魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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「父」現る

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「グェ、グッ、グフォッ」

「何だ、ミツリは久しぶりに会ったのに、言葉が出てこないのか?」

「ゴホッ、グォッ、と、止まって‥。」

「何を?止まったらアイツに追いつかれる。止まれねーよ。」

「ば、ば、ば‥。」

「ばーばーって赤ちゃんか?もうそんな歳では無いだろう?」

「ば、ば、ばか親ーーっ‼︎!」


 ◆


 私と父ランドールは、木立のある広い公園の一角に潜んでいる。

「何で、どうしてそうなの?!いきなり出てきて訳わからないっ。」

「すまない。そんなつもりじゃなかったんだ。」

 そんな、って?どんなつもりなら、こんな事になるのだろう?

「今だって、せっかく会えたのに、真っ暗闇で顔も見えないよ!」

「すまない。顔を見たいとは思わなかった。」

「はっ?!」

 話の噛み合わなさに愕然とする。
 自分の当たり前を押し付けて、勝手に怒っているのがバカみたいじゃないか。

「顔が、見えれば良いのか?ほら?」

 父ランドールが手の平に光の球を作り出す。
 淡く輝くその光に照らされて、父の顔が暗闇に浮かび上がる。

「あ、少し、私に似てる、かも。」

 父の顔は想像していたよりも厳つくなく、目つきこそ鋭いけれど、ツンとした小ぶりな鼻や、若干厚みのある唇は私とよく似ている。

「そうか?ミツリは女の子だし、俺は男だ。似ない方が良いぞ。」

「ふふっ、私はそんなに眉毛は濃くないよ。あと、どうして髪の色がオレンジに変わったのかも分かった。一緒なんだね。」

「あぁ‥。神力を封じたら、その色に変わったんだ。元々は俺の色だったんだろ。神力に変えられたんだ。」

「そうかぁ‥。こっちの方が本当の髪の色だったんだね。この姿が、私の本当の姿なんだと思うと、なんか嬉しいなぁ‥。」

 いつも、自分は姿を偽っていると思い暮らしてきたから、こっちの姿が本物だと言われて、すごく心が軽くなった。

「・・・・・。ありがとう。」

「よく分からんが、どういたしまして。」

 いざ、目の前にすると「お父さん」って呼べないものだな。



 ◇◇◇


「いつまでここに居るの?すっごく寒いんだけど。」

「止まってくれと言ったのはミツリだろ?俺はもう少し距離を稼ぎたかった。」

 周りの景色からして、まだ街中だ。遠くに見える高層ビル。
 広く鬱蒼とした木立。
 おそらく此処は「新宿御苑」

「なんかこう、魔術であったかくなるの無いの?」

「何か燃やすか?」

「え?あ、うん。いいや。」

 やっぱり、ユーリみたいな魔術は使わないらしい。
 魔術師って得意分野があるもんね。

「しっ、居場所がバレたな。こっちに近づいてくる。」

「あ、もしかしてっ、これ?」

 私は首から下げたペンダントを服の中から取り出す。
 ユーリの瞳の色の石が付いた、あの魔導具だ。

「そんな物を付けさせられていたのか‥。それを此処に捨てて移動だ。隠しておとりにすれば、時間を稼げる。」

「捨てるって?これを?」

「あぁ、奴はお前に執着している。番人だか何だか知らないが、ミツリが不幸になるのを分かっていて連れて行く奴は、悪だ。そんな物は捨てていけ。」

「悪‥。」

 ユーリと「悪」と言う言葉が結びつかない。

「あのね、悪ではない。ただ、それが正しいから、そうするんだよ。」

「はっ?!正しいって何だ?ミツリが我慢する事が正しいって何だ!?俺はそんなの認めないっ!」

「もうっ!本当に話聞かないなぁ!悪じゃないって言ってるの!私が望むから行くんだよ。私にも、やらなきゃいけないことがあるんだって!」

「俺は戦うぞ。諦めたら終わりだ‥。」

 そういうと、父は斜め前方の木立の中に、手の平に浮かぶ光球を放った。



 ◇◇◇



 数十メートルは先だろうか?
 木立の間で光球が何かに当たり、霧散している。

「ちっ、消しやがった。‥‥向こうから来ないなら、こっちから行ってやる。ミツリ!身を守れるか?」

「えっ?!このペンダントが守りの魔導具だから、少しは平気。」

「かぁっー、つまんねぇなぁ、それっ‥!気に食わねぇけど、まぁミツリが無事ならいいか。とりあえず、当たらないように隠れとけっ。」

「隠れるって、何処に?!」

「適当に、その辺ーっ。」

 父は屋根の付いた石造りの建物を指差した。
 流石に建造物を壊す気はないらしい。

 高層ビルの薄明かりに照らされた石造りの建物に向けて、全速力で移動する。
 こうして私が走っている間にも、後ろで光球がいくつも放たれているのが見えた。

「ユーリ、大丈夫かなぁ‥。」

 明日のニュースが、「新宿御苑の崩壊」で無いと良いな。
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