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訓練番号五番、想像では優しくか弱いフンワリ系の女の子、だけど実際は....

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その水晶に写ってる女性...女性より女の子と言う言葉がしっくりくる位、少し幼い女の子は小さな男の子を大事そうにその膝に乗せてた

そんな女性の姿は今まで見た事がなく、俺は食い入る様に水晶を見つめる

世の中の女性に会った事はそんなに無いけれど、俺は母親の穏やかな顔など見た事なく、ましてや膝に子供を乗せる女性が居るなど聞いた事も無い

女性の事に付いての勉強の時間ですら、講師は女性の負担になる事はするべからずと教える

まぁ貴方達が女性に遭う機会が有ればの話しですがと、嫌味ったらしく言われたが、俺の中で女性とは出来れば会いたくない生き物の一つだった


儚き大事に慈しむべきが女性

だけど、俺はそれだけじゃないと知ってる

女とは残酷で女とは冷酷で女とは冷淡

儚くも見せて強かで強い

それが俺の中の女性象

俺の母親がそうだった

そもそも子供が産まれると母親から即座に離され、男達(この場合夫達)の手によって育てられる

それは妻の負担を減少させる為でも有り、子供の世話が無い分、夫と関われると踏んでの処置だ

これは命令でも無いし、法でも何でも無い

裁かれる事も無いが女性達もそれが当たり前の事だと捉えてる

そんな中で見る水晶の向こうの女の子の姿は酷く俺の心を騒がせる

水晶に映る女の子は表情を柔らかくし、フンワリ笑う

その姿を食い入る様に見つめるのは俺だけじゃないはず

きっと女性は見られてるなど気付きもしないんだろう

これが盗撮だとか言いたい事は分かる

だが、誰もが水晶から目が離せずに居るのだ

『あ、まつげ...』

男の子の目の下に手をやりフンワリ笑う女の子 

『願い事良い?取るよ?』

『ウンいいよ』

男の子がそう言うと女の子は男の子の頬からまつ毛をソッと取り上げる


そして、小さく笑うと願い事、叶うと良いね?とフンワリ笑い指先に乗せたまつげをフッと吹き飛ばす

そんな事は初耳で

まつ毛を誰かに取ってもらうと願いでも叶うと言うジンクスでも有るのか

何れにしても、そんな事は聞いた事も無いし、ましてや、当たり前の事だが、して貰った事も無い

他の男達も同じだったらしくザワザワと少し騒がしい

そして暫くすると男の子が目を擦り出す

『眠い?』

優しく語り掛ける女の子は男の子を抱き上げトントンと背中を叩く

それに男の子がボソリと何かを呟く

すると女の子が笑いごめんねと言う

「仲良いな...親子かな?」

「歳の離れた姉と弟?」

誰かがボソリと呟く

どっちも通りそうだと思った俺の考えを

「姉弟であって欲しい」

願望なのか誰かポツリと漏らす

この世界は五人まで夫になれるし、候補はその限りでは無い


しかし、独占欲が無い訳でもないし、嫉妬しない訳でもない

出来れば自分一人の愛しい妻で居て欲しい

自分だけに笑い掛け、自分だけ触れられる存在


そんな存在を男達は夢に見る

けれど、それは決して叶う事の無い願望で欲望だと誰もがわかってるのだ


「でもブレスレットして無いけど?」

「と言う事は未婚?」

その瞬間、誰もが女の子の右手首を見つめた事だろう

この世界では夫の数だけブレスレットをその右腕に嵌める

贈るのは勿論その夫候補

夫候補に名乗り上げると同時に贈られるブレスレットは、夫に昇格すると漸く、妻の腕に嵌める事が叶うのだ

どの様なブレスレットを贈るかによって、その者のセンスが問われるのと同時に夫に選ばれるかそうじゃないかの基準にもなると講師の説明


だから男達はブレスレットに全力を尽くす

俺は水晶に映る女の子の細腕を見つめ、この子の腕にはどの様なブレスレットが付けられるのだろうと想像した

想像した瞬間、女の子の左指に光るリングの姿が目に止まる


気付いたのはきっと俺だけでは無い

「ブレスレットはしてないのにリング?」

ユリウス様が水晶に映る女の子の指をチョンと触る

ここに居る全ての男達が思った事だろう

ブレスレットを贈る前にリングを贈るなどまず有り得ないと....

勿論、女性も受け取らないし、男性も手順をちゃんと踏むのが常識だ


この世界で女性を着飾るモノは全て男達によって揃えられるが、それは、ブレスレットを贈り夫候補に名乗りを挙げた後の話しなのだ



彼女は何の装飾品もして無かった。唯一のリングを除いて....

