魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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お寺の少年2

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 ユーリと別れて、私は単身、本堂の裏にある家屋へと向かっている。

 玄関にかけられた鍵を、左手の中指にはめた指輪「解錠の魔導具」を前に突き出し開ける。
 「カチャッ」と小さく解除の音がしたのを確認し、そっと玄関の引き戸を開く。

 先ほど呼び鈴を鳴らして留守は確認したので、家の中に人が居る可能性は低い。万が一、誰か玄関ドアの向うに居たとしても、私の姿は隠形魔術で見えていない為、勝手に引き戸が開くというホラー場面があるだけだ。

(お邪魔しまーす。)

 心の中で挨拶をして玄関に入る。
 脱いだ靴は邪魔になるので、斜めに掛けた鞄の外ポケットにねじ込んでおいた。

 昔ながらの家なので、玄関と玄関ホールが広い。
 そして、その玄関ホールの奥に見えるのが目的の「大きな古時計」だ。

 私の背よりも高いそれは、目線の位置に時計の文字盤があり、中央から下にかけてガラス張りの扉が付いている。その奥で振り子が静かに揺れ、時を刻んでいた。

 私のお目当ては、振り子の揺れる内部。
 古い木材の艶が美しく立派な「大きな古時計」の内側に「時を越える短剣」は隠されているという。

 「時を越える短剣」とは、大量の魔力を流し込み、戻りたい過去の瞬間を頭にイメージし、己の胸を刺すことで時空を遡れると言われている、物騒な魔導具だ。

 時空を遡ると、今の記憶を留めたまま過去の自分と同化し、その過去の瞬間から人生のやり直しができると言われている。
 ただ、自分の胸を短剣で刺すとか、生半可の気持ちじゃできないよね。


(さーて、お望みのものはちゃんと中にあるかな?)

 古時計の前面、ガラス戸の木枠に指をかけ、そっと手前に引く。

 “キイーッ“っと古びた蝶番が鳴って音を立てる。

(やばっ、玄関ホールって結構音が響くっ!)

 じんわりと嫌な汗が染み出してくる。
 誰も居ないと分かっていても、音を立てる事には危機感があるのだ。

 内側に手を入れて、揺れる振り子の上あたり、外からは見えない部分を手探りで確かめる。

 冷んやりとした金属の感触や、木の柔らかく温もりのある質感が指先に伝わる。

(違う、これじゃ無い。)

 もっと中を見たいと、頭を振り子が揺れる時計の本体へと突っ込んでみる。

(あった!)

 鈍く光る細長い物体が、見える。

 古時計の内側、時計の文字盤とは反対側の位置に不自然な板が渡され、そこに短剣が乗せられていた。

 『時を越える短剣』を態々、こんな場所に隠すなんて‥。
 余程、他人の目から遠ざけたかったに違いない。

 白い手袋をはめた手を伸ばして、様子を探る。
 情報通りのサイズで、白い手袋に付着する物も特には無さそうだ。

 出来るだけ静かに、短剣を古時計の内部から取り出す。
 金属製の鞘も付いているので、ずっしりと重たい。
 刻まれた模様も文字も、禍々しい術に使われがちな物は使われていなそうだ。
 
 グリップの部分の装飾には魔石が使われていて、握るとゴツゴツと小さな魔石が指に当たる。
 おそらく、握りながら魔石に触れ、力を流し込んで発動させるのだろう。そして、戻りたいその時を心にイメージして、その刀身の先を胸に突き立て‥。

(あーーっっ!!)

 考えるだけで、身の毛もよだつ程に恐ろしい。
 私は騎士でも無いし、ただの魔導具師だから痛いのは勘弁だ。
 
 誰かが、この短剣を使った事があると想像するだけで恐ろしい。

 恐る恐る、鞘をゆっくり取り外してみると、鈍く光る刀身が見えた。
 使用後に血を吸って、錆びついているような状態も想定していたのでホッとする。

 きちんと手入れをしてから、古時計の中に隠しておいたのだろう。

 それにしても、もしこの魔導具が使われたのであれば、使った本人は過去に戻っている事になり、使用済みの短刀は現代に置いてけぼりになってしまう。

 はて、それでは誰がどうしてこの魔導具を、厳重に古時計の中へ隠したのか?

 脳内に浮かんだ疑問に、グルグルと頭を悩ませていた、まさにその時だった。

「なにしてんの?」

 振り返った先に、伸び伸びのTシャツに着古したスウェットパンツを履いた、寝起き姿の少年が立っていた。




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