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「ユーフェミア、調子はどう?」
「おかえりなさいませ、オリヴァー様」
「ただいま、オギさん」
オギさんに最後の一口をもらっていると、オリヴァーが部屋にやってきた。最近見慣れた、オリヴァーの仕事着。食事がだいぶできるようになってから、彼はここがどこなのか、どんなことをしているのかを教えてくれた。
「うん、顔色も良くなってきてるね。よかったよ」
今、私がいるのはオリヴァーの家なんだけれど、なんと隣国のベルファス帝国らしい。あれほど焦がれた国境を、越えていたのだ。
「今日はこんな花を持ってきてみた、どうかな」
オリヴァーの仕事は皇太子殿下の側近統括官として、武官の仕事も文官の仕事も、両方のスキルが必要な仕事に就いていると、これはオギさんが教えてくれた。
「あ、そうそう。明日、医者が来るんだ。信頼できる人だし、オギさんも一緒にいるから、じっくりと診てもらってね」
ようやく痛みも少なくなってきたために、頷くのもしやすい。そのおかげで簡単な意思表示ならできるようになった。
「ユーフェミア、明後日はお休みを殿下からいただいたんだ。よかったら、外の庭を歩かないか?」
「……」
こくっと頷けば、彼は嬉しそうに笑ってくれた。オギさんも笑顔だ。ここにきて初めて、外に出る。もう季節は春を越していた。
翌日、私は優しそうなおじいさんのお医者様に診察をしてもらい、まずは顔半分を覆っていた包帯が外れた。このお医者様は帝国でも有名な魔法医師らしく、治療に特化した魔法で、ゆっくりと傷跡が残らないように私の身体を治してくれていた。
「よかった、顔はもう大丈夫だね。うん、他のところもずいぶん良くなっている。このまま薬を塗って、力の付く食事をして、身体をしっかりと休めたら、すぐに治るよ」
お礼を込めて、頭を下げると、先生は優しく笑って手を握ってくれた。オギさんは先生から薬を受け取って、それらを近くの棚に置いていた。そう、薬の塗布が必要なものは、オギさんが塗ってくれているのだ。
「オギも大変嬉しく思いますよ、ユーフェミア様。身体に傷跡が残らなくて、本当によかった」
先生が帰り、オギさんがそう声をかけてくれた。我が子のように慈しんでくれる彼女は、また来ると言って部屋を出ていった。私を休ませるための、彼女なりの気遣いだった。
「……ぁ、あ」
ずっとお世話をしてくれる二人にお礼が直接言いたくて、こっそりと声を出す練習をする。先生からも声を出すなとは言われていないので、こうして誰にも知られないように頑張っているわけだ。
「ぃ、い」
少しずつ、身体も動くようになってきたし、声も出せるようになってきた。先生やオリヴァー、オギさんが言うには骨が折れているところなども多くあったから、治るのに時間がかかる傷が多いみたいで。
「り、ぃ、り」
たしかに、骨をくっつけている最中だという右足と左腕はまだ、固定処置をしているので動かせない。顔も包帯は外れたけど、頭にはまだ傷があるので厳密に言うと、包帯が外れたのは顔半分だけ。
「ユーフェミア、ただいま」
声を出す練習を、そろそろやめようと思っていたころに、オリヴァーが帰ってきた。彼は今日も仕事でお城に行っていた。毎日、出勤前と帰宅時には私の部屋に顔を出し、食事も一緒にしてくれる。私が喋ることができなくても、彼はいろいろな話をして食事が静かにならないように気遣って。お世話になりっぱなしだ。
「今日もなかなかに面白いことがあってね」
オリヴァーはよく、同僚さんの話をする。同僚さんは何人かいて、大体がドジをした話だ。同僚さん全員が男性らしいので、その内容が余計に面白く感じる。
「そう、それでね」
私が笑ってしまうくらいには、強烈なドジ話もあって、その話を聞くのは毎日の楽しみだ。
「ユーフェミア」
優しく笑いかけてくれる、柔らかな声音で呼んでもらえる、もう私が願ってもそれを叶えられる人たちは、いない。
