ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
19 / 322
2巻

2-2

しおりを挟む
 バマルケの街を出てから二日目の午後。
 街道が川の支流を越えたあたりから、山肌の様相が明らかに変わった。山の緑が薄い。よく見ると生えている樹木はどれも若く比較的細いようだ。
 つまりこのあたりからが、木炭用として木を消費してしまった場所なのだろう。
 土砂が崩れている場所がそこここにある。木をりすぎて土砂崩れが起こりやすくなったようだ。この辺の山を見ただけでわかる。
 でもそれなら山向こうに生えている、成長の早いアコチェーノエンジュを植えればいいのではないだろうか。最初に話を聞いたときはそう思った。しかし後で調べてみると、そう簡単にはいかないらしい。
 アコチェーノエンジュは、切り株や根元から新しい芽が生えるという方法で増える。種はできず挿し木もできない。また植え替えしてもすぐ枯れる。
 つまりアコチェーノエンジュは、元から生えている場所以外では増えないし育たない。
 現状ではアコチェーノ以外では育てられないのだ。
 一説によると、アコチェーノエンジュはただの樹木ではなく、魔力をも栄養源とする魔樹らしい。
 とはいえ植物型の魔物、たとえばトレントやマンドラゴラのように動いて人や獣を襲うわけではない。特異なのは成長の極端な早さだけだ。
 なお、この辺の知識はボンヘー社の大百科事典に書いてあった。さすが本物の大百科事典。細かいことまで載っている。
 壁と門が見えた。ローラッテの街門だろう。受付は残念ながら男の人。だからリディナにひっついて冒険者証を提示しながらなんとか通過する。
 中を見るとそれほど大きい街ではない。建物もせいぜい二階建てまで。
 ただずっと奥に独特の建物が見える。特徴的な色の耐熱煉瓦れんがでつくられた、背の高い建物だ。
 きっとあの辺が製鉄所なのだろう。

「どうする? ギルドに行く前に市場を見てみる?」

 確かにそれもいいかなと思う。
 他人は怖い。でもリディナがいれば少しは平気。
 そして初めての街にはそれなりに何か面白い、あるいは美味おいしい食材があるかもしれない。
 一度は見てみるべきだろう。だから私はうなずく。

「それじゃ行こうか。この時間だからあまり残っていないかもしれないけれど」

 二人でメインらしい通りを歩く。
 市場街はすぐ見つかった。さっそくリディナにくっついて見ていく。
 売っているものは、アレティウムとそう変わらない。おそらくこれが、内陸部の一般的な品揃えなのだろう。
 穀類は大麦、小麦、ライムギの粉と大麦粒、トウモロコシ粒に米といった具合。ただし値段が、明らかにアレティウムなんかと違っている。

「安い」
「本当ね。アレティウムより二割くらい安い」

 別にアレティウムの物価が高かったわけではない。今まで通ってきた街の物価は、どこもおおむね同じくらいだった。
 よく見ると安いのは穀類だけで、野菜や肉は同じくらい。いや、肉は少し安めかな。
 しかしこんな山の中の村、そんなに安くなるほど大規模な農業をやっているとは思えない。なぜだろう。後で国勢図会か大百科事典で調べれば、この理由はわかるだろうか。
 そう私が思ったときだった。

「おじさん。どうしてここは穀類が安いのかな?」

 リディナが店のおじさんにたずねる。
 そうか、聞けばすぐわかる。相手が答えを知っているならば。考えてみればもっともだ。でも私には思いつかなかった。
 ただこの方法、私には真似まねができない。
 もちろん私の対人恐怖症もかなりましにはなっている。店主が大人の男性の店だって、こうして入ることができるくらいだ。
 でもこれは、すぐそばにリディナがいる場合限定。店主に話しかけるなんて、とてもとても。
 だから人に聞くという方法は、あくまで参考にとどめておく。

