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一 章 ・ 女 中
捌. 秘密②
しおりを挟む総司さんに外出すると言った手前、部屋で悩む事は出来ないので外着に着替え館内をウロウロしてみる。
(昨夜は一さんとお月見をして、そのまま寝ちゃったと思う。そのあと……何かした?)
廊下を歩いてると、隊士とすれ違う度に何度も言葉に現せない様な不可解な視線を浴びる。
全員に疑心を植え付ける様な行動を起こしたのかもしれない、と思うと一気に不安を覚えてしまった。
「誰に聞いても答えてくれなそうだな…」
総司さんも昨夜の行動を敢えて隠そうとしていた。
そんな人の下についている隊士が簡単には口を割る等想像も出来なくて、はぁ、と溜息が零れる。
玄関がある突き当たりの廊下を曲がった時、一区の室内から声が漏れていた。
「俺は…桜の為に何かしたい…」
「無論、俺も同じだ…」
「だけどな…、俺は土方さんが何もするなって言った意味もわかんだよ…」
その部屋から聞こえてきた声は、平助くん、一さん、新八さんのもの。
自分の話をしているのだと名前を呼ばれて気付いた。
「暇な人、誰かいないかなー」
つい、聞き耳を立ててしまいそうになったけど、それをしなかったのは続きを聞くのが怖かったから。
わざとらしいかもしれないけど、廊下を音を立てて歩きながら部屋の前を通り過ぎようとした。
「どうした?」
「あ、平助くん!今、何かしてる?」
襖が開く音と共に平助くんの声が背中側から聞こえて来た。
今気付きました風を装ってみる。
平助くんは少し笑顔が貼り付いているけど、私の態度には気付いていないみたい。
ホッとしながら聞いてみると、平助さんが私から視線を外して室内へと向けた。
「これから何か予定でもある?」
「桜、もしかして出掛けんのか?」
部屋の中に誰がいるのか声で分かってたけど、知らないフリを続けながら聞いてみる。
私の言葉に反応したのは、部屋にいた新八さんで、心配そうに部屋から出て来た。
続いて、一さんも出て来ると一気に廊下が狭く感じる。
「そう。甘味屋さんに行きたいんだけど……ほら…」
「ああ、副長に一人外出を禁じられていたな…」
肯定をしながらも、恥ずかしくて言い辛そうに言葉を濁すと、言いたい事に気づいたらしい一さんが納得した様に頷いている。
彼の言葉で、新八さんも平助くんも迷子になった時を思い出したみたいで、苦笑を浮かべてる姿に、永遠に忘れてくれそうにない事を痛感した。
「誰か一緒に行ってくれる人を捜してるんだけど………」
「俺は構わない」
「俺もー」
「桜が迷子にならねぇように警護すっか」
一緒に行ってと言えなくて、口どもってしまうけど、一さんも平助くんも新八さんも気にする様子も見せずに笑顔を向けてくれた。
昨夜、何かしてしまったかもしれない私に変わらず笑顔を向けてくれた平助くん、一さん、新八さん、そして総司さん。
彼らの優しい心遣いに、私の胸は感謝の気持ちでいっぱいになっていた。
何があったか隠そうとしてくれている彼らに感謝の言葉を伝える事は出来ない。
だから、私は何度もありがとうと心の中で言い続けた。
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