「おかえりなさいませ、オリヴァー様」
「ただいま、オギさん」
オギさんに最後の一口をもらっていると、オリヴァーが部屋にやってきた。最近見慣れた、オリヴァーの仕事着。食事がだいぶできるようになってから、彼はここがどこなのか、どんなことをしているのかを教えてくれた。
「うん、顔色も良くなってきてるね。よかったよ」
今、私がいるのはオリヴァーの家なんだけれど、なんと隣国のベルファス帝国らしい。あれほど焦がれた国境を、越えていたのだ。
「今日はこんな花を持ってきてみた、どうかな」
オリヴァーの仕事は皇太子殿下の側近統括官として、武官の仕事も文官の仕事も、両方のスキルが必要な仕事に就いていると、これはオギさんが教えてくれた。
「あ、そうそう。明日、医者が来るんだ。信頼できる人だし、オギさんも一緒にいるから、じっくりと診てもらってね」
ようやく痛みも少なくなってきたために、頷くのもしやすい。そのおかげで簡単な意思表示ならできるようになった。
「ユーフェミア、明後日はお休みを殿下からいただいたんだ。よかったら、外の庭を歩かないか?」
「……」
こくっと頷けば、彼は嬉しそうに笑ってくれた。オギさんも笑顔だ。ここにきて初めて、外に出る。もう季節は春を越していた。
翌日、私は優しそうなおじいさんのお医者様に診察をしてもらい、まずは顔半分を覆っていた包帯が外れた。このお医者様は帝国でも有名な魔法医師らしく、治療に特化した魔法で、ゆっくりと傷跡が残らないように私の身体を治してくれていた。
「よかった、顔はもう大丈夫だね。うん、他のところもずいぶん良くなっている。このまま薬を塗って、力の付く食事をして、身体をしっかりと休めたら、すぐに治るよ」
お礼を込めて、頭を下げると、先生は優しく笑って手を握ってくれた。オギさんは先生から薬を受け取って、それらを近くの棚に置いていた。そう、薬の塗布が必要なものは、オギさんが塗ってくれているのだ。
「オギも大変嬉しく思いますよ、ユーフェミア様。身体に傷跡が残らなくて、本当によかった」
先生が帰り、オギさんがそう声をかけてくれた。我が子のように慈しんでくれる彼女は、また来ると言って部屋を出ていった。私を休ませるための、彼女なりの気遣いだった。
「……ぁ、あ」
ずっとお世話をしてくれる二人にお礼が直接言いたくて、こっそりと声を出す練習をする。先生からも声を出すなとは言われていないので、こうして誰にも知られないように頑張っているわけだ。
「ぃ、い」
少しずつ、身体も動くようになってきたし、声も出せるようになってきた。先生やオリヴァー、オギさんが言うには骨が折れているところなども多くあったから、治るのに時間がかかる傷が多いみたいで。
「り、ぃ、り」
たしかに、骨をくっつけている最中だという右足と左腕はまだ、固定処置をしているので動かせない。顔も包帯は外れたけど、頭にはまだ傷があるので厳密に言うと、包帯が外れたのは顔半分だけ。
「ユーフェミア、ただいま」
声を出す練習を、そろそろやめようと思っていたころに、オリヴァーが帰ってきた。彼は今日も仕事でお城に行っていた。毎日、出勤前と帰宅時には私の部屋に顔を出し、食事も一緒にしてくれる。私が喋ることができなくても、彼はいろいろな話をして食事が静かにならないように気遣って。お世話になりっぱなしだ。
「今日もなかなかに面白いことがあってね」
オリヴァーはよく、同僚さんの話をする。同僚さんは何人かいて、大体がドジをした話だ。同僚さん全員が男性らしいので、その内容が余計に面白く感じる。
「そう、それでね」
私が笑ってしまうくらいには、強烈なドジ話もあって、その話を聞くのは毎日の楽しみだ。
「ユーフェミア」
優しく笑いかけてくれる、柔らかな声音で呼んでもらえる、もう私が願ってもそれを叶えられる人たちは、いない。
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