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 怒っても、自分の心をすり減らすだけ。私の願いはただ、私に愛をくれた人たちの幸せだった。私のことはどうでもいいから、生きていてほしかった。たったそれだけの願いさえも、叶えてはくれない、それが現実。

「ぉ、り、ば、あ」

「ユーフェミア、声が! 練習したの?」

 こくりと頷けば、嬉しそうな、満面の笑みを浮かべるオリヴァー。こっそりと練習するだけでは、なかなか思うようにいかなくて苦しかったけれど、練習してよかったと思う。

「嬉しいよ、そうやって君が前を向いてくれていることが」

「……」

 にこりと笑って、少しの痛みを発する心を無視する。私だけが生きている。そのことがどうしても許せない。前なんて、向いてない、向けない。

「そろそろ、戻ろうか」

「ぅ、ん」

できるだけ、言葉数が少なくて済む返事は声を出すことを意識する。一時間ほど、庭園を見て回り、冷えてきたからと部屋へ戻る。

「それじゃあ、ユーフェミア。また来るね」

 部屋へ車いすを押して戻ったオリヴァーは、仕事があると言って自分の執務室へ帰った。今は、一人の時間。

「っ……うっ」

 なぜか、ほろりほろりと涙がこぼれだす。花を見たからだ、と強引に自分を納得させようと頑張るけれど、涙は止まらない。

「ど、ぃ、て」

どうして、その言葉さえもうまく出せない、それが悔しくて。喉を潰された日のことを思い出す。最初のうちは声を我慢できなかったけど、途中から痛みに慣れて声を我慢できるようになった。それが気に食わなかったのだろう、声を出さないならと喉を薬品で潰された。

『大丈夫、治るよ』

お医者様には治ると言われて、たしかに徐々に声を出すことができるようにはなった。でも、家族が、おじいさんとおばあさんが好きだと言ってくれた声は、今や見る影もない。

「(もしも、もしも願いが叶うのなら……考えても仕方がないと、わかっていても、一度失われたものは二度と戻らない)」

わかっているからこそ、辛い。声や身体の傷はいつか元に戻る。傷痕は残ったとしても、いつかは癒える。
ずっと、傷口があるわけじゃないから。

 それが社会でも同じこと。私という存在がいなくなっても、社会の歯車は回り続けていく。でも、失われた命は二度と戻らない。たとえ、歯車は回り続けたとしても、失われたものを補うようにどこかが引っ張られるだけ。

「(私が、わたしが、いるから……いたから、だからみんな死んでしまった。私だけが、生き残って、何になるって言うの。周囲に不幸ばかり撒き散らして、自分だけがのうのうと生きているなんて……なんて酷い存在なんだろう……)」

 オリヴァーに大事にしてもらえて、オギさんに優しく接してもらえて、思い残すことは何もない。やっぱり、私なんかいらない存在だ。きっといつか、オリヴァーやオギさん、お医者様に、私と関わっていくすべての人に、不幸が降りかかる。

「(だって、それは家族が、おじいさんとおばあさんが、命をもって証明した。私という存在が忌むべきで、罪だということを)」

 消えてしまえば、きっと楽になれる。消えてしまえば、もうこれ以上辛い思いをしなくて済む。

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