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#3 僕は思ってしまった
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お別れした人の身体は少ない資源を補う為に投入される。例えば食事の肉とか、石鹸等に使用する油脂だとかの材料となる訳だ。
別にそれに良い悪いも無い。単なる現実。少なくとも僕はそう思っていたしそれを受け入れていた。
しかし今、僕は気づいてしまったのだ。アキコ姉とお別れしたら、アキコ姉もまたそうなってしまうという事に。
変な感情かもしれない。少なくともこの団地の規則からは外れている。
しかし僕はこの時、それは嫌だと強く思った。アキコ姉とお別れしたくない。そう思ってしまった。
だから僕はつい言ってしまう。
「アキコ姉、僕からもお願いがあります」
「何かな?」
アキコ姉はちょっと首を傾げて尋ねる。
「散歩に付き合って下さい。長い散歩に」
アキコ姉は少しの間考えるような素振りをした後、ゆっくりと頷いた。
「いいよ。それでどんな用意をしていけばいいかな?」
思ってもみなかった質問をされてしまう。用意をする、か。
ただの散歩なら用意は必要ないだろう。アキコ姉は僕の考えに気づいたのだろうか。今の質問の意味がわかってしまったのだろうか。
しかし僕はこの質問を利用しようと思った。ちょうどいいと思うことにした。
「食べ物を持てるだけ。次に服を持てるだけ。蓋をして水を入れられるものがあったらそれも一緒に」
此処を離れて遠くまで行けるように。そんな用意だ。
もちろん僕が言ってこの用意、常識的などう考えても怪しいし常識から外れている。
それでもアキコ姉は頷いた。
「長い散歩になりそうだね。でもいいの、ミナト君。帰れなくなっても」
やっぱりアキコ姉、僕の考えに気づいているとしか思えない。
ここは確認した方がいいだろう。
「何でそう思いますか」
「顔に書いてあるもの」
あっさり。勿論本当に書いてあるわけは無い。
でも僕はアキコ姉の返答に驚きつつもちょっとだけほっとしている。これでアキコ姉にこれからどうするか、ごまかしたり騙したりする必要が無くなったから。
「ただ、ミナト君はこの調子でいけば大人になれるでしょ。ここで無茶することはないと思うの」
「でもそうやって大人になって何が残るんですか」
そこへの疑問が今の僕の行動になったのだ。
「自分の子孫を未来に残せるわ。それは学校でも習ったでしょ」
そう、習って知っている。今まではそれが当然だとも思っていた。しかし……
「そうかもしれないけれど、でも思ったんです。それに……」
僕はつい思ってしまった事を口に出す。
「僕が残したいとすれば、アキコ姉と僕との子孫を残したい」
言ってしまってふと恥ずかしくなる。僕はとんでもない事を言っているのではないだろうか、そう感じたから。
子供を作る方法は知っている。決められた日にシステムに選ばれた相手と性交する事だ。身体の調子や状況をシステムが管理調整した上での事なので、数日生活を共にして性交すればほぼ確実に妊娠する。
妊娠した女性は専用の管理居住区に移り出産。子供が乳離れするまでそこで暮らす。男性は再びシステムにマッチングされるか25歳になるまで普段の生活を送る。そんな方法だ。
相手は遺伝子を解析した上でシステムによって決められる。仮にアキコ姉がお別れにならないで、僕も大きくなったとしても、子孫を残す相手がアキコ姉になる可能性はかなり低い。
その事はわかっているし特に疑問を感じた事は無かった。なのに僕は今、何を考えているのだろう。何を言ってしまったのだろう。とんでもなく恥ずかしい事を言ったんじゃないだろうか。
「わかったわ。それじゃ準備をしてくる。用意できたら声をかけるね」
アキコ姉は特にいつもと変わらない感じで自分のブースへ。その事にほっとしつつ、僕も自分のブースに入り荷造りを始める。
学校通学用の背負いカバンに下着類とか服を詰める。本当はもっと大きいカバンがあればいいのだけれど使えるカバンはこれだけ。それでも配給制で最小限度しか無い衣服はあっさりこのカバンに入ってしまう。
あとは非常用の食糧缶と乾パンと食事で残したブロックと。水筒代わりにプラボトルもある分は入れておこう。
これでカバンは目一杯。あとは寝具のタオルケットを畳んで紐でしばってカバンにくっつける。
これ一枚あれば何かの役に立つだろう。寝場所の代わりには少し薄くて寒いかもしれないけれど。
あとはあの拾ったコロニーの図面を印刷して折りたたみ胸ポケットへ。取り敢えずここを出るまでは役に立つだろうから。
あと思いついてあの拾った記録媒体をカバンの内ポケットに入れる。これはまあ、御守りみたいなもの。
最後に非常用の懐中電灯をカバンの外ポケットに入れれば終わり。元々個人の持ち物なんてそんなにある訳じゃ無い。教科書と本と枕、それに敷き布団を置いていくだけだ。
