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拾遺録6 俺達の決断
18 新年の行事
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魔法無効化の魔道具を使った襲撃から3週間ちょっと後。
俺は新年祭の為、王都に来ていた。
◇◇◇
本当はテモリを離れたくはなかった。
ただナイケ教会に対する安全対策は行ってある。
俺では無く、俺が新年行事出席を控えている事を知っているというか、まさに行事出席を依頼しているタウフェン侯爵の手によって。
現在のナイケ教会は、次の襲撃が出来る状況には無い。
事件が公になり、国王庁から問い合わせがあったことで、教会本部がガタガタになっているそうだ。
あの魔道具は、内部に込められた魔力によって、周囲の魔力を打ち消すという仕組みらしい。
作成にはレベル7以上の上級魔法使い数十人が集合して、一斉に魔力を封じ込める儀式が必要だそうだ。
国内にそれだけの上級魔法使いを一同に集められる組織は、十年ちょっと前にエールダリア教会が解体された後は、王立魔法院だけ。
そしてエールダリア教会の後は、ナイケ教会が王立学校の運営を継いでいる。
その地位を利用してナイケ教会が、王立魔法院の上級魔法使い42名を集めて特別研究を行った。
そこで魔法無効の魔道具を作ったと、記録に残っていたそうだ。
『事件究明の為、実験で作った魔道具7点全てを提出するよう、ナイケ教会に勅命を下した。襲撃に使用した5個についてはどう言い訳をするか、教会内ではかなりもめておるようだ。当分の間、何かを企むような余裕は無いだろう』
そうタウフェン公爵は言っていた。
爵位を持つ貴族への襲撃事案だから、国王陛下直々の捜査という扱いになるそうだ。
そしてアコルタ子爵家についても、同じ流れで対策をしてくれている。
『この事案について、アコルタ子爵家宛てにも勅命が下った。本件事案を発生させてしまった事に対する領地保安上の注意、更には国法第194条規定が発効中であることの確認だ。これで子爵家もうかつに手出しは出来ないだろう』
ただし公爵はこうも言っていた。
『アコルタ家はフリスト殿が亡くなってからここ数年、継承権を持つ正規の代理を建国記念式典に参加させていない。本年も不参加である場合、正規の者によって領政が執り行われているか、監察を入れる事になるだろう。もしダヴァ男爵がアコルタ家に意見できる立場にあるのなら、そのことを関係者に告げておいて欲しい。正規に連絡する手続きを取ると、同時に監察開始となりかねない』
スティヴァレ王国の建国記念日は、5月10日。
それまでにレノアによる体制を是正しなければ、取り潰しとなる可能性が高い訳だ。
この前のイリアやサリアのやりとりは、この事を予見した上でのものだったのだろうか。
王都へ直接行く用件とか、4月1日の貴族名簿基準日までに何をすべきかとか。
該当する部分は多いから、その通りだろうという気がする。
しかし他に別の意味があるような気もするのだ。
わからないまま、それでもイレーネには、公爵に言われた事をそのまま伝えた。
イレーネの返答は、こんな感じだった。
「わかりました。それでは悔いのないよう動こうと思います。ですが私は領主家の業務についてもよく知りませんし、此処の領地についても、知らない事が多すぎるように感じます。まずは自分の目と耳で、実情を確認したいです」
そんな訳で、今はサリアやイリアの時間が空いた時に、テモリの街とその周囲を見回っている。
サリアの魔法で髪や瞳の色を変化させ、更に髪型や服装を変えると、街の中を歩いても気付かれないらしい。
もちろん魔力を見れば簡単に見分けがつく。
しかしそんな事が出来る人材は東海岸の田舎にはほとんどいない。
気付かれてもサリアかイリアが近くにいるなら、高速移動魔法でさっと逃げ出す事が可能だ。
なので最近は更に大胆になって、エミリオに案内させて貧困地区を見て回ったりもしているようだ。
