筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人

文字の大きさ
58 / 70
3話 すずの鬱屈

だからこれは、私だけの問題

しおりを挟む
 
 
「それは違うよ、しぐれ」
「……っ」


 揺らぐことのない真っ直ぐに芯の通った意志。

 喉を震わせ必死に抗議したしぐれとは裏腹に、まりあは微笑んでいた。

 いつものように強く優しげな笑顔でしぐれを見つめて、ゆっくりと首を横に振る。 


「勘違いしてる。私はそんなこと言ってないし、しぐれもそんなことはしてないよ」
「えっ。でも、わたしは美羽ちゃんの時に……」


 しぐれは、かつての親友と決別を決めた過去がある。

 相手が悪いと言ってしまえばそれまでだ。

 しぐれにも何かきっと、取り返しがつかなくなる前にもっと、できることがあったはずなのに。

 やるせない想いが抜けない楔となって、しぐれの心に突き刺さっていた。

 しぐれは美羽を裏切った。
 どうにもならないことを避けて通る術を学んだ。
 だから今回の件も、そうするべきだと思った。

 なのに、まりあはしぐれの想いを否定する。

 他ならぬ、しぐれを救ってくれたまりあが。


「誰にでもなりたい自分があって、そのために本当に譲れないものがあると思う。意地でも何でもいいの。張り続けなけていなれば、妥協してしまったが最後、目指す場所には辿り着けない。そういうものが誰の心の中にもある」
「でも……」
「確かにしぐれは、親友だった美羽じゃなくて、出会ったばかりの私を選んだ。美羽を諦めて私を受け入れた。そう見えるかも知れない。そうしてしまったのは、しぐれがそれだけ困っていたからだったし、しぐれがそうしたかったから」


 そうでしょう? と真意を問うてくる瞳に、しぐれは返事を返せなかった。

 どうしてあの時、美羽に手を伸ばすのをやめて、まりあの助けを望んだのか。


「それは、だって、あの時わたしは……」
「諦めて、妥協して、私を選んだんじゃない。そんなつもりで私と一緒に居てくれたわけじゃない。大丈夫、ちゃんと伝わってるよ?」
「……っ!」


 しぐれは、瞠目して言葉を詰まらせた。

 まりあへの心配よりも、いつの間にか己の保身に走っていた。

 まりあが勝利を諦めてくれることを、心のどこかで望んでしまった。

 醜い下心を見抜かれて、胸の奥が赤熱する。

 羞恥心のあまり真っ赤になって唇を噛むしぐれの手を取り、握り返し、まりあは言う。

 すべてを包み込むような、穏やかな微笑みで。


「だから私はそれを誇りたいんだ。取り戻したい、しぐれが好きになってくれた強い私を。何よりも誰よりも、私がそうありたいから」
「まりあちゃん……」


 しぐれの眦に浮かぶ涙をそっと掬い取ると、まりあはがらりと声調を変えて、


「けど、しぐれの言うことももっともだね。ちゃんと自分の実力で戦って勝たなくちゃ意味がない。……だから明日の放課後、決着をつけてくる」


 付け加えられた決意の宣言。

 迷いなど吹っ切れたと言いたげな明るさで、まりあは笑う。


「怖がる必要なんてなかった。別に負けたからって町が破壊されるとか、みんなが傷ついてしまうとか、地球がドッカンしてしまうとか。そんなことにはならないし」


 まりあは右手の小指を立てて、しぐれに差し出す。


「約束する。無茶なことはしない」
「……本当、だよ?」
「うん、見てて。絶対勝つから!」


 途方もない重圧を背負っているわけではない。

 まりあが背負うは己が身ひとつ。

 裸一貫であり、そこに余計な不純物など混じらない。


「だからこれは、私だけの問題……」


 自分から目を逸らし、何ひとつ身動きできないことほど、恐ろしいものはない。

 すべては敗北と向き合い、受け入れて前へと進むため。
 だから無茶なことはしない。

 そう約束を交わして、まりあとしぐれは指切りをした。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...