「そっか、お嬢ちゃんたちは他の領地から来たんだな。ここフェルマ伯領は鉄鋼業と木材加工業という力仕事でもっている領地だからよ。いっぱい食べられるように、フェルマ伯が穀類に対して補助をしているんだ。領内の穀類は全部領主が買い上げた上で、足りない分を他領から仕入れて、うちみたいな店におろしている。その卸価格おろしかかくが大商会より安い分、ここの穀類も安くなるってわけよ」
「でもそれじゃ農家からの買取価格が安くならないの」
「むしろ大商会より高いくらいらしい。その分領主のもうけが少ないんだろ。だがそのおかげでこの領地は常に人に困らないわけだ。そう考えればフェルマ伯様々ってところだね」

 なるほど。でもそれでは大商会ににらまれないだろうか。
 リディナはその辺まで聞く気はないようだ。確かにこのおっちゃんがそこまで知っているか怪しいだろうし。

「それじゃ小麦粉、五重三十キログラムもらおうかな」
「毎度あり」
「あと、この辺でテイクアウトで美味おいしいお店ってある?」
「評判がいいのは、この先の満腹商店の半月デミデューマだな。美味うまいし腹もふくれる」
「ありがと」

 こういったやりとり、いつか私もできるようになるのだろうかと思う。
 今はまだまだ無理でも、あと一年くらい頑張がんばればなんとかなるかな。


 満腹商店の半月デミデューマとは、日本で言うピザに似たものだった。
 円形で直径は二十指二十センチ程度と小さい。生地の厚さは一指一センチのふかふか系で、生地そのものもピザとよく似ている。チーズや具材を載せて焼くところまで同じ。
 しかし食べ方が違う。店では焼いた円形のものを折りたたんで半円形にして出してくれる。それを少しずつ食べるという仕組みだ。
 つまりピザまるごとを半分に折って、一人で食べるようなもの。半月デミデューマという名称は、きっと折った形が半月デミデューマ形だからだろう。
 ギルドに行くのでとりあえず収納したけれど、なかなか美味おいしそう。食べてみたくても、まだお腹がいていない。だから一人だと多すぎる。
 リディナと半分ずつなら大丈夫だろう。しかしリディナは今食べたいだろうか。
 そんなしょうもないことを考えながら、冒険者ギルドへ行く。
 ギルドは私たちが入ってきた門から見て奥の方にあった。製鉄所らしい、あの耐熱煉瓦れんがの建物がある場所のすぐ手前だ。

「大丈夫、いているよ」

 先行したリディナにそう言われておそるおそる中へ。
 いてそうな時間を選んだので大丈夫だろう、とは思っていたけれど。

「討伐や採取の褒賞金ほうしょうきん受け取りと、新規依頼受領に来ました」
「わかりました。どうぞこちらへ」

 今回も受付は無事女の人だ。よしよし。そう思いつつリディナと並んでカウンターに座る。

「それでは冒険者証と対象の提出をお願いいたします」
「わかりました」

 私はアイテムボックスから自分の冒険者証と、討伐対象である魔獣の死骸しがいと魔物の魔石を出す。
 今回は一泊二日分なので数は多くない。魔小猪ましょうちょ一頭の他は、ゴブリンやスライムの魔石、あとは薬草を少しという程度。
 ただ魔小猪が体長半腕一メートル、重さ十五重九十キログラムなので場所は結構とる。

「こちらの薬草も一緒に計算してよろしいでしょうか」
「ええ、お願いします」
「わかりました。それでは計算してまいります。このままお待ちください」

 この辺は、どこの冒険者ギルドでもおなじみの手続きだ。
 しかし今日はすぐに受付嬢さんが戻ってきた。

「ただいま裏で計算をしていますので、先に次の案件をうかがいましょう。どの依頼を受けていただけるのでしょうか」

 これなら待たずに済むから助かる。なかなかここのギルドはサービスがいい。
 今回も待つと思っていたので、とっさに次の用件をどう頼もうか、言うべき言葉が出てこない。
 もちろん対人担当はリディナがやってくれる。しかし最近は訓練として、こういう場合に私はどう言うべきかを考えるようにしているのだ。
 ただ今みたいに相手の反応が予想と少しでも違うと、私の言語中枢ちゅうすうはオーバフローしてしまう。

