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#4 戻れない場所の先
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それで何処へ行くか、宛てはあるの?」
「この団地から出ようと思います」
僕は胸ポケットからあの図面を出す。図面の現在地を指さしながらアキコ姉に説明。
「今いる『西一四一第六街区』の図面です。まずはここの通路からこの団地を出て、こっちの通路へ行こうと思います。うまく行けばまだ生きている無人の団地とか、もっと豊かで僕らも生きていける団地があるかもしれないですし」
アキコ姉はちょっと驚いたような顔で僕に尋ねる。
「どうしたのこれ。本にも端末を叩いても載っていないのに」
「去年、閉鎖区画を一人で探検している時に見つけたんです」
「凄いね。これがあれば色々迷わなくて済むかもしれないわ」
アキコ姉に褒められるとちょっと嬉しい。
しかし残念な事実もある。
「でもここの団地分しか無いんです。この先が他の何処に繋がっているかもわからないですし」
「ううん。これだけでも充分に貴重な資料よ」
アキコ姉は図面を隅から隅まで見た後、折りたたんで僕に渡した。
「ありがとう。それじゃ行こうか。気づかれる前にここから離れた方がいいでしょ」
「追いかけては来ないと思うけれど、確かに早いほうがいいでしょうね」
エネルギー不足なので団地内の警戒とかそういう事はやっていない。その辺は閉鎖区画を探検した時にわかっている。
でもまあ早いほうがいいというのは事実だろう。遅くなっていいことなど何も無いから。
「じゃあ行きましょうか」
「はい」
僕達は並んで第二居住区の扉から通路へ出た。学校と反対方向に歩いて今は閉鎖されている第一居住区の前へ。
この先の通路は隔壁で閉ざされているけれど僕は知っている。第一居住区内から迂回できる通路があるのだ。
だから非常灯だけしかついていない第一居住区へ。
◇◇◇
第一居住区を通り、壊れた非常扉からまた通路に出て、発電所区画の横を通る。
この辺りはまだ団地の図面に載っている。しかしここまで来る人は多分いない。
もはやこの辺りの機器について知っている人はいない。全自動化され故障修理も自動で行う機械群に全てを任せるだけだ。
最低限の照明だけは灯っている通路をアキコ姉と二人で歩く。
「ここはまだうちの団地なのかな」
「まだ図面に載っている範囲です。もう少し先に隔壁があって、そこから先が団地の外になります」
「ミナト君はこの辺りには来たことがあるの?」
「その隔壁までは。だからそこまでは大丈夫です」
「凄いな、良く知っているんだね」
そう言われると少し恥ずかしい。
特に役に立つだろうと思って来たわけじゃない。単に知らない場所をこっそり探検するのが楽しかっただけ。他の人は知らない場所を知っているという優越感もあった。
しかしまさかアキコ姉とここを歩くとは思わなかったけれど。
結構歩いてようやく隔壁の場所。ここの隔壁は横に非常扉があって、そこを通れる。
「ここで団地は終わりです。ここから先、通路はあるんですけれど何処へ通じるのかはわかりません」
そう行って僕は扉を開ける。向こう側に同じような通路が続いているのが見えた。
「ありがとう。そこでここから出る前に、質問ひとついい?」
「何ですか」
僕はアキコ姉の方を見る。
アキコ姉は僕の真っ正面に立って僕の目を見た。
「この非常扉は片方しかドアノブが無いわ。だからこっちからは開けられても向こうからは開けることが出来ない。つまり出たらもう帰れない。
ここから先はどうなっているかわからない。生きていける環境に辿り着けないかもしれないの。
でも今だったらまだ戻れるよ。引き返せばいつもの生活に戻れるわ。ミナト君は私と違って来年以降も生きられるだろうし。
本当にここを出ていいの。もう一度ちゃんと考えて」
黒い大きい瞳が僕に問いかける。
アキコ姉が言いたい事はわかる。ここを出れば今まで守られていた食事とか安全な寝場所とか全てが無くなるのだ。
しかし僕はもう自分がどうしたいかわかっている。
アキコ姉を連れ出してここまで来たのは正直なところ勢いが半分以上。でもここまで来てアキコ姉と話した今、自分がどうしたいのかはっきりわかった。
「僕はアキコ姉と一緒にいたいんです。アキコ姉にとって迷惑でも」
「ありがとう」
ふわっと柔らかくて熱い感触が僕を包む。僕はアキコ姉に抱きしめられた。
「私もよ。ミナト君と一緒にいたい。ずっと」
自分のではない匂いがちょっとしたような気がした。酸っぱい系かな、よくわからないけれど嫌いじゃない匂い。
僕もアキコ姉をちょっと軽めに抱きしめる。熱くて柔らかくて気持ちいい。このままこうしていたい位に。
でもそろそろ行かないと。アキコ姉と僕とで生きられる場所を探しに。
そこまで辿り着けるか、そもそもそんな場所があるかもわからないけれど。
僕が腕から力を抜くと同時にアキコ姉も腕を放して離れる。
「行こうか。私達の場所を探しに」