シンプルな何の飾りもない唯のリング

少なくともこの世界の男達なら、まず贈らないだろうシンプル過ぎるリング

だけど、後にこのリングが男達の心を大きく掻き回すのだった

女の子は男の子の頭をゆっくり撫でながら扉をチラリ見つめボソリと呟いた

『それにしても...遅い』

女の子達を部屋に押し込めたまま放置してたらしく、女の子の言葉に慌てた様に騒がしくなる男達

「ヤバイ、色々見入ってしまった!」

「それより、どうする?」

「なんか女の子怒ってるぞ」

「落ち着け、リアムには検査を...取り敢えず男の子から」

話しはそれからだとアレス隊長が立ち上がれば、続ける様にリアムさんがゆっくりと立ち上がる

この世界で女性が少ない原因がわからない今、様々な検査が行われる

女性にしか発症しない病気や、兄弟から伝染る病原菌まで様々な事が調べられる


何故女性が減るのか

何故女性が生まれ難いのか


そうまでしないと、この問題は解決せず、近い将来、絶対大変な事になる


男は男だけでは生きていけないのだ

それは決して繁殖すると言うだけでは無く

女性が居なければ心も身体も男と言うものが生きていけない弱い生物だからだと、講師は言う

俺にはまだ少しわからない気持ちも多く

だけど

人類滅亡と言う言葉が一瞬頭に過ぎり、俺は大きく頭を振る

女性の数は年々減少する一方、女性を縛る法が出来ないとも限らない

少しでもこの現象を食い止めるべく様々な機関が乗り出している

まずは男の子だけ先に検査する事に決まったが、この後、小さな女の子があんなに表情を変えて暴れ回るなど知る由もない

男の子がスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てる

女の子を先に見れないのは丁度見れる人が今居ないから

女性を見れる医者はちゃんと専用の医師免許がいる

その医者がここには居なく、少し離れている王都から多分、呼び寄せてる所だろう


名医のリアムさんは残念ながら女性を見れる医師免許を持って無い

万一の為と、数人の黒騎士隊と医師で女の子達が待つ部屋へ向かう

その場で待つ面々と選ばれた面々との落差がとんでもなく激しかったのは言うまでもない

狂喜乱舞する面々と悔しがり地団駄を踏む面々

俺は運悪く選ばれなかった

選ばれたのはリアムさん始め、アレスさんや他黒騎士隊数人

行きたそうにしてたユリウス様は残念そうにしてて

意外だったのは興味が無いと思ってたルキさんがずっと水晶から目を離さず、女の子を見つめてた事


必要な事以外あまり喋らないルキさんが何を考えてるのかわからないけれど

その姿にソラの感もあながち間違っちゃ居ないかもと思った俺


数人の面々が部屋から居なくなり、代わりに水晶にその姿が映る

俺の想像では

優しくてか弱いフンワリとした女の子を想像して、彼女は大人しく男の子を渡すと思った俺の想像は次の瞬間ガラリと崩れるのだった


『は?』

低い声が響いた瞬間、女の子が先程の天使の仮面を脱ぎ捨てる


俺はその瞬間をバッチリ目撃し、見間違いじゃないか?と目を擦る


しかし見間違いでも何でもなく


女の子は地を這う低い声で呟いた

『絶対嫌よ!馬鹿じゃないの?』

女の子は男の子を抱いてる手に力を込めたみたいでギュッと抱き締める


一瞬、その子になりたいなど、思ったのは絶対内緒だ


アレス隊長が仕方ないと言わんばかりに手を伸ばす

『それ以上近付いたら、ぶっ殺すからっ』


女の子はまるで子犬を守る母犬の様にグルグルと威嚇する

警戒心顕にギラリと睨み付ける姿に一瞬止まる面々


先程の慈愛の満ちた聖母像がガラガラと崩れ去る


そして、そんな女の子の姿を諸共せずアレス隊長が止まってた手を伸ばす

すると女の子は空いてる片方の手でバシッと叩き落とす

一瞬固まるアレス隊長は数秒もしないウチに再び指を伸ばす

そんなアレス隊長に促される様に次々と腕を伸ばす面々

『あ!!!アイツ今どさくさに紛れて女の子の腕、触りやがった!』


「おい、アイツ今匂い嗅いでたぞ!ズリぃ!俺も嗅ぎてぇ!」


揉みくちゃにされながら必死で男の子を離すまいと奮闘する女の子


そんな女の子へ、アレス隊長が何度もすまないと謝りながら辛そうに顔を歪める

検査が終われば直ぐに返すと必死で訴えるが、女の子は興奮してるのか聞こえて居らず、アレス隊長が更に顔を歪める


噛まれた黒騎士隊の奴は痛そうに顔を歪めながら女の子に決して暴力振るわなかった

足蹴りされた奴を見れば、痛そうにしながらも何処か嬉しそうに見えた

その姿に一瞬、変態の二文字が浮かぶも、俺が目標に目指してる黒騎士隊だ、俺はヒクリと頬を引き攣らせ、見なかった事にした

そして、水晶に映る女の子に意識を集中すれば、女の子と黒騎士隊との力の差は歴然で、簡単に女の子の腕から男の子の小さな身体を引き離す


しかし検査は絶対必要なモノだからと言えど、胸が痛まないわけも無く

俺は拳を握り締める