「アコチェーノまでの運搬に関する常時依頼があると、バマルケの冒険者ギルドでうかがいました。こちらが紹介状になります」

 リディナがそう言ってくれた。なるほどその通りだ。
 こういう状況に応じた台詞せりふというのは、どうすれば上手く、さっと口に出せるのだろう。
 私は、どう言えば相手にわかってもらえるのか、すぐに文章が出てこない。まさに今のように。
 私の場合、会話の必要がありそうな際は、事前に頭の中で状況をイメージし、案文をいくつも作った上で練習する。
 そうやっても、実際には言いたいことの半分もうまく言えない。
 その辺、リディナはすごいなと思う。私の考えも全部理解してくれた上で、その場に応じてさらっと代弁してくれるから。
 これだけでも充分リディナと組んでいる価値はある。
 まあ他の点でもリディナがいないと、私は駄目駄目なのだけれど。冒険者ギルドだって、一人で入るのは無理だし。
 受付嬢さんは、封筒を開封して中を確認する。

「アコチェーノまでの鉄インゴットの運搬依頼ですね。引き受けていただけると大変助かります。では本依頼の詳細について説明させていただきます」

 受付嬢さんは机の下から紙片を取り出す。
 見ると掲示板に貼ってあるのと同じような依頼状だ。しかしいくつかのらん空欄くうらんになっている。

「こちらがお持ちいただく依頼状になります。お渡しする際にパーティ代表者名、運搬していただく分量、依頼年月日を記載します。その後、鉄インゴットをアコチェーノの冒険者ギルドへ運搬、インゴットとこの依頼状を提出することで依頼完了となり褒賞金ほうしょうきんが支払われます」

 ここまでは当たり前の内容だ。だから私もリディナもうなずきながら聞いている。

「なお運搬に要する期間は、こちらでインゴットをお渡しした日から数えて最大で八日間です。八日間あれば山越えをせず、サンデロント経由で行っても、余裕で着くことができるはずです。この期間を過ぎると依頼失敗となります。ただなんらかの事故で期間内にたどり着けなかった場合でも、生きているならば必ずこちらかアコチェーノの冒険者ギルドに出頭してください。出頭されるまではインゴット盗難のおそれありということで、冒険者ギルド手配がかけられてしまいますから」

 うんうん、もっともだ。私もリディナもうなずく。

「次は報酬ほうしゅうについてです。アコチェーノの冒険者ギルドでインゴットを引き渡し、依頼書を提出した時点で報酬ほうしゅうをお支払いいたします。報酬ほうしゅうは期間内なら要した日数にかかわらず二十重百二十キログラムあたり正銀貨一枚です。こちらでお渡しした時点でこの依頼書にお渡しした年月日と量を記載します。どれくらいお持ちになるかについて、今のうちに考えてください。それでは先ほどの討伐・採取依頼の計算書及び褒賞金ほうしょうきんを持ってまいります」
「どれくらい持っていく?」

 リディナが小声で私にたずねる。

「不審にならない量、目いっぱい」

 私のアイテムボックスの容量は神様のお墨付すみつきだ。その気になればいくらでも大丈夫。
 ただあまり常識はずれな量を持っていくと、それはそれで問題になるだろう。その辺の判断はリディナ任せということで。

「なら四百重二千四百キログラムにしようか。これくらいなら最高級品の大容量自在袋で持っている商人もいないわけじゃないから。そんなの持っているのは、それこそ大商人くらいだけれどね。魔法の発達した異国から来たのなら不思議じゃないでしょ」

