彼が獣になる瞬間

高福あさひ

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「ねえ、馨。私、これ以上買ってもらえないよ」

さっきの化粧品もすべて馨がお買い上げしたのだが、今日だけで軽く諭吉さんが6枚は飛んで行っている。私はクレジットカードを持たない主義だけど、馨は持っているのかクレジットカードで全部決済してしまう。私が財布を出しているころにはカードで一括払い。私の出る幕はない。

「私が買いたいからしているの、気にしないで」

「でも…」

「ここは男に花を持たせるものよ」

そう言われてしまえば私が言えることなんて何もなくて、ただ頷くしかなかった。馨ってたまにすごく押しが強いんだよね。いつも流されちゃうや。

「さて、ここらへんでおやつにしましょうか」

「何にするの?」

「このパンケーキのお店にしようかと思ってるの。すごく人気だそうよ」

「へぇ、美味しそう」

馨の持っているタブレットをのぞき込めば、美味しそうなパンケーキのお店が載っていた。流行りのことも、人気のお店も知らない私は馨にすべてお任せしている状況だ。なんだかそれがひどく情けなく感じて、せっかく楽しい気持ちだったのになぜか悲しくなる。

「どうしたの?楽しくない?」

悲しくなった気持ちが馨に知られそうになって、慌ててごまかす。

「全然、何にしようか迷っちゃっただけだよ」

笑って嘘を並べ、そのお店に入る。馨のおかげで迷うことなくスムーズにたどり着き、順番待ちをする。広いけれど、ちょうどのおやつ時に店内は人でいっぱいだ。

「メニュー見ましょ。はい、これ」

手渡されたメニューを見れば季節限定のパンケーキやオーソドックスなパンケーキまでより取り見取りだった。お財布にも優しいメニューばかりで、これは遠慮せずに食べられそうだ。

「馨はどれにする?」

「私は、この冬季限定パンケーキセットにしようかと思ってるわ。凜は?」

「このフルーツパンケーキセットにしようかなって」

「あらいいじゃない、ちょうど席も空いたみたいだし」

店員さんに案内されて座った席はソファ席。ゆったり座れてラッキーだ。案内されたときに注文伝え、ゆっくりと品が来るのを待つだけ。

「凜は甘いものが好きね、本当に」

「うんっ、甘いものはいつも私に刺激をくれるの」

運ばれてきたそれをぱくりと食べて、頬を思わず押さえる。さすが馨のセレクトするお店、美味しい。

「ほっぺたが落ちるくらい美味しい」

「それはよかった、私のも一口あげるわ」

フォークに刺さった一口分のパンケーキを口元に持ってきてくれたものをパクっと齧り付く。そのまま咀嚼すれば、ふわっとココアの味が広がって美味しい。くどくない甘さでさっきまでフルーツの酸味に支配されていた口の中がほどよい甘さに支配される。

「これも美味しいっ!」

「よかったわね」

実は食べる前に漫画用に写真を撮ってある。いつか描くかもしれないと、どこかのお店に入ったら必ずいろんな角度から撮るようにしている。描くのは真正面だけじゃないからね。

「さて、そろそろ帰りましょうか」

「うん」

ここのお会計さえも払われて出る幕なしだ。今度こそ払おうと思ったら、さらっと手から奪われてしまった。お店なだけに取り返すこともできずに、財布すら出せなかった。くそぅ、悔しい。
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