僕は頷いて、そして非常扉を開けた。
ここからは団地の外。今までの規則はもう通用しない。
「この団地から出ようと思います」
僕は胸ポケットからあの図面を出す。図面の現在地を指さしながらアキコ姉に説明。
「今いる『西一四一第六街区』の図面です。まずはここの通路からこの団地を出て、こっちの通路へ行こうと思います。うまく行けばまだ生きている無人の団地とか、もっと豊かで僕らも生きていける団地があるかもしれないですし」
アキコ姉はちょっと驚いたような顔で僕に尋ねる。
「どうしたのこれ。本にも端末を叩いても載っていないのに」
「去年、閉鎖区画を一人で探検している時に見つけたんです」
「凄いね。これがあれば色々迷わなくて済むかもしれないわ」
アキコ姉に褒められるとちょっと嬉しい。
しかし残念な事実もある。
「でもここの団地分しか無いんです。この先が他の何処に繋がっているかもわからないですし」
「ううん。これだけでも充分に貴重な資料よ」
アキコ姉は図面を隅から隅まで見た後、折りたたんで僕に渡した。
「ありがとう。それじゃ行こうか。気づかれる前にここから離れた方がいいでしょ」
「追いかけては来ないと思うけれど、確かに早いほうがいいでしょうね」
エネルギー不足なので団地内の警戒とかそういう事はやっていない。その辺は閉鎖区画を探検した時にわかっている。
でもまあ早いほうがいいというのは事実だろう。遅くなっていいことなど何も無いから。
「じゃあ行きましょうか」
「はい」
僕達は並んで第二居住区の扉から通路へ出た。学校と反対方向に歩いて今は閉鎖されている第一居住区の前へ。
この先の通路は隔壁で閉ざされているけれど僕は知っている。第一居住区内から迂回できる通路があるのだ。
だから非常灯だけしかついていない第一居住区へ。
◇◇◇
第一居住区を通り、壊れた非常扉からまた通路に出て、発電所区画の横を通る。
この辺りはまだ団地の図面に載っている。しかしここまで来る人は多分いない。
もはやこの辺りの機器について知っている人はいない。全自動化され故障修理も自動で行う機械群に全てを任せるだけだ。
最低限の照明だけは灯っている通路をアキコ姉と二人で歩く。
「ここはまだうちの団地なのかな」
「まだ図面に載っている範囲です。もう少し先に隔壁があって、そこから先が団地の外になります」
「ミナト君はこの辺りには来たことがあるの?」
「その隔壁までは。だからそこまでは大丈夫です」
「凄いな、良く知っているんだね」
そう言われると少し恥ずかしい。
特に役に立つだろうと思って来たわけじゃない。単に知らない場所をこっそり探検するのが楽しかっただけ。他の人は知らない場所を知っているという優越感もあった。
しかしまさかアキコ姉とここを歩くとは思わなかったけれど。
結構歩いてようやく隔壁の場所。ここの隔壁は横に非常扉があって、そこを通れる。
「ここで団地は終わりです。ここから先、通路はあるんですけれど何処へ通じるのかはわかりません」
そう行って僕は扉を開ける。向こう側に同じような通路が続いているのが見えた。
「ありがとう。そこでここから出る前に、質問ひとついい?」
「何ですか」
僕はアキコ姉の方を見る。
アキコ姉は僕の真っ正面に立って僕の目を見た。
「この非常扉は片方しかドアノブが無いわ。だからこっちからは開けられても向こうからは開けることが出来ない。つまり出たらもう帰れない。
ここから先はどうなっているかわからない。生きていける環境に辿り着けないかもしれないの。
でも今だったらまだ戻れるよ。引き返せばいつもの生活に戻れるわ。ミナト君は私と違って来年以降も生きられるだろうし。
本当にここを出ていいの。もう一度ちゃんと考えて」
黒い大きい瞳が僕に問いかける。
アキコ姉が言いたい事はわかる。ここを出れば今まで守られていた食事とか安全な寝場所とか全てが無くなるのだ。
しかし僕はもう自分がどうしたいかわかっている。
アキコ姉を連れ出してここまで来たのは正直なところ勢いが半分以上。でもここまで来てアキコ姉と話した今、自分がどうしたいのかはっきりわかった。
「僕はアキコ姉と一緒にいたいんです。アキコ姉にとって迷惑でも」
「ありがとう」
ふわっと柔らかくて熱い感触が僕を包む。僕はアキコ姉に抱きしめられた。
「私もよ。ミナト君と一緒にいたい。ずっと」
自分のではない匂いがちょっとしたような気がした。酸っぱい系かな、よくわからないけれど嫌いじゃない匂い。
僕もアキコ姉をちょっと軽めに抱きしめる。熱くて柔らかくて気持ちいい。このままこうしていたい位に。
でもそろそろ行かないと。アキコ姉と僕とで生きられる場所を探しに。
そこまで辿り着けるか、そもそもそんな場所があるかもわからないけれど。
僕が腕から力を抜くと同時にアキコ姉も腕を放して離れる。
「行こうか。私達の場所を探しに」
僕は頷いて、そして非常扉を開けた。
ここからは団地の外。今までの規則はもう通用しない。
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