 四百重二千四百キログラムということは片道正銀貨二十枚か。
 一泊二日の山越えで、それだけかせげるなら悪くない。途中で魔獣や魔物が出たら、さらにもうかるだろうし。

「わかった」

 私はうなずく。
 受付嬢さんが戻ってきた。

「お待たせしました。合計で正銀貨九枚、小銀貨八枚、正銅貨六枚になります。詳細は計算書の通りです。ご確認ください」

 計算書を確認。魔小猪は皮も肉も使えるからか、いい金額になった。

「確認しました。大丈夫です」

 リディナがそう言って受領書にサインして渡す。

「それでは鉄のインゴットが置いてある場所へ案内いたします。こちらへどうぞ」

 ここで渡すわけではないのかと、一瞬意外に思った。
 でも考えてみたら当然だ。鉄は重い。しかもびる。それなりのところに保管してあって当然だろう。
 幸いこの受付嬢さんがそのまま案内してくれるようだ。
 男性に代わらなくてよかった。そう思いつつ、受付嬢さんとリディナの後につづく。
 一度外に出て、そして隣の建物へ。中は大丈夫かな……
 うん大丈夫、倉庫みたいな建物だが、近くには誰もいない。
 中も無人だった。ただ長さ三十指三十センチ程度の鉄角材が、二十本ずつロープで束ねられた状態で積まれているだけだ。

「これがお願いする鉄のインゴットになります。一本が一重六キログラムで、ロープで二十本、二十重百二十キログラムずつ束ねてあります。それでどれだけ運んでいただけるのでしょうか。紹介状では二百重千二百キログラム程度は持ち歩けるとありましたけれど」
四百重二千四百キログラムでお願いします」

 リディナが打ち合わせ通り、そう申し出る。

「よろしいのでしょうか。野宿装備も運ぶ必要があると思いますけれど」
「大丈夫です。大容量の自在袋がありますから」

 この束二十個分と考えると、思ったより少なく感じる。鉄は重い分、体積が小さいからだろう。
 本当はこの倉庫にある全部を入れても大丈夫なはず。ただそうするとさすがに目立つ。
 これくらいが限度だろう。少なくともリディナの判断ではそういうことだ。

「わかりました。四百重二千四百キログラムですとここの横五個、上から四段目までを収納してください」
「わかりました」

 リディナの台詞せりふに合わせて収納する。うん、やっぱり余裕だ。
 そして見た限り、受付嬢さんが怪しんでいる様子はない。この程度の量なら問題ない模様。やっぱりリディナの判断は正しかったようだ。

「さすがですね。それでは依頼状を正式に作成しますので、先ほどの部屋へ戻ります」

 再び先ほどのカウンターに戻った後、受付嬢さんは依頼状に私の名前、分量、今日の日付を記載し、何かの魔法装置に通してから、リディナに渡す。

「これで正式に依頼は受領されました。それでは運送依頼、よろしくお願いいたします」
「こちらこそどうもありがとうございました」

 ギルドを出る。

「さて、それじゃ山越えに行こうか。新しいお家のためにもお金をかせがないとならないしね。それにアコチェーノに行ったら、お家がいくらかかるか見積もりもしてもらえるだろうし」

