スライムイーター ~捕食者を喰らう者~

謎の人

文字の大きさ
71 / 78
5話 王都、陥落

仮にも冒険者が清々しいなあ……。

しおりを挟む
 
 
 うねる螺旋階段から広い正面階段へ合流し、段差を一足飛ばしで駆け降りて、広い玄関を横切ります。

 飛び込んだ細い通路の先、松明が作り出す煌々とした光の中に、二つの人影がありました。
 鎧の偽勇者です。

 誰かと密会中でした。


「君には本当に、なんとお礼を言っていいのか」
「止せよ、ロキ。俺たちの仲だろ? 辛いときは助け合うのが当然だ」


 ロキと呼ばれた男が申し訳なさそうに頭を垂れると、鎧の騎士が肩を抱き寄せて明るくフォローします。

 噂の婚約者であり、本物の勇者ロキその人の登場です。

 屈強で、似たような背格好の二人ですが、勇者ロキの方は明らかに顔色が優れず、やつれています。

 意地なのか、見栄なのか。
 疲労困憊の身体によく馴染んだ装備を身に着けていますが、腰に差した剣の重みで若干ふらつくほど。

 なるほど、どれほどの能力を有していようと、こんな状態でお姫様奪還に赴くのは酷というものでしょう。


「そこの二人、聞きたいことがあります!」


 リンネさんはベールで顔を隠し、歩調を緩めながら鋭い声を飛ばします。

 突然闇の中から現れた私たちにすぐさま身構えた鎧の騎士でしたが、リンネさんを見て目を丸くしました。


「おや、姫君。どうしてこんな時間にこんな場所へ?」
「は? ……何だと?」


 すぐさま剣を収めた鎧の騎士の隣で、勇者ロキが怪訝そうに眉根を寄せます。

 良く知る意中の少女が別人のように様変わりしていれば、それは驚くでしょう。
 いえ、正真正銘別人なわけですが。


「おい、一体何の冗談だ? 彼女がエリーゼ姫だと?」
「ああ。何でも、怪物の魔法で容姿を変えられてしまったとか」
「何? そんなことがあるのか……。ああ、そうか。それで顔を見せたくないと。いやだが、しかし……、本当に?」
「きっとそれだけ酷い目に遭わされたんだ。今はあまり詮索してやるな」
「あ、ああ……。分かった」


 喰ってかかった勇者ロキでしたが、多大な負い目に押し負けて、大人しく引き下がりました。

 リンネさんに向けて深々と頭を下げ、誠心誠意の謝意を表明します。


「すまない、エリー。君が大変な時に俺は何もしてやることが」
「どうでもいいので後にしてください」


 一蹴されました。

 リンネさんはじろりと二人をねめつけて、


「あなた方、武装していますね? 何か異常が?」
「え? あー……」


 ポカンとして固まった勇者ロキに変わり、鎧の騎士が答えます。


「街の地下通路を怪物が数匹うろつき回っているらしく。念のため、城の兵たちと協力して様子を確認させているところでして」
「やはり……っ」
「まさか本当に?」


 リンネさんの歯噛みする呻き声と、私の驚きが重なります。

「あの、姫君?」
「どうも。他の者たちの避難と街の守護はあなた方の役目です。任せました」
「あっ、お待ちください! どこへ行かれるおつもりですか?」


 困惑気味の問いかけに、リンネさんは堂々と言い放ちました。


「決まっているでしょう、逃げるのです」


 仮にも冒険者が清々しいなあ……。

 まあ、今に始まったことでもありませんけど。


「待ってください、姫君! そんな騒ぐようなことでは。むしろ今城から出れば、再び姫君の身が危険に晒されることになりかねません!」
「では、あなたはここに突っ立って一体何をしているのですか? 敵が迫っていると知りながら暢気に構えている者に、託せる命などありはしません」


 鎧の騎士の警告を無視し、リンネさんは再び宝物庫へ向けて走り出します。

 私も置いていかれないよう、差し伸べられた手を掴み、前へ。
 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...