ブースの外に出るとアキコ姉がプラボトルに水を汲んでいた。僕もそれに倣ってプラボトル四本に水を汲む。
「案外簡単なものね。荷物もそんなに無かったし」
アキコ姉の装備も見た限り僕と同じ感じだ。配られている物が共通だからしょうがないけれど。
別にそれに良い悪いも無い。単なる現実。少なくとも僕はそう思っていたしそれを受け入れていた。
しかし今、僕は気づいてしまったのだ。アキコ姉とお別れしたら、アキコ姉もまたそうなってしまうという事に。
変な感情かもしれない。少なくともこの団地の規則からは外れている。
しかし僕はこの時、それは嫌だと強く思った。アキコ姉とお別れしたくない。そう思ってしまった。
だから僕はつい言ってしまう。
「アキコ姉、僕からもお願いがあります」
「何かな?」
アキコ姉はちょっと首を傾げて尋ねる。
「散歩に付き合って下さい。長い散歩に」
アキコ姉は少しの間考えるような素振りをした後、ゆっくりと頷いた。
「いいよ。それでどんな用意をしていけばいいかな?」
思ってもみなかった質問をされてしまう。用意をする、か。
ただの散歩なら用意は必要ないだろう。アキコ姉は僕の考えに気づいたのだろうか。今の質問の意味がわかってしまったのだろうか。
しかし僕はこの質問を利用しようと思った。ちょうどいいと思うことにした。
「食べ物を持てるだけ。次に服を持てるだけ。蓋をして水を入れられるものがあったらそれも一緒に」
此処を離れて遠くまで行けるように。そんな用意だ。
もちろん僕が言ってこの用意、常識的などう考えても怪しいし常識から外れている。
それでもアキコ姉は頷いた。
「長い散歩になりそうだね。でもいいの、ミナト君。帰れなくなっても」
やっぱりアキコ姉、僕の考えに気づいているとしか思えない。
ここは確認した方がいいだろう。
「何でそう思いますか」
「顔に書いてあるもの」
あっさり。勿論本当に書いてあるわけは無い。
でも僕はアキコ姉の返答に驚きつつもちょっとだけほっとしている。これでアキコ姉にこれからどうするか、ごまかしたり騙したりする必要が無くなったから。
「ただ、ミナト君はこの調子でいけば大人になれるでしょ。ここで無茶することはないと思うの」
「でもそうやって大人になって何が残るんですか」
そこへの疑問が今の僕の行動になったのだ。
「自分の子孫を未来に残せるわ。それは学校でも習ったでしょ」
そう、習って知っている。今まではそれが当然だとも思っていた。しかし……
「そうかもしれないけれど、でも思ったんです。それに……」
僕はつい思ってしまった事を口に出す。
「僕が残したいとすれば、アキコ姉と僕との子孫を残したい」
言ってしまってふと恥ずかしくなる。僕はとんでもない事を言っているのではないだろうか、そう感じたから。
子供を作る方法は知っている。決められた日にシステムに選ばれた相手と性交する事だ。身体の調子や状況をシステムが管理調整した上での事なので、数日生活を共にして性交すればほぼ確実に妊娠する。
妊娠した女性は専用の管理居住区に移り出産。子供が乳離れするまでそこで暮らす。男性は再びシステムにマッチングされるか25歳になるまで普段の生活を送る。そんな方法だ。
相手は遺伝子を解析した上でシステムによって決められる。仮にアキコ姉がお別れにならないで、僕も大きくなったとしても、子孫を残す相手がアキコ姉になる可能性はかなり低い。
その事はわかっているし特に疑問を感じた事は無かった。なのに僕は今、何を考えているのだろう。何を言ってしまったのだろう。とんでもなく恥ずかしい事を言ったんじゃないだろうか。
「わかったわ。それじゃ準備をしてくる。用意できたら声をかけるね」
アキコ姉は特にいつもと変わらない感じで自分のブースへ。その事にほっとしつつ、僕も自分のブースに入り荷造りを始める。
学校通学用の背負いカバンに下着類とか服を詰める。本当はもっと大きいカバンがあればいいのだけれど使えるカバンはこれだけ。それでも配給制で最小限度しか無い衣服はあっさりこのカバンに入ってしまう。
あとは非常用の食糧缶と乾パンと食事で残したブロックと。水筒代わりにプラボトルもある分は入れておこう。
これでカバンは目一杯。あとは寝具のタオルケットを畳んで紐でしばってカバンにくっつける。
これ一枚あれば何かの役に立つだろう。寝場所の代わりには少し薄くて寒いかもしれないけれど。
あとはあの拾ったコロニーの図面を印刷して折りたたみ胸ポケットへ。取り敢えずここを出るまでは役に立つだろうから。
あと思いついてあの拾った記録媒体をカバンの内ポケットに入れる。これはまあ、御守りみたいなもの。
最後に非常用の懐中電灯をカバンの外ポケットに入れれば終わり。元々個人の持ち物なんてそんなにある訳じゃ無い。教科書と本と枕、それに敷き布団を置いていくだけだ。
ブースの外に出るとアキコ姉がプラボトルに水を汲んでいた。僕もそれに倣ってプラボトル四本に水を汲む。
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