 そうだ。これは新しいお家計画なのだった。

「いくらくらいかかるだろう」
「うーん、正金貨十五枚くらいあれば、なんとかなると思うけれど。水回りとか壁塗りとかが一切ない木の大きな箱だから」

 正金貨十五枚は正銀貨に換算すると七百五十枚。
 今の手持ちが正銀貨百枚程度。残り正銀貨六百五十枚で、片道一回で正銀貨二十枚かせぐならば、三十二・五回分。

「十六往復半」
「実際は途中で魔物や魔獣も狩るだろうし、もっと少ないと思うよ」

 それでも夢のお家まで十二往復はかかるだろう。正金貨十五枚というのが確かなら。

「遠い道のり」
「でも三ヶ月程度で家が手に入ると思えば安いんじゃない」

 確かにその通りだ。家のローンは日本だと、三十五年ローンとかもある。そう考えると格安だ。
 もちろんリディナの見積もりが正しく、この仕事が順調ならばだけれども。

「道はこっちでいい?」

 私はうなずく。偵察魔法でそれらしい道は把握はあくできているから。




「きつい道だったね」

 私は無言でうなずく。
 私もリディナもアイテムボックスから出した家の中へ入るなり、ぐったりというか、ばったりだ。
 今までずっと街道を歩いてきたし、狩りで山に入りもした。だから足腰には自信があった。
 それでも今日の行程は厳しかった。
 今までは馬車も通れる道だったから、坂も極めてゆるやかだった。
 しかし今日歩いたのは完全な登山道、いや登山道より酷い。倒木でふさがっていたり、崩れて足場がなくなっていたりしていたから。
 手を入れている痕跡こんせきはある。崩れた場所に足場として木を渡してあったり、杭を打って補強してあったり。
 しかしそういった手入れも追いついていない状態だった。
 かつて木をりすぎたことが影響しているのだろう。
 そしてさらに私たちにとって厳しいことがあった。家を出せる場所がなかなかなかったのだ。
 そもそも山越えなので、家を出せそうな平らな場所がごく少ない。しかも稜線りょうせんからローラッテ側は、森林育成中で伐採ばっさい禁止だ。
 その上、伐採ばっさいで山の保水力が足りなくなったのか、谷部分は崩れが酷くて危険。
 偵察魔法で周囲を調べた結果、ローラッテ側で家を出すことをあきらめた。回復魔法を自分たちにかけながら、必死に稜線りょうせんまで登り切る。
 こんな場所でも魔獣や魔物がいないわけではない。
 どこにでも出てくるゴブリン、やはりどこにでもいる魔鼠、山地に多い魔羚羊。
 それに魔熊まゆう魔山猫まやまねこ洞穴ほらあなを拠点にしていた頃と、同じくらいの遭遇率だった。
 こっちが疲れていようとも、魔物は勘弁かんべんしてくれない。だからとにかくめて倒してめて倒して、場合によってはリディナが切り刻んで倒して。
 登っている最中に暗くなってしまったけれど、留まるわけにもいかない。私たちの野宿装備はあのお家だけなのだ。
 そして暗くなってさらに出てくる魔物と魔獣。
 真っ暗になって星が夜空に光り輝く頃。とうげというか稜線りょうせんのコル状の場所で、やっとそこそこ平らで広い、お家を出せる場所を発見した。
 周囲に人の気配がないのをいいことに、そのまま家を出して、中へと倒れ込んだわけである。

「今日は夕食、ストックしてある出来合いのものでいい? ちょっと夕食を作る気力ない」
「もちろん」

 ステータス上でSTR腕力VIT体力が偏差値六十六の私が、回復魔法を併用しても、ここまで疲れているのだ。リディナはもっと疲れているだろう。
 一応リディナにも、回復魔法はかけている。
 でも念のために、治療ちりょう魔法もかけておこう。筋肉痛を予防できるかもしれない。
 自分自身も含めて治療ちりょう魔法、それも効果高めのレベル2の方をかける。

「ありがとう。なんか少し楽になった。今のフミノの魔法だよね」
治療ちりょう魔法レベル2」

 治療ちりょう魔法は肉体を万全な状態へと戻すもの。
 ただ疲れをとる効果もあるようだ。
 完全に疲れがとれるわけではないけれど、意識できる程度には違いを感じた。

半月デミデューマ乳清にゅうせいでいい?」
「そうね、ありがとう」

 私はテーブル上に皿、コップを出し、ローラッテで購入した半月デミデューマ乳清にゅうせい飲料を入れる。
 二人でずるずると椅子いすに座って夕食開始。

「なるほど。半月デミデューマって、疲れていても食べられる形のわけね。手でそのままつかめるから」

 確かに。ただ疲れた身体の胃袋には、少しばかり重い。しかし食べないと体力が回復しない。
 だから頑張がんばって食べる。乳清にゅうせい飲料の甘さが疲れを取ってくれる気がして心地いい。

