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13、嫁の立場を勘違いしちゃう、嫁。
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「いやこれが泣くタマかよ!」
「は?」
どうしたどうした、オルトくんさんよぉと。
突然叫んだオルトにハヴィがウザい感じで絡んでいく。
「いや、なんかそう叫ばないといけない気がして……」
両肩をセルフで抱き抱え、ぶるぶると震えるオルトに、ハヴィは何それおもろと笑っていた。
二人が戯れるのをじっと観察していたアンセルが、徐にポケットから四角い箱を取り出した。
それをぎゅっと握りしめながら、アンセルはハヴィに声かけた。
「ハヴィ、そろそろ姉ちゃんに連絡したら?」
「ん?別にいらないんじゃないか?」
どうせ心配してないだろと笑うと、オルトが口を出した。
「クロアは全員ハヴィなら大丈夫って言ってたけど……あ、っていうかお前、何で団長と婚約したの教えてくんなかったの?」
「は!?誰と誰が?」
「だからハヴィと団長が。」
「してないけど!?」
「んんん?」
訳がわからないと困惑するオルトと、全くわかっていないハヴィに、アンセルが大きくため息をついた。
「……二人とも、こっちに座りなさい。」
ベッドから起き上がって座り直すアンセル。
何やら雰囲気に押され、顔を見合わせた二人が言われるがままに正座をした。
アンセルがある程度の見解を話して聞かせると、ハヴィの顔色が赤や青に変化していった。
「……は!?そんなこと言ってないけど!?」
ちぎれんばかりに首をふるハヴィに、オルトが肩をすくめる。
「いや、団長はそう思ってるんだよなぁ」
「いやいや、団長といい感じだったのはオルトでしょ?」
「いやいやいや!ないから全然!」
「いやいやいやいや、そうだったって、だってさ……!」
「もうイヤイヤうるさいな!」
二人が揃って首の振り合いをしている中、叫んで立ち上がったアンセルに押され、オルトもハヴィもギュッと黙り込んだ。
「いいか、よく聞け。君らは言葉が足らなすぎたのが原因です。そこが大きな勘違いの敗因だ。」
「……はい」
アンセルはドンと目の前に指輪を置いた。
「いいですか?ハヴィは団長が誤解をしているということを頭に入れ、今後はそう言う目で見られている事を警戒して。」
「……う、はい」
「そしてオルト、キミは団長の誤解を解け。」
「え、やだ。」
「やだじゃありません。じゃないとこの指輪をオルトにはめて2度と取れなくしてあげます。」
「なんで僕だけ超難題なんだよ!」
「ハヴィが出ると多分誤解は解けない。何故なら言葉が足らないから。そしてそのままもっと拗れることだろう。しかもハヴィは私のものなのだから2度とアイツと会わせたくない。」
「ん?もう身も心も自分のものにしたの?」
「身の方はまだです。」
「は?心もまだですが!?」
「どっちもまだなの?じゃあまだアンセルのものじゃないじゃん。」
「いいえ、もう私の嫁なので!!」
「俺、嫁じゃないし!」
ギャアギャアと言い合う3人を遠くから見つめている、執事クラン。
小さい頃からアンセル様にお支えしてきましたが、こういう光景を見たのはアンセル様が王太子の婚約者になる前だった。本当に懐かしい、とこっそりと涙を拭った。
*
「ていうか、団長は無意識か知らんが、周りから固めていっている気がする。」
「カタメルトハ?」
キッチンに降りて、ジャガイモとにんじんの皮剥きを手伝っていたオルトとハヴィ。
オルトの言葉に驚きすぎて、思わず手に持っていたナイフとニンジンを、床に落としてしまった。
流石にアンセルに諭された事が結構効いてんなと、オルトは少しだけ笑ってしまう。
笑ったオルトにハヴィは察して怒り、ペチペチとオルトの背中を叩いた。
「イタイ痛いって、ごめんってば!ていうか、第二メンバーで僕だけキミらの婚約を知らなかった。」
「は?みんな知ってたっていうこと?」
ナイフを拾い上げ、落としたニンジンを洗おうと桶に水を入れようとして、また落としてしまう。
さっきから自分の話だと言うのに、全く知らない話をされて薄気味悪いのだ。
心ここに在らずではないが、体の中からゾワゾワしたものが居座り続けて居心地が悪い。
