神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀

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第10話 雨期に来るもの⑶

46 誘導

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 雨が2~3日に一度はそこそこ降るようになった。溜め池の水も、じわじわと貯まりはじめている。
 河川も日本の香川県なら財田川上流とか、香東川上流といった感じの辺りにダムと貯水池を作り、村方向へ導水出来るようにした。

 村はとんでもなく順調だ。
 冬野菜の播種は終わって、既にある程度育ち始めている。
 果樹の収穫は一通り終わった上、油や果汁を絞ったりなんて加工も進んでいる。

 あとは漁業も、本格的に稼働を始めた。
 地引き網やバッチ網で、コノシロっぽい魚、クロダイっぽい魚、ボラっぽい魚、サヨリっぽい魚、イワシっぽい魚が中心で、干物っぽいものも出回ってきている。

 ただイワシを干したものは、伊吹いりことは風味が違った。
 これは大きさではなく、製法の違いによるもののようだ。
 此処では海水で洗った後、煮ることなく、魔法で一気に乾かしている。
 その方が天日乾燥より早く、風味も逃げないとのこと。

 そのせいか魚の違いのせいか、出汁として使用すると伊吹いりこより強めの味になる。
 ただそれさえわかっていれば、うどん出汁として使っても悪くない味だ。

 雨期で平野部に下りてきた鹿や猪なんてのも、4~5日に1頭は狩っている。
 おかげで定期的に肉が供給される他、肉系保存食の蓄積も順調。

 ◇◇◇

 10月の半ばに、キンビーラやアルツァーヤと食事をするいつもの岩場の少し上にあたる場所に、窓ガラス付きの建物を建てた。
 そろそろ寒くなるし、雨が降ったりもするから。

 この場所は、ケカハとセキテツのちょうど中間。
 私とアルツァーヤ、キンビーラの間の取り決めで、この三柱は自由に入れるし、神力も使える状態になっている。

 そして11月1日第3曜日、此処の太陽時で11時過ぎ。
 いつものように昼食会をしようとしたところだった。

『ミョウドーのナハルがケカハに侵入してきました。場所はサントーゴエ付近。神力は3,000程です』

 ついに来てしまったようだ。できれば戦いたくは無かったのだけれど。
 私は溜め息をついて、キンビーラとアルツァーヤの方を向く。

「ついにナハルが攻めてきたようです。神力は3,000程です。これから、戦って参ります」

 神力が3,000ということは、300人で10日分。つまりキンビーラが言った『実際の神力は住民300人分程度』という予想通り。
 おそらく今のナハルが持てる最大値だろう。

 この程度なら問題ない。それなりの作戦は立てたし、実証実験もしている。

「わかった。無理はするなよ」

「ケカハ内で戦う限り大丈夫です。では行ってまいります」

 私は頭の中でケカハの地図を意識する。
 サントーゴエを選んだのは、ナルゼ達の記憶から村への行き方を知った為だろう。
 整備した道が戦いで壊れるのは避けたいけれど、仕方ない。

 サントーゴエを意識すると、ナハルの居場所はすぐに判明する。
 その50m程南西側、道の真ん中を意識。
 
 谷を沢に沿って緩やかに下りていく道の途中に到着。周囲は細葉樫の林で、背の低い日本にはなかった種類の葉の下草が地表を覆っている。

 そして私の前方、峠方向に朱色の鎧姿がいた。
 西洋風の甲冑ではなく、日本の戦国時代っぽい鎧だ。
 武器はおそらく日本刀。私の身長と同程度はありそうな奴を、背中に斜めに背負っている。
 奴は私の方を向いて、口を開いた。

「貴様が新たなケカハの土地神か」

「ええ。そちらの名乗りは結構。見ればわかりますから」

 見える距離にいる神同士に、名乗りなど必要ない。全知で情報を知ることが出来るから。

 ナハルの身長は私と同じ程度で、体形はマッチョ。面具に隠れて顔はわからないが、髪は黒色だ。

「なら結構。滅びたくなければ、ケカハを明け渡せ」

「冗談でしょう。前回、神がいないケカハに攻め入って、結局何も出来ずに逃げ帰ったような哀れな神がそんな事を言うとは片腹痛いです。今すぐミョウドーに戻るなら、見逃してやってもいいですが、どうですか」