「いざというとき用に小型の家も必要」
「そうね。どこでも置けて二人で寝て食べることができる程度の大きさのものがあれば、ここより手前で休めたかも」

 作り付けの二段ベッドとかを使えば、個室に準じた感じにはできるだろう。
 簡素に設計すれば、今持っているお金でも作ってもらえる額に収められるかもしれない。
 ただ今は疲れた。設計の余力はない。風呂すら入る気力もない。
 もう今日は寝よう。この後すぐに。


 翌朝、明るくなるとほぼ同時に起きて家を撤収てっしゅう
 今日の朝食はガレだ。アレティウムで買ったものだけれど、アイテムボックスのおかげで買ったときのまま。
 まだ作ったときの温かさが残っている。やっぱり美味おいしい。

「今日はくだりだけだから楽だよね」

 私はうなずく。そう、このときは私もそう思っていたのだ。
 最初の半時間程度は快調だった。明るいおかげで魔獣や魔物は昨夜よりは出にくい。おまけに途中まではなだらかな尾根上を歩くので歩きやすい。
 晴れていて空も青く、思わず鼻歌が出そうなくらいだ。
 しかしその先、急な下りになってから半時間も経たないうちに、私たちは気づいた。

「ひょっとして下りの方が足に厳しいのかな?」
「そう感じる」

 もちろん上りの方が体力を使う。
 しかし下りの方が、足の筋肉に負担がかかるような気がするのだ。
 その感覚は、次の半時間で間違いないものとなった。

「フミノごめん、回復魔法お願いしていい?」

 私はうなずいて、リディナと私の双方の足に回復魔法をかける。
 ふくらはぎや足首に感じる危険な感じが、少しだけ楽になった。

「まさか下りの方が厳しいなんて思わなかったね。てっきり今日は楽だと思っていたのに」
「同感」

 使う筋肉が、上りと下りで違うのだろう。普段あまり使わない筋肉を酷使するようで、かなりつらい。
 しかもローラッテからの上りより、アコチェーノへの下りの方が長い気がする。
 いや絶対に長い。間違いない。

「これを下るのもつらいけれど、これをまた上ってくるのもまたつらそうだよね」

 うなずく。確かにそうだ。
 上りは下りより筋肉に負担はかからない。でも体力は下りより間違いなく消耗しょうもうする。
 さらに言うとこの辺の山は、木々の間隔が揃っていて下草もり込まれている。
 つまり管理されている林だ。勝手に切ることはできない。
 ゆえに、あのお家を出せるような広い場所は、昨晩泊まった稜線りょうせんじょう以外にはない。
 だから小さめの家を作らない限り、帰る際は稜線りょうせんじょうまで一気に登る必要がある。
 障害は坂と筋肉痛だけではない。

魔猿まえん。前方に群れ」

 さらに魔獣や魔物が出てくるのだ。
 魔猿はそれほど強くないけれど、数が多い。疲れる。泣きたい。

「ごめん、フミノ。私の魔法だと木まで切ってしまいそう」
「大丈夫。私が仕留める」

 魔猿は大きさがそれほどでもない。だから樹上にいても土を大量に出してやれば落とせる。それで枝が折れるのは不可抗力、ということにしてもらおう。

「止まって。ここで待つ」

 そう指示して、私はリディナの前に出る。まずは目の前のことを片づけてから。
 早く下りて、インゴット渡して楽になりたいけれど、仕方ない。


しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【書籍化決定!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆皆様のおかげで、書籍化が決定致しました!3月中旬頃、発売予定です。よろしくお願い致します。 ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦    6巻発売です! 告知遅れてすみません……。  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~6巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~9巻発売中。  1~8巻は万冬しま先生が、9巻以降は木々ゆうき先生がイラストを担当してくださっております。    現在別原稿を作業中のため、更新が停止しております。  しばらくしたらまた再開しますので、少々お待ちを……  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。