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『番人』ユーリ視点
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私は、特に必要のない王子として産まれた。
イシュタニア国王の側妃の子。
現国王は子どもに恵まれ、王妃との間には王子が3人に王女が1人。
その他の即妃との間にも、6人の王子と4人の王女がいる。
その中で、1番身分が低い妃から産まれたのが私というわけだ。
私を産んだ母は、元々、魔術師を輩出してきた貴族の家の出で、本人も魔力量がとても多かった。
国家魔術師の資格試験にも合格し、念願の王宮魔術師として務めていたのだが、その容姿の良さが仇となった。
美しい母の姿を目に留めた国王は、魔術師としてではなく妃として迎え入れることを望んだのだ。
魔術師としても優秀だった母は妃になる事を望まなかったが、妃になったとしても危険のない仕事ならばしても良いという条件に頷き、婚姻を受け入れたらしい。
母は他の妃とは別の、王宮でも奥まった場所にある離れに住まい、魔術の研究をしつつ、私を育ててくれた。
私自身も、母の魔術師としての素質と王家の血という特殊な組み合わせで、体の成長とともに扱える魔力量がどんどん増えていった。
私は国王の子ではあるが、成人したとて王位継承する訳でもなく、国の中枢で政治を握る訳でもない。
王家に関わる多くの人間が、そんな王子の存在を気にも留めていなかった。
そんなある日。
王家に仕える占い師が近々『神の蒔きし種』が現れると言い出した。
『神の蒔きし種』
末端でも王族ならば教えられている存在。
出会った者の本質的な力を開き導く、神の使い人。
今後、数百年に渡って国を豊かにするような傑物の運命を導き、大いなる繁栄をもたらす特別な神の申し子。
ただ、その存在の影響は計り知れず、政治に不満を持つ者が国家転覆を企てる引き金にもなりかねない。
また王族内と言えども、側妃の王子を王位に据えようと、画策する妃の家門があっても不思議では無い。
その為に古くから『神の蒔きし種』が現れると、そのシードと呼ばれる申し子を守るべく、王族から「番人」なる人物が選出されるのだ。
条件は『神の蒔きし種』を守る力を持ち、尚且つ、特殊な術式を習得する能力を持つ者。
今まで忘れ去られた王子という存在だった私は、突然選ばれ「番人」と呼ばれるようになった。
私が番人に選ばれたのはたった10歳の頃。
だが、大人が真面目に話をすれば、大抵の事は理解が出来る歳でもあった。
これから現れるであろう「神の蒔きし種」の為に生きるという事も、そして、その子の命を最終的に奪うような存在になるだろうという事も。
元々、国の仕事に就く事は無く、魔術師として生きていくだろうなとは考えていた。
だが、いざ「番人」に任命されてしまうと、国から存在は秘匿され、益々、式典などの表舞台に出る事は無くなっていった。
国を支える影の存在でなくてはならなかったからだ。
特に不満は無かったが、ただ暇だと感じた。
話に聞いた「神の蒔きし種」が一向に見つからなかったからだ。
魔術書も読み尽くしたし、魔術師団に混ざって実技もそれなりに身につけた。
身分を隠しては魔獣討伐に出て、目立たないように成果を上げることにも飽きた。
そんな事を繰り返している間に、私は25歳になっていた。
隠れて暮らす事には慣れたが、何もしていないし何にも成れていない。
時間という砂粒が指の間からこぼれて行くのを、じっと見ているような日々だった。
そんなある日、私に降って湧いたような話が持ちかけられた。
「日本という異世界に行ってみないか」と。
話を持ってきたのは、私の母親の元直属の上司で、今では魔術師協会のトップとして君臨する人物だ。
前、国王の子でもあり、今は降下して臣籍となっている。
