神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀

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追記 ガシャールの挑戦

EX1 突然の書状

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 セキテツとの境にある、いつもの岩場。

「トサハタのガシャールから、コトーミあての書状を預かって参りました。こちらです」

 そう告げて封筒を出したアルツァーヤの様子が、明らかにおかしいと感じる。

「何か問題があったのでしょうか?」

「まずはご覧になってから、お願いしますわ」

 つまり此処で読めという事だな。
 そう解釈して、開封して読ませてもらう。

 内容は大雑把にまとめると、
  ○ 先日の酒についてのお礼
  ○ 私が領地の住民ほぼ全員に魔法を付与したこと、その領域がミョウドー、フカシュー、セート海域の島嶼部に広がった事ついて、脅威を感じていること
  ○ その脅威を取り除くため、決闘を申し入れること
という感じだ。
 
 なお決闘については、
  ○ 公平を期すため、どちらの領域でもないセキテツの山間部で行うこと
  ○ 神力をどれくらい持ち込むかは自由であること
  ○ ガシャールが勝利した場合は、ミョウドーとケカハの住民を強制的にガシャールに改宗させすこと。
  ○ 私が勝利した場合は、トサハタ全土を同じ方法で譲り渡すこと
となっている。

 つまりこれは、間違いなく……

「決闘ですか。それも領地を賭けた」

「ええ」

 アルツァーヤはあっさりと頷いた。私の認識違いではなかったようだ。
 あとアルツァーヤは、書状の中身を知っていた模様。
 ガシャールとはどういう関係性で、何を企図しているのだろう。
 そう思ったところで、キンビーラの声が聞こえた。

「どういう事だ?」

 キンビーラがそう聞くのも当然だろうと思う。
 ここで決闘というのは、正直訳がわからない。

「もしコトーミがよろしければ、書状をそのままキンビーラに見せてもいいですわ。ガシャールの了解も取っています」

 やはりアルツァーヤは、この書状とその背景について、それなり以上に知っている感じがする。
 そう思いつつ、私はガシャールからの書状をキンビーラに渡した。

 キンビーラは目の前に書状を広げて読む。
 表情が変わった。

「……わからない」

 キンビーラはそう言って書状をたたみ、私に返して、そしてまた口を開く。

「私はガシャールと直接会った事はない。しかしこの手紙には違和感を覚える。あの神は一見豪快に見えるが、実際の判断は合理的だという話だ。少なくとも今まではそうだった。船員経由で聞いた住民の評判も良かった。
 アルツァーヤ、この書状にどういう意図があるのか、おそらく知っているのだろう。出来れば私やコトーミに教えて欲しい。この書状がガシャールの本音だとは、私には思えない」

「この書状はガシャール自身の意思であり、他からの強制などは一切入っていない事は、私が保証しますわ。ですが内容については、私の口からはそれ以上は言えません」
 
 これは間違いなくガシャールが自分の意思で書いたもの。
 アルツァーヤによれば、それは間違いないらしい。
 そしておそらく、アルツァーヤはそれ以上の事を知っている。
 だから『知りません』ではなく『言えません』なのだろう。

 普通に考えれば、この条件で決闘を受けようなんて思わない。
 勝利しても領地はいらない。
 一方でケカハが取られる訳にはいかない。
 つまり決闘するメリットが、まるで感じられない。

 ただ間違いなくこの決闘には、別の意図がある。
 だから私は、アルツァーヤに尋ねる。

「ガシャールがどういう意図で決闘しようと判断したのか、アルツァーヤはご存じでしょうか」

「その書状に書いてある事以上の事は、私の口からは言えません」

 やはり『言えない』訳か。
 なら次の質問だ。

「ならこのガシャールの申し出に対して、アルツァーヤは私がどうすればいいと思っているかについては、聞いていいでしょうか」

「ええ」

 アルツァーヤは頷いて、そして続ける。

「私の個神こじん的な感情では、受けないで欲しいと思っています。ですがガシャールの気持ちを考えると、私は『受けて欲しい』としか言えなくなってしまうのです。こういう返答でよろしいでしょうか」

 なるほど。
 個人的には受けて欲しくないけれど、それでも結論としては受けて欲しいとしか言えないか。
 難しい。状況が全くわからない。
 それでも、私の方針は定まった。

「ありがとうございます。それでは返答は書状でしたためた方がよろしいでしょうか」

「私に言っていただければ、それで結構です。あと決闘ということですので、判断材料として必要かどうかはわかりませんが、ある程度の情報は伝えておこうと思います。
 トサハタの人口は本日朝の時点で31,312人、ガシャールの神力は最大で469,680だそうです」

『コトーミの現在の最大神力は153,926です』

 以前に比べるとかなり増えたが、それでもガシャールの3分の1程度しかない。
 というかガシャール、神力が高くないか?

『領内でのガシャールへの信仰度合いが高い結果です。通常の神と比べ、住民1人あたりおよそ2倍の神力を得ています』

 なるほど。つまりガシャールが全力で来た場合、私に勝ち目はない訳か。
 ただ、私には奥の手がある。
 神力換算200万程度の魔力を、その気になれば使用可能だ。

 私はアルツァーヤに確認する。

「以前私が、神力で遙かに上回るモ・トーを倒したことについては、ガシャールはご存じでしょうか?」

「ええ。あの時点で神力が5万に満たなかったコトーミが、神力40万以上のモ・トーを一撃で消し去ったことについては、私から話しています。あの時の攻撃は神力にしておよそ100万の攻撃だっただろうという推測も、木材等のエネルギーを魔力にして攻撃可能なことも。
 私が知っている事はほぼ全て、ガシャールも知っていると思っていただいて結構です」

 なるほど。

 正直なところ、危ないことはしたくない。
 ロシュとブルージュの顔が思い浮かんだりもする。
 ただ、それでもこの決闘は、受けるべき理由があるような気がするのだ。
 その理由が私にはまだ見えていないのだけれども。

「領地を賭けないで、ただの試合をするというのでは駄目なのでしょうか。正直なところ、私はこれ以上領地を増やしたいと思っていないのですけれど」

「ええ。ですが領地を賭けるところに意味があるようです」

 やはりアルツァーヤは、ガシャールの意図を知っている。
 その上で、個人的には受けて欲しくないけれど、それでも結論としては受けて欲しい訳か。

 それでは返答を決めるとしよう。
 いざという時は、禁断の核エネルギーを使えば勝てるだろう。
 そしてアルツァーヤは、結論としては受けて欲しいと言っている。

 ならおそらくは、受けた方がいいのだろう。
 現時点で意図がわからなくても。
 だから私は、こう返答する。

「わかりました。承知したと、ガシャールにお伝え下さい」
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