俺としては正直、大丈夫だろうかと思うのだ。
それでもやっていること自体は正しい。
サリアかイリアが護衛でついているなら、万が一というのもまずあり得ない。
だからまあ、見守っているという形だ。
◇◇◇
冒険者代表として、
○ 陛下と国民全員に向けて新年祝賀を申し上げ
○ 模範試合を行う
というのが、新年祭での俺の仕事だ。
そして新年祭で、俺とほぼ同じ事をする奴がいる。
同じ事というか、模範試合の相手だけれど。
ナイケ教会の教会騎士で、騎士団騎士及び教会騎士、貴族側の武を代表する立場にいるエルディッヒだ。
ナイケ教会は敵だが、エルディッヒは悪い奴ではない。
教会騎士という教会を代表する一人ではあるけれど、政治的な権力はまるでない。
教会内での権限も本部道場の整備に関する事程度。
国と教会本部の要請で祭礼に出る他は、道場で武術全般を教えているだけという、何処か俺と似た立場だったりする。
ついでに言うと、性格も悪くない。
真面目すぎるのと自己肯定感が低いところが欠点だが、それを含めて割と親しみが持てる奴だ。
新年祭が終わった後一息いれるべく、ナイケ教会本部道場へ。
俺にとっては敵地と言えないこともないけれど、此処そのものは割と好きだ。
教会側の面倒な奴も少しはいるけれど、それ以上に武術好きな奴とか強さに対して真面目な奴とかが多いから。
それに危険という事も無い。
此処そのものはエルディッヒの管轄で、面倒な教会上級幹部は常駐していない。
そんな奴がいたら、すぐに把握可能だ。
更には此処は。王都のど真ん中で、王宮からもそこそこ近い。
つまり此処で事を起こしたら、確実に国王庁の捜査が入る事になる。
だから毎回祭礼等が終わった後、エルディッヒに誘われるがまま、つい此処にお邪魔してしまう。
そうして来た時はほぼ毎回、道場にい面々が持ち寄った酒だのつまみだので宴会状態。
俺は酒を飲まないし、エルディッヒは酒で酔えない体質。
そんな俺達2人以外が酔い潰れて道場に倒れるまで続くのが、ラツィオでの祭礼があった時の定番だ。
俺は新年祭の為、王都に来ていた。
◇◇◇
本当はテモリを離れたくはなかった。
ただナイケ教会に対する安全対策は行ってある。
俺では無く、俺が新年行事出席を控えている事を知っているというか、まさに行事出席を依頼しているタウフェン侯爵の手によって。
現在のナイケ教会は、次の襲撃が出来る状況には無い。
事件が公になり、国王庁から問い合わせがあったことで、教会本部がガタガタになっているそうだ。
あの魔道具は、内部に込められた魔力によって、周囲の魔力を打ち消すという仕組みらしい。
作成にはレベル7以上の上級魔法使い数十人が集合して、一斉に魔力を封じ込める儀式が必要だそうだ。
国内にそれだけの上級魔法使いを一同に集められる組織は、十年ちょっと前にエールダリア教会が解体された後は、王立魔法院だけ。
そしてエールダリア教会の後は、ナイケ教会が王立学校の運営を継いでいる。
その地位を利用してナイケ教会が、王立魔法院の上級魔法使い42名を集めて特別研究を行った。
そこで魔法無効の魔道具を作ったと、記録に残っていたそうだ。
『事件究明の為、実験で作った魔道具7点全てを提出するよう、ナイケ教会に勅命を下した。襲撃に使用した5個についてはどう言い訳をするか、教会内ではかなりもめておるようだ。当分の間、何かを企むような余裕は無いだろう』
そうタウフェン公爵は言っていた。
爵位を持つ貴族への襲撃事案だから、国王陛下直々の捜査という扱いになるそうだ。
そしてアコルタ子爵家についても、同じ流れで対策をしてくれている。
『この事案について、アコルタ子爵家宛てにも勅命が下った。本件事案を発生させてしまった事に対する領地保安上の注意、更には国法第194条規定が発効中であることの確認だ。これで子爵家もうかつに手出しは出来ないだろう』
ただし公爵はこうも言っていた。