王家の事情も知っているし、一向に現れない「神の蒔きし種」の番人として、所在なげにしている私を気づかってくれたのだろう。
国の中で居場所を作り活躍する場が無いのなら、いっそ、違う世界で暮らしてみたらどうかと、そういう話だった。
『神の蒔きし種』が現れたら戻ると、国王である父と誓約を交わし、私の日本行きは正式な物となった。
私が日本ですべき任務は、イシュタニア国から持ち込まれた魔導具の回収だ。
魔導具は作られた年代によって特徴的な回路を持っていたり、使われる術式も用途によって様々だ。
装飾性にこだわった物は、美術品やアクセサリーとして使用されていたりもする。
専門的な知識が必要な仕事の為、パートナーとして一緒に日本へ行くのは、優秀な魔導具技術師らしい。
私はその魔導具技術師のサポートをする事と、国王への報告書をあげる事が主な仕事内容だ。
日本とイシュタニア国は、許可証さえあれば出入りは自由なので、特に身構えずに出発の日を迎えた。
日本へ向かうその日。
異世界門を通る直前に、私はパートナーとなる人物に引き合わされた。
少年のように短く整えられたオレンジ色の髪に、同じくオレンジがかった茶色い瞳。
スッと整った高過ぎない鼻梁は美しいと言うより愛らしく、花びらの様にふっくらとした艶やかな唇が、小さな顎の上に収まっていた。
まだ、成人にも達していない幼い風貌の少女が、大きな荷物を背負ってそこに居た。
私は日本行きは無かったことにして、ここを立ち去りたいと思った。
そして、何故、出発当日まで、仕事のパートナーに合わせてもらう機会が無かったのかを悟った。
私は、これからこの子のお守りをしながら仕事をしなくてはならないのか?
珍しい日本行きの仕事だからではなく、この子が仕事のパートナーだから、誰も引き受けなかったんじゃないの、か?
グルグルと余計な思考が頭を廻り、目眩までしそうになってきた。
「魔導具技術師の ミツリ レオーネ、15歳です。ミツリって呼んでくださいっ。若いですけど心配しないでください、私、天才なので!」
そう笑顔で言われて、本格的に眩暈がした。
イシュタニア国王の側妃の子。
現国王は子どもに恵まれ、王妃との間には王子が3人に王女が1人。
その他の即妃との間にも、6人の王子と4人の王女がいる。
その中で、1番身分が低い妃から産まれたのが私というわけだ。
私を産んだ母は、元々、魔術師を輩出してきた貴族の家の出で、本人も魔力量がとても多かった。
国家魔術師の資格試験にも合格し、念願の王宮魔術師として務めていたのだが、その容姿の良さが仇となった。
美しい母の姿を目に留めた国王は、魔術師としてではなく妃として迎え入れることを望んだのだ。
魔術師としても優秀だった母は妃になる事を望まなかったが、妃になったとしても危険のない仕事ならばしても良いという条件に頷き、婚姻を受け入れたらしい。
母は他の妃とは別の、王宮でも奥まった場所にある離れに住まい、魔術の研究をしつつ、私を育ててくれた。
私自身も、母の魔術師としての素質と王家の血という特殊な組み合わせで、体の成長とともに扱える魔力量がどんどん増えていった。
私は国王の子ではあるが、成人したとて王位継承する訳でもなく、国の中枢で政治を握る訳でもない。
王家に関わる多くの人間が、そんな王子の存在を気にも留めていなかった。
そんなある日。
王家に仕える占い師が近々『神の蒔きし種』が現れると言い出した。
『神の蒔きし種』
末端でも王族ならば教えられている存在。
出会った者の本質的な力を開き導く、神の使い人。
今後、数百年に渡って国を豊かにするような傑物の運命を導き、大いなる繁栄をもたらす特別な神の申し子。
ただ、その存在の影響は計り知れず、政治に不満を持つ者が国家転覆を企てる引き金にもなりかねない。
また王族内と言えども、側妃の王子を王位に据えようと、画策する妃の家門があっても不思議では無い。
