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『番人』ユーリ視点2
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引き返したい気持ちを押し留め、私は手順通りにイシュタニア国を出る異世界門を通った。
もし今、国に戻ったとしても、この少女の仕事をサポートする人材が他に居るとも思えなかったし、何より自分自身が己の生活には飽き飽きしていたのだ。
変化であれば何でも良かった。
もし後悔するとしても、他に選べる道なんてないのだから、このままでいいんだ。
私は心の中で繰り返し自分に言い聞かせながら足を進めた。
異世界門の中は、暗闇の「中間世界」だ。
異世界に通じた場所の数だけ門は存在し、通じ合った異世界門の間には道ができる。
後ろを振り返ると暗闇の中、小さな体で大きな荷物を背負い、足元を伺いながら少女が付いて来ていた。
15歳だと言っていた少女は、見た目の通りまだ幼い。
親元を離れて暮らすことにも寂しさを感じる年だろう。
私の冷ややかな態度が、彼女を不安にさせてしまっただろうかと心がざわついた。
「荷物、重く無いか?門はもう目の前だから、後少しだ」
気まずさもあって、少女に声をかける。
「・・・、ねぇ、見てくださいよ!この地面、歩くと固いのに、踏みしめてるとちょっと沈むんです。ちょっと面白くないですか?」
「・・・」
やっぱり、こういう奴なんだ。
マイペースで、気にかけるだけこちらが消耗するのだろう。
心配をするだけ無駄になる。
◇
到着した異世界門を通ると、目の前にあったのは、奥行きのある細長い部屋だった。
長い壁伝いに棚が組まれ、古めかしい壺や器、何に使うか分からない品が、色々と飾られている。
見るからに古道具屋という感じだ。
奥には、また別のガラス製のドアがあり、そこがこの世界の街への入り口となっているのだろう。
出てきたドアの近くには、小型の執務机の様な物が置かれ、その隣には、工具類が集められた作業台が見える。
「これだけ古道具が並んでいたら、魔導具の一つや二つ、紛れていても分かりませんよね‥」
(それを見分けるのも君の仕事だろ?)
素直に感想を漏らす少女に対して、つまらない反発が心に生まれる。
「おぉーっ!これは、どんなに古く錆びついたパーツでも取り外せる、魔導具専用の工具だ!流石、国王がスポンサーだと工具も良いなー」
目をキラキラさせながらドライバーを握る姿は、確かに技術屋っぽい姿に見える。少なくとも、今回の仕事を任されたからには、それ相応の人物なのであろう。そう思いたい。
「あ。この犬の置物可愛いー。『エリック』て名前付けて良いですか?」
魔導具関係なく、はしゃぐ少女に思考が追いつかない。
ーー私はやっぱり、帰っても良いのでは?
そんな思いが心の奥底から上がってくるのを、必死の思いで押し留めるのだった。
◇◇◇
この店舗自体はビルの3階にあり、前任者が老齢の為にイシュタニア国へ戻ってからというもの、半年もの間、店は閉まっていたようだ。
同じビルの4階と5階が居住スペースになっていて、そこが私達の生活の場となる。
4階は共同のキッチンと水回りが付いていて、部屋数が多い作りだ。
5階は最上階で天井も高く、広いリビングにルーフバルコニーまで付いている。
キッチンも広く、ホームパーティが開けそうな開放的な空間だ。
わたしは当たり前のように5階を使用するつもりだったが、ミツリも5階を使いたいと駄々をこねた。
諦めも悪く「絶対5階!」と自分の荷物を並べ始めたので、仕方がなく「私は実は王族なんだ。」と威圧的に己の身分を打ち明けた。
彼女の瞳の中に一瞬動揺したような揺らぎが見えたかと思おうと、
「くっ、王族様なら早く言ってくれ!」
と王族への言葉とは思えない言葉を放った後、トボトボと4階へと消えて行った。
少し大人気なかったとは思う。
正直、私は狭い部屋でも何でも良かったのだが、これからの生活であの勝気な少女を御するにはどちらが上かを示した方が良いと思ったのだ。
先手を打つに越したことはない。
◇◇◇
大まかな仕事は、リストに載っている魔導具の回収。
日本へ流出しただろう魔導具の下調べはついており、回収可能な物の目星は付いている。
「窃盗」等の日本の法に触れるようなケースもあるが、この国で魔導具を暴発させる事を考えれば、回収された方がよいだろう。
私の魔術を使えば、大抵の魔導具は回収可能だ。
姿を隠す事も、何重にも重ねられた鍵だって開けることはできる。
証拠を残さず物だけを回収するのなら、さほど難しくはないのだ。
だが、多くの物の中から魔導具を見分けたり、状態を確認して安全に持ち帰るにはプロの目が必要だ。
その為、ミツリが回収に出る事があり、その時は私が全力のサポートをすることになる。
ミツリ自身が開発した魔導具で武装して回収に挑むが、私の魔術も大いに使う作戦を立てるので毎回疲弊する。
遠慮が無いのだ。
これと決めたら達成する事しか脳に無い。
潔く、真っ直ぐに道を切り開いていく。
私に無い能力を彼女が持っている事は明らかなのだが、如何せん、全く羨ましくはない。
あんなに無鉄砲な人間に出会ったのは初めてだ。
噂に聞く、前の魔術師団長にそんな人物がいたはずだが、きっと周りは疲弊したことだろう。
だが、そろそろミツリ主体の作戦を立てさせないと、本気でゴネそうだ。
最近は、私が立てた計画ばかりを遂行しているため、ミツリが眠そうにしている。
技術力も能力も高いがまだまだ子どもだから、力を全開で使わないと不完全燃焼になってしまうのだろう。
