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一 章 ・ 幕 末
伍. 悲しい夢
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「にーちゃん!そーじにーちゃん!ふたりとも、だーいすきっ!」
二人に向かって走り出す小さな女の子。
「勿論、俺も――が好きだぞ!」
にーちゃんって呼ばれた大柄な男性に抱き付くと、彼女は軽々と抱き上げられた。
「勇さんより、僕の方が――を好きだよ」
隣でそーじにいちゃんと呼ばれた少年は、抱き上げられた女の子の手を握っている。
少女の言葉で笑顔を向ける二人。
目に入れても痛くない程に二人の目は愛情に満ちていた。
地面に下ろされた少女の両手を二人が握る。
大柄な青年も、少年も少女も、全員着物を着ていた。
「ずっと――といっしょにいてねっ!」
少女は、嬉しそうに笑顔を向ける。
手を握り締めながら頷く二人。
幸せな時間を三人で過ごしている。
そんな姿を微笑ましく見ていた筈なのに…。
突然真っ暗になり、暗闇が私の周りを包み込む。
夢だから何も感じる筈は無いのに一気に寒くなった気がした。
**
「やだよぉ…やだっ!やだっ!こないでぇ…っ」
暗闇の中で聞こえてきた女の子の声に意識を向ける。
女の子がいるであろう場所、一部分だけライトが当たったように明るくなった。
「な、何これ…」
明るくなった場所。
そこに現れたのは不良の様な見た目が厳つい集団。
彼らに囲まれて怯えて泣いている少女が必死に逃げようとしている。
『助けなきゃ!!』
そう思って走り出した。
だけど、少女の傍に行き着く事が出来ない。
これが夢だって事をすっかり忘れてた。
だから少女を助けようと、必死に足を動かし続けた。
なのに、進む事が出来ない。
徐々に少女と浪人たちの距離が近付いて、
『止めてーーーーっ!!!!」
必死に叫んだ私の目の前で、愉しそうに浪人が刀を振る。
逃げようと男に背を向けた瞬間、少女は斬られてしまった。
『どう、して…っ…』
地面に倒れた少女。
斬り付けた浪人は満足したのか、仲間と談笑しながら少女から背を向ける。
浪人を睨み付けたけど、私に気付く事もなく暗闇に消えていった。
少女に向かって走る。
今度は近付く事が出来た。
『大丈夫じゃないよね…、痛いよねっ…』
右肩から左腰に抜けた斬り傷。
血は止まることもなく、地面を赤く染める。
止血しようと手を伸ばすも、私の手は少女の身体をすり抜けてしまった。
何度やってみても、少女に触れる事が出来ない。
自分の無力さに、涙が溢れて頬を伝った。
『これ、私の前世なの?私の前世はこんな風に死んじゃうの?』
こんなの少女が可哀想だ。
何かを必死に呼ぼうとしながら、何かを探すように力無く宙を彷徨う少女の手。
『嫌だ…死なないで!!』
その手が地面に落ちそうになった瞬間、私は叫んでいた。
突然、パァッと周りが発光し全体を包み込む。
目も開けられない程の眩しさが私に襲い掛かって来て、無意識に目を閉じてしまった。
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