機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第27章 ひとつだけの嘘~夏の旅行・後編

135 名古屋遭難事件

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 時間的には良く眠れたと思う。

 身体的には疲れはきっととれているのだろう。
 しかし精神的にはその限りではない。

 あの体勢は皆で夢の中に入る体勢。香緒里ちゃん十八番の魔法だ。

 そして夢の中の同じ部屋、同じ布団に同じ面子の中で。
 人間解剖と称する恥ずかしい話大会とか、カラオケ大会とか枕投げとか、まあ色々やった訳だ。

 なので眠れているのか眠れていないのか、妙な感じだ。
 それでも朝風呂で無理やり目を覚まし、4人で朝食を食べ散歩にも出る。

 朝食は、いかにも正統派日本の正しい旅館の朝御飯という感じ。
 これもなかなか美味しかった。
 それでも詩織ちゃんには少し足りなかったらしく、朝散歩中の朝市やもう開いている店頭で色々買い食いをしていたけれど。

「いい街です。また来たいですね」

 風遊美さんの言葉に、香緒里ちゃんも頷く。
 2人はこういう雰囲気の場所が好きだから、そう思うのだろう。
 でも詩織ちゃんはどうだろう。

「そうですね。買い食い美味しいからまた来てもいいのです」

 やっぱり詩織ちゃんはそっちだったようだ。
 まあ結論的には同じだから、この際いいとしよう。

 富山から乗ったのと同じ特急に乗って、今度は名古屋まで。
 相変わらず駅弁を2個食べた奴がいたのはお約束。
 名古屋駅から歩いて5分の今日の宿に、まずは荷物を預ける。

「今日はちゃんと夕食があるので、17時までに集合です。なおチェックインは15時からで、最初に来た人はチェックインお願いします。長津田の名前で11人で予約といえば通りますから」

 本当は15時過ぎには俺が戻ってきて、チェックインする予定なのだけれど。

「あと今日の昼と明日の昼以降の食事は予約していませんので、勝手に食べて下さい。この街は美味しいものも変なのも大量にありますので、センスにおまかせします。では解散!」

 やっぱり北米組が最初に出ていく。
 そして。

「とりあえず残った皆で飯喰わないか」

 奈津希さんから提案があった。
 確かに遅めの昼食を食べたい時間だ。

「そうですね。チェックインまでそれほど時間も無いし、とりあえず名駅で軽く食べましょうか。夕食は名古屋名物入りで結構豪華らしいですから」

 北米組以外の8名は再び名駅へ。
 ビックカメラ横から地下に入る。
 うろうろしていると、すーっと詩織ちゃんが味噌カツ店に吸い込まれそうになった。

「これちょっと待て。皆の意見を聞いてから」

「いいんじゃないかな名古屋名物だし。味噌カツでまずい人」

 誰もいない。

「なら入ろうぜ。席もありそうだし」

 ちょうど需要を外した時間だったのだろう。
 2人がけ横並びの席4つをくっつけて8人席に出来た。

 皆でメニューを見て色々頼む。
 俺は素直にみそかつ丼キャベツ味噌汁付。
 主流は俺と同じだ。

 しかし問題児はやっぱりいる訳で。

「黒豚わらじとんかつ定食に、どて煮とロース串かつ5本と特製焼豚なのです!」

 誰が頼んだのかは、まあ予想通りだ。
 まあこいつは食べ残した事は無い。
 だからもう放っておこう。

 ◇◇◇

 食事の後、もう少し駅付近で観光していくという主流派を残し、俺は香緒里ちゃんと風遊美さんの3人と宿へと戻った。
 時間は15時ちょうど。
 チェックインをして部屋に入る。

 今日の部屋は28畳の大広間で、14畳と14畳の2つの部屋に分ける事も出来る。
 きっとこの面子だと分けないだろうけれども。

 3人で着替えてのんびりしていたら、北米組が帰ってきた。
 何故か3人共微妙に顔色が悪く、調子も悪そうだ。

「食事の時間になったらおこしてくらはい……」

 ジェニーが、そしてロビーも倒れ込む。

「どうしたんだ」

 仕方ないので唯一話ができそうなソフィーに尋ねたところ。

「遭難しました」

 予想外の答が返ってきた。
 街中で遭難?

「道に迷ったのとは違うよな」

「山に登って遭難です」

 名古屋に遭難するような山ってあっただろうか。

「甘口抹茶小倉スパは駄目です。あれは登頂できません。無理するとああなります」

 ああ、とは倒れている2人の事だろう。

「では私も寝ます。後は宜しくお願い致します」

 理解出来る説明をしてもらう前に、ソフィーもまた倒れてしまった。
 山で遭難で、甘口抹茶小倉スパ?

「何が起きたんでしょうか」

「名古屋に遭難するような山って無いですよね」

「無い……と思う。それに甘口何とかだろ」

「甘口抹茶小倉スパです。スパって温泉の事でしょうか」

「微妙に気持ちよく無さそうな温泉ですね。修兄は聞いた事が有りますか」

「無いな。ちょっと検索してみるか」

 スマホを出して検索してみる。
 そして出てきた結果に、俺は慄然とした。

「どうもこの世の地獄を見てきたらしい」

 俺は2人にそう告げて、スマホの表示をそのまま見せる。

「ちょっと、これ……酷いです」

「これは詩織でも無理ですね」

 名古屋の西、南山大の近くにその山はあるという。
 その名は喫茶マウン●ン。
 奇食を求める人の聖地だ。

 特にそこの甘口の大盛りのスパゲティは来る人を拒み、完食という栄光を目指す者を撥ね付ける。
 完食した者は登頂者としての栄光を得て、敗退した者は遭難者として蔑まれる。
 そんな、厳しい厳しい場所だそうだ。

「無理しやがって……」

 そう言った俺の言葉に反応したのか、ジェニーとロビーが倒れたままポケットから何かを取り出す。
 それが何かはWebに載っていた。

「それは、登頂者の印のスタンプカード」

 それぞれ『5合目 甘口バナナスパ』と『7合目 甘口メロンスパ』のところにスタンプが押されている。

「ロビーと私は登頂したれすよ。でも今回はもうギブれす。今回はこのへんで勘弁してやるのれす」

「日本を甘く見ていたデス。日本にもツー甘くてツー多い文化いたデス」

 折角旅行に来たのだし、もう少しまともな物食べろよと俺は思うのだが。

 がやがやと聞き覚えのある声が近づいてくる。
 名駅で別れた連中も帰ってきたようだ。
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