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一章
06,複雑な気持ち《2018.06.26改稿》
しおりを挟む白蘭宮が後宮で最大の住居だと知ったのは、宮の門をくぐった時だった。女官や宦官を合わせた人数は軽く三桁を超えているだろうし、部屋は広すぎて落ち着かない。
しかも、私か旬華のどちらか(又は両方)が間諜と疑われているようで、必ず誰かしらが張り付いていて、とてもじゃないけど二人っきりになれなそうだった。
荷物の整理(私は椅子に座っていただけ。やらせて貰えなかった…)が終わる頃には、陽は傾き月が顔を出していた。
女官を下がらせて、やっと一人になる。きっと扉の前で、私からの用事を待っているんだろうけど。
寝間着に着替え、装飾品や結わいていた髪を解くと、血色に染められている長い横髪を一房指で掴んで顔の前に寄せる。
「どうしよう…」
はあ、と溜息をついて不安げに呟く。
染めた髪の所々から血色が剥がれて白銀が覗き始めている。全ての髪色が剥がれる期限は、残り一日しかなかった。
その間に、旬華と二人っきりにならなければ…。
「陛下はこの髪色が嫌いみたいだし、染めなくても良いのかな…」
そう言った瞬間、朱津国から出立する直前の王太子を思い出した。あの日、命令された言葉。それを思い出してしまい背筋を凍らせる。
「…気付かれちゃいけない。気付かれたら兄様が・・・・」
出立の時、王太子から初めて聞かされた家族の存在。自分が王女として嫁がされた理由も、その日に知った。
未だ逢った事も無い、実の兄の存在。
父親以外の血の繋がった存在が残されている事を知って私は喜んでしまい、それが、王太子に付け入る隙を作ってしまった。
「兄様が、私の弱味・・・」
あの日、王太子から伝えられた残酷な命令。
拒否、拒絶など認められない絶対的な命令。
命令を遂行しなければ、兄様が・・・。
逢った事も、逢いにも来てくれなかった兄など捨てておけば良いのに、そう思っても、存在を知った兄がもしかしたら逢いに来てくれるかもしれない。そう思ったら、少しだけでも期待をしてしまう。
(お母様を殺してしまった私が、兄様に出来る唯一の事が・・)
王太子からの命令の遂行だった。
政治的な婚姻を結んだ名ばかりの朱津国の王妃。逆に、朱津国の国王陛下に見初められ愛されていたお母様。
王妃は国王の愛を奪っていたお母様を憎く思っていたのかもしれない。だから、そんな気持ちや態度が王太子にも伝わって、そして私の髪色で拍車が掛かったのかもしれない。
殿下も子供心に、大人の都合で傷つけられた被害者なのだと思う。
だから私が殿下に敵視、憎悪を向けられているのを責める事が出来なかった。
「逢う事は叶わない…だから、兄様の無事を祈るよ」
王太子と同じように、子供心に傷付けられただろう実兄の無事を祈り思いを馳せた。
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