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第12章 王都へお出かけ

第84話 雑談あるいは舞台裏

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「そういえばフィオナは何故ゴーレムを買おうとしたんだ?」

 ミランダからそんな台詞が出た。
 そういえばそうだな。ヴィットリオさん登場だの食事だのですっかり忘れていた。

「ちょっと自分で試したい事があってね。クレイゴーレムだと部屋が汚れるし自作のウッドゴーレムでは精密な動きが出来ないからさ」

「何を試したいんですか?」

「まだ秘密だよ。うまくいくかわからないし」

 ナディアさんにそう答え、一息おいてから更に続ける。

「前にオッタービオさんの工房に行った時に思ったんだ。僕も今までのように誰かが考えた事や調べた事をまとめるだけじゃなくて、自分で何かを作ってみようってね。幸いこれで道具も揃ったしね。しばらくこつこつとやってみるつもりだよ」

 道具というのは何だろう。ゴーレムの他に何か使えそうなものを入手しただろうか。

「もちろんお仕事はお仕事として今まで通りやるよ。ゴーレムを使っての作業や研究はまだ僕の趣味の段階だね。でも今までアシュのところに居て知った色々な知識とオッタービオさんに聞いたゴーレムの知識があればちょっと面白い物が出来ると思うんだ。どれくらいかかるかはわからないけれど」

 何をする気だろうというのは今は教える気はないんだろうな。秘密って言っていたし。

「出来ましたら見せて下さいね」

「ロッサーナ先輩には見せてもいいけれどね。スティヴァレ国のロッサーナ殿下には見せられないかもしれないな」

 おっと、それだけの物なのか。

「わかりましたわ」

 どうわかったかはわからないが殿下はそう返答する。

 さて、本題に戻ろう。ちなみに本題とは料理のことだ。
 そういえばこのアーティチョークに詰め物して煮たものもラティオ名物だよな。そう思って手を伸ばしたところで陛下から声がかかる。

「そういえばアシュノール君のところは最近児童書や小説が中心だよね。前みたいに問題が出そうな学術書とかは出さないのかい」

「医学書の追補版は細々出していますけれどね」

 怪傑ゾロはちょい問題ありとはならなかったようだ。小説という事で見過ごされたのかな。

「怪傑ゾロは読んだけれどまだパンチが足りないかな。娯楽小説としては面白いけれどね。
 例えば北西で接するフラン国では一部の貴族と民衆が王政と一撃触発の状態になっているらしいじゃないか。そういう国レベルの危ない話とかは題材にしないのかい」

 おい待て陛下。自分からそういう危険な事を言うものじゃない!

「その辺は一般民衆には知られていないですから。ニュース号外も国外の事は僅かしか載っていませんし」

「それにスティヴァレは周辺国と比べると庶民が豊かと聞いております。ですからその分そういった話にはなりにくいのではないかと思いますわ」

 ロッサーナ殿下とテディがそう言い訳してくれた。しかしまずいかもしれないと俺は感じる。陛下がにやりとしたからだ。

「スティヴァレだって問題が無いわけじゃない。ちょっと前アシュノール君の偽者が出たしさ」

 その話題になったか。ちょうどいい。俺はあえてこの場で疑問をぶつけてみる。

「陛下か殿下が黒幕じゃないですよね、あの騒動」

 陛下は苦笑する。

「残念ながらあの偽者は僕でも妹《ロッサーナ》でもないよ。ついでに言うとアシュノール君ではない事も把握済みさ。
 勿論ああいう事が起きてしまったのは施政者として把握不足だったという事だろう。取り敢えず全領主に特別監察を実施して同じような事が無いか確認している。既に数件問題事案が見つかって処理しているところだね。そのおかげか2件発生した以降は事案は発生していない」

「犯人をご存知という事も無いですよね」

「僕の手の者じゃないよ。あの2件の犯行はさ」

 ちょっと安心した。

「ただ不届きというか緊張感が足りない皆さんが領主の中には結構いてね。本当に怖いのは僕じゃない。領民のみなさんだという事がわかっていない。その辺の怖さを知らないから自分の利益ばかり考えて領民をないがしろにする。領民にそっぽをむかれたらどんな事態になるか想像できていない。
 まあ領主家も上だけじゃ無くて、そこに勤めている皆さんとかいるからね。だからまだ領地全没収までやったところは無いけれどさ。そのうち厳しい措置も必要になるかもしれない。
 そういう意味では今回の偽アシュノール君事案に彼らもまた助けられた感じだね。無論国法を犯すのを認める訳にはいかないんだけれどさ、僕の立場じゃ」

 なるほど。陛下は国王としてそういう風に捉えている訳か。

「ところであの事案の偽アシュノール君は何故あの名前を使ったんだろうね」

 それについては既に考えた。

「すぐ前の魔法武闘会に出ていて正体不明だから使いやすかったんじゃないですか」

「それもあるだろうけれどね。それだけじゃないと僕は思うんだ」

 陛下はそう言ってにやりとする。

「実は犯人はアシュノール君に何か用があるんじゃないかな。接触したくてわざとあの名前を使ったとか」

 おい待て。

「チャールズ・フォート・ジョウントには陛下とヴィットリオさん以外の知り合いはいない筈ですけれどね。魔法武闘会でしか使わなかった名前ですから」

「そうかな」

 ちょい待て陛下。

「まさかこの名前、俺の他に誰か使いましたか?」

「残念ながらこのチャールズ・フォート・ジョウントは他に同一の名前が無い事を確認して作った名前だ。だからアシュノール君じゃないチャールズ君はいない筈だ」

 ふむふむ。

「なら偽チャールズ・フォート・ジョウントの正体、陛下はご存じなんですか」

「さっきも言ったようにあの犯行に僕は関係ないよ。この名前についてもギルドでつくってアシュノール君に渡しただけだしさ」

 どうにも怪しい微妙な言い方だ。知らないでは無く関係ないと言ったところなど特に。
 でも関係ないというのが確かならこれ以上突っ込むのも無理だろう。少なくとも今は。

「まあ偽チャールズ君もあの2件以来姿を消してしまったけれどね。だから本当にアシュノール君に用件があるなら今度は別の方法を取ってくるかもしれないな」

 おいおい。

「まあそんな相手いないですけれどね」

 何せ魔法武闘会でしか使っていない名前なのだ。記者とかそういった手合いではなく俺個人に用がある奴なんていないだろう。

「それじゃ次の本も楽しみにしているよ。領主どもだけじゃなくて国王としての僕もぎくっとするくらいの本が出てもいいかなと思っているしさ」

 ちょっと言い方が微妙だったから突っ込んでみよう。

「国王としてじゃない場合はどうですか?」

「僕にとって国王というのは取り外せない属性だからね。だからその質問は無しという事で願いたいな」

 取り外せない属性か。そう言った時の台詞に奴の何か微妙な感情を感じた気がした。
 もちろん俺の気のせいかもしれない。人の気分とか空気を察するなんてのは俺の不得意科目だから。
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