私は覚悟を決めて、次の魔導具の回収案件はミツリに託す事にした。
もし今、国に戻ったとしても、この少女の仕事をサポートする人材が他に居るとも思えなかったし、何より自分自身が己の生活には飽き飽きしていたのだ。
変化であれば何でも良かった。
もし後悔するとしても、他に選べる道なんてないのだから、このままでいいんだ。
私は心の中で繰り返し自分に言い聞かせながら足を進めた。
異世界門の中は、暗闇の「中間世界」だ。
異世界に通じた場所の数だけ門は存在し、通じ合った異世界門の間には道ができる。
後ろを振り返ると暗闇の中、小さな体で大きな荷物を背負い、足元を伺いながら少女が付いて来ていた。
15歳だと言っていた少女は、見た目の通りまだ幼い。
親元を離れて暮らすことにも寂しさを感じる年だろう。
私の冷ややかな態度が、彼女を不安にさせてしまっただろうかと心がざわついた。
「荷物、重く無いか?門はもう目の前だから、後少しだ」
気まずさもあって、少女に声をかける。
「・・・、ねぇ、見てくださいよ!この地面、歩くと固いのに、踏みしめてるとちょっと沈むんです。ちょっと面白くないですか?」
「・・・」
やっぱり、こういう奴なんだ。
マイペースで、気にかけるだけこちらが消耗するのだろう。
心配をするだけ無駄になる。
◇
到着した異世界門を通ると、目の前にあったのは、奥行きのある細長い部屋だった。
長い壁伝いに棚が組まれ、古めかしい壺や器、何に使うか分からない品が、色々と飾られている。
見るからに古道具屋という感じだ。
奥には、また別のガラス製のドアがあり、そこがこの世界の街への入り口となっているのだろう。
出てきたドアの近くには、小型の執務机の様な物が置かれ、その隣には、工具類が集められた作業台が見える。
「これだけ古道具が並んでいたら、魔導具の一つや二つ、紛れていても分かりませんよね‥」
(それを見分けるのも君の仕事だろ?)
素直に感想を漏らす少女に対して、つまらない反発が心に生まれる。
「おぉーっ!これは、どんなに古く錆びついたパーツでも取り外せる、魔導具専用の工具だ!流石、国王がスポンサーだと工具も良いなー」
目をキラキラさせながらドライバーを握る姿は、確かに技術屋っぽい姿に見える。少なくとも、今回の仕事を任されたからには、それ相応の人物なのであろう。そう思いたい。
「あ。この犬の置物可愛いー。『エリック』て名前付けて良いですか?」
魔導具関係なく、はしゃぐ少女に思考が追いつかない。
ーー私はやっぱり、帰っても良いのでは?
そんな思いが心の奥底から上がってくるのを、必死の思いで押し留めるのだった。
◇◇◇
この店舗自体はビルの3階にあり、前任者が老齢の為にイシュタニア国へ戻ってからというもの、半年もの間、店は閉まっていたようだ。
同じビルの4階と5階が居住スペースになっていて、そこが私達の生活の場となる。
4階は共同のキッチンと水回りが付いていて、部屋数が多い作りだ。
5階は最上階で天井も高く、広いリビングにルーフバルコニーまで付いている。
キッチンも広く、ホームパーティが開けそうな開放的な空間だ。
わたしは当たり前のように5階を使用するつもりだったが、ミツリも5階を使いたいと駄々をこねた。
諦めも悪く「絶対5階!」と自分の荷物を並べ始めたので、仕方がなく「私は実は王族なんだ。」と威圧的に己の身分を打ち明けた。
彼女の瞳の中に一瞬動揺したような揺らぎが見えたかと思おうと、
「くっ、王族様なら早く言ってくれ!」
と王族への言葉とは思えない言葉を放った後、トボトボと4階へと消えて行った。
少し大人気なかったとは思う。
正直、私は狭い部屋でも何でも良かったのだが、これからの生活であの勝気な少女を御するにはどちらが上かを示した方が良いと思ったのだ。
先手を打つに越したことはない。
◇◇◇
大まかな仕事は、リストに載っている魔導具の回収。
日本へ流出しただろう魔導具の下調べはついており、回収可能な物の目星は付いている。
「窃盗」等の日本の法に触れるようなケースもあるが、この国で魔導具を暴発させる事を考えれば、回収された方がよいだろう。
私の魔術を使えば、大抵の魔導具は回収可能だ。
姿を隠す事も、何重にも重ねられた鍵だって開けることはできる。
証拠を残さず物だけを回収するのなら、さほど難しくはないのだ。
だが、多くの物の中から魔導具を見分けたり、状態を確認して安全に持ち帰るにはプロの目が必要だ。
その為、ミツリが回収に出る事があり、その時は私が全力のサポートをすることになる。
ミツリ自身が開発した魔導具で武装して回収に挑むが、私の魔術も大いに使う作戦を立てるので毎回疲弊する。
遠慮が無いのだ。
これと決めたら達成する事しか脳に無い。
潔く、真っ直ぐに道を切り開いていく。
私に無い能力を彼女が持っている事は明らかなのだが、如何せん、全く羨ましくはない。
あんなに無鉄砲な人間に出会ったのは初めてだ。
噂に聞く、前の魔術師団長にそんな人物がいたはずだが、きっと周りは疲弊したことだろう。
だが、そろそろミツリ主体の作戦を立てさせないと、本気でゴネそうだ。
最近は、私が立てた計画ばかりを遂行しているため、ミツリが眠そうにしている。
技術力も能力も高いがまだまだ子どもだから、力を全開で使わないと不完全燃焼になってしまうのだろう。
私は覚悟を決めて、次の魔導具の回収案件はミツリに託す事にした。
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