なので余計に体に変な力が入ってしまうのだ。
ギュッギュウとニンジンを力任せに洗っていると、ハヴィを気にしながらオルトが話を続けた。
「うーん、なんか団長が婚約話を出したときに、他の団員が微笑ましい顔で頷いてた気がすんだよなあ」
「えええやだよ俺、好きな人いるし。」
「うん、だよな……。」
やっぱそうだよな、やっぱ好きな人は団長じゃないってことだ。
だけどハヴィが戻ったら、周りはもう団長の婚約者として認識してそうだね、と。
オルトが呟いた言葉が地味にハヴィの心に効いた。
「団長と結婚なんてやだあああ!!」
突然ニンジンを投げ捨て、ハヴィがキッチンから逃げ出した。
そしてアンセルがスヤスヤと寝ている寝室に叫びながら入ってきて号泣。
二度寝中のアンセルは飛び起きて、どこぞの魔物のように驚き戸惑った。
この屋敷についてからは同じベッドで寝てくれなかったのだが、飛んで火にいる何とやら。
一緒に寝ることを拒んだハヴィが、自分のベッドに飛び込んできたのだ。
若干寝ぼけ気味なのもあって、もう有無を言わさず食ったろかいと伸ばした手を、理性が戻す。
ヤダヤダいいながべそべそする可愛い嫁に、疼く片腕を抑えながら頑張った。
何を頑張ったか。あやすのを頑張った。己の欲望に勝ったのだ。
まだだまだ、その時ではない。
はいはいいい子いい子大丈夫でちゅよー。
何が大丈夫なんだ言ってみろはよバカ、と悪態をつかれても。
ハイハイ大丈夫だからねー、オルトがなんとかしてくるからねー、とあやし続けた。
途中抱きしめていたハヴィの子供体温に、再び襲ってきた睡魔に負けてウトウトしていた間に、なんか思っても見ないほうへと事態が動いていく。
「ん!?」
アンセルはなんだか肌寒くて目を開けると、シャツのボタンは全部外され、上半身が顕となった自分がいる。
状況がよくわからず、えーっとと頭をかくと、何かが自分の上に乗っていることに気がついた。
そいつは自分の上でピョコりと頭を上げると可愛い顔で微笑んだ。
「あ、起きた?」
「起きたような……起きてないような?」
「俺、思ったんだけど」
「んん?」
全く話が噛み合わない気がして、首を傾げる。
こういう時のハヴィは危険だという事もなんとなく知っていて。
『俺思ったんだけど』と再び呟く嫁を、一旦自分の上から下ろして横に置く。
よしよし、それじゃあ話を聞こうと、肌けたシャツのボタンを閉めた。
「アンセルと既成事実を作ったら、俺と団長と結婚しなくて済むんじゃね?って」
「私としては願ってもないチャンスだけど」
でもでも何かがおかしいと、アンセルの本能が言っている。
「てか既成事実って、これ私が襲われているような?」
疑問をハヴィにぶつけてみたら、何と言う事でしょう、ハヴィは満面の笑みでこう言った。
「あったりまえじゃん!嫁は俺じゃなくてアンセルだから。」
「……えーっと。」
ちょっとハヴィエルさん、お待ちになって。
せっかく閉めたボタンの隙間から、アンセルの胸筋を揉んでる可愛いお手々を掴んで止めた。
なんで止めるんだと暴れるハヴィをひっくり返し、体勢逆転する。
逆に押し倒す形で、ハヴィの動きを封じながら大事なことを伝えることにした。
「これは譲れない。というかアナタが私に抱かれないと、団長は婚約を諦めないと思うよ。」
「なんでだよ、おかしいそんなの」
プンと不貞腐れたように膨らむ頬に軽く唇で触れると、ハヴィは驚いた顔で固まった。
「おかしくないんだなぁ。だって団長は抱かれる側ではないんじゃないかな?アナタの純潔を望まれていらっしゃるのだから。」
にっこりと微笑んであげる。
ハヴィはハッとした顔になり、今度は耳まで真っ赤に変色する。
「ハヴィ可愛い。」
思わず口からこぼれる言葉に、さらに赤みが増した。
「……どうする?今急いで私に抱かれる?私はもう少しだったら待てるけど。」
ハヴィを拘束している手を緩めると、慌ててアンセルから抜け出すように、離れていく。
触れていた温もりがなくなり、少し寂しい気持ちでハヴィを眺めていると、あっという間にバタバタと大きな足音を立てて、すごい勢いで部屋からいなくなった。
まるで罠から抜け出した小動物の様だと、アンセルは緩む口元を手で隠した。
「あーあ、逃げられた。」
アンセルは残念そうに笑いながらベッドに倒れ込んだ。
さっきまで組み敷いていたハヴィの温もりと匂いがする。
