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「あ、あの、ね……」
「どうした、そんなに改まって」
「わ、私、あなたのことがっ」
*****************
ああ、懐かしい記憶を見た。心優しい魔王様との、恋の記憶。
「…………」
私は、前世で天使だった。そして花の咲き誇る、美しい花畑で、死んだ。
「堕天使めっ! これの存在を許してはならぬっ!」
ガツン、と額に当たる石。生まれ変わった私は再度天使として生を受けたはずだった。でも、実際には魔王の刻印が刻まれた、いわくつきの天使という、天界では忌まわしい身体を持って生まれてしまった。
「穢れた堕天使、なぜ王国はこれを殺さないんだ……」
幸せな記憶も悲しい記憶も、全部、覚えていた。たくさんの思い出の詰まった天界で始まった、二度目の人生は地獄が広がっていて。生まれ落ちた瞬間から、存在をすべて否定されて仲が良かった前世の天使たちも、みんな揃って私を見ないふり。
「…………ぁ、ぃ、たぃ」
そうして幸せだったはずの記憶は、辛い記憶へと塗り替えられ、最後に行きついた先は人間界。堕天使の烙印を押されて、私は人間界へ捨てられた。
涙が出たのは、最初だけだった。暴力や暴言に晒されて、生きるための食べ物にも困るような、そんな生活が待っていると、自然と何も感じなくなっていった。
生まれ変わった天使は、本来であれば前世と同じ姿で同じ力を有している。だから、私もそうなるのに、実際には違った。天界へ生まれ落ちた私の姿は、たしかに前世と同じ容姿だけれど、能力は癒しの力だけで、戦う力も何も持っていない。
神様の側近を勤めあげるほどの強大な天使だった前世の私の姿はどこにもなく、天使特有の翼もない。あるのは、魔王の印が刻まれた胸の、黒い刻印だけ。
その刻印が、私のすべてを奪ったと同時に、心を守っていた。
ボロボロの髪の毛に肌、身体は傷だらけで、私が人間界で与えられた居場所はゴミ溜め。人間たちのゴミを捨てる場所で、日々、ゴミをかけられて、負の感情を浴びせられる。
それが、今世で神様から私に与えられた、神罰。
「こ、ぃ、しぃ……」
私が前世と違って弱いから。神様に仕える身でありながら、魔王の刻印を持って転生したから。あの人との幸せな世界を、守れなかったから。
私の罪は重い。天界、魔界、どちらかを選ぶことができずにどちらも選ぼうとした。私の生まれ育った天界も大事だったし、あの人の治める魔界も大切だった。
ああ、ルーシャ、と低く優しい声で私を呼ぶあの人は、無事だろうか。あの人はあの時、ちゃんと逃げられただろうか。私は守れただろうか。
私の愛した魔王様、どうか末永く幸せでいて。
そう願うことしかできない私を、どうか許さないで。
魔法で縛りを受けている私は、ゴミ捨て場から逃げたくても、逃げられない。そこから動くことは叶わない。あの人が無事かどうか、確かめる術を持たないのだ。
愛しく恋しい、会いたい、誰よりも大事な魔王様。
でもだめね、今の私はあなたが大切にしてくれた私とは程遠い姿。綺麗と言ってくれた髪の毛は薄汚れているし、素敵な色だと褒めてくれた瞳は、目を潰されたから開かない。
それでも、もしも、もしも……もう一度、あなたに会えるのなら。もう迷ったりしない。迷わず、あなたの手を取る。
「あ、あの、ね……」
「どうした、そんなに改まって」
「わ、私、あなたのことがっ」
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ああ、懐かしい記憶を見た。心優しい魔王様との、恋の記憶。
「…………」
私は、前世で天使だった。そして花の咲き誇る、美しい花畑で、死んだ。
「堕天使めっ! これの存在を許してはならぬっ!」
ガツン、と額に当たる石。生まれ変わった私は再度天使として生を受けたはずだった。でも、実際には魔王の刻印が刻まれた、いわくつきの天使という、天界では忌まわしい身体を持って生まれてしまった。
「穢れた堕天使、なぜ王国はこれを殺さないんだ……」
幸せな記憶も悲しい記憶も、全部、覚えていた。たくさんの思い出の詰まった天界で始まった、二度目の人生は地獄が広がっていて。生まれ落ちた瞬間から、存在をすべて否定されて仲が良かった前世の天使たちも、みんな揃って私を見ないふり。
「…………ぁ、ぃ、たぃ」
そうして幸せだったはずの記憶は、辛い記憶へと塗り替えられ、最後に行きついた先は人間界。堕天使の烙印を押されて、私は人間界へ捨てられた。
涙が出たのは、最初だけだった。暴力や暴言に晒されて、生きるための食べ物にも困るような、そんな生活が待っていると、自然と何も感じなくなっていった。
生まれ変わった天使は、本来であれば前世と同じ姿で同じ力を有している。だから、私もそうなるのに、実際には違った。天界へ生まれ落ちた私の姿は、たしかに前世と同じ容姿だけれど、能力は癒しの力だけで、戦う力も何も持っていない。
神様の側近を勤めあげるほどの強大な天使だった前世の私の姿はどこにもなく、天使特有の翼もない。あるのは、魔王の印が刻まれた胸の、黒い刻印だけ。
その刻印が、私のすべてを奪ったと同時に、心を守っていた。
ボロボロの髪の毛に肌、身体は傷だらけで、私が人間界で与えられた居場所はゴミ溜め。人間たちのゴミを捨てる場所で、日々、ゴミをかけられて、負の感情を浴びせられる。
それが、今世で神様から私に与えられた、神罰。
「こ、ぃ、しぃ……」
私が前世と違って弱いから。神様に仕える身でありながら、魔王の刻印を持って転生したから。あの人との幸せな世界を、守れなかったから。
私の罪は重い。天界、魔界、どちらかを選ぶことができずにどちらも選ぼうとした。私の生まれ育った天界も大事だったし、あの人の治める魔界も大切だった。
ああ、ルーシャ、と低く優しい声で私を呼ぶあの人は、無事だろうか。あの人はあの時、ちゃんと逃げられただろうか。私は守れただろうか。
私の愛した魔王様、どうか末永く幸せでいて。
そう願うことしかできない私を、どうか許さないで。
魔法で縛りを受けている私は、ゴミ捨て場から逃げたくても、逃げられない。そこから動くことは叶わない。あの人が無事かどうか、確かめる術を持たないのだ。
愛しく恋しい、会いたい、誰よりも大事な魔王様。
でもだめね、今の私はあなたが大切にしてくれた私とは程遠い姿。綺麗と言ってくれた髪の毛は薄汚れているし、素敵な色だと褒めてくれた瞳は、目を潰されたから開かない。
それでも、もしも、もしも……もう一度、あなたに会えるのなら。もう迷ったりしない。迷わず、あなたの手を取る。
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