ゆかりさんとわたし

謎の人

文字の大きさ
44 / 79
2話 ゆかりさんとわたしと、洋館にて

〝毒なんて入っていないわよ?〟

しおりを挟む
 
 
「この後、駆けつけた警察の人たちの前で、探偵役である相談部の二人が推理を披露するの。……どう? ゆかりさん。何か分かった? 質問は三つまでよ?」


 話を終え、さっそく訊ねると、ゆかりさんは少し考えてスケッチブックに文字を書きます。
 その間にわたしは、喉を潤おそうとお茶が入った湯呑を持ち上げて、


「…………」


 ほんの一瞬逡巡した後、ごくりとそれを流し込みます。少しぬるくなっていましたが美味しいです。
 ゆかりさんがスケッチブックをこちらに向けたので、そちらへ目をやります。


〝毒なんて入っていないわよ?〟


 見抜かれていました。


「いや、それはもちろんそうなんだけどね? 疑ったわけじゃないんだけど、こういう話をした後だと、ちょっと……ね?」


 曖昧にはにかんだわたしを見つめるゆかりさんは、ご機嫌なにこにこ笑顔です。


「うう……。もうっ、ゆかりさん!」


 今日はからかわれてばかりです。
 何か仕返しをしてみたくて、こんなことを言ってみます。


「それが一つ目の質問ね。さ、あと二つは?」


 ゆかりさんはちょっと驚いて、首を傾げて、


〝質問なのかしら、これ〟


 とスケッチブックに書き加えたので、あっさりと溜飲が下がりました。
 それでも、つーんとした表情をしていると、ゆかりさんは、


〝ごめんなさい〟
 
 
 と、神妙な顔で両手を合わせて上目遣いに訴えて来るものですから、


「……。……ふふっ」


 わたしは堪え切れませんでした。
 ゆかりさんも笑顔に戻り、二人で笑い合います。


「それで、どう? ゆかりさん」


 ゆかりさんはこくりと頷いて見せて、一つ目の質問を書きました。


〝毒は紅茶に入っていたのかしら? カップに塗られていたのかしら?〟
「え、それってなにか違いがあるの?」


 訊ねながら、わたしは終盤の推理パートの文章に目を走らせていきます。


「あった。ええと、使われたのは液体状の薬物で、紅茶に入っていたみたい。あ……」
〝どうかした?〟


 ゆかりさんが視線だけで訊ねてきます。
 わたしは答えます。


「いや、小説の中で主人公のサヤカがゆかりさんと同じことを訊ねていて……」


 そうです。小説の中に同じセリフを見つけてしまいました。
 毒物が液体状だったと知った後、サヤカは警察の人に訊ねるのです。
『それはカップに塗られていたの? 紅茶に混ぜられていたの?』と。
 警察の人は、紅茶に混ぜられていたようだと答えています。

 わたしは思わず呻いてしまいます。


「むう。ゆかりさんの考えは答えに近いということね」


 そういえば今思い返してみると、第一、第二の事件の時もゆかりさんは一見見方がおかしい、けれど的確な質問をしているように感じます。
 もっとも、答えを知らないわたしにはどのくらい的を得ているのか図りかねますが。

 ひょっとしてゆかりさんは、最初から犯人も動機もトリックももう全部分かっていたんじゃないでしょうか。
 つまり、以前この本を読んだことがあって、それでわたしに気を遣って付き合ってくれているだけなんじゃ……。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...