その匂いを吸い込むと、再びまどろむために布団へと潜っていった。
「は?」
どうしたどうした、オルトくんさんよぉと。
突然叫んだオルトにハヴィがウザい感じで絡んでいく。
「いや、なんかそう叫ばないといけない気がして……」
両肩をセルフで抱き抱え、ぶるぶると震えるオルトに、ハヴィは何それおもろと笑っていた。
二人が戯れるのをじっと観察していたアンセルが、徐にポケットから四角い箱を取り出した。
それをぎゅっと握りしめながら、アンセルはハヴィに声かけた。
「ハヴィ、そろそろ姉ちゃんに連絡したら?」
「ん?別にいらないんじゃないか?」
どうせ心配してないだろと笑うと、オルトが口を出した。
「クロアは全員ハヴィなら大丈夫って言ってたけど……あ、っていうかお前、何で団長と婚約したの教えてくんなかったの?」
「は!?誰と誰が?」
「だからハヴィと団長が。」
「してないけど!?」
「んんん?」
訳がわからないと困惑するオルトと、全くわかっていないハヴィに、アンセルが大きくため息をついた。
「……二人とも、こっちに座りなさい。」
ベッドから起き上がって座り直すアンセル。
何やら雰囲気に押され、顔を見合わせた二人が言われるがままに正座をした。
アンセルがある程度の見解を話して聞かせると、ハヴィの顔色が赤や青に変化していった。
「……は!?そんなこと言ってないけど!?」
ちぎれんばかりに首をふるハヴィに、オルトが肩をすくめる。
「いや、団長はそう思ってるんだよなぁ」
「いやいや、団長といい感じだったのはオルトでしょ?」
「いやいやいや!ないから全然!」
「いやいやいやいや、そうだったって、だってさ……!」
「もうイヤイヤうるさいな!」
二人が揃って首の振り合いをしている中、叫んで立ち上がったアンセルに押され、オルトもハヴィもギュッと黙り込んだ。
「いいか、よく聞け。君らは言葉が足らなすぎたのが原因です。そこが大きな勘違いの敗因だ。」
「……はい」
アンセルはドンと目の前に指輪を置いた。
「いいですか?ハヴィは団長が誤解をしているということを頭に入れ、今後はそう言う目で見られている事を警戒して。」
「……う、はい」
「そしてオルト、キミは団長の誤解を解け。」
「え、やだ。」
「やだじゃありません。じゃないとこの指輪をオルトにはめて2度と取れなくしてあげます。」
「なんで僕だけ超難題なんだよ!」
「ハヴィが出ると多分誤解は解けない。何故なら言葉が足らないから。そしてそのままもっと拗れることだろう。しかもハヴィは私のものなのだから2度とアイツと会わせたくない。」
「ん?もう身も心も自分のものにしたの?」
「身の方はまだです。」
「は?心もまだですが!?」
「どっちもまだなの?じゃあまだアンセルのものじゃないじゃん。」
「いいえ、もう私の嫁なので!!」
「俺、嫁じゃないし!」
ギャアギャアと言い合う3人を遠くから見つめている、執事クラン。
小さい頃からアンセル様にお支えしてきましたが、こういう光景を見たのはアンセル様が王太子の婚約者になる前だった。本当に懐かしい、とこっそりと涙を拭った。
*
「ていうか、団長は無意識か知らんが、周りから固めていっている気がする。」
「カタメルトハ?」
キッチンに降りて、ジャガイモとにんじんの皮剥きを手伝っていたオルトとハヴィ。
オルトの言葉に驚きすぎて、思わず手に持っていたナイフとニンジンを、床に落としてしまった。
流石にアンセルに諭された事が結構効いてんなと、オルトは少しだけ笑ってしまう。
笑ったオルトにハヴィは察して怒り、ペチペチとオルトの背中を叩いた。
「イタイ痛いって、ごめんってば!ていうか、第二メンバーで僕だけキミらの婚約を知らなかった。」
「は?みんな知ってたっていうこと?」
ナイフを拾い上げ、落としたニンジンを洗おうと桶に水を入れようとして、また落としてしまう。
さっきから自分の話だと言うのに、全く知らない話をされて薄気味悪いのだ。
心ここに在らずではないが、体の中からゾワゾワしたものが居座り続けて居心地が悪い。
なので余計に体に変な力が入ってしまうのだ。
ギュッギュウとニンジンを力任せに洗っていると、ハヴィを気にしながらオルトが話を続けた。
「うーん、なんか団長が婚約話を出したときに、他の団員が微笑ましい顔で頷いてた気がすんだよなあ」
