筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人

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3話 すずの鬱屈

どうにもならないこと

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「はあ、はあ……」
「大丈夫、まりあちゃん……」


 辺りが夕暮れに包まれる中、今日もまた魔女を殴り飛ばし、鏡の世界から戻ってきたまりあ。

 すぐ近くで待機していたしぐれは、急いで駆け寄ってスクイズボトルを差し出した。


「はい、プロテインだよ。まりあちゃん、飲んで」
「……」


 まりあは疲れ切った瞳でボトルをじっと見、右手の中に勝ち取った〝魔女の卵〟へ視線を落とし、やがて緩く首を振った。


「まだ、大丈夫……」
「まりあちゃんっ」


 しぐれはきゅっと唇を引き攣らせ、悲痛の滲む声を絞り出す。

 とてもそんな風には見えない。

 いつもの元気な笑顔は陰り、立って歩くことすらままならないほど疲弊している。
 もう見ていられなかった。

 しぐれは意を決し、別のボトルを取り出すと、まりあへ強引に押し付けた。


「これ、わたしの分だから。まりあちゃんの分は減らないから。だからお願い……っ」
「しぐれ……。ありがと」


 泣き出しそうな顔を見せるしぐれを前にして、まりあは少し思い直した。

 お礼とともにボトルを受け取り、中身を一気に煽って、ようやくひと心地つく。


「いいんだよ、魔女はまりあちゃんが倒したんだから……。本当は全部、まりあちゃんのものなんだから……」


 しぐれもようやく胸を撫で下ろす。

 しかし、未だ不安を払拭し切れていない様子でまりあを心配そうに見つめた。

 こんなやり方は長続きしないと、はっきり分かった。

 魔女との戦いが激しさを増していく一方、何故だかまりあは滅多にプロテインを口にしない。

 変身するために必要な魔力を最低限だけ補給して戦いに挑み、その都度苦戦を強いられ、かろうじて勝利を掴み取る。

 守る余裕すらないため、しぐれはいつも鏡の外に置いてきぼり。

 そんな日々が続いていた。

 これまではまりあの「大丈夫」を信じて待つばかりだったが、今日こそは目を瞑るわけにはいかなかった。


「まりあちゃん、もう止めよう」


 しぐれは、震える唇にそれでも言葉を乗せて、まりあへ届けた。

 まりあがこちらを向く。

 怒るでもなく、戸惑うでもなく、ただ次の言葉を待っているような静かな眼差しに促され、しぐれは躊躇いながらも説得を試みる。


「こんなこと、もう止めよう。そんなに自分を追い込んで、無茶して強くなろうだなんて、まりあちゃんらしくないよ」
「らしくないか……。こんな方法じゃ強くなれないってしぐれは思う?」
「うん、そう思う。だからもう止めて。お願いだから……」


 しぐれは逸らすことなくまりあを見つめ、はっきりと告げた。

 ここまで強く誰かの行いを否定するだなんて、初めての事かも知れない。

 まりあは、ふっつりと口を閉ざした後、


「……もう少しだけ、だから」


 逡巡するような口ぶりで、しかしきっぱりと拒絶した。


「まりあちゃん……」


 説得は失敗に終わった。
 しぐれは、意気消沈して顔を俯かせる。

 まりあは人の気遣いを蔑ろにするような人ではない。

 しぐれの心配を心から受け止めた上で、この決断を下したのだ。
 ここで諦めるわけにはいかない、と。


「どうして……? どうしてそんなになってまで戦うの……? もういいじゃない、見逃してもらったんだから」


 すべて承知の上で、それでもしぐれは納得できなかった。

 こんなものはもう単なる愚痴でしかない。

 不安のあまり溜め込んでしまったストレスを吐き出して、まりあへとぶつける。


「十文字さんに負けて悔しいのは分かるよ。でも、今ここで倒せなくたっていつか……。頑張ってトレーニングを続けていればきっと……。今こんなことしなくたって……っ」
「しぐれ……」
「そ、それにまりあちゃん、言ってたでしょう? 強い自分でありたいだけだって。誰かと競い合って比べたって意味がないって。なのに、どうしてこんな……っ」


 十文字鈴とのいざこざの解決策は簡単だ、目立たないように生きればいい。

 自分よりも強い者から目をつけられた時の対策方法に関しては、しぐれの方がずっと心得ている。

 いつか何かが変わるだろう。
 きっと誰かが助けになってくれる。
 今はいずれ訪れる好機の時を、大人しく待つべきなのだ。

 どれほど苦しみもがき、地に這いつくばって足掻こうと、鈴の方が強いという現実は変わらない。

 鈴は、まりあよりも魔法少女歴が長くて経験豊富なのだから仕方がない。

 鈴は、とてつもない魔力を持っている天才なのだからどうしようもない。

 だからどうか、彼女ばかりに拘るのはやめて欲しい。


「どんなことにも仕方ないことってあるよ……。そう教えてくれたじゃない……」


 消え入るような声で訴えかける。
 こんな無茶はやめて欲しい、と。

 それでも、まりあは譲らなかった。
 
 
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