中でも女の子が泣きながら『嫌だ連れて行かないでっ』と言った部分は見てられず、思わず視線を外す

するとユリウス様の青い眼差しが目に映る

見開かれたユリウス様の青い瞳はそんな女の子を凝視してて

そんなユリウス様の姿は初めて見るモノだった


そして無意識なのか


その長くて綺麗な指を水晶の女の子へ向け伸ばす

その指先はまるで女の子の涙を拭う仕草

しかし寝てた筈の男の子がこの騒動に起きない筈も無く、反応し勢い良く飛び起きる

そして、男の子の声に反応し、ユリウス様の指先もパッと納まる


起きると同時に唇を開く男の子

「マ!!!」

だが、一言も喋る間もなく男の子の唇は一人の黒騎士隊の手によって閉じられ、女の子は悲痛な叫びを上げる

「いやっ!」

手を必死で伸ばす女の子の指が後数ミリ届かず宙を掴んだ瞬間、無情にも扉は大きな音を響かせバタンと閉じる

残った女の子の表情を見つめれば無性に飛んで行って大丈夫だと男の子は直ぐにその胸に返ってくると言ってやりたくなった

そして項垂れ俯き、床をグッと握り締め何かを耐える様に震える静かな女の子とは反対に騒がしくなる此方の空間

戻って来た面々は興奮した面持ちで熱に浮かされたのかホォッと吐息を吐き出す


「女の子ってあんなにいい匂いすんのな....」

ウットリとそう漏らしたのは誰だったか

柔らかかったと言って手をワキワキさせたのは何処の馬鹿だったか

アレス隊長に至っては自分の腕をジッと見つめ何かを考えている様子

そして水晶の向こうの女の子を気にしながらも羨ましそうにする面々や

複雑な表情を浮かべる者

未だに水晶を見つめたままの者

女の子を痛ましそうに見つめ、何かを言いたそうにモゴモゴと唇を動かす者

ユリウス様は暫くボーッとしてて、先程何故指を伸ばしたのか気にしてる風だった

しかし何かを振り切る様に頭を振ると大きく息を吐き出す

そして未だに何かを考えボーッとするアレス隊長を発見し、その肩に腕を乗せ、揶揄う様にソッと耳に囁き吹き込む


すると慌てた様にアレス隊長はハッと我に返る

その姿に俺は少しだけ嫌な予感が過ぎるのだった

一方、女の子はと言うと未だに膝と掌を地面に付け落ち込んでるのかとても静かだ

男の子と離され泣いてるのかもしれないと思ったのは俺だけでは無いはず

誰もがソワソワと落ち着きなくそんな女の子を見つめる

しかし次の瞬間、顔を上げた女の子の表情を、俺は決して忘れない

悪魔でも乗り移るとは正にこの事

ブツブツと何かを呟いた女の子は次の瞬間勢い良く立ち上がる

そして一直線扉に向かう

そして罵声怒声を上げながら女の子が扉を叩くのを俺は青い顔して見つめる


それは何回も何回も続けられ

そんな中で男の子はと言うと一体何時黒騎士隊一人からリアムさんに預けられたのか、今はリアムさんの腕の中で唇をリアムさんに抑えられ、借りてきた猫の様に大人しい

羽交い締めされて無くても大丈夫だと思える位落ち着き払ったその表情

そんな男の子の唇からリアムさんの掌がゆっくり離される

何度もすまなそうに謝るリアムさん

苦しく無かったか聞くリアムさんの言葉に男の子は返す事無く、アレス隊長とルキさんをまず初めにチラリ見つめる男の子


そしてそんな男の子を一つの椅子に降ろし座らせると同じ目線になる様に膝を付くリアムさん

男の子の視線はそんなリアムさんを通り越して水晶に向かいグルッと一周しリアムさんに再び戻る

そんな中、アレス隊長が水晶の映像を止める様に目配せする


残念がる面々を残し、水晶は女の子の姿をボヤけさせ、ゆっくりと白に染まって行く


そんな水晶を最後まで静かに見つめてたのはルキさんだった


そんな中で男の子は泣くでもなく、騒ぐでも無く、静かに瞳を動かす


その姿は水晶の向こう側の女の子と180度違ってとても落ち着いたものだった

これがまだ四歳の子供だと、いまだに信じられない事だ


男の子は所謂天才と言う奴じゃ無いだろうか?

その姿は大人顔負けな位しっかりとしたものだった

キリリとする表情は先程の水晶の向こうで見せてた子供らしい表情がガラリと抜け落ちてた

コッチが本性か!と誰もが思った事だが、後にそれは大きな間違いだと気付く

女の子の前で見せる可愛らしい表情も言動行動も素で、嘘偽り無い真の姿

そして、大人顔負けのキレキレの眼差しもすべて本性、どうやったらこんな子供に育つのか、今まさに、目の前に居る男の子は冷静で、それでいて、周りを良く観察してるのか、この中で誰が1番偉いのか即座に判断したのか、その瞳がユリウス様へゆっくり向き直る

「お兄さんがここのエラいひとぉ?」

その声は子供らしく可愛らしい

コテンと首を曲げる姿も保護欲を促す


だが、その瞳が物語る


俺ら全員を敵だと

俺は後に一番の強敵はこの子だと目撃者となり、分かる事となるのだが

それはまだ少しだけ、後の話し
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