 見逃すつもりはない。単なる挑発だ。

「くそ、女が舐めやがって」

「舐められる程度の実績しかない駄目神に対する、順当な評価です」

 私は本来、こういう口喧嘩は得意ではない。だからこの時の為に、色々とシナリオを考えてきた。

「ケッ! なら望み通り、消してやる」

 ナハルは背中から刀を抜こうとする。
 念のため、沢の向こう側にある岩の上を意識して移動。
 更に挑発として石礫を1個、全在で力を与えてナハルの顔面目掛けて飛ばす。

 ナハルの姿が消えた。石礫が飛んでくるのに気づいたようだ。
 ならという事で、私は更に、登山道を50m程下ったところへ移動。

 一瞬後、ナハルが私がいた岩のすぐ近くへと出現した。同時に刀を振り下ろしている。
 私がいた岩とその背後の木々が裂けるように左右に別れ、そして崩れた。

『あれは単なる刀ではありません。振った刀身の延長上まで斬る事が出来る神器です。今のナハルの神力ですとおよそ100m程度先までを斬る事が可能です』

 神器は私の金剛杖と同様に身体の一部扱いで、壊しても神力を使用して再生可能。更には神力を使用する事で特殊な効果をもたらす事が出来る。

 なんて事は勿論、私も事前学習済みだ。だから別に神器に特殊効果があったところで、驚きはない。

「しかし何で、ケカハを襲おうなんて考えたのでしょうか。ミョウドーはケカハと違って、そこまで環境が悪化してはいないと聞いていますが」

 話しながら、全知で次に移動する場所をイメージしておく。
 全知でも、神の思考までは読めない。
 だから視線を動かす等外から見てわかる動作をしなければ、次に私が何処へ移動しようとしているのか、当てるのは困難な筈だ。

「知れたこと、まずはケカハを我が領域とし、更に力をつけてセキテツ、そしてトサハタと、フタナジマ全部を支配する。更にはフタナジマだけでなく、海の向こうのアキヅシマを治め、アキヅシマとフタナジマの盟主となるのだ」

 おいおい。シンプルすぎてその間に必要な事項が抜けている。
 そう思いつつ、更に谷の下方向、やや川から離れた場所へと移動。
 直後に私がさっきまでいた場所が、登山道の路面や背後の木々ごと斬られた。

「アキヅシマの盟主となって、どうする気ですか?」

 まだ私は本気で攻撃をかけない。
 奴をもっとミョウドーとの境から離す必要があるからだ。

「アキヅシマ、更には更なる西にあるツクシノシマまでの全てをナハルの名の下に統一し、平和で豊かな世界を生み出す」

 いや、お前には無理だろう。

「ミョウドーの住民からも大して信仰されていない神が、統一して豊かな世界を生み出せるでしょうか」

「信仰されていないのは、今が混乱の中だからだ。それにフタナジマという田舎にいるような愚かな神や人間は、我の偉大さに気づけない。しかしアキヅシマまで出れば、人々もきっと気づくだろう。フタナジマやアキヅシマを統一出来るのは、我しかいないと」

 その自信は何処から来るのだろう。
 既に一度、攻略に失敗してミョウドーへ逃げ帰っているのに。
 新米の神である私相手ですら、こんな感じで優位に立てない位なのに。

 でも考えてみれば、日本でも似たような感じの連中はいた。
 たとえばSNS等で議論が発生した際。専門家は謙虚なのに、半可通ほど自信たっぷりに答を決めつけて断言していたりする。
 知識や思考力が足りない輩ほど、様々な可能性に気づけずに、安直な答こそ全てだと思い込めるからだろう。
 
 世界が違うし、人と神の違いがある。
 けれど愚かな輩は似たようなものなのだ、きっと。
 そう思いながら、移動を繰り返し、時々は石礫を加速して攻撃をして、ナハルをミョウドーから離れる方向へと誘導していく。
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