その為に古くから『神の蒔きし種』が現れると、そのシードと呼ばれる申し子を守るべく、王族から「番人」なる人物が選出されるのだ。
条件は『神の蒔きし種』を守る力を持ち、尚且つ、特殊な術式を習得する能力を持つ者。
今まで忘れ去られた王子という存在だった私は、突然選ばれ「番人」と呼ばれるようになった。
私が番人に選ばれたのはたった10歳の頃。
だが、大人が真面目に話をすれば、大抵の事は理解が出来る歳でもあった。
これから現れるであろう「神の蒔きし種」の為に生きるという事も、そして、その子の命を最終的に奪うような存在になるだろうという事も。
元々、国の仕事に就く事は無く、魔術師として生きていくだろうなとは考えていた。
だが、いざ「番人」に任命されてしまうと、国から存在は秘匿され、益々、式典などの表舞台に出る事は無くなっていった。
国を支える影の存在でなくてはならなかったからだ。
特に不満は無かったが、ただ暇だと感じた。
話に聞いた「神の蒔きし種」が一向に見つからなかったからだ。
魔術書も読み尽くしたし、魔術師団に混ざって実技もそれなりに身につけた。
身分を隠しては魔獣討伐に出て、目立たないように成果を上げることにも飽きた。
そんな事を繰り返している間に、私は25歳になっていた。
隠れて暮らす事には慣れたが、何もしていないし何にも成れていない。
時間という砂粒が指の間からこぼれて行くのを、じっと見ているような日々だった。
そんなある日、私に降って湧いたような話が持ちかけられた。
「日本という異世界に行ってみないか」と。
話を持ってきたのは、私の母親の元直属の上司で、今では魔術師協会のトップとして君臨する人物だ。
前、国王の子でもあり、今は降下して臣籍となっている。
王家の事情も知っているし、一向に現れない「神の蒔きし種」の番人として、所在なげにしている私を気づかってくれたのだろう。
国の中で居場所を作り活躍する場が無いのなら、いっそ、違う世界で暮らしてみたらどうかと、そういう話だった。
『神の蒔きし種』が現れたら戻ると、国王である父と誓約を交わし、私の日本行きは正式な物となった。
私が日本ですべき任務は、イシュタニア国から持ち込まれた魔導具の回収だ。
魔導具は作られた年代によって特徴的な回路を持っていたり、使われる術式も用途によって様々だ。
装飾性にこだわった物は、美術品やアクセサリーとして使用されていたりもする。
専門的な知識が必要な仕事の為、パートナーとして一緒に日本へ行くのは、優秀な魔導具技術師らしい。
私はその魔導具技術師のサポートをする事と、国王への報告書をあげる事が主な仕事内容だ。
日本とイシュタニア国は、許可証さえあれば出入りは自由なので、特に身構えずに出発の日を迎えた。
日本へ向かうその日。
異世界門を通る直前に、私はパートナーとなる人物に引き合わされた。
少年のように短く整えられたオレンジ色の髪に、同じくオレンジがかった茶色い瞳。
スッと整った高過ぎない鼻梁は美しいと言うより愛らしく、花びらの様にふっくらとした艶やかな唇が、小さな顎の上に収まっていた。
まだ、成人にも達していない幼い風貌の少女が、大きな荷物を背負ってそこに居た。
私は日本行きは無かったことにして、ここを立ち去りたいと思った。
そして、何故、出発当日まで、仕事のパートナーに合わせてもらう機会が無かったのかを悟った。
私は、これからこの子のお守りをしながら仕事をしなくてはならないのか?
珍しい日本行きの仕事だからではなく、この子が仕事のパートナーだから、誰も引き受けなかったんじゃないの、か?
グルグルと余計な思考が頭を廻り、目眩までしそうになってきた。
「魔導具技術師の ミツリ レオーネ、15歳です。ミツリって呼んでくださいっ。若いですけど心配しないでください、私、天才なので!」
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