『アコルタ家はフリスト殿が亡くなってからここ数年、継承権を持つ正規の代理を建国記念式典に参加させていない。本年も不参加である場合、正規の者によって領政が執り行われているか、監察を入れる事になるだろう。もしダヴァ男爵がアコルタ家に意見できる立場にあるのなら、そのことを関係者に告げておいて欲しい。正規に連絡する手続きを取ると、同時に監察開始となりかねない』
スティヴァレ王国の建国記念日は、5月10日。
それまでにレノアによる体制を是正しなければ、取り潰しとなる可能性が高い訳だ。
この前のイリアやサリアのやりとりは、この事を予見した上でのものだったのだろうか。
王都へ直接行く用件とか、4月1日の貴族名簿基準日までに何をすべきかとか。
該当する部分は多いから、その通りだろうという気がする。
しかし他に別の意味があるような気もするのだ。
わからないまま、それでもイレーネには、公爵に言われた事をそのまま伝えた。
イレーネの返答は、こんな感じだった。
「わかりました。それでは悔いのないよう動こうと思います。ですが私は領主家の業務についてもよく知りませんし、此処の領地についても、知らない事が多すぎるように感じます。まずは自分の目と耳で、実情を確認したいです」
そんな訳で、今はサリアやイリアの時間が空いた時に、テモリの街とその周囲を見回っている。
サリアの魔法で髪や瞳の色を変化させ、更に髪型や服装を変えると、街の中を歩いても気付かれないらしい。
もちろん魔力を見れば簡単に見分けがつく。
しかしそんな事が出来る人材は東海岸の田舎にはほとんどいない。
気付かれてもサリアかイリアが近くにいるなら、高速移動魔法でさっと逃げ出す事が可能だ。
なので最近は更に大胆になって、エミリオに案内させて貧困地区を見て回ったりもしているようだ。
俺としては正直、大丈夫だろうかと思うのだ。
それでもやっていること自体は正しい。
サリアかイリアが護衛でついているなら、万が一というのもまずあり得ない。
だからまあ、見守っているという形だ。
◇◇◇
冒険者代表として、
○ 陛下と国民全員に向けて新年祝賀を申し上げ
○ 模範試合を行う
というのが、新年祭での俺の仕事だ。
そして新年祭で、俺とほぼ同じ事をする奴がいる。
同じ事というか、模範試合の相手だけれど。
ナイケ教会の教会騎士で、騎士団騎士及び教会騎士、貴族側の武を代表する立場にいるエルディッヒだ。
ナイケ教会は敵だが、エルディッヒは悪い奴ではない。
教会騎士という教会を代表する一人ではあるけれど、政治的な権力はまるでない。
教会内での権限も本部道場の整備に関する事程度。
国と教会本部の要請で祭礼に出る他は、道場で武術全般を教えているだけという、何処か俺と似た立場だったりする。
ついでに言うと、性格も悪くない。
真面目すぎるのと自己肯定感が低いところが欠点だが、それを含めて割と親しみが持てる奴だ。
新年祭が終わった後一息いれるべく、ナイケ教会本部道場へ。
俺にとっては敵地と言えないこともないけれど、此処そのものは割と好きだ。
教会側の面倒な奴も少しはいるけれど、それ以上に武術好きな奴とか強さに対して真面目な奴とかが多いから。
それに危険という事も無い。
此処そのものはエルディッヒの管轄で、面倒な教会上級幹部は常駐していない。
そんな奴がいたら、すぐに把握可能だ。
更には此処は。王都のど真ん中で、王宮からもそこそこ近い。
つまり此処で事を起こしたら、確実に国王庁の捜査が入る事になる。
だから毎回祭礼等が終わった後、エルディッヒに誘われるがまま、つい此処にお邪魔してしまう。
そうして来た時はほぼ毎回、道場にい面々が持ち寄った酒だのつまみだので宴会状態。
俺は酒を飲まないし、エルディッヒは酒で酔えない体質。
そんな俺達2人以外が酔い潰れて道場に倒れるまで続くのが、ラツィオでの祭礼があった時の定番だ。
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