1 / 1
01
しおりを挟む
*****************
「あ、あの、ね……」
「どうした、そんなに改まって」
「わ、私、あなたのことがっ」
*****************
ああ、懐かしい記憶を見た。心優しい魔王様との、恋の記憶。
「…………」
私は、前世で天使だった。そして花の咲き誇る、美しい花畑で、死んだ。
「堕天使めっ! これの存在を許してはならぬっ!」
ガツン、と額に当たる石。生まれ変わった私は再度天使として生を受けたはずだった。でも、実際には魔王の刻印が刻まれた、いわくつきの天使という、天界では忌まわしい身体を持って生まれてしまった。
「穢れた堕天使、なぜ王国はこれを殺さないんだ……」
幸せな記憶も悲しい記憶も、全部、覚えていた。たくさんの思い出の詰まった天界で始まった、二度目の人生は地獄が広がっていて。生まれ落ちた瞬間から、存在をすべて否定されて仲が良かった前世の天使たちも、みんな揃って私を見ないふり。
「…………ぁ、ぃ、たぃ」
そうして幸せだったはずの記憶は、辛い記憶へと塗り替えられ、最後に行きついた先は人間界。堕天使の烙印を押されて、私は人間界へ捨てられた。
涙が出たのは、最初だけだった。暴力や暴言に晒されて、生きるための食べ物にも困るような、そんな生活が待っていると、自然と何も感じなくなっていった。
生まれ変わった天使は、本来であれば前世と同じ姿で同じ力を有している。だから、私もそうなるのに、実際には違った。天界へ生まれ落ちた私の姿は、たしかに前世と同じ容姿だけれど、能力は癒しの力だけで、戦う力も何も持っていない。
神様の側近を勤めあげるほどの強大な天使だった前世の私の姿はどこにもなく、天使特有の翼もない。あるのは、魔王の印が刻まれた胸の、黒い刻印だけ。
その刻印が、私のすべてを奪ったと同時に、心を守っていた。
ボロボロの髪の毛に肌、身体は傷だらけで、私が人間界で与えられた居場所はゴミ溜め。人間たちのゴミを捨てる場所で、日々、ゴミをかけられて、負の感情を浴びせられる。
それが、今世で神様から私に与えられた、神罰。
「こ、ぃ、しぃ……」
私が前世と違って弱いから。神様に仕える身でありながら、魔王の刻印を持って転生したから。あの人との幸せな世界を、守れなかったから。
私の罪は重い。天界、魔界、どちらかを選ぶことができずにどちらも選ぼうとした。私の生まれ育った天界も大事だったし、あの人の治める魔界も大切だった。
ああ、ルーシャ、と低く優しい声で私を呼ぶあの人は、無事だろうか。あの人はあの時、ちゃんと逃げられただろうか。私は守れただろうか。
私の愛した魔王様、どうか末永く幸せでいて。
そう願うことしかできない私を、どうか許さないで。
魔法で縛りを受けている私は、ゴミ捨て場から逃げたくても、逃げられない。そこから動くことは叶わない。あの人が無事かどうか、確かめる術を持たないのだ。
愛しく恋しい、会いたい、誰よりも大事な魔王様。
でもだめね、今の私はあなたが大切にしてくれた私とは程遠い姿。綺麗と言ってくれた髪の毛は薄汚れているし、素敵な色だと褒めてくれた瞳は、目を潰されたから開かない。
それでも、もしも、もしも……もう一度、あなたに会えるのなら。もう迷ったりしない。迷わず、あなたの手を取る。
「あ、あの、ね……」
「どうした、そんなに改まって」
「わ、私、あなたのことがっ」
*****************
ああ、懐かしい記憶を見た。心優しい魔王様との、恋の記憶。
「…………」
私は、前世で天使だった。そして花の咲き誇る、美しい花畑で、死んだ。
「堕天使めっ! これの存在を許してはならぬっ!」
ガツン、と額に当たる石。生まれ変わった私は再度天使として生を受けたはずだった。でも、実際には魔王の刻印が刻まれた、いわくつきの天使という、天界では忌まわしい身体を持って生まれてしまった。
「穢れた堕天使、なぜ王国はこれを殺さないんだ……」
幸せな記憶も悲しい記憶も、全部、覚えていた。たくさんの思い出の詰まった天界で始まった、二度目の人生は地獄が広がっていて。生まれ落ちた瞬間から、存在をすべて否定されて仲が良かった前世の天使たちも、みんな揃って私を見ないふり。
「…………ぁ、ぃ、たぃ」
そうして幸せだったはずの記憶は、辛い記憶へと塗り替えられ、最後に行きついた先は人間界。堕天使の烙印を押されて、私は人間界へ捨てられた。
涙が出たのは、最初だけだった。暴力や暴言に晒されて、生きるための食べ物にも困るような、そんな生活が待っていると、自然と何も感じなくなっていった。
生まれ変わった天使は、本来であれば前世と同じ姿で同じ力を有している。だから、私もそうなるのに、実際には違った。天界へ生まれ落ちた私の姿は、たしかに前世と同じ容姿だけれど、能力は癒しの力だけで、戦う力も何も持っていない。
神様の側近を勤めあげるほどの強大な天使だった前世の私の姿はどこにもなく、天使特有の翼もない。あるのは、魔王の印が刻まれた胸の、黒い刻印だけ。
その刻印が、私のすべてを奪ったと同時に、心を守っていた。
ボロボロの髪の毛に肌、身体は傷だらけで、私が人間界で与えられた居場所はゴミ溜め。人間たちのゴミを捨てる場所で、日々、ゴミをかけられて、負の感情を浴びせられる。
それが、今世で神様から私に与えられた、神罰。
「こ、ぃ、しぃ……」
私が前世と違って弱いから。神様に仕える身でありながら、魔王の刻印を持って転生したから。あの人との幸せな世界を、守れなかったから。
私の罪は重い。天界、魔界、どちらかを選ぶことができずにどちらも選ぼうとした。私の生まれ育った天界も大事だったし、あの人の治める魔界も大切だった。
ああ、ルーシャ、と低く優しい声で私を呼ぶあの人は、無事だろうか。あの人はあの時、ちゃんと逃げられただろうか。私は守れただろうか。
私の愛した魔王様、どうか末永く幸せでいて。
そう願うことしかできない私を、どうか許さないで。
魔法で縛りを受けている私は、ゴミ捨て場から逃げたくても、逃げられない。そこから動くことは叶わない。あの人が無事かどうか、確かめる術を持たないのだ。
愛しく恋しい、会いたい、誰よりも大事な魔王様。
でもだめね、今の私はあなたが大切にしてくれた私とは程遠い姿。綺麗と言ってくれた髪の毛は薄汚れているし、素敵な色だと褒めてくれた瞳は、目を潰されたから開かない。
それでも、もしも、もしも……もう一度、あなたに会えるのなら。もう迷ったりしない。迷わず、あなたの手を取る。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる