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4話 捕らわれの姫君

悲劇のヒロインがそこに居ました

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「……王都には、毎日たくさんの人が訪れるわ。本当にたくさんの、過酷な旅路を乗り越え、強靭な肉体と精神を持ち合わせた冒険者たちが行き来していた。……婚約者がいるのよ。腕の立つ冒険者の一団の中に」


 先程の自暴自棄と打って変わって落ち着いていて、懺悔室に座っているかのようです。

 一国の姫君を思わせる品格が、ようやく感じられました。


「凄いのよ、彼らは。強大な怪物どもを薙ぎ倒し、数えきれないほど町や村を救い、王都へと道を繋げて来たの。彼らの功績は民の間で語り広がり、何度も王城へ呼ばれてお父様から褒賞を賜って来たわ。パーティーを組むのは、栄誉と称賛を共に積み上げてきた誉れ高き戦士たち。そんな強者たちをまとめる冒険団の団長が、あたしの婚約者よ」
「一介の冒険者と一国の姫が、婚約?」
「馬鹿にしないで。一介のじゃないわ、この国で唯一〝勇者〟の称号を持つ最強の冒険者よ」


 お姫様は胸の前で指を絡め、瞼の裏にその懐かしい姿を思い浮かべます。


「……自慢なの、幼い頃からずっと、彼が活躍する姿を見てきたから。彼が本当に一番の称号を勝ち取った時は嬉しくて、誇らしくて……」
「勢いに任せて無理を押し通したと?」


 お姫様は小さく頷きました。


「……だから、会いたい……っ。最後にひと目だけでもいいから……っ」


 紅く染まる頬を涙が伝います。
 一滴零れ落ちてしまえば、あとは止め処なく。

 唇を震わせ、声を詰まらせ、それでもお姫様は想いを言葉にするのを止めませんでした。


「あたしはこんなに汚れてしまったけどっ、彼に初めてを捧げられなかったけどっ、それでも……。会いたくて会いたくて仕方がないの……っ」


 この場にいない大切な人へ、ずっと堪えて来た想いの丈をぶつけます。


「助けて……っ! あたしをここから助けてよ……っ」


 悲しみに沈み、絶望に怯える、悲劇のヒロインがそこに居ました。

 怪物に侵され真っ黒に歪んでしまった彼女の心は、それでも最後の最後で希望の光を求めたのです。

 手前勝手を承知の上で、なおも助けを求める悲痛な涙声を耳にしながら、私は静かに問いかけます。


「その人は強いの?」
「……ええ、強いわ。誰よりも強い! 魔神王を打ち倒すべき男よ!」
「その人はかっこいい?」
「ええ、最高に! 近隣の各国の王妃から求愛されるほどに。でもそれを全部断って、あたしを婚約者に選んでくれた……。結婚するのよ、彼と結ばれる日を心から楽しみにしていたわ……」
「その人は優しい?」
「ええ、とっても。……だから、思わずにはいられないの。こんなあたしでも、もう一度って。愛してくれるんじゃないかって……。だから、だから……っ」


 彼女の願いをきちんと聞き届け、私は「よし」と手のひらを打ち合わせます。


「それじゃあ、自分から会いに行かないとね」
「……え?」


 お姫様は呆然と顔を上げ、赤く染まった目元で私を見つめました。
 
 
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