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5話 王都、陥落
仮にも冒険者が清々しいなあ……。
しおりを挟むうねる螺旋階段から広い正面階段へ合流し、段差を一足飛ばしで駆け降りて、広い玄関を横切ります。
飛び込んだ細い通路の先、松明が作り出す煌々とした光の中に、二つの人影がありました。
鎧の偽勇者です。
誰かと密会中でした。
「君には本当に、なんとお礼を言っていいのか」
「止せよ、ロキ。俺たちの仲だろ? 辛いときは助け合うのが当然だ」
ロキと呼ばれた男が申し訳なさそうに頭を垂れると、鎧の騎士が肩を抱き寄せて明るくフォローします。
噂の婚約者であり、本物の勇者ロキその人の登場です。
屈強で、似たような背格好の二人ですが、勇者ロキの方は明らかに顔色が優れず、やつれています。
意地なのか、見栄なのか。
疲労困憊の身体によく馴染んだ装備を身に着けていますが、腰に差した剣の重みで若干ふらつくほど。
なるほど、どれほどの能力を有していようと、こんな状態でお姫様奪還に赴くのは酷というものでしょう。
「そこの二人、聞きたいことがあります!」
リンネさんはベールで顔を隠し、歩調を緩めながら鋭い声を飛ばします。
突然闇の中から現れた私たちにすぐさま身構えた鎧の騎士でしたが、リンネさんを見て目を丸くしました。
「おや、姫君。どうしてこんな時間にこんな場所へ?」
「は? ……何だと?」
すぐさま剣を収めた鎧の騎士の隣で、勇者ロキが怪訝そうに眉根を寄せます。
良く知る意中の少女が別人のように様変わりしていれば、それは驚くでしょう。
いえ、正真正銘別人なわけですが。
「おい、一体何の冗談だ? 彼女がエリーゼ姫だと?」
「ああ。何でも、怪物の魔法で容姿を変えられてしまったとか」
「何? そんなことがあるのか……。ああ、そうか。それで顔を見せたくないと。いやだが、しかし……、本当に?」
「きっとそれだけ酷い目に遭わされたんだ。今はあまり詮索してやるな」
「あ、ああ……。分かった」
喰ってかかった勇者ロキでしたが、多大な負い目に押し負けて、大人しく引き下がりました。
リンネさんに向けて深々と頭を下げ、誠心誠意の謝意を表明します。
「すまない、エリー。君が大変な時に俺は何もしてやることが」
「どうでもいいので後にしてください」
一蹴されました。
リンネさんはじろりと二人をねめつけて、
「あなた方、武装していますね? 何か異常が?」
「え? あー……」
ポカンとして固まった勇者ロキに変わり、鎧の騎士が答えます。
「街の地下通路を怪物が数匹うろつき回っているらしく。念のため、城の兵たちと協力して様子を確認させているところでして」
「やはり……っ」
「まさか本当に?」
リンネさんの歯噛みする呻き声と、私の驚きが重なります。
「あの、姫君?」
「どうも。他の者たちの避難と街の守護はあなた方の役目です。任せました」
「あっ、お待ちください! どこへ行かれるおつもりですか?」
困惑気味の問いかけに、リンネさんは堂々と言い放ちました。
「決まっているでしょう、逃げるのです」
仮にも冒険者が清々しいなあ……。
まあ、今に始まったことでもありませんけど。
「待ってください、姫君! そんな騒ぐようなことでは。むしろ今城から出れば、再び姫君の身が危険に晒されることになりかねません!」
「では、あなたはここに突っ立って一体何をしているのですか? 敵が迫っていると知りながら暢気に構えている者に、託せる命などありはしません」
鎧の騎士の警告を無視し、リンネさんは再び宝物庫へ向けて走り出します。
私も置いていかれないよう、差し伸べられた手を掴み、前へ。
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