「えええやだよ俺、好きな人いるし。」
「うん、だよな……。」
やっぱそうだよな、やっぱ好きな人は団長じゃないってことだ。
だけどハヴィが戻ったら、周りはもう団長の婚約者として認識してそうだね、と。
オルトが呟いた言葉が地味にハヴィの心に効いた。
「団長と結婚なんてやだあああ!!」
突然ニンジンを投げ捨て、ハヴィがキッチンから逃げ出した。
そしてアンセルがスヤスヤと寝ている寝室に叫びながら入ってきて号泣。
二度寝中のアンセルは飛び起きて、どこぞの魔物のように驚き戸惑った。
この屋敷についてからは同じベッドで寝てくれなかったのだが、飛んで火にいる何とやら。
一緒に寝ることを拒んだハヴィが、自分のベッドに飛び込んできたのだ。
若干寝ぼけ気味なのもあって、もう有無を言わさず食ったろかいと伸ばした手を、理性が戻す。
ヤダヤダいいながべそべそする可愛い嫁に、疼く片腕を抑えながら頑張った。
何を頑張ったか。あやすのを頑張った。己の欲望に勝ったのだ。
まだだまだ、その時ではない。
はいはいいい子いい子大丈夫でちゅよー。
何が大丈夫なんだ言ってみろはよバカ、と悪態をつかれても。
ハイハイ大丈夫だからねー、オルトがなんとかしてくるからねー、とあやし続けた。
途中抱きしめていたハヴィの子供体温に、再び襲ってきた睡魔に負けてウトウトしていた間に、なんか思っても見ないほうへと事態が動いていく。
「ん!?」
アンセルはなんだか肌寒くて目を開けると、シャツのボタンは全部外され、上半身が顕となった自分がいる。
状況がよくわからず、えーっとと頭をかくと、何かが自分の上に乗っていることに気がついた。
そいつは自分の上でピョコりと頭を上げると可愛い顔で微笑んだ。
「あ、起きた?」
「起きたような……起きてないような?」
「俺、思ったんだけど」
「んん?」
全く話が噛み合わない気がして、首を傾げる。
こういう時のハヴィは危険だという事もなんとなく知っていて。
『俺思ったんだけど』と再び呟く嫁を、一旦自分の上から下ろして横に置く。
よしよし、それじゃあ話を聞こうと、肌けたシャツのボタンを閉めた。
「アンセルと既成事実を作ったら、俺と団長と結婚しなくて済むんじゃね?って」
「私としては願ってもないチャンスだけど」
でもでも何かがおかしいと、アンセルの本能が言っている。
「てか既成事実って、これ私が襲われているような?」
疑問をハヴィにぶつけてみたら、何と言う事でしょう、ハヴィは満面の笑みでこう言った。
「あったりまえじゃん!嫁は俺じゃなくてアンセルだから。」
「……えーっと。」
ちょっとハヴィエルさん、お待ちになって。
せっかく閉めたボタンの隙間から、アンセルの胸筋を揉んでる可愛いお手々を掴んで止めた。
なんで止めるんだと暴れるハヴィをひっくり返し、体勢逆転する。
逆に押し倒す形で、ハヴィの動きを封じながら大事なことを伝えることにした。
「これは譲れない。というかアナタが私に抱かれないと、団長は婚約を諦めないと思うよ。」
「なんでだよ、おかしいそんなの」
プンと不貞腐れたように膨らむ頬に軽く唇で触れると、ハヴィは驚いた顔で固まった。
「おかしくないんだなぁ。だって団長は抱かれる側ではないんじゃないかな?アナタの純潔を望まれていらっしゃるのだから。」
にっこりと微笑んであげる。
ハヴィはハッとした顔になり、今度は耳まで真っ赤に変色する。
「ハヴィ可愛い。」
思わず口からこぼれる言葉に、さらに赤みが増した。
「……どうする?今急いで私に抱かれる?私はもう少しだったら待てるけど。」
ハヴィを拘束している手を緩めると、慌ててアンセルから抜け出すように、離れていく。
触れていた温もりがなくなり、少し寂しい気持ちでハヴィを眺めていると、あっという間にバタバタと大きな足音を立てて、すごい勢いで部屋からいなくなった。
まるで罠から抜け出した小動物の様だと、アンセルは緩む口元を手で隠した。
「あーあ、逃げられた。」
アンセルは残念そうに笑いながらベッドに倒れ込んだ。
さっきまで組み敷いていたハヴィの温もりと匂いがする。
その匂いを吸い込むと、再びまどろむために布団へと潜っていった。
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