっくり返す。
 少年はその場から動こうとして次の瞬間、前へとつんのめった。

「水属性レベル2の氷結魔法を足元にかけました。今のは足が凍り付いて床から離れなかった為、飛び出せずにつんのめったという動きです」

 セレス、落ち着いた口調でそんな解説。

「くっそー、卑怯な真似を」

「見解の相違ですね。ただこれでは魔法の見本としては面白くありません。ですので氷結魔法は解除します」

 セレスがわざとらしく右手を振る。少年の足元にかかっていた氷結魔法が解除された。

「馬鹿め!」

 少年が飛び出してセレスに殴りかかる。しかし拳は思い切り空振り。セレスが直前ですっと横に避けたからだ。

「えっ!」

「遅いですよ」

「んなろ!」

 パンチ、キック、どれもセレスに当たらない。

「セレス先生は水属性のレベル2、身体強化魔法を使ってかわしています。他に動きを見る為に空属性レベル2の偵察魔法で相手の背後から確認しています。あまりレベルは高くない魔法ですけれど、それでもこのくらいの事は出来ます」

 リディナが解説。
 ただ私には同じ真似は出来ないなと思う。多分リディナでも無理だろう。今やっているのはセレスの身体能力があるからこそだ。

 リディナの解説はなおも続く。

「さて、魔物相手の場合は魔法で攻撃するのですけれど、ここでは代わりに別の物で試します。フミノ先生、すみませんが魔物の代わりとなる物を出して貰えますか」

 この辺は打ち合わせの通りだ。
 なお私が対戦相手だった場合は、
  ① セレスが自在袋から丸太を出すようなそぶりをするので、
  ② 私がそれに合わせてアイテムボックスから丸太を出す
事になっていた。

「わかった」

 私は2人から3腕6mくらい離れた場所へ歩いて行って、いつものディパックから出すようなそぶりで丸太の端材を立てて置く。
 端材と言っても結構大きい。直径20指20cm長さ80指80cmの丸太だ。

「くそう!」
 
 少年はむきになって飛び掛かっていく。セレスはそんな少年の攻撃を余裕で躱しながら、丸太の方へ右手を伸ばした。

 次の瞬間、指先から飛び出した何かで丸太が上下に切断された。切断面の上部分が床に転がり落ちドンと音を立てて転がる。

 どよめきが上がった。少年も思わず振り向いて丸太の方を見てしまう。

「今のはセレス先生の得意魔法のひとつで、水の衝撃アクアエ・イパルサムという水属性の攻撃魔法です。ゴブリン等、素材を取れない魔物を手っ取り早く倒す時に使う事が多いです。

 一方、魔狼等の素材を取れる魔獣や魔物が相手の場合は、別の魔法を使う事もあります」

 リディナの解説が終わるとともに残った丸太下側が凍り付いた。そのまま周囲を巻き込んで凍り付いていき、直径50指50cm高さ1腕2m位の氷の柱になる。

 再びどよめきが上がった。少年ももう攻撃の手を止めてただ丸太の方を見ている。

「これは水属性レベル5、氷葬スペクタ・グラシィという攻撃魔法です。国内の魔物のほとんどはこの程度の魔法で倒すことが出来ます。
 さて、こんなところでしょうか」

 リディナがそう説明しながらわざとらしく砂時計を見て頷いた。

「はい、時間です。砂時計の砂が落ち終わりました。
 お疲れさまでした。席へ戻って下さい」

 少年、肩ではあはあ息をしている。相当疲れているようだ。ただ文句を言えるような気力が残っていない模様で、大人しく席へと戻っていく。

「さて。魔法は貴族だけではなく誰でも練習すれば使えるようになります。これは数年前、冒険者ギルドから発表があったとおりです。

 今日は皆さんがどんな魔法に適性をもっているかを調べた後、簡単で便利な魔法を1つ、覚えてもらうのが目標です。
 それでは全員の魔法適性を調べてカードを作成し終えるまで、少々お待ちください」

 リディナのそんな解説の後。
 私達はステータスカード作成作業を再開した。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。